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堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。  作者: 木山楽斗


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第10話 これからも平和を

「……おっと」

「あれは……」


 地下から出てきた私達は、階段の先にいる人物に少し驚いた。

 そこには、ウルギア様がいる。どうやら私達が出てくるのを待っていてくれたらしい。


「お二人とも、終わったのですね?」

「ええ……しかしウルギア様、どうしてこちらに?」

「こちらも大方話が終わったからです。ドナテロ王国とアルフェンド王国は再び和平を結ぶことになりました」


 ウルギア様は、笑顔でそのようなことを言ってきた。

 それは私にとっても、安心できる事実だ。これ以上血が流れないというのは、何よりの朗報である。


「ふん、それは確かにいいことではあるが、まさか無条件で和平を受け入れた訳じゃあないだろうね? アズガルトの独断があったとはいえ、アルフェンド王国がやったことは罪深いことだ。それなりの代償は支払わせるべきだ」

「大師匠、ご心配なく。その辺りも抜かりはありませんよ。僕も一応、王族の端くれですからね。遺恨がないくらいには、取れるものは取らせていただきます」

「いいじゃないか。それでこそ王族だ」


 ウルギア様も、ただ優しい王族という訳ではないらしい。王族として、きちんと務めは果たしているようだ。


「もっとも、今回に関して苦労は特にありませんでした。ルバディオ殿も含めて、かなり素直にこちらの意見を聞いてくださいましたから」

「まあ、当然だろうね。どんな理由があっても、仕掛けてきたのはあちらだ」

「ええ、しかしこちらもアルフェンド王国と敵対したいという訳ではありませんからね」


 アズガルト様とラナルナ嬢が始めた二国間の争いは、無事に終わった。

 これからも、先代の二人の王が作り出した平和が続いていくのだ。それは本当に素晴らしいことである。


「こうして争いを終わらせることができたのは、間違いなくお二人のおかげです。本当にありがとうございました」

「いえ、私達は別に何も……」


 ウルギア様は、私達に対してお礼を述べてきた。

 だが、私達がいなくても結果はそこまで変わらなかっただろう。ラナルナ嬢が力を失ったら、どの道この戦いは終わっていたはずである。


「まあ、確かに私達のおかげではあるね」

「お祖母様……」

「クレメリア、謙虚なのはいいけどね。こういう時は素直に感謝を受け入れるものだよ」

「いや、お祖母様はもう少し謙虚になった方がいいと思いますよ」

「ふふ、お二人はいつも通りですね」


 私達の会話に、ウルギア様は笑顔を浮かべていた。

 確かに私とお祖母様は、いつも通りである。それがなんだか嬉しくて、私も笑みを浮かべてしまった。


「さて、これでこの戦いは終わったといっていいでしょう。そこでお二人に、一つ提案したいことがあるのです」

「提案したいこと?」

「なんだい、藪から棒に」


 笑顔を浮かべていたウルギア様は、少し真剣な顔になってそんなことを言ってきた。

 その顔の通り、何か真剣な話をしようとしているのだろう。そう思って、私も気持ちを切り替える。


「クレメリアさん、大師匠、お二人ともドナテロ王国に来ていただけませんか?」

「え?」

「ほう……」


 ウルギア様の提案に、私は少し驚いてしまった。

 確かによく考えてみれば、私とお祖母様はこれからの身の振り方を決めなければならない。ガムテット山の家に戻るのか、それとも別の場所で暮らすのか選ぶ必要があるのだ。

 戦いが終わってからのことなど、特に考えていなかった。そのため、私は少し動揺してしまう。


「お祖母様、どうしましょうか?」

「まあ、そっちの国に行くのもいいだろう。ただウルギア、あんたも単に引っ越してきてもらいたいという訳ではないのだろう?」

「ええ、もちろんです。お二人には、これからもドナテロ王国のために働いてもらいたい」

「働く……」

「そうですね。これは引き抜き、スカウトだと思っていただいて構いません。僕は国のこれからのためにも、お二人が欲しいと思っています」


 ウルギア様は、私とお祖母様を交互に見てきた。

 アルフェンド王国の元聖女とその優秀な祖母、そんな私達を人材として欲するのは当然かもしれない。こうして協力してここまでやって来た訳だし、ウルギア様の提案は自然なものといえるだろう。

 ただ、それをすぐに受け入れられる訳ではなかった。私には少し考える時間が必要だ。


「この子はともかく、アタシは働くなんてごめんだよ。こんな婆さんを引っ張ろうなんて、あんたは中々の無法者だね」

「大師匠、あなたはまだまだ若いではありませんか。そんなあなたを隠居させておきたくはありません。王族である僕としては」

「……ダルトナスが、何か余計なことでも言ったのかい?」

「いいえ、ただとある種族の存在を聞かされました」


 お祖母様の言葉に、ウルギア様は苦笑いをしていた。

 それはつまり、気付いているのだろう。お祖母様の正体が何者であるかということを。


「それならわかるだろう。アタシはあんた達のために働くことなんてできないと」

「あなたは僕にとって大師匠です。これは、孫弟子からの切なる願いでしかありません」

「……言ってくれるじゃないか」


 ウルギア様の考えに、お祖母様は笑顔を浮かべていた。

 やはり嬉しいのだろう。彼がお祖母様の種族をまったく気にしてないことが。

 それは私も同じだった。ウルギア様はいい人だ。それを改めて理解した。

 そんな彼について行くのも、悪くはないのかもしれない。私の心には、そんな気持ちが芽生えてきていた。


「しかしね、アタシはやっぱり遠慮させてもらうよ。今回のような場合は別だが、アタシは基本的にどちらかの国に肩入れするつもりはない。平和が続いているならゆっくりしたいのさ」

「そうですか。それは残念です」

「切なる願いという割には、簡単に引き下がるじゃないか」

「そういう風に断られるのではないかと、思っていたのです。短い間ではありますが、大師匠のことはそれなりに理解できたつもりなので……」

「ふん、よくわかっているみたいだね」


 お祖母様は、ウルギア様の話を断った。

 それは種族だとかそういうものを理由にして断った訳ではない。だからウルギア様も、すぐに引き下がったのだろう。

 それなら次は、私の番だ。彼に答えを伝えなければならない。


「ウルギア様、私は力をお貸ししますよ。こうしてともに旅をした仲です。私はあなたの元で、働いてみたいと思っています」

「そうですか……それはよかった」


 私が返答すると、ウルギア様は笑顔を浮かべてくれた。

 その爽やかな笑顔を見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。私の助力を喜んでくれているなら何よりだ。


「なるほどね、本命はそっちかい。色男め」

「大師匠? 何か言いましたか?」

「いいや、別になんでもないよ。ああ……それよりも、アタシはあんたに言っておかなければならいことがあるね」

「なんですか?」


 そこでお祖母様は、何かを思い出したらしい。

 彼女は、懐から封筒を取り出した。それは一体、何の手紙だろうか。


「アタシはこの子の出自を明かすつもりだったが、この子がドナテロ王国に行きたいというならそれを尊重するとしよう。故にこの手紙は、あんたに預けることにする」

「これは、何の手紙なんですか?」

「先代のアルフェンド王と王妃からの手紙さ。ちゃんと二人の魔力が宿っているれっきとした証明書だ。然るべき所に出せば、確実な効力がある。まあ、中身を少し読んでみな」

「……なっ!」


 お祖母様の手紙を読んで、ウルギア様はとても驚いていた。

 恐らく、そこには私の出自が書かれているのだろう。先代の王の妹、それは確かに私がドナテロ王国に移るなら隠しておかなければならないことだ。


「驚きました。まさか、クレメリアさんが先代のアルフェンド王の子供だったなんて」

「……え?」

「ああ、まあ、この子はちょっと特別な性質を持っていてね。アタシ以外、その性質を制御することができなかったんだ。それで二人は相談した結果、この子をアタシに預けていた訳さ。そして色々と厄介なことにならないように、存在を隠していた。愛故の措置だったという訳だね」


 ウルギア様とお祖母様の内容に、私は頭を抱えていた。

 なんというか、私が聞いていた話と違う。恐らく、先に聞かされた方が真実であるとは思うのだが、これは一体どういうことなのだろうか。


「……エルベルトは、いざという時のためにあんたを自分の娘にしておいたのさ。あんたの出自は中々にイメージが悪いからね」

「イメージが悪い?」

「先々代の王は、王妃が亡くなった後にあんたの母親に手を出した。まあ、その辺りのごたごたを表に出すのは良くないと判断したんだろうね。王子達の年齢は幸いにも、あんたを挟んで問題ない。そこで特別な事情がある自分と王妃の子とすることにしたのさ」


 お祖母様は、私の小声でそんなことを言ってきた。

 先代の国王様の手紙に書いてある私の事情は、都合が良いように書き換えられたものであるらしい。

 別に私にとって、それはどちらでもいいことではある。ただ、本当に大丈夫なのだろうか。私を挟み込むのは中々に難しいことだと思うのだが。


「違和感などが指摘されたりしませんかね?」

「まあ、そういった細かいことはアタシらが気にすることではないね。残っている王族や側近達がなんとかするだろう。そもそも、それを公表するかどうかはウルギア次第だ」


 手紙を読んだウルギア様は、考えるような仕草をしている。

 彼はお祖母様から手紙を託された。当然のことながら、事実を知って色々と悩んでいるのだろう。


「なるほど、事情はよくわかりました。これは大変な事実ですね」

「まあ、そうだろうね。それでどうするつもりだい?」

「……クレメリアさん、あなたに一つ頼みたいことがあります」

「頼みたいこと、ですか?」

「ええ、僕と婚約していただけませんか?」

「……え?」


 そんなウルギア様からの要求に、私は思わず変な声を出してしまった。

 彼が何を言っているのか、よくわからない。いきなりどうして、そんなことになるのだろうか。


「そ、それはどういうことですか?」

「言葉の通りの意味です」

「いや、何故そうなったのかを教えていただきたいのです」

「僕は、あなたが先代の忘れ形見であることを公表したいと思っています。その上で僕とあなたが婚約すれば、二国の関係はより強固なものになります。もちろん、あちら側がどう言ってくるかはわかりませんが」

「ああ、なるほど……」


 ウルギア様の説明に、私は少し納得した。

 確かに二国間の関係を深めるならば、私と彼が婚約するのはいいかもしれない。互いの国の国民にも、和平をより強く示せるはずだ。


「もっとも、僕が個人的にあなたを手に入れたいと思っているというのもありますが」

「え?」

「クレメリアさん、僕はあなたに惹かれています。あなたに妻になってもらいたいと、そう思っているのです」


 ウルギア様の言葉に、私は固まっていた。

 彼は、私の目を真っ直ぐに見ている。どうやら、それは紛れもなく彼の本心であるようだ。


「ともにここまで旅をして、思ったのです。あなたに妻になってもらいたいと……あなたは強く賢く理性的な人だ。そして何より家族想いの優しい人だ」


 ウルギア様は、一度お祖母様を見てから再度私の方を見た。

 その視線に、私は思い出す。ここに来るまでのことを。

 それ程長い旅ではなかったが、それでも色々なことがあった。その旅の中で、私のウルギア様に対する印象も変わっている。


「……ウルギア様の言葉、嬉しく思います。そのように思っていただけているなんて、考えてもいませんでした」

「そうですか?」

「ウルギア様は、勇敢で優しい人です。お祖母様の事情も気にしていませんし、私はあなたを素敵な人だと思っています」


 最初に会った時、私はウルギア様のことを少し苦手に思っていた。

 天然な所があり、頼りにならないとさえ思っていたくらいである。

 しかし、彼に対してもうそのような印象はない。この旅の中で、彼の良い所がたくさん見えてきて、素敵な男性であると認識している。


「まず私が王族と認められるのかわかりません。二国間の和平のための婚約が成立するのかどうかも怪しい所です。しかしながら、それらの事情を排除して答えていいなら……」

「答えていいなら?」

「私は、あなたからの婚約を受け入れたいと思っています。私に、王子の妻なんて大役が務まるのかもわかりませんが……」

「……ありがとうございます。今はその言葉だけで充分です」


 私の言葉に、ウルギア様は笑顔を浮かべてくれた。

 彼との婚約が今後どうなるかは不明瞭だ。様々な事情で、揉み消される可能性もある。

 しかしそれでも、私は彼と婚約したいと思った。それが今の私の素直な気持ちなのだ。


「……さて、そっちの話がまとまったなら、さっさと行動をした方が良さそうだね?」

「あっ……」

「大師匠……」

「なんだい? アタシのことを忘れて、お互いに夢中にでもなっていたのかい? 早速お熱いことだねぇ」


 そこで私とウルギア様は、顔を見合わせることになった。

 今までの会話は、お祖母様にしっかりと聞かれていたのだ。後から考えてみると、それは少し恥ずかしい。

 ただ、どの道お祖母様には伝えなければならないことだった。彼女にも認めてもらわなければ、ならないことだった訳だし。


「長い人生、もう楽しみなんてないと思っていたが、また一つ楽しみが増えたね……曾孫の顔、早く見せておくれよ」

「それは……」

「お祖母様、気が早すぎます」


 お祖母様は、私達をからかって楽しそうに笑っていた。

 それはつまり、私達の婚約を受け入れてくれているということなのだろう。


◇◇◇


 再び和平を結んでから、アルフェンド王国とドナテロ王国は平和になっていた。

 ここ数年、特に大きな問題は起こっていない。このまま平和がずっと続いてくれるといいのだが。


「その平和を守っていくことが、僕達の使命なのでしょうね」

「そうですね。私達はそういう責任ある立場ですから」


 私は、公爵となったウルギア様と結婚して公爵夫人になった。

 私の存在は、一応二国間の和平の象徴になっている。アルフェンド王国の王の姉がドナテロ王国の王弟の妻。そこには大きな意味があるようだ。

 もっとも、私はそれをそこまで気にしているという訳でもない。ただウルギア様と一緒に、平和に暮らしているだけである。


「まあ、何もないならないでそれが一番ですからね。今日もいい天気だ。日向ぼっこでもしたいくらいですが」

「そうですねぇ……」

「……あんたら、何を馬鹿みたいなことを言っているんだい」

「おや……」

「お祖母様……」


 そんな平和を謳歌していた私達の元に、お祖母様が少し不機嫌そうな顔をしながらやって来た。

 私がお願いしたこともあって、お祖母様もガムテット山に戻らずにこちらで一緒に暮らしてもらっている。アルフェンド王国にいた時から変わらず、私の心強い一番の味方だ。


「王城に出掛けるんだろう。こんな所でのんびりしている場合じゃないはずだ」

「それはそうなんですけど、今日はなんだかいい天気だったので……」

「クレメリア、あんたは最近ウルギアに似てきたね……」

「え? そうでしょうか?」


 お祖母様は、苦笑いを浮かべていた。

 言われてみれば、確かに最近ウルギア様と思考が一致することが多い。ともに暮らす中で、私は彼に似てきたのだろうか。それはなんというか、嬉しいような気もする。


「まあ、平和を謳歌するのはいいけど、魔法の鍛錬は欠かしていないだろうね?」

「それはもちろんです。努力は欠かしていませんよ」

「ふん、その言葉は嘘ではないようだね……また魔力を磨いたかい?」

「ええ、お祖母様を越えなければなりませんからね」

「はっ! アタシなんて、もう越えているさ。あんたがどこまでいくのか、楽しみだね」


 お祖母様の言葉に、私は笑みを浮かべた。

 そうやって楽しみにしてもらえると、こちらとしてもありがたい。お祖母様に成長した姿を見せる。それは、小さな頃から私が魔法を学ぶ上でのモチベーションの一つだ。


「さて、クレメリアさん、そろそろ行きましょうか?」

「ええ、ウルギア様」


 そこでウルギア様は、私に手を伸ばしてきた。私はその手をゆっくりと取る。

 これからも私は、この平和を守っていく。ウルギア様とともに、新たな未来を作り上げていくのだ。

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