第3話 はじめての終わり
大広場は、朝から賑わっていた。
街の中で一番開けたその場所には、行商人の露店が立ち並び、商人や旅人の姿が目立つ。
商売の交渉や観光客の声が重なっていた。
「大広場も混んでるな!」
ナポリンは大広場を見渡しながら、楽しそうに声を上げる。
「そうね。はぐれないようにしなくちゃ」
リボンはそう言って微笑み、二人の位置を確かめるように視線を巡らせた。
シトロンは、少し後ろから広場全体を見渡していた。
(……こっちにもいる)
人が、ではない。
視界の端、銀色の鎧が何度も目に入る。
街全体に帝国兵が目立つ。
巡回というより、なにかを待っているようにも見えた。
だが、広場の空気は変わらない。
誰も不安そうな顔をしていない。
大広場は、変わらず活気に溢れていた。
その時、リボンがふと足を止めた。
「あ、あの露店……」
視線の先には、色鮮やかな瓶や布飾りを扱っている露店があった。
「少しあの露店見てくるね」
楽しげで軽い声だった。
いつもの何でもない様な一言。
「じゃあ俺、荷物持ってそっちで待ってる」
人通りの少し落ち着いた場所を指さしながら、ナポリンが答えた。
「ありがとう。すぐに戻るから」
リボンはそう言って笑顔で人混みの中へと歩いていった。
その背を見送りながら、シトロンは無意識に一歩、後ろへ下がった。
(……なにかが変だ)
理由は分からない。
まるで、胸の奥に小さな棘が刺さったまま抜けないような。
その時――
ギィィ、と金属が擦れる音が唐突に聞こえた。
馬車の車輪が、石畳の継ぎ目で跳ねる。
積荷が大きく揺れた。
「……っ」
シトロンが、息を詰める。
嫌な予感というほど、はっきりしたものではない。
ただ、その音は――少しだけ、大きすぎた。
人波がわずかに乱れる。
その隙間からナポリンは見た。
露店の向こう。
人混みの切れ間。
――赤いリボン
リボンは、露店の目の前を緩やかに歩いていた。
次の瞬間。
積荷が崩れる。
悲鳴が上がるよりも先に、ナポリンの体が動いた。
「姉さん――!?」
考えていない。
なにかを選んだ訳でもない。
ただ理由もなく――走っていた!
リボンがそこにいた。
露店の前で足を止めて――
そこから動いていなかった。
胸の奥が、熱を持つ。
星の形をした印が、確かに脈打っているのが分かる。
(……ああ)
胸の奥が、静かに落ち着いていく。
ナポリンがこちらへ来ている。
必死な顔で、手を伸ばして。
――掴める。
そう思った、その瞬間。
確かに、何かに触れた感触があった。
指先に、温度が残った。
シトロンの声が、遠くで響いた気がした。
「待っ――!」
音が歪む。
世界が引き伸ばされる。
衝撃。
強い光。
足元の感覚が消え、
空気がなくなり、
何もかもが白に塗りつぶされていく。
ナポリンは、何かを掴んだまま――
その先を、考えることができなかった。
ただ――
光が、すべてを覆った。
そして、それ以上考えることはできなかった。




