悪役令嬢ルートを回避したら、逆に全員から好かれちゃって逆ハーレム状態です!
「うっ……頭が……」
目を覚ますと、見覚えのない豪華な天蓋付きベッドに寝ていた。
私は佐藤美咲、28歳独身OL。
昨夜は残業続きで疲れ果て、帰宅後にハマっていた乙女ゲーム『恋の魔法学園』をプレイしながら寝落ちしたはずなのに……。
ふと立てかけられていた鏡を見て、息を呑んだ。
金色の巻き髪、碧眼、完璧な美貌。
「……セシリア・フォン・アーベントロート!?」
私が転生したのは、ゲームの悪役令嬢その人だった。
「ちょ、ちょっと待って!セシリアって、あの破滅確定の!?」
記憶が流れ込んでくる。今日は魔法学園の新学期初日。
そして一週間後、ヒロインのリリアが転入してくる。
原作では、このセシリアがリリアをいじめ倒し、最終的に婚約者である第一王子アレクシスに婚約破棄され、国外追放されるのだ。
「破滅回避!絶対に破滅回避!」
私は決意した。
一週間後、平民出身の特待生としてリリアが転入してきた。
亜麻色の髪に優しげな瞳。原作通りの可憐な美少女だ。
原作のセシリアなら、ここで嫌味を言い、取り巻きと一緒にいじめを開始する。
でも私は違う!
「あら、新入生ね。分からないことがあったら、なんでも聞いてちょうだい」
満面の笑みで声をかけると、リリアは目を丸くした。
「え……あ、ありがとうございます、セシリア様!」
よし!これで破滅フラグは回避!
「セシリア様、お優しいんですのね」
取り巻きの令嬢たちも感心している。完璧だ。
さらに私は、原作でリリアがつまずくポイントを全て先回りしてフォローした。
魔法の授業で困っていたら教材を貸し、食堂で孤立していたら一緒に食事し、寮の部屋の備品が足りないと知ったら手配した。
「セシリア様、本当にありがとうございます!」
リリアの瞳がキラキラ輝いている。
「気にしないで。困ったときはお互い様よ」
内心、私はガッツポーズをしていた。
(これで完璧!あとは婚約者の王子とも距離を置けば、破滅ルート完全回避!)
問題は婚約者のアレクシス王子だった。
原作では、彼はセシリアの高慢な態度に辟易しつつも、婚約者としての義務を果たそうとしていた。
それがリリアの優しさに触れて恋に落ち、セシリアを捨てる流れだ。
つまり、私がアレクシスに嫌われれば、彼は自然とリリアに惹かれるはず。
「アレクシス様、本日のお茶会は都合が悪いので欠席させていただきますわ」
「……そうか」
王子は不機議そうな顔をしたが、引き下がった。よし!
その後も、私は徹底的にアレクシスを避けた。
デートの誘いは全て断り、会話も必要最低限。
冷たいと思われるくらいがちょうどいい。
そんなある日、廊下で王子とすれ違った。
「セシリア」
「なんでしょうか」
素っ気なく答えると、彼は困惑した表情で言った。
「最近、お前は俺を避けているように思えるのだが……何か気に障ることをしたか?」
「いいえ、特には」
「ならなぜ……」
「お忙しいでしょうから、私ごときが邪魔をしてはいけないと思いまして」
我ながら完璧な回答だ。これで彼も納得するだろう。
ところが。
「……そうか。お前がそう考えていたとは」
アレクシスの頬がほんのり赤くなった。
え?
「俺は……お前と過ごす時間を、邪魔だと思ったことはない」
「は?」
「むしろ、もっとお前と話がしたい。お前のことをもっと知りたいと思っている」
なんですとー!?
(おかしい!原作ではセシリアにはめっちゃ冷たかったはずなのに!)
しかも、彼の視線が妙に熱い。これは……ほんとにデレてる!?
「あ、あの、アレクシス様?」
「セシリア、今度の休日、一緒に街へ行かないか?」
「え、えっと……」
「嫌か?」
上目遣いで見つめられて、心臓がドキッとした。
「……考えておきます」
逃げるように去ると、背後から「待っている」という声が聞こえた。
(なんでこうなった!?)
そして、おかしいのはアレクシスだけではなかった。
「セシリア様!」
リリアが駆け寄ってくる。
最近、彼女は私を見かけるたびに話しかけてくる。
「セシリア様、今日の魔法学、難しかったですね。あの、もしよろしければ、一緒に復習していただけませんか?」
「ええ、構いませんわ」
図書館で勉強を教えていると、リリアがじっと私を見つめていることに気づいた。
「どうかしたの?」
「セシリア様って、本当に素敵です」
「え?」
「美しくて、優しくて、頭も良くて……私、セシリア様みたいになりたいです!」
リリアの瞳が爛々と輝いている。
「あ、ありがとう……」
「あの、セシリア様。私、セシリア様のことが……」
その時、図書館に騎士団長のロイドが入ってきた。
ロイドは攻略対象の一人で、原作ではリリアの優しさに惹かれる生真面目な騎士だ。
「セシリア様、少しよろしいでしょうか」
「はい、なんでしょう?」
「先日、あなたが下級生を助けていた場面を見ました」
そういえば、転んで怪我をした一年生に治癒魔法をかけたことがあった。
「あれは当然のことをしただけですわ」
「いえ。その優しさ、騎士として見習わなければと思いました」
ロイドが一歩近づく。
「セシリア様。あなたのような方を、私は守りたい」
「え?」
「お側にいることをお許しください」
ロイドの真剣な眼差し。これって……告白!?
「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てて立ち上がると、背後でリリアが「あっ」と声を上げた。
(なんなの、この展開!?)
追い打ちをかけるように、私は魔法学の天才ユリウスにも目をつけられていた。
「やあ、セシリア」
図書館で魔法理論の本を読んでいると、銀髪の美青年が声をかけてきた。
ユリウス・フォン・エスタリアは、原作では冷徹な天才魔法使いで、リリアの純粋さに心を開く設定だ。
「あら、ユリウス。珍しいわね、あなたから話しかけてくるなんて」
「君に興味が湧いてね」
「興味?」
「ああ。君、最近変わったよね」
ドキリとした。前世の記憶を持っていることがバレた?
「先日の魔法学の授業での君の発言、興味深かった。
従来の理論を疑い、新しい視点を提示する。君の頭脳は、僕の研究相手として申し分ない」
どうやら、前世の知識を無意識に披露してしまったらしい。
「それで?」
「僕の研究室に来ないか?君となら、有意義な議論ができそうだ」
ユリウスがにやりと笑う。
「君は面白い。とても…」
その笑顔が妙に艶っぽくて、思わず視線を逸らした。
「考えておくわ」
「期待しているよ、セシリア」
去り際、彼は私の手にキスをした。
(ちょっと!攻略対象全員、なんでわたしを見てるの!?)
そして迎えた学園祭。
私は文化委員として準備に追われていたが、なぜか全員が手伝いに来た。
「セシリア、重い荷物は俺が運ぶ」
「いえ、私が運びます」
「力仕事は非効率だ。浮遊魔法を使えばいい」
「セシリア様、お茶をお持ちしました!この後は良ければ私とお茶を…!」
「あ、ありがとう、みんな……」
なぜか修羅場の予感がする。
学園祭当日。私は喫茶店の給仕役を担当していた。
「セシリア様の給仕姿、可愛い……」
リリアが頬を赤らめている。
「セシリア、似合っているぞ」
アレクシスが満足そうに微笑む。
「あなたを見守るのが、私の役目です」
ロイドが入り口で見張っている。
「僕の分のケーキ、君の手作りだったら嬉しいんだけど」
ユリウスが意味深に笑う。
(もう無理!これ絶対おかしい!)
夕方、屋上に呼び出された。
行ってみると、例の四人全員が待っていた。
「セシリア様」
「セシリア」
口々に私の名を呼ぶ。
「あの、なんでしょうか、皆さん……」
「セシリア様。私、セシリア様のことが大好きです!」
リリアが真っ赤な顔で告白した。
「リリア!?」
「待て、リリア。俺が先だ」
アレクシスが前に出る。
「セシリア。俺は今まで共に過ごすことは婚約者としての義務だと思っていた。
だが違った。俺は、お前自身を愛している」
「え、ええ!?」
「セシリア様、僕もです」
ロイドが片膝をつく。
「あなたの騎士として、そして一人の男として、あなたを愛しています」
「ちょっと待って!」
「僕も参加していいかな」
ユリウスが肩を竦める。
「君は知的で美しく、そして誰よりも面白い。君ともっと一緒にいたい。ずっと、ね」
四方八方から愛の告白。
「ちょっと!これおかしいでしょ!?」
私は叫んだ。
「原作では、みんなリリアに恋するはずなのに!なんで私に!?」
「原作?」
全員が首を傾げる。
しまった、つい口が滑った。
「い、いえ、なんでもないです!とにかく、私は破滅を回避したかっただけなのに、なんでこんな逆ハーレム状態に!?」
「破滅?」
アレクシスが不思議そうな顔をする。
「お前が破滅するわけないだろう。お前は誰よりも優しくて、賢くて、素晴らしい女性だ」
「そうです。セシリア様は完璧です!日のうちどころのない完璧な女性です!」
「あなたは私が一生をかけて守るべき人です」
「君は他の人間とは違う、特別だ」
全員の視線が私に集中する。
「あの、えっと……」
頭が混乱する。
「と、とりあえず!みんな友達でいましょう?ね?」
苦し紛れの提案。
しかし。
「それは嫌だ」
四人声を揃えて即答されてしまった。
「俺は、友達以上の関係を望んでいる。これから婚約者としてともに生きよう」
「私はセシリア様と結婚したいです!」
「護衛騎士として、生涯お側に」
「僕は独占欲が強い方でね」
全員がじりじりと私の方ににじり寄ってくる。
「そ、そんなの無理ー!!」
結局、その日は答えを出せずに、逃げるようになんとかその場を離れた。
翌日、私は王妃陛下に呼び出された。
「セシリア、聞きましたわよ」
王妃陛下がにこにこと笑っている。
「息子があなたに本気で恋をしていると。他にも…求婚者が複数いるとか」
「も、申し訳ございません!私も何が何だか…」
「謝ることないわ。むしろ喜ばしいこと」
王妃陛下が優しく微笑む。
「あなたは変わったわね、セシリア。以前は高慢で人を見下していたのに…今はこんなにも優しい」
「……はい」
「その変化が、皆を惹きつけたのよ。人は、真の優しさに惹かれるものだから」
王妃陛下の言葉に、胸が温かくなった。
「ゆっくり考えなさい。誰を選んでも、選ばなくても、あなただけの人生よ」
「ありがとうございます」
部屋を出ると、廊下で四人が待ち構えていた。
「セシリア様!」
「セシリア」
「あなた」
「やあ」
(ああ、もう……)
でも、不思議と嫌な気分じゃなかった。
むしろ、少し幸せな気持ちになる。
「みんな、とりあえず今日は一緒にお茶でもどう?」
「はい!」
「ああ、いいな」
「光栄です」
「君のお茶、楽しみだ」
四人が笑顔になる。
(破滅は回避できた。でも、まさか逆ハーレムルートに突入するなんて……)
空を見上げると、青い空が広がっていた。
(まあ、いいか。前世より、ずっと楽しい人生だし)
「セシリア様、何を考えているんですか?」
リリアが不思議そうに覗き込む。
「なんでもないわ。さあ、行きましょう」
私は笑顔で歩き出した。
破滅回避はできた。
これからどうなるかは分からない。
でも、きっと大丈夫。
だって私には、こんなにも素敵な仲間たちがいるのだから。
「セシリア、笑っているな」
アレクシスが嬉しそうに言う。
「そうですわね。最近、毎日が楽しいから」
それは、心からの本音だった。
悪役令嬢の破滅ルートは回避できた。
代わりに待っていたのは、予想外の逆ハーレムルート。
でも、これはこれで。
悪くない人生だと、私は思うのだった。
(完)




