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第三章『宝物』#1

 ロドルフ・フォルティス。

 彼は中等部一年生の時に柔道部の優待生として編入して来た、いわば異端分子だ。

 ロイスが中等部に進学してすぐ、目を付けたのがこの男だった。

 進学から、ひと月ほど経った頃だった。

 初等部の頃、身代金目的で誘拐されかけたことがある。その時、ロイスは子供ながらに痛感した──自分の身は自分で守らなければならない、と。

 だが、校内でプロの護衛を付けるわけにはいかない。

 ならば──信頼できて、戦える人間を選べばいい。

 休憩時間、教室へ戻って来たロドルフの前にロイスは立った。

 ロイスの見上げるマリンブルーの目は、幼さよりも選定者として、真っ直ぐにロドルフを捉えていた。

「きみか。柔道部の優待生で、この学院に来たのは」

 先に声をかけたのはロイスの方からだった。

 両腕を腰にあて、いかにも気位が高そうな態度に、ロドルフは不快感を抱いた。

「そうだが?」

 だが同時に、ロドルフは自分より遥かに小さい、この傲慢な少年の放つオーラに気圧される感覚も感じた。

「さすがにデカいな。身長、何センチだ?」

 ロイスはロドルフの頭から足の先まで、顔を往復させる。

「百七十五センチ」

 柔道の優待生らしく、その体躯は制服の上からでも判るくらいに逞しく筋肉は発達しており、立ち姿にも無駄が無い。

 浅黒い肌に、ブリーチで脱色された金髪の短髪。その根本には黒髪が顔を覗かせている。

 メガネが知的に見せてはいるが、それでも彼は異端分子そのものだった。

「──……お前、誰だ?」

 ロドルフの言葉に、クラスメイトがざわめき出す。

「ちょっとアイツ…誰に向かって口きいてるんだ?」

「ロイス様にタメ口?」

 そんな言葉が、周囲のクラスメイトから囁かれている。

 しかし、小柄な傲慢少年と大柄な異端分子のやり取りを、面白そうに見ている者もいた。

「失礼。まずはこちらから名乗るべきだったな。私はロイス・リチャードソン。この学院の学長の息子だ」

 ロドルフは「なるほど」と、納得する。

 学長の息子で、気位が高く、傲慢。優待生でなければ、この学院には通えない自分とは住む世界が違い過ぎる。

 そんな少年が、自分に何の用があるのか、疑問も浮かぶ。

「俺に何の用だ?」

 その言葉にロイスのマリンブルーがキラリと光る。

「私の護衛を頼みたい」

「護衛? 何故?」

 少なからず、既にロドルフは興味を惹かれていた。

「まぁ…狙われる理由は金、権力、容姿…あり過ぎるくらいだが、一つ確実なのは“スリル”があるってことだ。──きみは“スリル”、嫌いか?」

 ロイスが口角を上げて、ニヤリと笑った。

「“スリル”…か」

 少しの間があり、ロドルフも口角を上げて笑い返した。

「──良いだろう、引き受けてやる」

「はっはっは! きみなら、絶対に引き受けてくれると思ったよ!」

 ロイスは楽しそうに声を上げ、ロドルフの前腕を叩いた。

「ただ…一つ条件がある」

 ロドルフはメガネの位置を直す。

「何だ? 勿論、タダとは言わない。学費全て免除に必要な物は全部用意してやる」

 ロイスは小首を傾げる。

「俺が危ないと思ったら、アンタの言うことは聞かない」

 ロイスはロドルフの目の奥にある、決意めいたものを見た。

(なるほど…「めろ」と命じたとしても無駄だということか)

「──良いだろう、判った。契約成立だな」

「俺も俺も‼︎」

 ロドルフが対価と条件に対しての礼を言おうとすると、間に割り込む声がする。

 二人がその声の主を見ると、青色の髪をして制服を着崩した少年が、机の上に身を乗り出して、手を上げていた。

「俺、レイモンド。ケンカならベイサイドの奴らと、いつもやりあってるから、結構使えるぜ‼︎ それにスリル大好き!」

 ロイスのアイスブルーの目が、しばらくレイモンドを凝視する。

「……。お前はダメだ」

 そう言い捨てて、クルリと背を向けて自席に向かう。

「……え? 何で何で?」

 レイモンドは机から降りて、ロイスを追う。

 ロドルフも自席に向かう。

「何でもだ! ダメなものはダメだ‼︎」

 ロイスの怒声が教室に響く。

「ちぇーっ! 良いもんね~勝手にやる分には良いだろ?」

「……。好きにしろ」

 ロイスはレイモンドをチラリと見ると、仕方ない、と言った風に答えた。

 ところがである。

 その日、夏の声が聞こえ始めた頃。

 ロドルフを部活に送り出した後、ロイスは一人、校門前で迎えの車を待っていた。いつもは車が到着するまでロドルフと一緒にいるのだが、柔道部は夏の大会が近かった。

 クラス長として担任へ日誌を届けて、生徒会室に顔を出して一日が終わる。

 この日もそうして、あとは帰宅するだけのはずだった。

 夕刻だというのに、まだ明るい。初夏の蒸し暑さに耐えれず、日陰に移動しようとした時だった。

「おい、そこのきれ~な顔した僕ぅ~。俺達にちょっと付き合えよ」

 声をかけて来たのは、見知らぬ中年男二人だった。

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