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小指は契約の香りー秘密の二人編ー  作者: 弥都 史誠


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幕間:第●話『“道”』

「今夜は満月……とても綺麗だ。部屋の明かりなど不要な程に。夜を支配する蠱惑こわくともしびようだ。さて、今日はどの辺りの思い出を語りましょうかね。あぁ、この辺りが良い。の湖と共に生きる民族…香草を巻いて魚の臭みを取るのを応用して体臭を隠す。無駄な事を……“良い香り”と感じる相手は、遺伝子レベルで自分に無い物を持っている……そう、繁殖上、最も望ましい“組み合わせ”だと、身体が判断しているのにね。でもれはの民族だけに限らない。はぁ…髪型や服装には幾らでも気を遣うが、香りは汗や体臭位にしか気を遣わないのは我々も同じ事か。それから…──の山岳地帯と…此方こちらの中世から残る街…こんなに離れているのに、何方どちらも寺院では香が焚かれていた…宗教は違えど香りに願いや祈りを託すのか、それとも人々に信心を植え付けるのか…。香りとは見えないのに、“確実に其処そこに在る”不思議な存在だ。それも神秘性を生むのだろう。うん? …此処ここは何だったかな? あぁ、そうそう。この草原地帯の少数民族は、村の術師が精製した香油を身体に擦り込み、年に一度、結婚相手を探す儀式をやっていたな。女達はの香りで青年達を誘惑し子を宿す。儀式と言えば神聖だが、要は選別だ。クックッ…残酷な物だ。だが少数民族が子孫をのこす方法としては…実に効率的で生物らしい。……。此処ここは青色。香りの風習も伝承も無い空白地帯。興味深いですね。嗅覚は最も原始的で生きる為に必要な感覚なのに、理性的な生活を強いられているのかもしれないな。本来、動物とは香りでコミュニケーションをし、自分の縄張り宣言をしたりアピールする物。所謂いわゆるマーキング行動だ。れを全くしないとは…人間が“言葉”を話すように進化してしまったからだと言われているが…まぁ、また行ってみる価値が有るかもしれない。あぁ、此処ここも忘れてはならない。の地には夜になると強い香りを放つ白い花が咲く。の花はまるで愛し合う二人のように、必ず二つ対になって咲く。だが、若者達は近付くのを禁じられ、又、の花の香水を使って、射止めた相手との結婚は無効だとの法律まで出来たとか。花は「愛し合え」と言っているのに、れを理性で禁じるなど愚の骨頂。の国の古代の女王は、バラを愛し、バラの香油を使って隣国の男達を誘惑し、自国を護った。交渉に来た男達が来る前に部屋に香を焚き、自身にも香油を塗る。部屋に入った男達は、自分が既に支配されているとも気付かなかっただろうな。香りが脳に届く速さは0.2秒。視覚や聴覚より、ずっと速い。理性が働く前に本能が反応する…れでは誰も逃れる事は出来ない。しかしたら、彼女が最初の香りの使い手かもしれないな、ふむ…。そう言えば、あなたの家にもバラが有りましたね。幾重にも褶襞しゅうれんを成したクリーム色の花弁はなびらに、ティーにフルーツの香りがする特別なバラが…。バラの香りは記憶力を向上させ、また気分を昂揚こうようさせる…いや、れよりもバラは愛や高貴の象徴。あなたにピッタリですね。クックッ…理性なんて関係無いんです。あなたの“カラダ”が感じるままに私を求めれば良いんですよ、ロイス」


シエン「世界を旅しなければ“こんな事”、思い付きもしなかったのに…ね」

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