表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小指は契約の香りー秘密の二人編ー  作者: 弥都 史誠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/53

第十章『秘事』#1(★)

(いよいよ明日か…)

 ロイスはベッドに横になり、布団を被ると明日のシエンとのデートに思いを馳せる。

 目を閉じて、ふーっと大きく息を吐いた。

 明日は何を着て行こう。

 使用人には「友達と会う」とだけ伝えたから、それに合う服を用意してくれているだろうが、特別な日の服は、自分で選びたかった。

 何を話せば良い?

 最後に海に行った時、自分は初等部一年生の頃だった。

 別荘へ行く途中、海沿いを車で走っている時に、「海に入りたい」と泣いて、渋々父親が運転していたシエンの父親に寄るように命じた。

 自分達以外に誰も居ない浜辺。

 大人達は堤防近くの日陰で休み、シエンとロイスが海の中へ入って行った。水着は持って来ていなかったから、裸足になって、足だけ浸かった。

 シエンは波の高さがロイスのくるぶしより上へ行かないように、手を繋いで一緒に波打ち際を歩く。

 透き通った海水を、時折蹴り上げると、シエンが濡れるのを嫌がって、避けるのが面白かった。

 海に行くなら久し振りに手を繋いで、あの頃のように浜辺を一緒に歩きたい。

 そして、堤防に座って濡れた足をブラブラさせながら夕陽を見て…。

(──それから…それから?)

 ロイスは眠りやすい左側に身体を向けた。

 布団を被り直すと、唇に指が当たった。

(──……キス?)

 一気に眠気が覚めて、目を開ける。

 顔が熱くなるのを感じて、被っているナイトキャップの端を掴んで、目の下まで降ろす。

 目を再び閉じると、シエンの手が頬に触れて顔が近付いて来る。自然と唇がそれを受け止める形になった。

(——…ちょっ、キスはまだ早いって‼︎)

 ロイスはナイトキャップの端を掴んだまま、今度はうつ伏せになって、布団を頭から被った。そして足をバタバタさせながら、枕に額をグリグリと妄想を振り払うように押し付ける。

 布団がめくり上がって、足が出て来た。

 心臓の音が、やけにうるさい。

(——…でも、いずれはしちゃうんだろうな)

 それが嬉しいのか、恥ずかしいのか判らないが、ニヤニヤが止まらない。

 が、突如その照れ笑いと動きが止まる。足が膝まで出ていた。

 ゆっくりとナイトキャップを上げて、目を開ける。

 目の前は真っ暗で、枕カバーの皺だけが見える。

(——そうだ…明日じゃなくても…そのうち、きっとキスも、その先もしちゃうんだ──って! 俺、何考えてるんだよ‼︎)

『私はあなたとキスがしたい。親愛のキスではなく恋人としてのキスを。その先だって…したいんです』

 シエンの言葉が蘇って来る。

 “その先”──。

 ロイスの身体がビクリと震えた。

 初めて特定の人を想って反応した。

『私が嫉妬してしまう程に』

 耳元で囁かれた、シエンの声と息遣い。

「嫉妬なんて…」

 するのはこっちの方だ。あんなに楽しそうに女子生徒達と笑って、話して…。

 コテンと元のように、身体の左側を下にしてベッドに沈む。

 目の前には右手。

 ゆっくりと拳を作り、小指だけを立てる。そして甲を下に、小指をこちらに向けると、目を閉じて唇を寄せる。唇が震えていた。

 あの指切りをした時の熱が、唇から脳髄を支配する。

 誰かを好きになるという事が、こんなにも頭も心も身体も掻き乱すなんて、思いもしなかった。

 それからは、もう止まらなかった。



 目が覚めると、携帯電話のアラームをセットした時間より一時間も早かった。

 もう少し寝ようかとも思ったが、約束の時間に遅れるかもしれないと、そのまま起きた。

 もう一度シャワーを浴びて、身体の隅々まで綺麗にする。

 初めてのデートで、シエンに「汗臭い」とか思われたくない。

 香水は持っていないから、せめてシャンプーとサボンの優しい香りに包まれて会いたかった。

 バスローブを着て、タオルで髪の毛を拭きながら私室に戻ると、ちょうど起きる時間になっていた。

 ウォークインクローゼットの中に行くと、やはり定位置に今日の衣服が用意されていた。

 用意して貰った服のコーディネートは、同級生と会うならば完璧だった。

 水色のシャツにベージュのロングベスト、それとネイビーのワイドパンツ。

 でも、このコーディネートは、大人シエンと会うには、子供っぽいと思った。

 どれを着て行こうか悩む。

 普段、自分で服を選ぶことはおろか、買ったことすら無い為、何をどう合わせれば良いのか、さっぱり判らない。

(シエンはどんな格好をして来るんだろう…。まさか白スーツに赤いバラを持って現れることは無いよな…)

 漫画やドラマで見たワンシーンを思い出して、吹き出してしまった。

 目の前のハンガーに掛かっている服を、全身鏡の前で合わせてみる。ほぼ同じブランドで揃っている為、変な格好にはならないが、やはり用意して貰ったコーディネートが一番良いのだろうか。

 ふと、リターンカフ仕様のドルマリンスリーブのトップスに目が止まった。

 白い上質綿を使用して、職人が一着一着作っているものだ。袖口を少し曲げて裏のダーク・セラドンを見せる仕様になっている。裾が真っ直ぐではなく、左右が少し長くなっているデザインが、少し大人に見える気がした。

 それと使用人が選んでくれた、リネン生地のネイビーのワイドパンツだけにした。

 嫌味の無い男子高校生の無難な服装──とは言っても、側から見れば、ハイブランドで揃えられた服は、高校生が着る域を遥かに逸脱しているのだが──それに肩から斜め掛けの小さな茶色の革製バッグに、財布とハンカチとポケットティッシュ、そして携帯電話だけを入れて行くことにした。

【キーワード】

・シエンが嫌がるのが面白かった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ