プロローグ
【日記】
秘密を貫くには、ひとつの嘘じゃ足りない。
あの頃の私たちは、嘘に嘘を重ねて、それを「真実」にしていくしかなかった。
真実を告げられるより、嘘をつかれた方が心地いい。
または、真実を告げるより、嘘をついた方が気楽。
楽なほうに逃げた。それだけの話だ。
大切な人が傷つきそうなとき、私たちは、理屈じゃない行動をしてしまう。
気づいたときには、もう戻れないところまで来ていた。
私は、それが「人を想う」ってことだと、信じてきた。
私たちは、秘密に囚われている。
ずっと、嘘をついてきた。
その嘘は、私たちの中で、やがて「真実」になっていった。
いつまで、この嘘を続ければいいのだろう。
死ぬまで?
それとも、いつか誰かに告げる日が来る?
私は、
怯えていた。
あの震えは、武者震いなんかじゃない。
バレるのが怖くて、見透かされるのが怖くて、ずっと震えていた。
あの日、私は決めた。
この嘘を、真実にすると。
この秘密を、守り通すと。
でも今は
どうしても楽になりたいと思ってしまう。
ずっと黙っていた、十二年前のこと。
あのときの「真実」を、誰かに話してしまいたい。
あの頃の私は、狂っていた。
好きな人のためなら、何でもできるって、本気で思っていた。
そういう、馬鹿な女だった。
そして、馬鹿な女は、最後にはちゃんと痛い目を見る。
この世界は、そういうふうにできている。
そのことに、大人になるまで気がつけなかったんだ。