第7話 拡散
こんばんは。
投稿です、ちょっと遅れました。
雷帝さまは小さいらしい。
噂は一気に広まった、国中に。
いや、国境を越えたかも知れない。
スノーホワイト国で絶大な人気を誇る正体不明の雷帝、炎帝コンビ。
誰もが、この二人このとを知りたがった。
噂はどんな噂でも面白おかしく、都合がいいように広まって行くのだ。
悪い噂ほど、よく広がる、あるあるである。
そして噂は、尾ひれに背びれ胸びれなど、色々と勝手に話しが膨らみながら追加されながら拡散していく。
雷帝さま小さいが、凄い技術をお持ちらしい。
その技は助けられた者達が証明している!
眼に見えない蹴り、突き、どれも一撃必殺!
閃光!まさにイカズチのような超人である!
……らしい。
「をい、ゴンザ!どうするんだよ!俺、もう人前出れねーじゃんっ!」
両手で耳を抑え蹲っている白黒ネコ。
外は夕暮れ、夕日が綺麗である。
「若、怒りにまかせて動くからですぞ」
雑貨ド・ゴンザは早々に店じまいである。
「無理だ、犬やチビ共、ニャオが怪我したんだぞ!俺に優しくしてくれた者達が血を流したんだ!」
「……若、ニャオ先生、ですぞ。年上の方には敬意、敬称を!パーフェクトではありませんな?」
「わかったよゴンザさん」
「はっはっはっ、私に皮肉は通用しませんぞ」
メリメリ。
樫の木刀が軋む。
(いや、怒ってんじゃん!)
「ゴンザ、その手入れ中の木刀、あいつのだろ?」
「あ?ええ、いいモノが入りました、これでドワーフの子も腕が上がるでしょう」
「少し、長くないか?」
「いえ、私の見立てではこのくらいがちょうどいいでしょう」
ふーん、そんなものか、と若は思いながら夕暮れの街に眼を移す。
「ちょっと、散歩行ってくる」
「そう言って、街の様子をご視察ですか?若?」
「そうだよ」
「噂が気になりますかな?」
「そうだよっ!」
カタン、とネコ(若)専用の出入り口から外にでる白黒ネコ。
さて、どこに行こうか?
まずは駐屯が決まった、第六国境警備隊か?それともニャオ先生のところか?若は屋根から夕日を眺め思案する。
さて、そんな雷帝や炎帝のことを知りたいと思うのは、この国の住人だけではなかった。王族も同じである。
「公開する必要はない、だが身元は特定せよ、これでいいですか?王?」
「ああ、それでいい」
相変わらず、玉座にふてぶてしく巨軀を侍らせている王。
「最新の情報がありますが」
「聞こう」
王が身を起こし、その目にギラリと光が走る。
「若葉街に現れたそうです」
「若葉?稀少エルフの街か?雷帝さまは何をやらかしたんだ?」
「はい、窃盗団ゴーロ・ゴロ58名、全て倒したとのこと」
「……!」
ギロリ、と参謀を睨む王。
「ほう……一人でか?」
「はい、炎帝はいなかったらしいです。まず、街に侵入した偵察部隊をならず者扱いし、生け捕り、その後街周辺に潜んでいた本体を単独撃破、全て生け捕り、第六国境警備隊に手柄を取らせたそうです」
「気に入らんな、生け捕りとは。俺なら皆殺しだ。そいつら街の者皆殺しにする予定だったのだろう?」
「はい、この窃盗団は人身売買ではなく臓器売買が目的の一味です。あのままでしたらこの街の住人、全て消えていたでしょう」
「住人はそのことを知っているのか?」
「いえ、伏せています。調査にあたらせた第六国境警備隊に箝口令を敷きました、必要以上に住人達を怖がらせても意味がありません。おそらく雷帝も望んでいないでしょう」
「そいつらどうした?確実にエルフを狙っているなぁ、それに俺サマの国で臓器売買だと?」
「……第六国境警備隊はそのまま若葉街に常駐としました。賊の護送は第四国境警備隊だったのですが……」
「どうした?」
「ブリザード・ワームが現れまして」
「!……全滅か?」
「いえ、第四国境警備隊3名生存、他は死亡です」
「窃盗団は皆死んだと?」
「全員、ブリザード・ワームに喰われたとのこと」
「都合がよすぎるなぁ、気に入らねぇ、虫使いでもいるのか?ブリザード・ワームは俺でも手こずる化け物だ、よくその3名、生き延びたな?何があった?」
「その3名の話によりますと、炎帝が駆けつけたようです」
「!……っなんだと?炎帝が倒したとでも?」
「はい」
「ソロで?」
「はい、生存者3名が見ております」
「……巨大ワームを倒せば、商工連合より『英雄』の称号が与えられる、炎帝は英雄クラスということか」
「実は、その炎帝より王にメッセージが」
「……気に入らねぇなぁ、何と言ってきた?」
「南に注意しろと」
「南ぃ?隣の大国か?最近の国境付近のざわつきも、奴等らしいな?調べたら飛竜も南から回って来たそうじゃねぇか」
「王、どうも隣の大国、我が国の魔法障壁、防御結界の技術が欲しいようで」
「北の極寒の地に、菜の花が咲き乱れているんだ、そりゃ食糧危機に悩まされているお隣さんは欲しいだろうよ。しかし、だからといってモンスターやならず者共を嗾けるとは?気に入らねぇなぁ、オレ様の国を何だと思ってやがる!」
「どうされます?雷帝、炎帝の正体も気になりますが、隣国の動き無視できませんぞ」
「騎士団、警備隊に伝えとけ!雷帝、炎帝如きに遅れをとるなと!我が国に刃を向ける者には死をもって償わせる!容赦するな、と!以上だ!」
「はい」
「待て、ブリザード・ワームは全部で何匹いた?第四国境警備隊が簡単に潰れるはずがねぇ」
「3匹と報告にあります」
「じゃ残り2匹か、討伐隊は?」
「既に1匹討伐致しました」
「なら、残り1匹だな、必ず仕留めろ!」
参謀はその場を離れない。
「?」
なんだ?と面倒くさく考える王。
「……」
「どうした?参謀?まだ何かあるのか?」
「第六国境警備隊の報告書、続きがありますが読まれますか」
「はぁ?国王であるオレ様が、一々報告書なんぞに眼を通していられるか!ワーム討伐、それで充分だ!」
「……ではそのように」
王はこの時、違和感を覚えた。
この参謀がわざわざ報告書を口にする?
長年の付き合いだ、オレ様の気性は分かっているはずだと。
おかしい、ナニかある、と。
「……ちょっと待て。その報告書、何が書かれていたのだ?見せろ!」
「どうぞ報告者は第六国境警備隊、隊長のエリ・ナリです」
「エリ・ナリ?聞いたことがあるぞ、その名前……薙刀の名手か」
報告書にそのぎょろ目を走らせる王。
そして突然、大爆笑する!
「どわははははっ!がはがはっ!なんだこりゃ?報告することか?」
「ですが、雷帝、炎帝に関することはすべて報告しろ、との厳命でしたので」
「だが、兄よりも大きく、父よりも小さいとは何だ!?雷帝、我がスノーホワイト国中のさらし者ではないか!これから先、人前に出られるのか?敵も味方も大爆笑ではないのか?」
そう言って笑い続ける王。
「久しぶりに、大笑いした!第六国境警備隊のエリ・ナリには何か褒美を取らせろ!がはははっ!良い報告書だったとな!おお、我が寝所に呼んでもいいぞ?」
「……王、エリ・ナリ隊長はメグさまの一つ上、鍛錬校の先輩ですぞ」
「……前言撤回、メグやガロには嫌われたくない」
「メグさまといえば婚約のお話し、どうされます?隣国からの申し込みが多数ありますが」
「メグの結婚かぁ、まぁメグが欲しかったら、俺を倒してからにしてもらおうか。それぐれーの気骨があるヤツじゃねーとメグは渡せんなぁ」
「……誰かいますかねぇ」
雷神王を倒す?国際問題になりませんかなぁ、倒しても倒されても。
参謀は思った。
メグさまの結婚が遅れているのは、絶対王が原因だと。
国益優先ではなく、自己優先だからなぁ、我が王は。
「さて、参謀、なんで雷帝は裸だったのだ?」
真顔の雷神が参謀を睨む。
「獣人でしょう、それ以外考えられません。おそらくこの若葉街に住んでいる犬か狼、野生の一角パンサー、辺りではないかと」
「……犬か?犬ならば、かなりでかいヤツだろうな」
「どうかされましたか?」
「雷帝は、先生や生徒、子供を庇った犬を、なりふり構わず守ったのだな」
「はい」
「会ってみたい、拳を合わせてみたい……ぷっ……がははははっ!ひーっ思い出しただけでも笑いが止まらぬ!」
さて、一方その報告書を書いた第六国境警備隊、隊長のエリ・ナリは凄く落ち込んでいた。
いや、情緒不安定になっていた。
「ああああああああっ!もううううっ!なんで私っ、あんな報告書、書いたかなぁ!」
ここは若葉街に急遽作られた第六国境警備隊、仮駐屯所。
仮とはいっても、立派な施設である。
外には一角パンサーの大きな飼育設備、男女に分かれた2階建ての仮駐屯所。
正面右側が男性で左側が女性の宿泊施設。
中央は訓練所及び事務所となっている。
若葉街の三分の一程の大きな施設が、街横に新設されたのだ。
(でけぇ、これでも仮なんだなぁ)
軽い足取りで駐屯所内を見て回る白黒ネコ。
異様なネコの気配に騒ぎ出す一角パンサー。
……シャアアアアッ……
(おい、おい、同じネコ科だろ?見逃せよ!俺よりデカいし、立派なツノまであるじゃねーか!)
……ガァルルルルルッ……
ここで若が、一角パンサー達に向かい、シャアアアアアアアッと口を開き、鋭い牙を見せる。
……グゥルル……
一斉に鎮まる一角パンサー達。
(おお、いい子達だ!今度、遊ぼうな)
ぽんぽん、と軽くジャンプし、宿泊施設に向う若。
……だから、もう仕方ないでしょう……
……あ゛あ゛っ……どうしよう……
若の研ぎ澄まされた耳に入ってくる、あの女隊長の声。
(どうしたんだ?)
好奇心旺盛の猫、いや若はその声に惹かれ2階奥、その窓から中を覗く。
(いた、あいつだ。残りの2人は……隊員にいたな)
「なんで私、あんな報告書、書いたかなぁ」
「だって厳命だったのでしょう?」
「しかたないよう……でも、まぁ表現には問題あったかな?」
「ああああああああっそれ言わないでえええっ!」
(なんだこいつ、あの厳しい隊長サンと本当に同一人物か?)
「しかし兄より大きく、父より小さい?隊長、なんてこと報告するんです!」
「副長には聞いたのよ!これでいいかって!」
「えええええっ!?副長に聞いたんですか?は、恥ずかしくなかったのですかっ!?」
「そ、それはし、仕事だし!」
真っ赤なお顔で怒り気味に返事をする隊長。
そして、その言葉を聞いて、心情的に真っ赤になる白黒ネコ。
(こ、こいつかっ!噂の出所はっ!報告書だと!?く、国中に正式に広がるじゃねーかーっ!)
本日はここまで、続きはまた後日。
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