第四話 若葉街の日常
こんばんは。
木曜日の夜、投稿です。
「あ!?」
突然のすりすりに、ちょっとビックリするニャオ先生。
頭を押しつけグリグリする白黒ネコ。
「ナーオ……」
「あ?王子!おはようございます!」
ニャオ先生は白黒ネコを王子と呼び、対等にお話しを始めた。
いや、どちらかというと、白黒ネコをやや上に見ているようである。
「ナァーオ!(おう、おはようだぜ!)」
ふわっ、と広がるスカートの裾を抑え、その場に腰を下ろすニャオ先生。
「よしよししますよ?しますからね?」
「……(よかろう)」
白黒ネコの仕草を見て、ニャオ先生の小さな手が更に小さな頭を捉える。
「よしよし」
その様子を見てびっくりする子供、生徒達。
「うわぁクロちゃん、触れるんだ!」
「せ、せんせいっ!つ、次っ!触っていいっ!?ねぇせんせいっ!」
「せいっ!」
「みなさん、お静かに」
「え?」
「騒がしいと、ネコさん怖がって逃げてしまいますよ」
「そ、そうなの?」
「なの?」
そう、ネコは突然の喧騒、急な動作が苦手なのだ。大概のネコはビックリして駆け出し、その場を離れる。
おそらく子供が苦手なのはこのためだろう。
突然の笑い声や、意味不明の行動、ネコに対しての距離感が分らない、さらには撫でる力加減が分らない。
当然ネコは警戒し、逃げ出す。
そして学習して近づかなくなる。
「先生、静かにするからさ、撫でていい?抱っこもしてみたい……」
「え?ど、どうかしら?王子に聞いてみないと……」
白黒ネコはごろりと寝転がり、前足でニャオ先生の手を捉える。
ピンクの肉球で手を挟み、甘噛みをする。
「ク、クロちゃん!先生、食べちゃダメッ!」
「これは甘噛みですよ」
「?」
「先生?先生の手、甘いの?」
「いの?」
「いや、味ではなくてですね……」
ンゴロゴロゴンロゴロゴロ……。
「うわ、クロちゃん、ごろごろ言ってる!初めて聞いたよ!」
(……若、私も初めて聞きましたぞ……なんたる醜態、破廉恥、しゅ、淑女の指を、か、か、噛むとはっ!パーフェクトではありませんなっ!)
(しかたねーじゃん、ネコだし!このエルフのねーちゃん、すんげーいい匂いなんだよ!抗えねーっ!)
(……)
(どしたん?ゴンザ?)
(……な、なんと!媚薬とスカートで若を誑かすとは言語道断!我が冬鶴(大太刀の名前です)にて成敗致す!)
(成敗すんじゃねー!それにどこから出てきた!媚薬なんて!誰もそんなこといってねーぞーっ!それからっ!俺はノゾキなんかしてねぇからなっ!)
(し、しかしっ、あの角度からでは!)
(ばっ、バカやろうっ!おれはニャオ先生の綺麗な瞳しか眼に映ってねぇーっ!)
「よしよし」
愛撫は続く。
頭から頬、アゴの下フサフサの白い胸。
「……ゴロゴロ……」
「うわ、目を細めている!気持ちよさそう!かわいいっ!」
「わ、私も!よしよししたいよっ!」
(ううう、た、たまらんっ!なんとう手さばき!あへあへ……このエルフ、ヒーラーかっ!?いや、女神!?)
そこに子供達の小さな手が白黒ネコに迫る!
触りたくてしょうがないのだ!
フワフワのもこもこ。
それがゴロゴロしているのだ!
時々見える綺麗な瞳、ごろごろと喉を鳴らし、優しく手を噛むネコ。
私も、先生みたいに撫でたいっ!思わず手が出る!
ぱしっ!
その迫り来る手を軽く弾くネコ。
(無礼者!勝手に触るでないっ!)
シャアアアアアアッ!
「きゃっ!?」
手を伸ばしたのは人族の女の子、黒い髪で8、9歳くらいであろうか。
このグループの中では年長で、魔法を使うらしく背中に杖を背負っている。
「ええええっ!?」
「い、いまのなに!?」
「牙向けたっ!」
「たっ!」
「ネコ、怖えええっ!」
「パンチした!?」
「した!」
「しゃああって言った!?」
「か、かっけー!サベルタイガーみたい!おり、見たことあるんだ!」
「ええっ!?怖いよ、クロちゃん怒んないで!ごめんね?」
パンチされた年長の女の子が、目に涙を浮かべる。
「痛かった!?」
慌てて女の子に寄り添うニャオ先生。
(若っ!?)
(軽いネコパンチだ、怪我はさせてねぇ)
しかしネコの傷は危険なのだ。
引っ掻き傷、かみ傷、どれも侮れない。
ネコだけではない、犬もである。
犬……作者は足を噛まれ、病院に行ったことがある。
医者曰く、「腐ってますよ、今から手術です」
「はあ?」
「いつ噛まれたのです!」
「昨日かな?いやもうちょっと前かな?」
「何をしていたんです!犬でもネコで侮ったら命を落としますよ!」
「いや、眠いから寝ていたんですが……」
そして足が二倍くらいに腫れ上がり、痛くなって病院へ。
あれは寝ていたと言うより、玄関で倒れていた、が正解かもしれない。
靴も靴下も玄関も血だらけで、ベトベトだった。
「あのう、そういえば狂犬病とか心配なのですが」
思い出したように聞いてみると、医者は即答した。
「発病するなら、もうとっくに発病しています!」
読者諸氏、犬や猫、イノシシや猿などに遭遇して怪我をしたら、即病院に行きましょう。
MAYAKOからのお願いである(お願いしなくても、普通、病院行くぞ! 源水)。
おっと、ではお話しを戻しましょうか。
「怪我は!?傷は!?」
ニャオ先生の優しい目が、厳しい真剣な目になる。
「ううん、痛くない。ぱしって、払われただけ」
払われた手を優しく掴み、傷を確かめるニャオ先生。
そのニャオ先生の手が、ポッと光る。
「ああ、大丈夫みたいですね」
「先生、魔法使わなくていいよ!大袈裟!」
その様子を見て、さっ、と身を翻しその場を後にする白黒ネコ!
その身の軽さに周囲の人々は驚く!
「あ、クロちゃん行っちゃった!」
「ちゃった!」
「おお、ネコは凄いな、あの速さ、もう屋根の上だぞ、犬とは大違いだな!」
「あの敏捷性、剣技に欲しいくらいだ!」
「そうか?ワシはネコより昔から側にいる犬の方がいいのう」
周囲の住人達がそれぞれの仕事をしながら声を掛け合う。
「まぁ、犬は昔からの家族だからなぁ」
「ネコは冷たい、言うこと聞かんしなぁ」
そう、この国は元々、犬の数が多いのだ。
わんわん、圧倒的多数!
寒く冷たい雪と氷の世界、暮らしている者の側には常に犬がいた。
主人に忠実な犬は、人々の生活をあらゆる面で支えていたのだ。
それは狩の手伝いであり、移動、運搬、防犯でもあり、飢饉の時は食料にもなった。
そんな生活も王都結界の恩恵で、遠いモノになっていった。
雪や氷の生活は昔話に成りつつあるのだ。
犬の数は以前より減ったが、それでもこの街、若葉街では三軒に二軒は犬を飼っている。
そう、この国ではネコは珍しいのだ。
ヲンヲン!
独特の咆える声。
あちこちで始まる犬の大合唱!
それは大型犬であったり、小型犬だったりする。
様々な犬が吠え、朝の散歩を各主人達に要求していた。
あるいは朝ご飯か?
子供達の関心は犬に移る。
「おはよう!一緒に学校行く?」
この世界にもハーネスやリードはあるが、基本放し飼いである。
主人とは魔力で繋がっているのだ。
そう、この犬達も多少の魔力持ちなのである。
数匹の犬が子供達に付いていく。
日課である。
そして広場まで送ると、犬達は勝手に帰ってくるのだ。
ここでゴンザは残った一人に気がつく。
包丁の研ぎの手が止まり、声を掛ける。
「どうされました?勉強会、遅れますよ、皆さん向われていますが?」
ゴンザが優しく少女を促す。
一人残っている女の子。白黒ネコに手を払われた女の子だ。
「ゴンザさん、私、嫌われたのかな?」
「!……そのようなことはありませんよ、ネコは気まぐれですし」
「……クロの本当の名前教えて!あの子、沢山名前持っているの!」
「どうして名前を知りたいのです?」
「ちゃんと名前を呼んで謝りたい」
「たかがネコですぞ?」
「違うよ!私もニャオ先生みたいにお友達になりたいもの!」
ここでチラリ、と白黒ネコを見るゴンザ。
ネコは屋根の上で大きくアクビ中である。
シャカシャカシャカシャカ。
後ろ足で、器用に耳の後ろを掻き毟る白黒ネコ。
「私は若と呼んでいますが」
「それが本当の名前なの?向こうのお店ではグルメさまって呼ばれているわ」
「ぐるめ?」
「そう、残り物食べないし、ちゃんと専用に作ったお肉しか食べないって」
(……若……なんたる贅沢っ!パーフェクトではありませんなっ!)
(いいじゃん、勝手に向こうが作ってくれるんだぜ?)
(他にも色々と食べていないでしょうなっ!?)
(……どうだったかな?)
「呼びたい名前で呼んでいいですよ、クロちゃんでもグルメでも、王子でも」
「……名前、ないの?」
((!))
(……若、素直な子は核心を突きますな)
(……けっ)
「若は、親に……飼い主に捨てられたので名前がないのです」
「え?」
「ですから、好きな名前でお呼び下さい」
「そ、そんなぁ、でもゴンザさんが育てたのでしょう?」
「いえ、私は預かっているだけです。ですから私が勝手に名前を付けるわけにはいかないのです」
「そうなの?」
「私は若と呼んでいますが、どうぞ好きなお名前を付けてやってください」
「……勝手に名前付けていいのかなぁ」
白黒ネコを見上げながら、女の子が呟く。
「ええ、いいですぞ」
「ん……じゃ…………ライちゃん!」
「え?」
「カミナリみたいにごろごろ言っていたから、ライちゃんにする!」
((!))
(……若、素直な子は核心を突きますなぁ)
(……けっ)
ここで白黒ネコの耳がぴっと動き、素早い動作で起き上がる!
……やめてください……
……オンヲン……
……先生!……
ゴンザの手が止まり、その目が厳しくなる。
「え?今、先生の声が?」
……オンオン……
辺りが騒然となり、大人達が武器を取り走り出す!
*今回のお話しはここまで、ではまた木曜日の夜にお会いしましょう!*
毎週ご愛読、ありがとうございます!
面白し!と思われたなら本編の下にある☆☆☆☆☆から評価をしていただけると嬉しいです。
ブックマークもしていただけるとさらに嬉しいです。
よろしくお願い致します!
ではまた来週!
あ、犬に噛まれたお話しは、削除するかも知れません。