表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/57

第三話 秘密の少年    

こんばんは。

木曜日の夜、投稿です。


 綺麗に整理整頓されたお店である。

 店主のド・ゴンザ・ドンドンの人柄が如実に表れている。

 並べられた商品はどれも埃ひとつ乗っていない。

 吹き抜けのフロアは色々な品々が展示されており、見ているだけでも楽しめるのではないか?と思わせるワクワク感のあるお店だ。


 珍しいガラスのビーズから磨き上げられたフルアーマー、携帯非常食に傷薬、飲み薬。

 植物もあれば鉱物もある。

 古い書物に剣、槍、絵画。

 所狭し、と並べられている商品の数々、皆静かに主の帰りを待っていたのだ。

 そして外は夜、寒空に月が青く輝いている。

 締め切られた窓とドア、暗いフロアに明りが灯る。


「若、名前は広まりましょうな」


 そう言って、大太刀をカウンターに置くゴンザ。

 ずっしり、と重い大太刀。

 いったい何キロあるのだろう?

 こんな金属の塊、足の上に落ちただけでも大怪我をする。

 場所によっては即、骨折だ。


 大太刀はでかくて重い、見栄えはいいかもしれないが、扱いは大変難しい。

 まず、鞘から抜くことさえままならぬ。

 

 そんな大太刀を軽々と扱うゴンザ。

 いや、軽々と表現したが、決してこの大男、粗末に扱っているのではない。


 武器の扱いは生死に繋がる。


 ゴンザは今までの戦いで、多くのことを学んでいるのだ。

 彼の行動は常に慎重で、そこには敬意と畏怖があった。

 装備を解除し、いつものように棚から指輪を取り出すゴンザ。

 銀製で分厚く、至ってシンプルな指輪である


「名前かぁ……広まるかなぁ……まぁ、いいじゃん、そうなれば公認だよゴンザ!」


 お気楽な言葉を吐いて、若の方は次々に服を脱ぎ始める。

 いや、脱ぎ捨てていくが正解か?

 ここに厳しい母親がいれば、叱られるところであろう。


「……まぁいつかはバレることですが、パーフェクトではありませんな、できるなら伏せておきたかったですな」


 そう言って、ゴンザは指輪をはめる。


「わりいぃ」


 若の方はマッパである。


「ふっ」


「ちょいまち!……おい、ゴンザ?今どこを見て笑った!?」


「おや、笑ってなどおりませんが?まだまだパーフェクトではありませんな」


 指輪が輝くと、ゴンザはなんと、縮み始めた!


「いつ見ても、何回見てもおもしれーなー、それ!」


「ナニをです?」


「ゴンザの弱体装備だよ!」


「若、装備品は大事に扱って下さい、服も同じです……脱ぎ捨てはいけませんな、パーフェクではありません」


 そう言いながらゴンザはどんどん縮み、140㎝くらいの老人になってしまった!


 髪は白くなり、その顔には深い皺が刻まれている。

 眉毛や口ひげ、顎髭も長くなりどこから見ても好々爺である。

 とても大太刀を振るっていた剣士には見えない。


 一方、若と呼ばれた少年はその異様な仮面を外した。

 鬼のような仮面。

 いや、モチーフは鬼であろう。

 それは仮面というより頬当てに近いだろうか。


 鬼の仮面の下から現れたのは、あどけなさの残る綺麗な少年の顔だ。


 艶のあるグレーの髪、薄い唇、そして赤い眼。

 特徴的なのは他にもあった。

 この少年、耳が尖り気味なのである。


「俺の方も、オモシレーよなぁ」


 自称気味に口元を歪める若。

 手に取っている仮面はサラサラと砂のように崩れ、少年の周囲を回り始めた!

 まるで黒い霧である。

 この仮面は少年と魔力で繋がっている不思議な仮面なのである。


 別名、呪いの仮面とも言われている。


 仮面が消えると、少年の身体も縮み始めた。

 が、明らかにゴンザとは形態が違っていた。

 少年の身体が獣毛に覆われ始めたのだ!


 耳が移動し足の関節、指がよくできたコンピの動画みたいに変形していく。

 少年は小さくなりすぎて、テーブルの影に隠れてしまった。


「若、お召し物を片付けてから獣化して下さい、パーフェクトではありませんな」


「獣化?こっちが本来の姿なんだが」


 ぴょん、とテーブルの上に乗る真っ白い一匹のネコ。

 尻尾が長く、先がちょっと曲がっている。

 そのネコに周囲の黒い霧が覆い被さり、白黒模様のネコになる。


 ゆっくりと伸びをする白黒ネコ。

 目は綺麗な琥珀色だが、光の加減では赤が強くでる目だ。


 その目がゴンザを捉える。


 後ろ足をモゾモゾふみふみし、テーブルに座るネコ。

 意外と長い舌で前足をペロペロと清掃し、顔を器用に撫で始める。


「若、毛繕いはテーブルではなく椅子か専用の場所でお願いします、パーフェクトではありませんな。お食事でしたら専用の椅子を用意しておりますが?」


「ここが寛ぐ」


「テーブルは食事の場所、お客様を迎える場所でもあります、どうぞ、椅子へ」


「椅子に座るネコっておかしくねーか?」


「いえ」


「んじゃ、喋るネコは?」


「ここより遙か北方の国、獣人族の国では当たり前でしょうな、ははっ」


 そう言って涙を流すゴンザ。


「お、おい、ゴンザ!?笑うか泣くかどっちかにしろよ!いや、なに泣いてんだよ!」


「若……獣人の呪いがなければ……あなた様は……このゴンザ、悔しく思います……」


「俺は別に悔しくないぜ?さぁメシにしよう!あ、スープはちゃんと冷やしてくれよ?俺猫舌だから!」


「……分っておりますとも」


 戦いを終えた戦士達は、熱いスープとちょっとだけ暖かいスープを食べ、眠りについた。


 チチッ。


 小鳥のさえずり。

 極寒のこの地でも、王都の恩恵で沢山の生き物が住み着いている。

 それは人族や妖精族だけではない。

 鳥や獣、虫も例外ではなくこの地に住み続けているのだ。


 朝日が昇り始める。


 武器の手入れを終え、店を開けるゴンザ。

 眩しい朝日の中、開店準備を始めると早速近所の者達が訪れる。


「ゴンさん、包丁のキレが悪いんだ、砥いでもらえるかねぇ」


「ああ、いいですよ」


「あんたの砥ぎ、凄いねぇ肉や野菜の味が違うんだ、定食3日分でいいかい?」


 訪れたのは、定食屋の人族。

 お隣さんである。


「ああ、いいですよ」


 若葉街は王都より離れている。

 それ程寒くはないのだが、快適と言うにはほど遠かった。

 ここは王都を目指す者が少なからず立ち寄る街だ、宿屋があり定食屋があり、武器防具屋、雑貨、小さいながら一通り揃っているからだ。

 そして早朝は、狩、食料調達で森に向う者、商売の仕込み、色々な者達が通り過ぎる。


「ゴンさん、食器は扱っているかい?ならず者達が昨日騒いで割っちまったんだ」


 今度は居酒屋の店主だ。

 ドワーフで料理人。武器製造より、料理が好きな変わり者である。

 定食屋の人族は昼間、居酒屋は夜間、この街の決め事である。


「陶器、木製、金属、どれがいい?多くはないが扱っていますよ、そこの棚見て下さい」


「おお?」


 居酒屋店主のドワーフが、示された棚を事細かに物色する。


「あ、これががいい、木製10枚、もらっていくよ!一日飲み放題でどうだい?」


「10枚か……二日」


「……分ったよ、二日飲み放題で」


 カタン。


 軽い音が天井から響く。


「ネズミか?」


 目を細め、天井を仰ぎ見るドワーフ。


「ウチにネズミはいませんよ」


「あ?ああ、そうだね」


 二階窓に付けられたネコ専用の小さなドア。

 そのドアが軽く揺れている。


「ナーオ」


 朝日を浴び、二階から下々を見下ろすフワフワのモコモコの白黒ネコ。

 かわいいお尻を突き上げ、伸びをすると、ゴロンっと横になる。


 木製の皿を器用に積み上げ、屋根を見るドワーフ。


「おーい、シロ、昨夜の残りがあるが、食いに来るか?」


 ぷいっ。


「……なぁゴンさん、あんたんとこのネコ、贅沢すぎないか?ウチの残り物、全然食わねーんだよなぁ」


「そうですか?」


「ああ、シロはちゃんと料理したやつしか食わねぇ、珍しい刺身とか新鮮な鳥肉とか」


「ほうぅ」


 ぎろり、とネコを睨むゴンザ。

 大きくアクビをし、シャカシャカと後ろ足で耳を掻くネコ。

 自然と目を逸らし、聞こえないフリをする。


「だが、あいつが店に来ると客足が伸びるんだ。飲み放題の時、連れてきてくれよ、なぁ」


「気まぐれですので、まぁ気が向けば付いてくるでしょう」


 そう言ってゴンザは包丁を砥ぎ始めた。


「あ、俺の所の包丁もいいかなぁ」


「いいですよ、三日」


「……わかったよゴンさん、飲み放題三日な」


 そこに子供達の集団が通りかかる。


「ああ、屋根!屋根見て!」

「ほらほらっ!クロちゃんだ!」

「ちゃんだ」

「ねこおおおっ!」

「クロッ!くろっ!」


 人気者である。


 この集団は人族とドワーフ族の子供達10名ほど。

 午前中は読み書き、算数、武術などの勉強会があるのだ。

 それが終ると各自家の手伝い。

 この街の子供の日課である。


「返事してくれない」

「くれない」


「!」


 ゴンザに気がつくと、かしこまって黙ってしまう子供達。


 そう、子供達にはわかるのだ!本能で!

 この老人が只者ではないということが!

 大人は騙されても、本能的な所では子供は騙されない。

 子供が警戒するとき、それは注意の時でもあるのだ。


「やぁおはよう、元気いいですね」


 ゴンザが優しく声を掛ける。


「は、はよございます……」

「ます」

(おい、挨拶はちゃんとしないと先生に怒られるぞ)

(でもゴンザさん、なんか恐いんよぉ)

(いいか、おりが手本を見せてやる!)


 腰に木剣をぶら下げたドワーフが前に出る。


「おっはようございますっ!」


「やあ、おはようございます、剣士殿」


「!……へへっ、この剣、使いやすいよ!」


「それは(かし)ですからな、重くはありませんか?」


「重くねー!でも、ちょっと小さいんだ!」


「今度、大きいのが入ったらお知らせしますよ」


「ええっ!?頼んだよ、ゴンザさん!へへっ、みんな行こうぜ!」


 ここでネコが動いた。


 耳とやや曲がった尻尾がピンッと立ち、すっ、と起き上がったのだ。


「あら、みなさん、おはようございます、まだ授業まで時間がありますよ?早くないですか?お家のお手伝いはいいのですか?」


 とても澄んだ声で、子供達に優しく語りかける女性。

 極めの細かい肌に長い髪。

 横に尖り広がる長い耳。

 身長は高くない。子供達の中で一番大きな子と同じくらいである。

 150㎝くらいだろうか?


「あ、先生!」


 希少種、エルフのニャオ先生である。


「「「「「おはようございます!せんせいっ!」」」」」

「せいっ!」


 すりすり。


「ん?」


 足下を見るニャオ先生。


 そこにはいつの間にか二階から降りてきた白黒ネコがいた。


「ニャーオ」


 すりすり。


 白黒ネコは先生を見上げ、挨拶をする。

 その様子を冷めた眼でみるゴンザ。


(わ……若っ!先生はスカートですぞっ!その行為っ!パーフェクトではありませんなっ!)



 今回のお話しはここまで、ではまた木曜日の夜にお会いしましょう!


毎週ご愛読、ありがとうございます!

面白し!と思われたなら本編の下にある☆☆☆☆☆から評価をしていただけると嬉しいです。

ブックマークもしていただけるとさらに嬉しいです。

よろしくお願い致します!

ではまた来週!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ