第三話 秘密の少年
こんばんは。
木曜日の夜、投稿です。
綺麗に整理整頓されたお店である。
店主のド・ゴンザ・ドンドンの人柄が如実に表れている。
並べられた商品はどれも埃ひとつ乗っていない。
吹き抜けのフロアは色々な品々が展示されており、見ているだけでも楽しめるのではないか?と思わせるワクワク感のあるお店だ。
珍しいガラスのビーズから磨き上げられたフルアーマー、携帯非常食に傷薬、飲み薬。
植物もあれば鉱物もある。
古い書物に剣、槍、絵画。
所狭し、と並べられている商品の数々、皆静かに主の帰りを待っていたのだ。
そして外は夜、寒空に月が青く輝いている。
締め切られた窓とドア、暗いフロアに明りが灯る。
「若、名前は広まりましょうな」
そう言って、大太刀をカウンターに置くゴンザ。
ずっしり、と重い大太刀。
いったい何キロあるのだろう?
こんな金属の塊、足の上に落ちただけでも大怪我をする。
場所によっては即、骨折だ。
大太刀はでかくて重い、見栄えはいいかもしれないが、扱いは大変難しい。
まず、鞘から抜くことさえままならぬ。
そんな大太刀を軽々と扱うゴンザ。
いや、軽々と表現したが、決してこの大男、粗末に扱っているのではない。
武器の扱いは生死に繋がる。
ゴンザは今までの戦いで、多くのことを学んでいるのだ。
彼の行動は常に慎重で、そこには敬意と畏怖があった。
装備を解除し、いつものように棚から指輪を取り出すゴンザ。
銀製で分厚く、至ってシンプルな指輪である
「名前かぁ……広まるかなぁ……まぁ、いいじゃん、そうなれば公認だよゴンザ!」
お気楽な言葉を吐いて、若の方は次々に服を脱ぎ始める。
いや、脱ぎ捨てていくが正解か?
ここに厳しい母親がいれば、叱られるところであろう。
「……まぁいつかはバレることですが、パーフェクトではありませんな、できるなら伏せておきたかったですな」
そう言って、ゴンザは指輪をはめる。
「わりいぃ」
若の方はマッパである。
「ふっ」
「ちょいまち!……おい、ゴンザ?今どこを見て笑った!?」
「おや、笑ってなどおりませんが?まだまだパーフェクトではありませんな」
指輪が輝くと、ゴンザはなんと、縮み始めた!
「いつ見ても、何回見てもおもしれーなー、それ!」
「ナニをです?」
「ゴンザの弱体装備だよ!」
「若、装備品は大事に扱って下さい、服も同じです……脱ぎ捨てはいけませんな、パーフェクではありません」
そう言いながらゴンザはどんどん縮み、140㎝くらいの老人になってしまった!
髪は白くなり、その顔には深い皺が刻まれている。
眉毛や口ひげ、顎髭も長くなりどこから見ても好々爺である。
とても大太刀を振るっていた剣士には見えない。
一方、若と呼ばれた少年はその異様な仮面を外した。
鬼のような仮面。
いや、モチーフは鬼であろう。
それは仮面というより頬当てに近いだろうか。
鬼の仮面の下から現れたのは、あどけなさの残る綺麗な少年の顔だ。
艶のあるグレーの髪、薄い唇、そして赤い眼。
特徴的なのは他にもあった。
この少年、耳が尖り気味なのである。
「俺の方も、オモシレーよなぁ」
自称気味に口元を歪める若。
手に取っている仮面はサラサラと砂のように崩れ、少年の周囲を回り始めた!
まるで黒い霧である。
この仮面は少年と魔力で繋がっている不思議な仮面なのである。
別名、呪いの仮面とも言われている。
仮面が消えると、少年の身体も縮み始めた。
が、明らかにゴンザとは形態が違っていた。
少年の身体が獣毛に覆われ始めたのだ!
耳が移動し足の関節、指がよくできたコンピの動画みたいに変形していく。
少年は小さくなりすぎて、テーブルの影に隠れてしまった。
「若、お召し物を片付けてから獣化して下さい、パーフェクトではありませんな」
「獣化?こっちが本来の姿なんだが」
ぴょん、とテーブルの上に乗る真っ白い一匹のネコ。
尻尾が長く、先がちょっと曲がっている。
そのネコに周囲の黒い霧が覆い被さり、白黒模様のネコになる。
ゆっくりと伸びをする白黒ネコ。
目は綺麗な琥珀色だが、光の加減では赤が強くでる目だ。
その目がゴンザを捉える。
後ろ足をモゾモゾふみふみし、テーブルに座るネコ。
意外と長い舌で前足をペロペロと清掃し、顔を器用に撫で始める。
「若、毛繕いはテーブルではなく椅子か専用の場所でお願いします、パーフェクトではありませんな。お食事でしたら専用の椅子を用意しておりますが?」
「ここが寛ぐ」
「テーブルは食事の場所、お客様を迎える場所でもあります、どうぞ、椅子へ」
「椅子に座るネコっておかしくねーか?」
「いえ」
「んじゃ、喋るネコは?」
「ここより遙か北方の国、獣人族の国では当たり前でしょうな、ははっ」
そう言って涙を流すゴンザ。
「お、おい、ゴンザ!?笑うか泣くかどっちかにしろよ!いや、なに泣いてんだよ!」
「若……獣人の呪いがなければ……あなた様は……このゴンザ、悔しく思います……」
「俺は別に悔しくないぜ?さぁメシにしよう!あ、スープはちゃんと冷やしてくれよ?俺猫舌だから!」
「……分っておりますとも」
戦いを終えた戦士達は、熱いスープとちょっとだけ暖かいスープを食べ、眠りについた。
チチッ。
小鳥のさえずり。
極寒のこの地でも、王都の恩恵で沢山の生き物が住み着いている。
それは人族や妖精族だけではない。
鳥や獣、虫も例外ではなくこの地に住み続けているのだ。
朝日が昇り始める。
武器の手入れを終え、店を開けるゴンザ。
眩しい朝日の中、開店準備を始めると早速近所の者達が訪れる。
「ゴンさん、包丁のキレが悪いんだ、砥いでもらえるかねぇ」
「ああ、いいですよ」
「あんたの砥ぎ、凄いねぇ肉や野菜の味が違うんだ、定食3日分でいいかい?」
訪れたのは、定食屋の人族。
お隣さんである。
「ああ、いいですよ」
若葉街は王都より離れている。
それ程寒くはないのだが、快適と言うにはほど遠かった。
ここは王都を目指す者が少なからず立ち寄る街だ、宿屋があり定食屋があり、武器防具屋、雑貨、小さいながら一通り揃っているからだ。
そして早朝は、狩、食料調達で森に向う者、商売の仕込み、色々な者達が通り過ぎる。
「ゴンさん、食器は扱っているかい?ならず者達が昨日騒いで割っちまったんだ」
今度は居酒屋の店主だ。
ドワーフで料理人。武器製造より、料理が好きな変わり者である。
定食屋の人族は昼間、居酒屋は夜間、この街の決め事である。
「陶器、木製、金属、どれがいい?多くはないが扱っていますよ、そこの棚見て下さい」
「おお?」
居酒屋店主のドワーフが、示された棚を事細かに物色する。
「あ、これががいい、木製10枚、もらっていくよ!一日飲み放題でどうだい?」
「10枚か……二日」
「……分ったよ、二日飲み放題で」
カタン。
軽い音が天井から響く。
「ネズミか?」
目を細め、天井を仰ぎ見るドワーフ。
「ウチにネズミはいませんよ」
「あ?ああ、そうだね」
二階窓に付けられたネコ専用の小さなドア。
そのドアが軽く揺れている。
「ナーオ」
朝日を浴び、二階から下々を見下ろすフワフワのモコモコの白黒ネコ。
かわいいお尻を突き上げ、伸びをすると、ゴロンっと横になる。
木製の皿を器用に積み上げ、屋根を見るドワーフ。
「おーい、シロ、昨夜の残りがあるが、食いに来るか?」
ぷいっ。
「……なぁゴンさん、あんたんとこのネコ、贅沢すぎないか?ウチの残り物、全然食わねーんだよなぁ」
「そうですか?」
「ああ、シロはちゃんと料理したやつしか食わねぇ、珍しい刺身とか新鮮な鳥肉とか」
「ほうぅ」
ぎろり、とネコを睨むゴンザ。
大きくアクビをし、シャカシャカと後ろ足で耳を掻くネコ。
自然と目を逸らし、聞こえないフリをする。
「だが、あいつが店に来ると客足が伸びるんだ。飲み放題の時、連れてきてくれよ、なぁ」
「気まぐれですので、まぁ気が向けば付いてくるでしょう」
そう言ってゴンザは包丁を砥ぎ始めた。
「あ、俺の所の包丁もいいかなぁ」
「いいですよ、三日」
「……わかったよゴンさん、飲み放題三日な」
そこに子供達の集団が通りかかる。
「ああ、屋根!屋根見て!」
「ほらほらっ!クロちゃんだ!」
「ちゃんだ」
「ねこおおおっ!」
「クロッ!くろっ!」
人気者である。
この集団は人族とドワーフ族の子供達10名ほど。
午前中は読み書き、算数、武術などの勉強会があるのだ。
それが終ると各自家の手伝い。
この街の子供の日課である。
「返事してくれない」
「くれない」
「!」
ゴンザに気がつくと、かしこまって黙ってしまう子供達。
そう、子供達にはわかるのだ!本能で!
この老人が只者ではないということが!
大人は騙されても、本能的な所では子供は騙されない。
子供が警戒するとき、それは注意の時でもあるのだ。
「やぁおはよう、元気いいですね」
ゴンザが優しく声を掛ける。
「は、はよございます……」
「ます」
(おい、挨拶はちゃんとしないと先生に怒られるぞ)
(でもゴンザさん、なんか恐いんよぉ)
(いいか、おりが手本を見せてやる!)
腰に木剣をぶら下げたドワーフが前に出る。
「おっはようございますっ!」
「やあ、おはようございます、剣士殿」
「!……へへっ、この剣、使いやすいよ!」
「それは樫ですからな、重くはありませんか?」
「重くねー!でも、ちょっと小さいんだ!」
「今度、大きいのが入ったらお知らせしますよ」
「ええっ!?頼んだよ、ゴンザさん!へへっ、みんな行こうぜ!」
ここでネコが動いた。
耳とやや曲がった尻尾がピンッと立ち、すっ、と起き上がったのだ。
「あら、みなさん、おはようございます、まだ授業まで時間がありますよ?早くないですか?お家のお手伝いはいいのですか?」
とても澄んだ声で、子供達に優しく語りかける女性。
極めの細かい肌に長い髪。
横に尖り広がる長い耳。
身長は高くない。子供達の中で一番大きな子と同じくらいである。
150㎝くらいだろうか?
「あ、先生!」
希少種、エルフのニャオ先生である。
「「「「「おはようございます!せんせいっ!」」」」」
「せいっ!」
すりすり。
「ん?」
足下を見るニャオ先生。
そこにはいつの間にか二階から降りてきた白黒ネコがいた。
「ニャーオ」
すりすり。
白黒ネコは先生を見上げ、挨拶をする。
その様子を冷めた眼でみるゴンザ。
(わ……若っ!先生はスカートですぞっ!その行為っ!パーフェクトではありませんなっ!)
今回のお話しはここまで、ではまた木曜日の夜にお会いしましょう!
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ではまた来週!