第二話 少年の秘密
こんばんは。
投稿です。
首都ホワイトパレスは快適である。
魔法による防御結界で、極寒から遮断されているのだ。
雨も雪も風も、すべての気象が管理されている快適首都。
その恩恵は周囲にも広がり、首都周辺は暖かく離れれば離れるほど、氷と雪の世界が広がる。
首都は緑に囲まれ、この極寒の地でもここだけは別世界であった。
そんな首都ホワイトパレスの豪華な王宮に、テラスから静かに街並みを見つめる騎士が一人。
髪は金色で短く、眉は細く、すっと鼻筋が通っている。
一見、ショートカットの女性に見えるが分厚い胸板とガッシリした頸は、男性を示していた。
そしてもっとも印象的なのはその赤い眼だ。
赤い瞳の騎士。
カツカツと大理石の床を鳴らす複数の足音。
それが近づいてくる。
「王子、炎帝と雷帝がでました!」
同系列の鎧を着けた若い騎士が声を掛ける。
どげしっ!
「おわっ!?な、なにをするんです!?副団長殿!?」
突然の蹴りに抗議する若い騎士。
「バカタリ!『団長、おくつろぎのところ申し訳ありません、ご報告があります』と言うのだ!」
ドタバタを一瞥し、また街並みを眺める王子と呼ばれた騎士団長。
この者、騎士団長と呼ばれるにはとても若い、年齢は18歳である。
彼が団長を務めるベーグル騎士団の騎士団員は、全員彼より年上である。そう今、目の前にいる者達がそれだ。
王子と呼ばれた人物は、並外れた才能の持ち主で、その実力は非常に高く、侮った騎士、周囲の者は全て苦い思いをしている。
「……飛龍を一撃で倒したと聞いたが、本当だろうか?」
重い静かな声。
濁りのない澄んだ声である。
「はい、駆けつけた響弓が、討伐隊から直接聞いています!」
王子はまだ街並みを見ている。
「聞きたいことがある、響弓騎士団に……連……」
コツコツとまた足音が響いてくる。
「……団長、響弓です」
ここで、初めて身体を動かすベーグル騎士団の団長。
どうやら、下方に見える屋根に子ネコがいたようだ。
(あのような場所に、降りられるのかな?)
名残惜しそうに目を放す王子。
次にその目が捉えたのは、先頭を歩いてくる騎士だ。
髪は金色で長く、ほっそりとした騎士。
彼らはベーグル騎士団の重装備とは異なり、かなり軽装備である。
機動性を重視しているようだ。
コツコツ。
足音が早まる。
歩く度に髪が揺れ、ベーグル騎士団の団長と目が合うと、安堵したかのように彼女はゆっくり微笑んだ。
そう、騎士団響弓の団長は女性なのだ。
それも、ベーグル騎士団の団長とそっくり!顔立ち、身長も同じくらいである。
違うのは絞られたウエストとボリュームのあるバスト。
男女の差だけで、明らかに血縁者だ。
その証拠にこの二人、同じ赤い眼を持っていた。
「兄上、ただいま戻りました!」
……副団長、蹴らないんですか?……
……ほうっ……
……何見とれているんですっ!団長ではなく兄上と言っていますが?公務では?……
……ごら、響弓の団長で姫さまだぞ!蹴られるか……ドゲシッ!……
……うごっ……
余計な発言で再び蹴られる先程の騎士。
そして、その場を去ろうとするお付き騎士達。
「あ、そのままでいいですよ!」
「しかし姫、王子とのお話しが?」
「別に構わん」
「別に構いません、ですよね兄上?」
「……ああ、、炎帝と雷帝がでたそうだが?」
「はい、炎帝はゴンザと呼ばれていたそうです」
「ほう、ゴンザ?雷帝がそう呼んだのか?」
「はい、容姿は壮年で髪は銀髪、目の色はグレー。足跡からして相当な手練れですね、身長は2mほどかしら?踏み込みに対して倒した魔獣が大きすぎます。明らかに剣豪クラス、このような戦士が我が国にいようとは……」
「歩幅は?」
「歩幅でしょう?狭いです、このゴンザが本気で踏み込むと、兄上でも危ないかも」
この発言に青くなる周囲の騎士団達。
「そう青くなるな、響弓の団長の言葉だぞ、見る正確さにおいては我が国トップクラスだ」
「このゴンザ、歴戦の戦士らしく身体に無数の傷痕があり、雷帝を若と呼んでいたとか」
「雷帝は?」
「雷帝は足跡からして、身長は170㎝ないでしょうね、騎士団平均から見れば小柄です」
「噂通りの赤い眼か?私達と同じように?」
「それが……」
「それが?」
「仮面を付けていたそうです」
「仮面?」
「はい、鬼のような仮面だったと聞きました。赤い眼とは言っていましたが、本人の目の色か、仮面の色かはわかりません」
「……飛龍を一撃か?」
「はい、間違いなく一撃で仕留めたそうです」
ここでベーグル騎士団長は身を正す。
「騎士団響弓の団長、マグナルナル・ファー・メイグ・スノーホワイト」
「はっ!」
びしっ、と礼をとるファー・メイグ。
「ベーグル騎士団長、マグナルナル・ガロファノ・スノーホワイトが尋ねる、貴公はこの国を騒がすその2名に矢を当てることができるか?」
……討伐か!?……
……赤い眼は王家の証……
……不敬か不遜か?しかし民には慕われているぞ……
「炎帝は当たるでしょう、ですが雷帝は無理です」
「!」
驚く周囲の者達。
……即答かよ……
……正直に答えすぎでは……
……おい、おい、団長の弓はエルフ公認だぞ……
「雷帝は無理?根拠は?」
「足跡が一つだけ、現場に残っていました。どうぞ、見なさいと言わんばかりに」
「一つだけか?」
「はい、綺麗に一つだけです、どうやって移動したのかまったく分りません。コブシと蹴りだけで空中の魔獣を全てたたき落とすなど、その動き予測できません。それに雷の魔法は音と光りを伴います、矢を当てるのは困難かと」
ここで見つめ合う二人。
何か、思い当たる節があるようだ。
((一人、いるよな))
目で合図する二人。
「ここからは……人払いだ、メグと二人にさせてくれ」
「はっ」
各騎士団のメンバーは静かにその場を後にする。
「メグ、誰だと思う?ゴンザ?それ程の剣技の持ち主、素性は分りそうなのだが」
「それが兄上、まったく分らないのです、異国の方かしら?」
「雷帝は……困った存在だな」
「そうですね、兄上……雷属性の格闘家、身内に一人いますよね?」
沈黙する二人。
「「はぁ」」
溜息が同時にでる。
そう、この二人、シンクロが多いのだ。
それもそのはず、双子である。
「……父上がそうだな、雷神の二つ名」
「もう一つ、名前があるでしょう?兄上」
「……俺に言わせる気か?」
「わ、私も言いたくありませんよ!な、なんてこと言わせようとするのですっ!兄上!」
王のもう一つの名、それは『子作り大王』
とにかく子供を作ることが大好きな王なのだ。
だが、滅多にできない、これが悩みの種なのだ。
「我が父上は!ほんとにもーっ!」
「王族にとって、子孫を残すことは重要なのだが、父上の場合は……困ったモノだ」
「そうですね……」
「我々の先祖、この国を築いた初代王は獣人族の血を引いていると記録に残っている」
「はい、そこで私達王族は子供が中々出来ないのですよね」
「獣人族は強い、満月期など不死になるとまで言われている。そのぶん、子供が出来にくく数が増えない、自然の摂理とも言われているのだが……」
(父上は子供が出来にくいからといって、数限りない女性達と……子孫繁栄を)
「「はぁ……」」
同時に溜息をつく二人。
「雷帝は小柄らしいが、年齢は15?16?」
「おそらくそうでしょうね。兄上、雷帝の年齢からいって母上が育児で大変なときにその……」
「可能性大だ、母上は乳母に任せず、自分で私達を育てた方だからな」
「「赤い眼は王家の証」」
「「はぁ」」
溜息と思考がシンクロする二人。
((父上!雷帝は、私達の弟、異母弟じゃないでしょうね!?))
王族の悩みの種がまた一つ増える。
誰もが口には出さないが、雷帝の噂が広がる度に皆国王を疑っていた。
また疑われても仕方ないほどこの国王、日頃の行いが悪いのだ。
場面は変わってここは玉座の間。
玉座にふんぞり返る一人の男、国王である。
無数の傷に丸太のような腕。
とんでもない巨軀である。
髪はグレーで長く、到底櫛など通らないようなボサボサの乱れ髪。
ぶっとい眉毛に何でも食い千切りそうなでかい口。
そしてギラギラと輝く赤い眼。
「王、雷帝と炎帝が飛龍を倒し、討伐隊を救ったそうですが」
「へー、俺と同じ雷属性でコブシ専門らしいな?一度勝負してみてぇなぁ」
「……目も赤いそうですよ」
「……」←王さま。
「……」←参謀さん。
「なんだ雷帝さまは、寝不足か?」
「王も寝不足では?色々と」
「おい、参謀、きさま俺を疑っているな?」
「はい、今、目を逸らしましたよね?」
「チッ……俺はメグとガロが生れて以来、城外の女には一切手を出していない、手を出しているのは妃達だけだ」
「王、そのような秘め事は玉座ではなく、裏の小部屋でお話し下さいっ!」
がははははっ、と笑う王。
はたしてこの王、信じていいのか?
そんな王宮のお話しは知りもせず、雷帝と炎帝は一つの街に辿り着く。
この首都周辺は大小様々な街や村が発生していた。
裕福な人々の街は首都の近くに並び立ち、王都から離れれば離れるほどその街並みは小さくなっていった。
更に進むと極寒の大地が彼方まで続いているのだ。
その先は隣国の飛龍を追い払った国があるのだが、それはまた別の機会に。
そんな中の一つ、それほど大きくない街、若葉街。
若葉街の人口は1000人前後で、そこそこの緑が見て取れる街だ。
そこに一軒の雑貨屋があった。
食べ物から日用品、古美術品に武器防具、何でもありのまさに雑貨屋である。
古びた看板には『雑貨ド・ゴンザ』と見える。
木とレンガ造りの家。
その中にふっ、と現れる二人の人物、雷帝と炎帝だ。
今回のお話しはここまで。
ではまた木曜日の夜に会いましょう。
次回サブタイトルは 第三話 秘密の少年 を予定しています。
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