007 罠
「アッシュ様」
「……ん」
クリスティの声で目が覚める。
俺は水晶の間にある椅子に座って寝ていたようだ。
「起こしてしまい、申し訳ございません。しかし、緊急事態でして」
「大丈夫だ。何があった?」
「ダンジョンのレベルが上昇いたしました」
俺は、驚いて立ち上がった。
ダンジョンが成長したのだ。
しかし、それは同時に、新たな脅威が迫っていることを意味する。
「クリスティ、ステータスを表示してくれ!」
俺の目の前に、半透明な光の板が現れた。
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【ダンジョンステータス】
ダンジョン名: 名もなき古のダンジョン
ダンジョンレベル: 2
階層: 1
ダンジョンコア魔力残量: 80/200 (+20/1h)
保有モンスター: スライム・マザー(Lv.5)×1、スライム(Lv.1)×10
侵入者撃退数: 0
特記事項: 魔力循環機能回復、構造一部修復、肥沃土壌生成、第一階層拡張
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ダンジョンレベルがたしかに上がっていた。
魔力残量と、時間あたりの回復量も増えている。
ダンジョンの成長は、喜ばしいことだ。
しかし、同時に、俺は強い危機感を覚えた。
「クリスティ、ダンジョンレベルが上がったことで、何か変化はあるか?」
「はい、アッシュ様。ダンジョンレベルの上昇に伴い、周辺地域の魔力濃度が上昇しています。これにより、野生の魔物が活性化し、このダンジョンに引き寄せられる可能性が高まりました。また、人間の冒険者ギルドに、このダンジョンの存在が感知される可能性も高いです」
「まずいな。もう少し時間があると思っていたが……」
俺は、深く息を吐き出した。
ルゥナを守るためには、一刻も早く、ダンジョンの防衛力を強化しなければならない。
「クリスティ、大至急、第一階層に罠を設置するぞ。メルトにも、スライムたちを総動員して、警戒態勢を敷くように伝えてくれ」
「かしこまりました、アッシュ様!」
俺は、杖を手に取り、部屋を飛び出した。
ルゥナを守るために、そして、このダンジョンを守るために、俺は、今、できる限りのことをしなければならない。
迷っている暇はない。
時間との勝負だ。
まず最初に向かったのは、ダンジョンの入り口付近だった。
皆、入口を通過するのだから、ここに罠を張るべきだ。
「クリスティ、この辺りに、落とし穴をいくつか作れるか?」
「はい、可能です。……アッシュ様、落とし穴の深さはどのくらいにしますか?」
「そうだな……深すぎると、落ちた奴が死んでしまう可能性がある。魔力を奪うのが目的だから、生け捕りにしたい。深さは2.5メートルくらいで、底にはスライムを配置しておこう」
「承知いたしました。……落とし穴、生成完了です」
クリスティの言葉と同時に、俺の足元に、直径1メートルほどの穴がぽっかりと開いた。
覗き込むと、底には、メルトが生み出したスライムたちが、うごめいているのが見える。
簡単に見破られてしまうとまずいので、土の魔法を使って穴の表面を隠しておく。
「よし、いい感じだ。次は……この通路だな」
俺は、杖で通路の壁を指差した。
「クリスティ、この壁に、毒針を仕掛けることはできるか? 冒険者が通ると、自動的に発射されるような仕掛けだ」
『はい、可能です。……どのような毒を使用しますか?』
「そうだな……即死性の毒は避けたい。動きを鈍らせる程度の、麻痺毒がいいだろう」
「承知いたしました。……毒針、設置完了です」
クリスティの言葉と同時に、壁に無数の小さな穴が開いた。
そこから、かすかに毒の匂いが漂ってきた。
そうだ。
最初の落とし穴の天井にも設置しておこう。
「よし、次は……この広間だな」
俺は、少し広い空間に移動した。
ここは、以前、モンスターの飼育場として使われていた場所だ。
「クリスティ、この広間全体に、幻覚魔法を発動させることはできるか?
侵入者を混乱させ、同士討ちを誘うような……」
「はい、可能です。……ただし、広範囲に魔法を発動させるため、多少魔力を消費します」
「構わない。やってくれ」
「承知いたしました。……幻覚魔法、発動します」
クリスティの言葉と同時に、広間全体が、薄い霧に包まれた。
霧の中には、様々な幻影が浮かび上がり、まるで悪夢の中に迷い込んだような、不気味な空間へと変貌した。
俺はマスターなので耐性がある。
「よし、これでよし……」
俺は、次々と罠を設置していく。
研究所時代に培った知識と、クリスティの能力を組み合わせれば、どんな罠でも作り出せる気がした。
作業を始めてから、数時間後。
俺は、ついに第一階層の罠設置を完了させた。
水晶の間に戻り、地図を確認する。
冒険者たちの通るであろう経路を考えたが、考慮に漏れはないはずだ。
「これで大丈夫か」
まだ完璧ではないだろうが……。
「アッシュ様、素晴らしいです! こんなに短時間で、これほど多くの罠を設置できるなんて……! まるで、熟練のダンジョンマスターのようです!」
クリスティが、興奮したように光を点滅させた。
「クリスティのおかげだ。ありがとう」
俺の言葉に、クリスティはさらに嬉しそうに明滅を繰り返す。
しかし、まさか人を救うために勉強した魔術で、人間を苦しめることになるとは。
不思議なものだった。
「メルトたちはどうだ?」
俺は、水晶の間の隅で待機しているメルトに声をかけた。
メルトは、俺の言葉に反応し、プルプルと体を揺らしながら近づいてくる。
「……みんな、元気。パパの、おかげ」
メルトは、たどたどしい言葉で答えた。
スライムたちは、設置された罠の周辺や、通路の陰など、各々の持ち場で警戒を続けているようだ。
「そうか、偉いぞ、メルト」
俺は、メルトの頭を優しく撫でた。
スライム特有のひんやりとした感触が、心地よい。
間もなく戦いがはじまるだろう。
そんな予感が、あった。
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