006 ルゥナの部屋
「……ここが、ダンジョン」
ルゥナは、俺の腕にしがみつきながら、不安げに周囲を見回した。
無理もない。ルゥナにとっては、初めての場所なのだから。
「はじめまして。私はクリスティと申します。あなたが、ルゥナ様ですね」
クリスティの声が聞こえてきた。
「……そうです」
ルゥナは人見知りだ。
いままで、俺以外の人間とほとんど話をしてきていないのだ。
当たり前の話か……。
「私が、このダンジョンのコアです。よろしくお願いします」
「女の人なんだ……」
そう言って、ルゥナは俺をじっと睨んだ。
「……無機物に性別なんてないだろう」
「はい。私はクリスタルです。ありません」
「……兄さん、もしクリスティさんが男でも、同じだった?」
「当たり前だろう」
「それなら良いんだけど」
ルゥナは何かに怒っているようだが、よくわからなかった。
ひとまず、ルゥナの生活するスペースを構築しなければならない。
「クリスティ、ステータスを表示してくれ」
俺がそう言うと、目の前に半透明な光の板が現れた。
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【ダンジョンステータス】
ダンジョン名: 名もなき古のダンジョン
ダンジョンレベル: 1
階層: 1
ダンジョンコア魔力残量: 60/100 (+15/1h)
保有モンスター: スライム・マザー(Lv.5)×1
スライム(Lv.1)×10
侵入者撃退数: 0
特記事項: 魔力循環機能一部回復、構造一部修復、肥沃土壌生成
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「魔力残量は……60、か」
土壌改良などで、いくつか魔法を使ったが、時間経過による回復と、メルトのスライム生成で、思ったよりも魔力は減っていない。
「クリスティ、この魔力を使って、どこかに部屋を作成できるか?」
「はい、アッシュ様。現在の魔力残量ですと、この階層に小部屋を一つ生成することができます。また、既存の小部屋の改築や、罠の設置なども可能です」
俺は、少し考えた。
今のダンジョンは、水晶の間と、いくつかの小部屋、そしてメルトが生まれた泉があるだけだ。
ルゥナの部屋を作るなら、既存の小部屋を改造するよりも、新しく作った方が、安全で、間取りの自由度も高いだろう。
「よし、クリスティ。この水晶の間から、あまり離れていない場所に、小部屋を一つ生成してくれ」
「かしこまりました。生成場所の候補を表示します」
クリスティが、ダンジョンの地図を光の板に表示する。
「そうだな……。ここはどうだ?」
俺は、水晶の間から西に少し行った場所を指差した。
そこは、通路が少し広くなっている場所で、近くには他の小部屋もない。
「はい、承知いたしました。魔力を消費し、小部屋を生成します」
クリスティがそう言うと、水晶が淡く光り、ダンジョン全体が微かに振動した。
そして、数分後……。
「アッシュ様。生成完了しました」
「よし、確認しに行くぞ」
俺は、ルゥナの手を引き、クリスティに先導されながら、新しく生成された小部屋へと向かった。
小部屋は、俺の想像していたよりも、ずっと立派なものだった。
石造りの壁と床は、滑らかに磨き上げられ、天井には、魔力草が淡い光を放っている。
一人で暮らすには十分な空間だ。
「すごいな。クリスティ。立派な部屋をつくってくれて、ありがとう」
「えへへ、ありがとうございます。でも、まだ家具も何もない、がらんどうの部屋です。ここから、ルゥナ様が快適に過ごせるように、アッシュ様が手を加える必要があります」
「ああ、わかってる」
俺は、杖を構え、魔法を発動させた。
まずは、土属性の魔法で、ベッド、机、椅子、棚などの基本的な家具を作り出す。
次に、水属性の魔法で、部屋の湿度を調整し、空気清浄の魔法で、埃や塵を取り除く。
さらに、光属性の魔法で、窓を作り、外の景色を再現した(もちろん、偽物だが)。
「……ルゥナ、どうだ? これで、少しは快適になったか?」
俺は、ルゥナに意見を求めた。
ルゥナは、部屋の中を見回し、小さく微笑んだ。
「はい、兄様。とても素敵です。ありがとうございます」
「ああ。何か足りないものはあるか? できる限り、用意する」
「……ベッドが足りません」
「ベッドならあるじゃないか」
俺はベッドを指で示した。
「はい。でも、あれは私のベッドですよね。兄様のベッドがありません」
「いや、俺は水晶の部屋で寝るから、良いんだ」
「そんなの、さびしいです」
「……ベッドがあると狭くなるだろう」
「兄様と一緒じゃないと嫌です」
ルゥナは、少し拗ねたような表情で、俺の服の裾をぎゅっと掴んだ。
その瞳は、潤んでいるように見える。
「……わかった、わかった。でも、どうする? この部屋にベッドをもう一つ置くと、狭くなるぞ」
「一緒に寝ればいいじゃないですか」
ルゥナは、少し頬を赤らめながら、小さな声で言った。
「一緒にって……お前、もう16歳だろう……」
「兄様と一緒が良いんです」
ルゥナは、真剣な表情で俺を見つめた。
ルゥナは十六際だが、俺以外との人間関係はない。
慣れない場所で、一人で寝るのは、心細いだろう。
「……わかった。じゃあ、ベッドを大きくするか」
俺は、杖を構え、先ほど作ったベッドに魔法をかけた。
「……形よ、変われ。我が意に従い、拡張せよ……!」
すると、ベッドは、ゆっくりと横幅を広げ、二人で寝ても十分な大きさになった。
「……これで、どうだ?」
「はい、ありがとうございます、兄様!」
ルゥナは、満面の笑みを浮かべた。
その笑顔を見て、俺は、心の底から安堵した。
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