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追放賢者のダンジョン再建記 ~コミュ障の俺が、妹を救うために最強のダンジョンマスターとなる~  作者: 河東むく
第二章

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015 お前には……俺の子を産んでもらう

「エルミナ。俺が、このダンジョンのマスターだ」


 俺は、そう宣言した。


「……ダンジョンマスター?」


 エルミナは信じられないといった表情で俺を見つめる。

 その瞳は大きく見開かれた。

 混乱しているのだろう。


「ああ。俺は、お前たちが侵入してきた、ブラッディ・エデンの主だ」


 淡々と告げた。


 エルミナは、しばらくの間、言葉を失っていた。

 まるで、理解が追いつかない、いや、理解したくない、というように。

 やがて、彼女は震える声で問いかけた。


「……どうして? アッシュ、あなたが、どうしてこんなことを……?」


 その声には悲痛な響きがあった。

 かつての仲間がダンジョンマスターとして敵対している。

 その事実を受け入れられないのだろう。


「……ルゥナのためだ」

 俺は短く答えた。


 それ以上、説明する気はなかった。


「ルゥナって……妹さんが関係しているの?」


 俺がなんと返事をしようか迷っていると……。


「アッシュ様、捕虜の転送準備が完了しました」

 とクリスティの声が、俺の脳内に響く。


「……待って、アッシュ! 話を聞いて!」


 エルミナは必死に抵抗しようとするが、魔力の鎖はびくと

もしない。

 それどころか、彼女の動きに合わせて、さらに締め付けを強めていく。


「……クリスティ、転送しろ」


 俺の指示と同時に、エルミナの体が淡い光に包まれた。

 そして、次の瞬間、エルミナの姿が消えた。

 牢獄へ移動したのだろう。


 ひとまず、先遣隊を退けることに成功した。

 俺は一息ついた。


「クリスティ、他の捕虜たちの状況は?」


 先に捕らえていた冒険者たちの様子を確認することにした。


「はい、アッシュ様。全員牢獄内で拘束中です。意識はありますが、抵抗する力はないようです」


「魔力の搾取を行え」


「かしこまりました。魔力吸収の準備を行います」


 クリスティがダンジョンの機能を使って、捕虜たちから魔力を吸収し始める。

 魔力はダンジョンコアへと送られ、蓄積されていく。


 しばらくの間、人体から得られる魔力を搾り取る。

 その後、ダンジョンの外へ放りだしておく、といういつもの流れだった。


「最後に捕らえた方、エルミナさんも同じ処置でよろしいですか? お知り合いなのですよね?」


「エルミナか……どうしたものかな」


 いままでは、見知らぬ他人だった。

 あとは憎きザイラス。

 魔力にするのに抵抗はなかった。


 しかし……。


「エルミナさんは大切な人なのですか?」


「いや、そういうわけではないのだが……」


 かつての仲間だ。

 それを裏切るような真似ではある。


 とはいえ、いまさらか。

 あのとき、人間を攻撃したときに覚悟を決めていたはずだ。


「魔力を吸い取るのではなく、苗床にしますか?」


「苗床とはなんだ?」


「新たなモンスターの苗床とするのです。エルミナさんは、一定の能力を持つ冒険者です。エルミナさんの胎を用い、新たなモンスターを出産させることができます」


「それは……」


 あまりにも、非人道的なように思えた。


「強力な子が産まれますよ。きっと」


「……エルミナ本人と、少し話してみても良いか」


「はい。もちろんです」


 俺は牢獄へと向かった。

 途中、人間の姿になったクリスティと合流する。


 牢獄に到着する。

 魔力の檻に閉じ込められたエルミナの姿があった。

 彼女は床に座り込み、うつむいている。


「……エルミナ」


 俺は檻に近づき、声をかけた。

 エルミナは、ゆっくりと顔を上げ、俺を睨みつけた。

 その瞳には、怒りと絶望の色が浮かんでいる。


「……何の用?」

 エルミナは冷たい声で問いかけた。


「……お前に、話がある」


「……話? 私に、まだ何か話すことなんてあるの?」


「俺が、こうなった経緯について話す」


「どうして、こんなことを?」


「まず、俺がダンジョンマスターになった経緯だが」


 俺は言葉を選びながら、ゆっくりと語り始めた。


「お前も知っている通り、俺は王立魔法研究所で、魔力増幅技術の研究をしていた」


 エルミナは黙って頷いた。


「だが、俺の研究は危険視され、研究所を追放された。ザイラスの裏切りもあってな」


 ザイラスへの怒りを押し殺しながら、淡々と続けた。


「そして、俺には魔力欠乏症を患っている妹、ルゥナがいる。ルゥナを救うためには、莫大な魔力が必要だ。研究所を追われた俺には、他に方法がなかった」


 そこで言葉を切り、エルミナの反応を見た。

 エルミナは悲しそうな表情で俺を見つめている。


「だから、俺はこのダンジョンを利用することにした。ダンジョンマスターとなり、人間から魔力を奪い、ルゥナを救う。外道の道だとわかっている。だが、俺にはこれしか」


 俺は拳を強く握りしめた。

 ルゥナを救うためなら、どんなことでもする。

 その決意は揺るがない。


「アッシュ」


 エルミナが俺の名前を呼んだ。

 その声は震えている。


「そんなことが、あったのね」


 エルミナは涙を流しながら言った。

 その瞳には同情の色が浮かんでいる。


「でも、私」


 何かをエルミナは言いかけたが、言葉を詰まらせた。


「わかっている。お前は俺を許せないだろう。当然だ」


 俺はエルミナの気持ちを察し、そう言った。


 エルミナは何も答えなかった。

 ただ、黙って俺を見つめている。


「だが、俺はルゥナを救う。そのためなら、どんなことでもする。たとえ、お前に恨まれようとも」


 俺は決意を込めて、そう言った。

 エルミナの瞳が大きく見開かれた。


「アッシュ……」


「エルミナ。すまない。お前には……俺の子を産んでもらう」

「面白かった」


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