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プロローグ・4「過去その1」

◆プロローグ・4

「過去その1」


雲の中に渦巻く生温かい風が

からだじゅうにまとわりつく。


髪の毛が絡みとられ

指先のまわりを気流がなでる。


いつしかソルンは自分という存在を

見失っていた。


静寂、そして


ぽつり、ぽつりと

真っ赤な点がホタルのように

目の前にちらつきはじめる。


火の粉だ。


下からはどす黒い煙が

いく筋も登っている。


焼け焦げた戦場あと。


立ちすくむ

ひとりの美しい女性があった。


とても悲しい顔をして

誰かを抱えている。


(こんなにも儚いものなのか)


抱えている

少女の亡骸を見つめながら

女性がつぶやいた。


(私は無力だ)


その時、どんよりとした

空の雲間から

ひと筋の光が差し込んだ。


ぐったりとして動かなくなった

少女の顔にその光が当たる。


(また笑っておくれ、ラキよ)


ラキと呼ばれた少女の顔が

少し微笑んだ気がした。


命の灯は消えても

わずかに留まった魂が

残された者に

何かを伝えようとしている。


(もういいの、まま)

(だから、なかないで)


少女の心の声に

女が細い声で応える。


(わたしは千年以上生きた

魔女ルワラだぞ)

(泣いたりなぞ、するものか)


声はつづく。


(なかないで、まま)

(だいすきだから、なかないで)


動かない少女を抱えたまま

ヒザをつく魔女、その背中がふるえる。


(ふざけるな!!)


(何人もの命を奪い

多くの国を滅ぼしたこの私が死なず、

なぜこの子が死なねばならぬ!)


いつしか頬をつたう涙。


変えられる運命なら、変えたい。

代われるものなら、代わりたい。


(なかないで、まま)

(しあわせになって)


少女の声がどんとん小さくなる


(わたし、ままといて、

しあわせだったよ)


魔女は亡骸をぎゅっと抱きしめた。


魔女といえども【真の死】からは

蘇らせることができない。


(まって!ラキ!

わたしを置いていかないでくれ!!)


絶叫だった。


何百年も閉じ込めてきた

感情が爆発する。


大地が震え、空に雷鳴がひびいた。


だが、それだけだった。


命の灯が消える。


魔女は何でもできるはずなのに、

この幼い子供を

護ることはできなかった。


冷たい風が彼女の上を

吹き抜ける。


ずっと動かない、その影の上を。

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