表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真実の愛は誰のもの?  作者: ふまさ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/22

17

「ごきげんよう」


「ご、ごきげんよう」


 学園の廊下ですれ違いざま、コーリーが、ミアに微笑みかけてきた。驚きながら、なんとかミアも、それに答える。


 去っていくコーリーの背中を見詰める、ミア。隣に立つドリスが、同じように、コーリーの背に視線を向ける。


「このまま休学するかと思ったら、急に登校してきて、びっくりね」


「……ええ。しかも、笑顔であいさつされるなんて、思わなかったわ」


「それにしても、いつもエディ様にひっついていたから気にしなかったけれど、あの子、友だちいるのかしら」


 問われたミアは、そういえば、と首を傾げた。


「他の人と一緒にいるところ、見たことなかったな」


「あんな様子じゃあねぇ。近寄りたくもなくなるわよ」


 その通りだと思いつつ、ミアは苦笑するに留めた。


「エディへの執着、すごかったもの。とりあえず、わたしもエディも、極力、コーリーには近付かないようにするわ」


「たったいま、すれ違ったばかりだけどね」


「不可抗力。それに、ドリスが隣にいてくれたもの」


「そうね。一人には、ならないようにね」


「心配かけて、ごめんね」


「そうねえ。エディ様とのこと、あれだけ悩んでいたのに。いまでは仲睦まじすぎて、こっちが照れてしまうぐらいだし」


「そ、そんなことないわよ」


「ま、どちらかというと、あの妹が来る前に戻ったって感じかしら。違いは、口付けができたってこと?」


 からかうように、ドリスが口角を上げる。実のところ、まだ、口付けはしていない。というか、記憶がない。なので、まだ実感はないのだが、ドリスには、そう報告していた。少しでもエディに悪い印象を与えることが、嫌だったから。


 なら最初なら相談しなければよかったといまでは思うが、真実を知る前は、どうしても誰かに聞いてもらいたかったのだ。少しでも、不安を吐き出したくて。


 ──真実、か。


 信じていないわけではない。けれど、やはりどこか見知らぬ人の話のようで。現実感が持てずにいる。


 カーンコーン。カーンコーン。


 そうこうしているうちに予鈴の鐘が鳴り、ミアはドリスと共に、急ぎ足で音楽室へと向かった。


 授業終了の鐘が鳴り、各教室から、生徒たちが出てきた。昼休みのため、食堂や、中庭などに向かう。


 ミアも、ドリスと共に音楽室を出てきた。そのタイミングを見計らっていたように、背後から、声をかけられた。


「──ミア様」


 落ち着いた声音だったのに、ミアは一瞬、背筋がぞくりとした。振り返れば、そこには、予想通りの人物が立っていた。


「ミア様。少し、お時間よろしいでしょうか」


「……なんでしょう」


「二人で、お話しがしたいのです」


 ミアは、ごめんなさい、と掠れた声で謝罪した。


「あなたと二人にはなれないし、お話することもありません。行きましょう、ドリス」


「ええ」


 コーリーに、背を向ける。まわりには、まだミアのクラスメイトの生徒たちがたくさんいた。だから、油断していた。


 コーリーは残念ですと呟き、懐からナイフを取り出し、ケースを外した。その様子を見ていた生徒が、目を瞠る。コーリーが迷うことなくミアに向かってナイフを振り上げたところで、女子生徒が、小さく悲鳴を上げた。コーリーを指差しながら。


 気付いたミアが、後ろを振り向いた。コーリーは無表情だったが、その濁った瞳には、確かな殺意が宿っていた。


 ──避ければ、もっと酷い目に遭う。


 脳裏に浮かんだその考えと同時に、男性の姿がコーリーに重なった。とたん、ミアは金縛りにあったように動けなくなってしまった。


 

「──ミア!!」



 ドリスがミアの腕を掴み、後ろに引っ張った。ふわっと浮かんだミアの前髪が、コーリーの振り下ろされたナイフを掠めた。


 よほど勢いがついていたのか。コーリーはよろけ、転んだ。拍子に、ナイフが手からすり抜ける。


 近くにいた男子生徒が、慌ててナイフを足で押さえた。騎士を目指す生徒が、うつ伏せたまま、コーリーの腕を後ろ手で掴む。


 コーリーが暴れ、ミアに向かって、獣のように唸る。吼える。けれどミアは、コーリーではないなにかを見ているように、焦点が合っていなかった。血の気の引いた顔で、小刻みに震えだしたミアを見て、ドリスは叫んだ。


「……誰か! お願い、エディ様を連れて来て!!」






 

 王宮内にある執務室でその一報が入ったのは、午後二時が過ぎたころだった。


「…………は?」


「ですから、その……コーリー様が、ミア・ジェンキンス様への殺害未遂罪で、警察に逮捕されたと連絡がきまして」


 文官から吐き出される言葉の意味が理解できなくて、ルソー伯爵がぽかんと口を開ける。


「なにを言っている……あの子がそんな怖ろしいことをするはずがない」


「多数の生徒がいる前での犯行だったそうで、目撃者は多数……もちろん、どなたも貴族のご子息、ご令嬢ばかりです」


「はは、そんな馬鹿な」


 カラカラと笑うルソー伯爵。文官は、意を決したように、姿勢を正した。


「ともかく、警察署へ来るようにとのことなので。お早く、ご準備を」


 ルソー伯爵は、ぴたっと笑いを止めた。文官はまだなにかを言っていたが、その声が、遠のいていく。


 なぜ、こうなった。

 幸せなはずだったのに。


 息子がいなくなった。妻も去った。それでも、コーリーがいてくれればと。


(……私はそもそも、どうしてこんなにコーリーを愛するようになったのだっけ)


 両親にも誰にも愛されなかった。弟ばかりが愛されて。妻も、弟の方がよかったと陰で愚痴をこぼしていたのを聞いた。


 最初に生まれた息子は、自分に似ていた。嫌いな顔。好きになれなかった。愛せなかった。


 でも、コーリーは違った。顔だけは好みの妻の容姿に似ていて。甘やかせば甘やかすほど、懐いてくれた。愛してくれた。


 ──だから。


「…………」


 それでも結局は、コーリーも、弟の息子を愛した。きっと、父親である自分よりも。


 殺人などすれば、どれほどの被害がこちらに被るのか、少し考えればわかりそうなものなのに。


「……馬鹿みたいだな」


 ルソー伯爵はそう吐き捨てると、馬車に乗り、屋敷に向かった。荷物をまとめ、また、馬車に乗る。その馬車は警察署に向かうことなく、王都の出入り口である、門へと進んだ。


 ──が。


 護衛のために連れてきた使用人たちの裏切りにあったルソー伯爵は、王都から出てしばらくすると、金品をすべて奪われたうえ、馬車から無理やりおろされてしまった。


 ぽかんとしていたルソー伯爵だったが、やがて、狂ったように笑い出した。


 日が傾き、辺りが暗くなりはじめた。それでもルソー伯爵は、その場から動こうとはしなかった。


 街道のすぐそばにある森から、獣の唸り声が耳に届いた。森の中に、光る獣の目が、複数。


 ──狼だ。


 ルソー伯爵は、一つ、乾いた笑いを浮かべた。




 

 刑罰は、財貨によって購うことができる。


 コーリーの大胆ともとれる行動は、これを知ったからこそ、なされたものだった。


 警察署で、コーリーは父親を待った。すぐにお金を持ってきて、ここから出してくれる。そう信じて疑っていなかった。


 だが、ルソー伯爵が姿を現すことはなく。



 コーリーは地下牢で、父親とミアを恨みながら、生涯を終えることになる。







「……ミア」


 揺れる馬車の中。腕の中にいるミアの名を、心配そうにエディが呼ぶ。ミアは目を見開きながら、ずっと震えていた。



 ミアのクラスメイトである女子生徒に事情を聞き、駆け付けたエディ。そのときにはもう、ミアはこの状態だった。


 コーリーが男子生徒に押さえ付けられながら、お兄様、お兄様、とエディに向かって涙を流して叫んでいたが、もはや湧き上がってくるのは、殺意だけで。


 エディは無言でコーリーに近付くと、コーリーの頬を戸惑うことなく、打った。大人しくなったコーリーを一瞥すると、ミアを横抱きに抱え、その場を後にした。



 ミアの自室に着いても、ミアは一言も発することはなく。ただ、エディの服を掴んで離さなかったので、エディはミアを横抱きにしたまま、寝台に腰掛けた。


 ──どうすればいいのだろう。


 いますぐにでもジェンキンス伯爵たちに頼りたいところだが、それはできない。伯爵たちは、王都にはいないのだから。


(……僕が、ミアを支えないと。元はと言えば、僕のせいなんだから)


 コーリーが学園に来た時点で、帰ればよかった。まさかここまでするとは思っていなかった、とは、言い訳にしかならない。最悪の事態を想定すべきだった。


「……エディ」


 掠れた声に、エディは、はっとした。


「ミア、大丈夫?」


「……わたし、同じこと、されていた気がするんです」


「同じことって……」


 エディの脳裏に、嫌な考えが過った。


「……ナイフで切られたり……木の棒で叩かれたり、して……身体を傷付けられていたような……そんな覚えないのに……いまだって、コーリーのナイフはあたってないのに……どうしてか、身体中が痛いんです……」


「…………っ」


「エディ……わたし」


 エディは遮るように、ミアを抱き締めた。強く。強く。


「気のせいだよ。大丈夫。きみの身体は、どこも傷付いてない」


「……駄目です。わたし、なにか、思い出せそうで……」


 思い出さなくていいんだよ。

 そう言って、エディはそっと、ミアに口付けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ