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音がする

作者: 雉白書屋

 音がした。と言っても音というのは常にしているものだ。そうだろう?

 テレビの音。パソコンの音。冷蔵庫の音。虫の声。風の音。外を歩く酔っ払いの声。

 いつものこと。気に留めることはない。そう、足音と同じだ。

自分が歩いている時『ああ今、足音がしているな』と思うだろうか。

 いいや、思わない。気になるのは聞き慣れない、いつもと違う音がした時だ。


 荒い呼吸音。

 ギシッギシッと、しなる音。

 男の呻き声。

 ビチャビチャと液体が床に落ちた音。

 

 ……だが、もっと気になるのは、いつもしていた音がしなくなった時だ。


 体を殴られる音、あるいは蹴られる音。

 壁に叩きつけられた音。

 泣きながら謝る子供の声。

 その子の父親の怒声と罵声。


 ある時、このアパートの隣の部屋からいつも聞こえていたその音がしなくなった。

 静かだ。あの子の父親が出す物音くらいで他には何も……何もしない。

 

 ……そう、俺も何もしなかった。

 いつものことだ、と。関係ないから。面倒だ。しつけの範疇だ。嫌がらせされるかも。

そもそも引きこもりの自分に何ができるというんだ。そう自分に言い訳し、何もしなかった。

 

 ……やがて、その父親の物音もしなくなった。

縄がしなり、このアパートが軋むあの音を最後に。


 でも、しばらくするとまた音がし始めた。


 ドサッと何か重たいものが床に落ちた音。

 水気のある、まるで雑巾か腐った果実を踏むような音。

 それは怒りに満ちていて恨めしい音。

 たまに振り切ったような笑い声もする。

 駆け回る音もする。俺の部屋の天井や床の方から。


 そして夜。時々、曇った日にもその音がする。

今も何もできない俺に聞かせてくるように。



グチャグチャグチャァグチャグチャグチャグチャァグチャグチャグチャグチャァグチャグチャグチャグチャァグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャァグチャグチャグチャグチャァグチャグチャァグチャグチャ……

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― 新着の感想 ―
[一言] 何やら不穏な空気。
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