ブラックドック
今日は軽やかに仕事が済んだな。
久しぶりに、和やかな気持ちで帰途に着こうとする。
「キモチワルイ。キモチワルイ」
ふん。
若いOL2人が囁く。
やはり直ぐに下げにくるな。
現象と言いきっていいぐらいの率だ。
下がってる時は何も無いもの。
まぁ、モブ娘さんやし今日は受けなので吸収。
気にせず地下鉄に乗る。
下車まであと少しというところで、ゲルゲルゲに正面に座られる。
ガラガラとしたしわがれ声でゲルゲルと呟いている。
圧に負けて、一つ前の駅で降りる。
降りる際にチラリと見やると、普通のサラリーマンだった。
やられた。
いい演技だ。
となると、夜のここを歩かせたかったのか。
夜行の危険性は、山も街もあんま変わんねーんだよな。
ちっ、白湯でも買ってゆっくり歩いて帰るか、仕方ねー。
夜のビュンビュン車が飛ばしている脇を歩く。
「げらげらげらげらげらげらげらげら!!」
酔っぱらいにしても、品の無さと勢いが良すぎる下卑た笑い声。
向こう車線からなのに、酷く届くし耳に障る。
イヤホンをして、ラジオの音で騙し騙し歩く。
このレベルは、ほんと獣と変わらんよな………
大虎と言われるのが納得出来る。
さらに正面から、千鳥足の人影。
千鳥だったら良いのになーと、視界に入る前に脇の道に逸れる。
夜行は危険だよな………ガツッ!
「ほら、危ねえ。でも甘いね」
靴の底に鋭利な石が刺さる。
踏み抜く寸前に足を止めて、石を抜く。
天然のマキビシってとこかい?
暗闇の中、引っ掛けも来る。
しかし、読めていたので転倒はしない。
体制を立て直す。
まぁ、しかし良いことがあると悪いことを押し付けてくるよな。
渦福はあざなえる縄のごとしってか。
たまには良い気分のまま、帰らせて欲しいもんだ。
ヒュッ………!!
犬の黒い影が目の前を横切った。
犬の姿形も無く影だけが。
そこをよく見ると、姪っ子の通う幼稚園だった。
ふん。
俺は専門家じゃねえが、気に入らねえ。
仕方ねぇ。
よく分からねえが、虹爺に頼んどくか。
時間にしてはそんなに経っていないし、今晩はそんなに寒くも無い。
しかし、買った白湯が冷え切っている。
飲まない方が良さそうだ。
ゲルゲルゲが現れ なければ、この犬影を知ることもなかったろう。
あれは、使者やったのか?
そう思えば、下がった気分はおかげさんで戻った。
家に着き、昼に買っておいた海苔弁を頬張る。
常雨の窓の外から、軽やかで楽しそうな笑い声。
座敷童を外で見かけるのは珍しい。
早うおうち見つけてご飯食べや。
童女は去って行った。
トイレが近い。
いそいそと向かうと
洗面所で頭に水を濡らしている少年がいた
憮然として、さわらぬ怪に祟り無しと判断。
…まあ寝ぐせ直してたんだろーな。
そんな迂闊な少年は久しぶりに見た。
愛らしいぜ、憮然としててもな。
今日は良い一日だった。




