最終話:長い旅の終わり
最終回です!
アラバイルに勝利し、国をあげて宴で馬鹿騒ぎした俺達は、ノリでワシャルドとイセエビ、そして地獄の俺の国、ウナボロスの王都ウォーグラーに劇場を作った。そして各地域の音楽家が一年に一度ウォーグラーの劇場で誰が一番素晴らしい演奏できるか、歌えるのかを競う大会を開くことになった。
「はぁ、完全に悪ノリだろ……マキ達もなんで俺を止めてくれねぇんだよ。まぁいいか、地獄と地上の交流の助けにもなるだろ」
『ウナギィ・クロー、着いてこい。決着をつける』
「ってうわおおおお!? 急に背後に転移してくるなよ!! ビビるだろ!!」
魔王城の俺の寝室で寝転がっていたらファーカラルが急に転移してきた。……けど、そうだな……俺はこいつと決着をつける必要があるんだ。
俺がファーカラルの元まで移動すると、ファーカラルは俺を連れて別の場所に転移した。
「キレイな海だなぁ~」
『巨神の声ではないのだな。今は』
ファーカラルい転移して来た場所は目の前に海の広がる港町だった。
「実はな……魂自体を折りたためば響かせ対策は可能なんだよ。多分お前もやろうと思えばできるぜ? あれ? でもお前も、響かせないようにできるんだっけか」
「ああ、お前とは別の方法だがな。あの子には響く声の方が好きだと言われて、いつもは響かせている。こうして、人の声を響かせると、ワレもかつては人間であったということが、強く実感できる。ウナギィ・クロー、ワレを殺すのだろう? さぁ、やれ」
ファーカラルは俺の眼の前で両手を広げた。抵抗はしない、そう言っているようだった。
「正直お前には色々思う所がある。でも、俺はお前を殺す。お前のやってきたことは許されることじゃない」
「分かっている。すべて承知でやったことだ」
「分かった。お前を殺す」
俺は魔剣グローカスを腹の中から取り出し、構えた。そしてファーカラルの首めがけて、剣を振るう。
「やめろおおお!! 死ねぇ! 馬鹿蟲神! ファーカラル様を傷つけるな!!」
「誰だお前」
『バ、バスタァ! お前……またワレの影に隠れていたのか……』
「ほーん、こいつがお前の響く声が好きな、お前の守りたかった存在か」
黒と青の髪をした女の子がファーカラルの影から出てきた。軽装の甲冑のような服装で、俺をギリリと睨み、ファーカラルに斬りかかろうとする俺の前に立ち塞がった。
「バスタァとか言ったか。悪いが俺はお前の大切なファーカラルは殺す。お前に恨まれようと俺は構わない。ファーカラルはそれだけのことをしてきた」
「う、うううう! やめろぉ!! 馬鹿蟲!! ヘタレ童貞野郎!!」
「なっ……お前、どうして俺が童貞だってことを知っていやがる……!? ま、まさかファーカラル、お前がこの幼子にバラしたのか!? 影で俺の悪口を言っていたのか!?」
『ど、どうでもいいだろう……そんなことは……バスタァ、ワレを守るのはやめろ、ワレは納得しておるのだ。ワレは死ぬべきなのだ』
「嫌だ!! 馬鹿蟲! ファーカラル様を殺すなら自分を先に殺してからにしろ! 自分はファーカラル様の騎士だ!!」
「命にかえてもファーカラルを守るって? そうか、じゃあその覚悟が本物かどうか見てやるよ。死ね──」
『ま、待て──』
バスタァを庇おうとするファーカラルを殴り、吹き飛ばし、バスタァに俺の触手を突き刺した。触手はあっさりとバスタァを守る甲冑を貫通した。
「……お前の覚悟は本物みたいだな。いいだろう、ファーカラルは殺さない、お前も殺さない」
バスタァは俺をまっすぐに睨んでいた。殺されると思っても、恐怖にその顔を歪ませても、俺から目を逸らさなかった。そこにはファーカラルを想う強い絆が感じられた。
俺が触手で貫いたバスタァの体を、神魔蟲の治癒能力で治した。
「聞かせろファーカラル。お前のことを、お前が守ろうとしたこいつらのことを」
『……この場所は……港町アリオンはワレの、人間であった頃の故郷だ。そして、この街に住む洋灯人達は……ワレの妹の子孫なのだ。そして、ワレは彼らに裁かれるべき、罪深い存在なのだ、間違っている。ワレを許し、受け入れるなど……許されることではないのに……』
ファーカラルは泣いていた。全身にある大量の目、その全てから涙を流していた。
『ワレは聖女の魂の在り方を、聖女として生まれる前に歪め、ワレの人間を愛せぬ呪いを消させるつもりだった。聖女の、圧倒的なあの理不尽の力があれば、ワレの呪いを解呪することも不可能ではないと考え、ワレは聖女が、聖女として生まれ変わる前の魂と接触した。しかし、結果はお前の知っての通り、最初で最後のチャンスはお前の愚かさと正義によって失われた。ワレは呪いを創世神の力で解くのは諦めた。そして、お前の存在によって予言は100年ズレたし、アラバイルを殺すための気力も消え失せた。ワレは暇になった、だから……凍結していた計画を、復活させた』
「凍結させていた計画?」
『アラバイルによって邪悪に落とされたワレだが、元々あったアラバイルや呪いに対する嫌悪、反発する意思は、元から邪気であるために維持されていたのだ。そしてその意思はワレが人間を愛せぬ呪いを克服することを願った。そうして過去のワレは、人間を愛せぬ呪いがあっても愛することのできる人間、その創造を計画した。愚かにも、自分の……妹の血族を使ってな……妹の子孫達をあらゆる魔獣や亜人種族に犯させた。新たな種を生み出すために、だがうまくいかなかった。他種族同士を無理やり混ぜても、それが世代を繋ぐことはなかった。一世代限りのキメラは生まれても、ワレの望むものとは程遠いものだった。だから一度その計画は諦め、凍結、いや放置していたのだ』
「つまりお前は……自分の妹の子孫を傷つけ……その尊厳を奪ったってことか」
『そうだ。そして、アラバイル打倒を半ば諦めたワレは、貴様を地獄に転生させた後の300年を、新種族創造に使った。ワレとお前と聖女が出会ったあの魂の停留場で気づいたことがあった。この世界に取り込まれる前の魂達は、ワレに怯えてはいたが……ワレの呪いの影響外にあったのだ。そしてワレは外の世界の魂をこの世界に取り込むことなく隔離する実験を開始した。研究を続ける内に、隔離技術は発展し、生物でありながら、体内で魂を隔離する技術の確立に成功した。魂は、どの種族も似たようなものだ。だからこそ、洋灯人の体が人間であったとしても、呪いから見れば、魂だけでは人間と確定できない。魂を隔離すれば、魂の宿った人間ではなく、魂と人間の体、別々のものとして捉えることができたのだ』
「なるほどな。さらに言えば魂が隔離されてるから、お前がこいつらを愛したとしても、その愛がこいつらの肉体には伝わらない。元から洋灯人にとっては、体はただの人形、魂が操ってるような感じってことか」
『洋灯人が生まれて、ワレは再び人間を愛することができるようになった。ワレの呪いは矛盾を抱え、綻びが生まれた。ワレはその綻びから呪いの影響を緩和し……ワレは……人間であった頃の心を……取り戻してしまった。そして……心を取り戻したが故に、己のしでかしてきた、邪悪さに、罪深さを自覚してしまった。愛する者の、妹の子孫を犯し、穢し、弄んだ……愛する喜びを思い出すと同時に……ワレは己に対する強い憎しみを抱いた。だが、だが……それでも愛おしかった。ワレの子らが……輝いて見えた……呪いはワレの子らによって解かれた……』
人間の心を失っている間にやってきたことが、全部自分に返ってきた。アラバイルに歪まされたせいだとしても、自覚がなかったとしても……こいつが、ファーカラルが元はソルト・クオンという、人々から愛される勇者だったなら……自分を許せるわけがない。こいつは洋灯人が誕生した時、希望と絶望を同時に味わったんだ。
「なぜだ。だとしても、なぜ地上の者達の命を奪った! お前は正気に戻ってたんだろ? どうしてワーム・ドレイクなんて作った!!」
『守りたかった。この子らが生きる未来を……ワレは己を許せなかった、消えてしまいたかった。だが、それでも……この子らが愛おしかった。この子らが生きる未来に比べれば、ワレの絶望など、ちっぽけなものだった。なんでもやろうと思った……洋灯人は邪神であるワレによって生み出された種族。その事実はいつか明るみになり、他種族に滅ぼされる運命にあった。そして、それをどうにかしたとしても、アラバイルは世界の全てを壊すつもりだった。世界の全て、ワレの子らもだ。どちらも認めるわけにはいかなかった』
……チッ……理解はできる。理解はできるが……誰もお前を許したりなんかしねぇぞ。
『ワーム・ドレイクは……ワレの因子を持っている。世界中にワレの因子を持った存在が浸透すれば……洋灯人がワレの因子を持っていたとしても、それは不自然なことではなくなる。ワレはあの戦争を利用してワレの痕跡を消していった。まぁ、痕跡を消すために活用できないかと考えた、もう一つ【蹂躙・喪失】の力を持つ呪いの大蛇も、ウナギィ・クロー、お前に倒されたのだがな。本来なら、滅亡した大地に少しは呪いが残るはずだった……だが結果はまるで違った。あれがうまく使えたなら、どの文献も保護魔法を越えて簡単に消すことができただろうな』
あの大蛇はファーカラルにもコントロールできないだろうと思ってたけど……そうか、元から覚醒した聖女に倒されて、バラバラにされた弱い呪いを活用するつもりだったのか……ファーカラルからすれば、呪いの魔道具を作るみたいな感覚だったわけだ。
『さらに言えばワーム・ドレイクはワレと共鳴させることで超威力のカイアス・ヴォーテックスを発動させることもできただろう。まぁ、お前に全滅させられてしまったが……そうだ、何もかも、お前によってワレの計画は滅茶苦茶になった。その度に修正してきた……だが……洋灯人が生まれたから、いくらお前が邪魔に感じても、お前に対する感情は、感謝の感情の方が強かった。当然だ……お前がいなければ、ワレは計画を再開することもなく、洋灯人が生まれることもなかったのだからな』
「……ま、大体事情は分かったよ。お前はやっぱり、俺に……自分の大切な存在を託したかったんだな。俺に洋灯人を守らせたかった。だから素直に俺に殺されるってわけか……自分のことが嫌いで、元から消えたかったし、殺されて当然のことをしてきたって自覚もあるから、俺に託したなら、もうあとは死んでもいいんだって思ってる。ふざけんな……ふざけんじゃねぇ!! 俺が、気持ちよくお前を殺せるわけねぇだろ!! こんな生意気なクソガキが! 命をかけて守ろうとするお前を……! どうして俺が殺せる……ああ、もう……お前の過去なんて聞くんじゃなかった。お前の事情なんて知るんじゃなかった」
「む、馬鹿蟲神……様。ファーカラル様を見逃してくれるのですか!?」
「馬鹿は余計だよクソガキ。いや見逃さないし、俺はお前ら洋灯人を守るつもりもない……こいつらはファーカラルが守ればいい。まぁでも、実際お前らがこの世界に留まるのは問題だろうな。だからお前らの居場所を用意してやる。ま、元から創世神に提案してたことをちょっと弄るだけのことだ……」
『居場所を用意するだと? それはいったい……』
「実を言うと、俺の娘達が作った全の混成体っていうのがあってな。そいつは意思を持った世界になれる器でよ、創世神の力と俺の意思を持たせる力を使えば、実際に動かせるようになる。俺の体内の空間拡張の仕組みを応用した世界で、滅茶苦茶広い。本来はこれを使って、マキ達はこの世界と戦うつもりだったらしい。まぁ戦うだけじゃなく、いざとなったら俺達を中にしまって、この世界から逃げるためもあったらしい。んで、創世神も次の世界を求めててさ、全の混成体を次の時代、次の世界のベースにしてぇとか言ってるんだよ。そこならお前達もやり直せるかもしれない。ファーカラル、いや、ソルト・クオン、お前は生きてお前の子供達を守れ、そして、罰として新世界の運営を完璧に無償でこなせ。お前ならそれぐらいできるだろ?」
『あ、あああ……ウナギィ・クローお前というやつは……ワレを……オレを、泣かせるのが得意だな……お前の提案を断ることなど、できるわけがない。全てを懸けて、オレにできる限りのことを、約束しよう……お前の期待に応えると! ありがとう、ありがとう!』
ファーカラルの黒い焦げは、涙で洗い流されて、ファーカラルは邪神ではなくなった。
【新世界神・ソルトクオン】それがヤツの新しい名前で、形は人と同じだった。そして洋灯人と同じく、透けた腕とその中に青い炎を煌めかせていた。
「いやぁ~それにしてもキレイな海だなぁ。やっぱりよ、なんとなく分かってはいたんだけど……俺、復讐とか向いてなかったわ! クソ~~、海のバカヤローーー!!」
『──何が馬鹿じゃこの野郎!!』
「ブーーーーーー!??」
意思の持った海にキレられた……や、ヤバイ……俺の力、漏れてた……というか、こんなキレイな南国リゾート気分な海でも、荒っぽい感じなんだね……
俺はファーカラルに転移で魔王城に帰してもらった。というか、あいつ俺があいつ殺してたら、俺こっちに帰ってくるの結構面倒だったんじゃ? と後で気づいた。
『宿主殿、せっかく神になって子孫を残すための棒も復活したのだし、そろそろ覚悟を決めて彼女たちに世継ぎを作らせては?』
「な!? 何言ってんだ! ローチ!! よ、世継ぎを作れって、それって……おま、エッチなことあいつらとしろって言ってんのか!?」
『それ以外にどんな解釈が? はっはっは、いや~実はみなさんにはもう伝えてあるのですよ。宿主殿の宿主殿が復活し、次世代を作る準備は整っていると! きっと、これから狙われ続けるでしょうなぁ~ふふふ、愉快愉快!』
「貴様ァあああああああ!! 間借りの分際でええええええ!!!」
俺はローチのせいでシャトルーニャとマロンちゃん、ラインダークに常に狙われるようになってしまった。俺の平穏を乱す敵は、俺の中に住んでいた。
「まぁいいか……不幸になるわけでもねぇ。あいつらがそれで幸せだって言うなら、なんの問題もねぇ」
俺はこの世界での因縁に終止符をうち、俺の魂の留まる、終着点が見つかった。長い旅は終わったんだ。
これにてこのお話は完結です! ここまで読んで下さった方! ありがとうございました! 無事に完結まで書くことができて良かったです。
しばらくしたら新作の連載を始めると思うのでその時も是非読んでくださると嬉しいです!
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