第61話:世界の終わりにしか愛を叫べなかった男
アラバイルは、ファーカラルのデッドエンド・コールも、カセドラル・ウィンダージも、いともたやすく突破して、無効化した。
そんなことが起これば、俺もファーカラルも気づくはずだ。だが、まるで認識に阻害がかかっていたかのように、それを認識できず。ただの人間でも俺を攻撃できてしまうほどの大きな隙が生じていた。
あ、ありえねぇ、だが、そういうありえねぇ力が……勇者や聖女の使う創世神の力……アラバイルが使う創世神の力とは質が違う。アラバイルが使っていたときは、まだ妥当性というか、元からある因果がそのまま強化されて、強い運命になるだけの印象だった。
でも、勇者や聖女が、勇者や聖女として使う創世神の力は……あまりに強引、違和感のあるものだ。ファーカラルと少し前までのアラバイルは、勇者の肉体を持っているだけだったから、ここまでの圧倒的な理不尽の力はなかったんだ。
レベル1の、ちょっと強い人間程度だったシャトルーニャがグローカスを意味不明に圧倒したことが、今から起こるんだ。アラバイルが俺とファーカラルを圧倒する,
そこに妥当性なんてない、力の差に意味はない。
俺達の攻撃はなぜか全てアラバイルに有効打を与えず、アラバイルの攻撃は全て有効打となる。そんな未来が見えた。本来俺の防御を抜くだけの力がなくとも、ダメージを与え、そして俺の魂の超回復も無効化するかも……
「嬉しいなぁ。オレはさぁ、ずっとこの力に憧れてたんだ。この圧倒的な力を振るう時って、どんな気分なのかをさぁ、知りたかった。けど、楽しむつもりはない。ファーカラルは手札を全部見せてくれたようだしぃ、やっぱりクロー君から殺してやろうか。やっぱりオレは君が怖い、オレがいくら思考で上を行こうと、なぜだか思い通りにならないような気がするんだぁ」
アラバイルが剣を振るう、今度はファーカラル狙いじゃなく、俺狙い……ハッキリとその剣閃が見える。なのに……避けられない……!? 俺は、気づけば自分から剣に当たりに行っていた。
アラバイルの剣は一撫でで、俺の体に致命傷を与えていく。魔蟲が死んでいく……お、お前ら!! まだ、一緒に戦ってくれるのか! 死んじまうんだぞ? 俺を見捨てろ。
【馬鹿なこと言うなよ。俺、僕、私達は、クローと共にある】
え?
【楽しいも悲しいもなかった。お腹が減ったら食べるだけ、シンプルだったのに、クローのせいで色々思って、感じて、楽しかったんだ。だから決めた、ずっと一緒、死んでも一緒。死んでも、その先も、クローを応援してる。自分のことみたいに】
あ、あああ……馬鹿が! そんな死に方に納得するなよ!!
「宿主殿、あなたとの約束を破る。彼女を止められなかった」
ドクターローチの声が俺の中で響いた。アラバイルの剣はドクターローチを切り裂いて、その言葉を、最後の言葉にした。
「いやあああ……っ!! 駄目ぇ!! 殺さないで!! この人を! 殺さないでぇっ!」
「しゃ……シャトルーニャ? どうして……ここに……俺」
後ろが明るい……そうか、ウィングゲートを通って……絶対来るなって、戦う前に約束して……城の地下に閉じ込めたはずなんだけどなぁ……
来ちまったか……なんとなく、そんな感じはしてたんだ。こいつの理不尽な力があれば、そんなの、意味、ないもんな。
「聖女シャトルーニャ……はは、はははは! ここに来たんだねぇ! ああ、ああー? あーそうなんだねぇ? 創世神様、これでいいんだ?」
「な、何を!? アラバイル、シャトルーニャに、何をするつもり……だ? こ、ころすぞ、手ぇ、出すなァ──」
「ずっと疑問だったことを、創世神様が教えてくれたよ。なんで君みたいな無鉄砲な馬鹿が、こんなに強くなるまで、都合よく生き延びることができたのか、疑問だった。でもさ、それって聖女のお願いだったんだ。聖女が聖女になる前に願った、約束が、この馬鹿を守っていたんだ」
約束? 俺はシャトルーニャとそんな約束……
「さぁ思い出すんだ。前世の君を、君の願いを、君が何のために彼と出会ったのかを!!」
アラバイルがシャトルーニャの頭を掴む。アラバイルの掌から暴力的なオレンジの光が溢れて、シャトルーニャの頭になだれ込んだ。
「思い──出した……わたし、わたしは……わたしを助けてくれたあの人にお礼を言いたくて、もう一度会って、お礼が言いたくて……願ったんだ。聖女になる代わりに、一つだけ願いを叶えてくれるって、約束……あの人に、あの時助けてくれてありがとうって言いたくて……クローさんに、あの時をお礼を言うために会いに来たんだ……ありが……とう……あ、ああ! そんな、ダメ!! どうして? 言っちゃダメなのにっ……!」
「そうさ、シャトルーニャは生まれ変わって忘れちゃってたんだぁ。自分が何を願っていたのかを……その願いはウナギィ・クローと再開してもずっと達成されなかったから、その願いを叶えるために、ウナギィ・クローを生存させ続けたんだよォ! 君の無茶も愚かさも! 全て! 彼女の願いに守られていただけだったんだよォ!! あは、ははは! けどぉ、もう言ってしまったねぇ……あの時のお礼を、”ありがとう”ってサ!」
なんとなく理解した。俺がワシャルドでグローカスと戦った時、どうして戦いになることが分かっていたのに、シャトルーニャを連れてきてしまったのか、俺のその疑問を解消する答えだった。俺の思考はあの時、シャトルーニャの前世の願いに捻じ曲げられたんだ。俺を守るために、シャトルーニャを同行させた……
きっと、一度や二度じゃないんだ……俺が無茶をやっても、死なずにいたのは……シャトルーニャの願いがあったからなんだ。そして、その願いは達成されてしまった。俺を守る願いは、もうない。
「終わりだよォ!! ジ・エンドさ!」
「え、え? あ、なんで? 力が、やめ、やめてえええええ!!」
シャトルーニャから見覚えのある光の槍が伸びた。それは俺を貫いて、焼いた。
「あは、あははは! そうだよ。創世神様は思い通りにならない君が嫌いなんだよ! ウナギィ・クロー! 憎いんだ! だから、願いがなくなれば君を殺す! 魔王だからだ!」
「っは……ククク、ハハハ、アーッハハハ! そうかよ。そんなに俺が嫌いか創世神? 邪魔で邪魔で仕方がないか? 憎いのか?」
「どうしたんだい? 絶望でついに狂ってしまったかい? まぁでも、君は元から狂ってるか! 愚かで愚かで愚かなんだからねぇ!」
「創世神ともあろう方が、私怨で俺を殺そうとするなんてなぁ。面白ぇじゃねーかよ、おい! まるで、意思が、感情がある見てぇだよなァ!」
『そうだ、創世神に感情はないはずなのだ……ありえぬ、そもそもこのような形で、創世神が勇者としてアラバイルを認めるなどありえん。そこにウナギィ・クローを殺したいという意思がなければ! ありえない! ま、まさか……ウナギィ・クローお前は!?』
「そんなに殺してぇか? 邪魔ばっかして、思い通りにならねぇ俺を! ぶっ殺したいよなぁ!? そうだ、それが感情だ! テメェの意思だ! この世界に生きる者達が、当たり前にもってる。命の声、魂の熱なんだぜ! お前はもう、意思無き法則なんかじゃない! 一度芽生えた自我は消えやしない!! やってみろ、殺してみろ! テメェの心で!!」
意思のないただの法則であるはずの創世神には感情があった。最初、無機質に感じていた創世神の力。シャトルーニャがグローカスを殺そうとしたのを俺が止めた時から、創世神の力は雰囲気が変わった、そこに感情があるような気がした。
「シャトルーニャ、お前が好きだ! 愛してる! お前を愛する! お前も俺も死ぬほどに、ずっと一緒にいたいと思ってる! だから俺を殺せシャトルーニャ! じゃなきゃ俺の呪いは、お前を殺す!」
心の底から、俺が死んだずっと先まで、シャトルーニャの笑顔を見たいと思った。シャトルーニャと共に生きるその先を思いっきり想像した。叶わぬ願いなのかもしれない、けど生きるか、死ぬか、そんな時、俺はもう我慢したくないと思った。
「く、クローさん! わたしもあなたを! 愛しています! 誰よりも! わたしの方が、クローさんより愛していますから!! 負けません!!」
俺の人間を愛せない呪いが発動する。どこまでも強い気持ちで発動させたこの呪いは、シャトルーニャを殺すつもりだ。シャトルーニャを取り巻く創世神の力ごと、殺すつもりだ。
俺の呪いは、触手のように伸びて、実体化して、シャトルーニャに突き刺さった。そして、シャトルーニャの光の槍は、標的を俺でなく、呪いの触手に変えた。このままではシャトルーニャと、創世神の力を殺すからだ。守りに入らなければ、相打ち、だからこそ目的を果たすために存在を保たねばならない創世神の力は、俺への攻撃を中断し、守りに入るしかなかった。
──だが、俺の呪いはへし折れた。どうやらシャトルーニャの方が俺よりも気持ちが強かったらしい。なんでそこまで俺を思っているのか、わけがわからねぇ……
俺はシャトルーニャに勝てなかった。こいつは創世神の力なんかなくとも、元から理不尽なパワー系なんだ。そりゃそうか……
「礼を言うぜ創世神、アラバイル! おかげで素直になれた。もうシャトルーニャを愛してもなんの問題もない」
「う……あ? し、死にかけの分際で何を言ってるんだ!」
「死にかけ? いいや違うね。死ぬんだよ。魂の消滅でなく、俺の生命力を全て消費して死ぬ。それはつまり──俺が神になるってことなんだぜ?」
最大レベルの強度で人間を愛せない呪いを発動し、そのリソースに俺の生命力を利用することで、俺の生命力の全てを消費し、俺の肉体は完全に塵となり消えた。
──俺の神化が始まる。
──ドクン、ドクン、ドクンドクン──
新たなる俺の心音が異空間に全体に響く。
一方的な物理干渉を可能とする、超越精神生命体。自分の気持ちに素直になった俺の魂は、俺の思うがままに動き、そのエネルギーを解放できる。俺を守り、死んでいった魔蟲達の魂は、しれっと俺の元に戻って、俺と一つになる。
『蟲神ウナギィ・クローそれが俺だ。自覚しろ、創世神、お前という存在が、その意思が、何を思い、どこへ向かいたいのかを!! クオリアニマ・ヴォーテックス!!』
黒と緑の光、”俺”の力が竜巻となって、この異空間全ての存在を通り抜けていく。その竜巻が誰かを傷つけることはない。しかし──
「な、なんだ? そ、創世神様!? どうしたっていうんだぁ!? なんだ? 気持ちが悪い、かき乱されるようだ……何をしたぁ!! ウナギィ・クロー!!」
『創世神の自我を芽生えさせた。元あった自我も成長させた。そして、お前の取り込んだ勇者の体も、自我を持った。アラバイル! テメェを拒絶しているんだ!!』
「ぬあっ!? ぐ、ぐがあああああああ!?」
クオリアニマ・ヴォーテックス。それの源である黒と緑の力。それは自我、意思を芽生えさせ、育む力。神となって完全に理解できた。魔蟲達が自我を持ち成長したのも、在り方が変わらないはずの神であるデルタストリークが柔軟になったのも、その俺の力が原因だったということを。そして、俺の魂の超回復も、この力を使って魂を急成長させていたんだ。
創世神は俺への怒りと憎しみから感情を理解し始めていた。あるいはかつての聖女や勇者達の残留思念の影響か、創世神は怒りと憎しみ以外の感情を知りたがっていた。
俺はその感情、自我を芽生えさせ、育てた。創世神の力は分裂した。そして、自我が育ってしまえば、アラバイルに力を貸す創世神の力は、全体の極わずかだった。アラバイルは体の中の勇者と創世神の力、そして、世界を呪う力にさえ拒絶され、力の殆どを失った。アラバイルの力は、アラバイルに従わない!
『まぁ流石ってところだな。創世神の力の一部でも残っていれば、まだお前を理不尽の力で守ろうとする。だけど、実を言うとだな……お前が勇者の力を使うかもっていうのは……想定してたやつらがいる。それは俺の娘たちとマロンちゃんだ。これがその対策だ、なんだか分かるか?』
ウィングゲートを通じてあるモノが転移して、俺の手に収まる。
『邪神グローカス。そいつは、ある強い因果を持っている。勇者殺し、そいつがグローカスの持つ因果。この魔剣グローカスは、グローカスを武器として鍛えた物だ。鉄槌神マロンは魂を精錬し、鍛える。だからこんなこともできるのさ。終わりだアラバイル、死ねええええええええいい!!』
俺は魔剣グローカスを振るう。その因果は創世神が設定した強い因果であり、グローカスの攻撃から創世神は勇者を守れない。ま、創世神つっても、ごく一部しかアラバイルに従っちゃいねーけど。
アラバイルは首を落とされ、絶命した。アラバイルの魂は、完全に消滅した。
『ま、あんだけ自分の魂に色々ぶちこんで出し入れして、滅茶苦茶したらぶっ壊れるわな。お前も俺と同じ力を持ってたらどうにかなったかもな……終わったんだな。アラバイルをぶっ殺したんだ……あれ? アラバイル殺したら次の時代に移るんじゃなかったっけ? あれぇ? なんか、そんな感じしなくね!? 予兆的なあれすらなくね?』
「あーそれ、創世神が自我を持ったら。もっと穏便に少しずつ次の時代に移行する方がいいって気づいたみたいです」
『マジかよ!! やっぱ、わりかしまともだよな創世神。俺の世界のアレと比べたら全然いいぜ!』
「それはそうとクローさん。どうやらわたし、クローさんを殺した扱いになってるみたいで、なんか一気に滅茶苦茶強くなっちゃったみたいで……体の急激な変化に対応できな……うっ……気持ちわるいぃ……」
シャトルーニャが俺の殺したことによる急激なレベルアップで吐き気を催していた。
「あ! そういえばクローさんわたしを愛してるって! ずっと一緒にいたいって言ってました! それって結婚したいってことですよね!! じゃあ呼び方もこれからは、クローさんじゃなくて、”あなた”って呼んじゃう! へへへ~あなた~! あなたの愛するシャトルーニャですよ~?」
「う、うぜぇ……さて、どうやら新しい俺の中は前の状態を再現してるみてーだし、みんなを回収して帰るとするか」
俺はシャトルーニャにうざいと言いつつも、その手はシャトルーニャを抱きとめ、お姫様だっこをしていた。みんなが目を醒ましたら降ろそ。
『……どうしてこんなことに……だが、これが一番良かったのかもしれぬな……』
俺達はアラバイルを倒した。後はファーカラルとの因縁だけ。が、とりあえずそれは置いといて、俺達は拠点に戻り、勝利の宴を思いっきり楽しむことにした。
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