第42話:高級マンションになってしまった
「それから俺は地獄で潜伏した。アラバイルを確実に殺し、ヤツの野望を打ち砕くために生きてきた。アラバイルに情報を渡さないために種族神達とは関わらず、邪神ロストハーツへと名を変え、悪神共の派閥で活動してきた」
無人の宮殿で、俺達は邪神ロストハーツ、本名セトラドーズからこいつの過去を聞いた。
『なぜ悪神と関わった! 悲劇を振りまくことなく生きることはできないと、知っていたはずだ!』
「黙れラインマーグ。俺は確実にアラバイルを殺さねばならんのだ。そのためならば手段など選んでられるか! ヤツは危険だ……ヤツは魂、輪廻、世界のシステムそのものを破壊するつもりだ。だから精神生命体のルーツを持つ命の神の力を受け継いだ貴様を選んだのだ。お前ならば、魂や精神体の破壊が可能。それ故にファーカラルもお前と戦うことを避けていた」
なるほど……そういう理由でファーカラルはラインマーグを見て逃げたのか。タイマンならラインマーグが勝つっていうのもマジっぽいな。
「なぁちょっと待てよ。ラインマーグって神になったの最近なんだろ? なんでアラバイルはラインマーグを天界の破壊者にするなんて予定が立てられた? 風神セルの予言があったつっても、なんか違和感あんだよな。だって、預言者は橙の激流が関わる確定した流れ以外はあんま見えないんだろ? ラインマーグがその流れの中にいたってことか?」
俺からするとラインマーグの存在そのものが疑問だった。というか、色々と時系列がわかってない……
「当然だ。ラインマーグはタダヒトから武神となり、邪教を滅ぼす運命を持っているからな。だが立ち位置が特殊だ、ラインマーグは堕落神として天界から追放されず、俺が天界を滅ぼした後も生き残り、その後の生き残った神々を導く存在となる。アラバイルのポジションを受け継ぐような存在なのだ」
「本来は天界を滅ぼさないってことか……おいラインマーグ。お前が神になったのはいつだ、後セトラドーズ、あんたが地獄へ逃げた時とアラバイルが狂ったのはいつだ?」
「ああ、それなら私が説明した方が早いんじゃないかな? セトラドーズの記憶も見たし、大体の時系列は把握してる。まず新時代の神々が創世神に生み出されたのが7万年前、アラバイルがおかしくなった、つまり新時代の一代目勇者が死んだ時が大体5万年前、セトラドーズが地獄へ逃げ延びたのが4万年前、ラインマーグが神となったのは3000年前だ。マロンが地獄へ出張することになったもそれと同時期」
「ん? あれ? そうか、ラインダークは10万2015歳だから新時代の神々より古い神だったんだな。じゃあ地獄の神々は? あいつらも新時代の神々じゃないんだろ?」
命の神ラインダーク、3万年ほど新時代の神々より早く生まれた。古代神とでも言うべき存在か?
「地獄の神々はかなり古いよ。というかそうだね、地獄の成り立ちから説明した方がよさそうかな? 地獄は旧大陸とも呼ばれるけど。それは今私達が地上と呼ぶ大陸や天界も、元は存在しなかったからなんだ。古い種族……こう表現するのは好きじゃないんだけど、地獄の住民達、地獄の神も魔族達も、創世神の失敗作。彼らを隔離し、新たな世界で新たな時代、新たな種族を生み出すために、この地上は生み出された。まぁあれだね、増築したみたいな感じだよ。地獄の上にそのまま今の地上をのっけたような感じ」
え!? そうだったの? でもあれだな。そう考えると創世神とやらも結構慈悲深いほうかもな。俺の世界だと新時代を創る時に旧文明の存在を全滅させたらしいからな。
「失敗作だと思っているから天界の神々は傲慢で、地獄を見下しているのだ。だが、俺も実際に地獄で生きる身となってから、その認識は誤りであると分かった。地獄は地獄で地上の者とは違った形で進化している。おそらく、地獄で創世神の望む種族やシステムが生まれたなら、それを地上へ持ち込むために地獄を維持している。だが、天界の神々は地獄をゴミ溜めかなんかと勘違いしている。だから悪党の魂を地獄で裁き、善良な魂は天界で処理するだとか、馬鹿な発想が生まれるのだ」
ほーん、マロンちゃんが悪党の魂を鍛え直す仕事をしてるわけだけど、そういう理由で地獄へ来たってことか。
『僕も馬鹿な話だとは思うけど、話を戻そうよ。僕が神となったのは確かに3000年前だけど、タダヒトとしてそれまでに2000年ほど生きている。だからアラバイルが僕を破壊神にするとセトラドーズに言ったのは、最低でも3万5000年も先の予定をすでに立てていたってことになる。僕を破壊神にしようと決めたのはもっと早い段階かもしれないけどね……』
「じゃあアラバイルは俺達よりもずっと先まで策を張り巡らしてる可能性が高いってことだな。けど、それはセトラドーズも同じはずだろ? まぁ、あっさり俺達に負けたけどよ」
「っく、ウナギィ・クロー、俺は負けていない。一時休戦、戦闘を中断しただけだ。そもそも、デルタストリークの介入がなければ俺はラインマーグを殺せた」
『そうだね。あと少しで君を完全攻略できそうだったけど、危うい綱渡りなバランスだったと思うよ。僕が少しでも油断すれば、死んでただろうね。まぁデルタストリークがいたからそれも茶番になってしまったけれど……』
……あれ? それってどうなんだ? ラインマーグもセトラドーズも橙の激流に確定させられた未来を持つ存在なんだろ? どっちが死んでもマズイんだろ? 結果的に助かったけど、俺がデルタストリークを腹から出して、茶番にしちゃったのも既定路線だとでも?
でも実際どっちが死んでもおかしくなかったし、二人を生かすとしてもそもそも、戦い自体起こらないように誘導した方がいいだろ。
「なんだか腑に落ちねぇな。どちらが死んでもおかしくなかったつっても、創世神はその流れを許さないわけだろ? だったらどのみち俺とデルタストリークが関わらなくても殺せない感じになってたのか?」
「いや、俺ならば殺せるし、ラインマーグも俺を殺せるはずだ。俺達は創世神の橙の激流に抗うことが可能だ。この世界には橙の激流に抗うことのできる力、つまり予言を超える力がいくつかある。そもそもの根源である創世神の力、圧倒的な力による抵抗が可能な命の神の力、そしてファーカラルの世界を呪う力だ。これらは定めに抗える。特に命の神、あれが創世神にとって最も危険な力だろうな。完全に創世神の支配の外にある力、あれは誰にも見通せん」
「え!? そうなの!? あれ……じゃあ、そっか! だからか、だから誰もラインダークがパープルランドで引きこもってるって知らなかったのか。ハルバーもパープルランドが完全な無人だと思ってたもんな。なら、ラインダークがワシャルドに来るのは邪神も創世神も予想外だったってことか……」
「正直、俺のファーカラルから少々貰った程度の力や命の神の劣化版でしかないラインマーグでは、単体で創世神の定めを超えるなど不可能だ。せいぜい予言の細部を変える程度、だが……そうした力同士がぶつかれば、予言を超えることも不可能じゃない」
「ちょっと待てよ! さらっと言ってるけど、お前ファーカラルから力貰ってんのか? じゃあ俺と同じで、ファーカラルの因子を持ってるってことじゃねーか。けど、ファーカラルの因子自体にそういう予言を超える力があるなら。俺が関わると聖女関係のことで予言とは違う結果になるってのも、そういう理屈だったわけか。そんでラインマーグも予言を超える命の神の力を持ってたから……二つの力が合わさった結果だったのか」
色々と腑に落ちた感じだけど、そもそも予言てのがどういう結末に向かってるのか俺は知らないんだよな。セトラドーズは最後まで知ってるのか? だとしたらファーカラルも?
『……わからないな。セトラドーズ、君はファーカラルのことを僕たちに話しても良かったのか? 協力関係にあるんだろう? 僕とクローくん、特にクローくんはファーカラルと敵対していて、彼を殺すつもりだよ?』
ラインマーグからプレッシャーがセトラドーズに向けられている。まぁ、そうだよな……俺もおかしいと思ったことだ。
「勘違いしているようだが。俺の目的はアラバイルを殺し、ヤツの野望を打ち砕くこと、それのみだ。俺は貴様らを俺の予備とするつもりだ。俺が失敗しても、貴様らがヤツを滅ぼすのを期待してな。仮に貴様らがファーカラルを殺すとしても、アラバイルが死ぬなら問題ない。それに、アラバイルを殺したいのはファーカラルも同じだ。俺達は立場上敵対しているが、その実、目的は同じなのだ。仮に貴様らがファーカラルを殺しても、アラバイル死ぬなら、あいつも本望だろう」
「なんだと? あいつ、そんな自己犠牲の男には見えねぇけどな」
「ファーカラルを殺したいなら殺せばいい。だが、殺すならその責任は取ることだな。おい、アラバイルを殺したいならワーム・ドレイク達を無駄に殺すなよ? 俺もできるだけ戦が起こらないように誘導する。それでも戦が起きたら自衛でもなんでもすればいい」
──ガシッ
「ぬあっ!? おい、離せデルタストリーク。なんのつもりだ!」
「え? だってセトラドーズ、あなた今、しれっと帰ろうとしましたよね? 駄目ですよ。あなたの記憶を見たのであなたが実際に罪を犯しているのはわかっているんです。情状酌量の余地はありますが、邪神達の元へ戻ることは許せないかな?」
『で、デルタストリーク! 待つんだ。彼を戻せば戦自体が減って、悲劇も減るかもしれないんだよ?』
「だとしてもです。罪は裁かねばなりませんし、私、考えたんですよ。彼にできる償いをね。今の私にはアラバイルにとって不都合な事象もはっきりと認識できる。だから、アラバイルがマロンを警戒、危険視していたことも分かっています。彼は私のマロンに対する認識に阻害をかけていましたから。だからマロンの元でセトラドーズを働かせます。悪党の矯正をセトラドーズに手伝わせるんです! 悪党として生活していたんですから、悪党の気持ちも分かるはずです!」
『ふむ、発想としてはアラバイルにとっての危険人物同士を繋げて、邪魔をしてやろうってことかな? 僕はありだと思うね。セトラドーズにはアラバイルの仕掛けるトラップを解除する力を持ってるし、力も強い。アラバイルに警戒されてるっていう鉄槌神マロンも、アラバイルに狙われる可能性があるから、その護衛にもなるよ』
「待て! 勝手に決めるな! 俺は戻らねばならん! ラインマーグ! 説得しろ! 戦いを止めたいんじゃないのか!!」
『……そうだね。だけど、僕も君と同じだからね。いかにアラバイルに勝つかが最も大事なことなんだ。アラバイルの好きにさせたら、世界は滅茶苦茶になって、大事な人の未来も守れない。僕は、君がマロンと共に行動する方がアラバイルを殺すことに繋がると判断した。仮に、その結果……人々が死に、悲劇が起こるとしてもね』
……ラインマーグ? な、なんで? いつものこいつらしくない……いつもなら絶対戦争での被害を少なくするために動くはずなのに……ま、まさか……
ハルバーと付き合ったことで、心境の変化が!?
そうか、ラインマーグは……ハルバーを守りたいのか。アラバイルを確実に殺し、天界の滅びからハルバーを守るつもりなんだ。ラインマーグは運命に抗う力を持っているわけで、天界を滅ぼす運命に抗って、ハルバーを守るつもりなんだ。
そういや、前世でも友達が彼女できて童貞を失ってから、妙に冷めた感じになっちゃったんだよな。話すことも遊ぶことも少なくなって、女優先で生きるようになった。
──!? つまり、ラインマーグは童貞を失ったってコト!? そ、そういうことだったのか……そりゃあ、ハルバーが大事だよな。
納得いかないこともあるが、友の成長と覚悟を踏みにじるわけにはいかないな。
「安心しろラインマーグ! 戦が起きても俺が全力で潰すから、悲劇は起きない! それに、ワーム・ドレイクの魂は苦しんでいる。魂の表層はファーカラルに従っても、核の部分は苦しんでる。俺はあいつらを呪縛から解放し、助けなきゃいけない」
「馬鹿野郎! ウナギィ・クロー、貴様、俺の話を聞いていなかったのか? アラバイルを殺したいなら、ワーム・ドレイクは殺すべきじゃない! 奴らも貴様と同じだ! やつの因子を持っているのだからな!」
「黙れ! あいつらを放っておけるわけないだろ!! よし、じゃあマロンちゃんの所へ送るぞ。デルタストリーク、抑えてろ」
俺は腹から釜のような道具を出した。地獄への一方通行の転移ゲートだ。マロンちゃんにもらったもので、ピエールとバーグリー、グローカスを地獄へ送るのに使った道具だ。
俺は事の詳細を書いたメモを作成し、釜にセトラドーズをメモと共にぶち込んだ。
「いやぁ、うまく行きましたね! 邪神二人を無力化し、私の呪いも解け、色々なことも分かりました。それじゃあ、クローくん、腹を開いてください。中に戻りますから」
「は? え、いや……お前、もう機能不全なくなったから、隔離する意味ないじゃん。別に俺の中に戻る必要はないと思うんだが……」
「私が戻りたいんです。あそこはもう、私の家なんです。とても快適でしたし、難しいことを考えなくても、呼ばれたら出てくるだけでいい、最高の環境じゃないですか! 今は自分のタイミングで外に出てもいいわけでしょう? 最高じゃないか! それにマキからも許可は貰ってますし! 機能不全が治っても、クローくんの中に住んでもいいって!」
「えええ!!? あいつ何勝手に許可だしてんのおおお!? 俺の体内なのに、俺がオーナーじゃないの!?」
俺は、俺の中にあるマキの基地のオーナーじゃないらしい……基地なのか? 快適とかいってたけど……もしかして高級マンションとかそういう感じなのか? あ、ありえる……あいつならそれぐらいできても、おかしくない……
俺は渋々腹を開くと、デルタストリークは呑気に「ただいま~」とか言って俺の中に入っていった。お、おかしい……最近ラインダークも俺の中でマキと遊んだりしてるし、このままじゃ……俺、俺の中に人外の住宅街ができてしまうかもしれない……
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