第41話:破壊神セトラドーズ
三人称の過去回想です。
「いくらなんでも多すぎじゃないのか? 堕落神」
「そんな多いんですか? 私は管轄違いなので、実を言うと……その、天界の空気感もよく分からない」
「正直、かなり多い。いや、実際やつらは天界に反逆してるわけだけど……原因が分からない。そうだデルタストリーク、お前の力で堕落神を調べることはできないか? 堕落した奴らの共通点が何か、あるはずだ」
天界、神々の会議が【エア・ドラート】で行われた後、神々が去っていく中でセトラドーズが零した不満にデルタストリークが反応した。セトラドーズは群青の髪の美しい武神、神々からも地上の者からも人気のある破壊神だった。
天界の破壊神は二柱、オライオンドーズとセトラドーズ。どちらも破壊の力を持っていた。しかし、全くの同じというわけではなく、細部に違いがある。
鉄槌神マロンと断罪神デルタストリークが同じ能力を持ちつつも性能差があり、異なる役割を持つのと同じように、オライオンドーズとセトラドーズにも違いがあった。
そして、マロンとデルタストリークと同じく、オライオンドーズとセトラドーズも兄弟神だった。
「どうでしょう……見ることはできるでしょうが、私はあまり賢くないので、あなたの知りたい情報があっても気づけるかどうか……マロンなら……気づけるかな? そうだセトラドーズ、オライオンドーズに堕落神の増加についてどう考えているか聞きました? 彼もあなたと同じく、武人合軍です。何より彼は賢いから、彼も思うことがあるかも」
オライオンドーズを頼ったらどうか? というデルタストリークの提案にセトラドーズは渋い顔をした。
「いや、それは……その……」
「えっ!? まだオライオンドーズと仲直り出来てないんですか? もしかして喧嘩続行中なのかな?」
「いや、流石に喧嘩は終わったよ。ただ、難しい問題だからな。色恋に興味も縁もない、お前には分からないことかもしれないが……」
「なんでしたっけ? 風神セルの取り合いで大喧嘩して、セトラドーズが勝って、セルを嫁にして終わったんでしたっけ?」
「ああ、そうだ。本当に興味ないんだな……他の女神たちは煩いぐらい色々聞いてきたもんなんだがな……それに、問題は気まずいって話だけじゃないんだ。俺と喧嘩して、大怪我……っは、偽るのはよくないな。ほとんど死にかけたオライオンドーズは、あれからおかしくなっちまった。みんなあいつが壊れたとか言ってる。破壊神の癖に壊れちまったって、笑ってる」
セトラドーズは目を閉じ、拳を悔しそうに握りしめた。
「みんなは笑っているのに、あなたは面白くなさそうですね。殺し合いまでして、愛する者を奪っても、まだあなたにとってオライオンドーズは大事、ってことかな?」
「……ノーコメントだ。けど、オライオンドーズが壊れたっていうのは本当の話だ。異世界に自分の魂を飛ばす遊びをしてるらしくて、唐突に変になる。急に笑ったり、急に泣いたり、とにかく情緒不安定なんだ。かと思ったら急に無表情になってな……遊びに区切りがつくと、急に正気に戻りやがる。そんで、正気に戻ったあいつの目は、俺を憎み、睨む……あの目のままだ」
「へーー、なんだか面白そうなことしてますね、オライオンドーズは。恋愛には興味はないですけど、あなた達が殺し合い、憎み合うまでになった原因、風神セルがどんな女神か、流石に気になってきますね。あの子はアラバイルの側近みたいなポジションだからあんま接点ないんだよね。私はアラバイルが嫌いなので、必然的にね」
「別に、あいつは普通だよ。ただちょっと天然で、抜けてることがある癖に、妙に鋭くて、ふわふわしたような雰囲気だけど、芯はしっかりしてて、意外と手先が器用で、チビで、いい匂いがして、クソ真面目な女神だよ。俺もオライオンドーズもよく怒られてた……いつの間にか好きになってた。だけど、あいつ、俺とオライオンドーズ両方とも好きになっちまったみたいでな。クソ真面目なのに笑えるよな。ま、だからこそ悩んだし一人で抱えたんだろう」
「へー」
デルタストリークはすでにセトラドーズとオライオンドーズとセルの話に興味を失っていたが、セトラドーズの語りだした口は止まらなかった。
「俺は気づかなかったよ。セルが俺達の事を好きなことも、それで悩んでたこともな。あいつが、オライオンドーズが気づいた。あいつは俺よりも賢いし、察しもいい。あいつは言ったよ……セルが悩んでくれるなら、オイラにも希望は残されてるよねって、俺をぶん殴った。喧嘩を売ってきた。抜け駆けすることもなく、俺に真実を告げた。んで何故か、その喧嘩に勝った方がセルを嫁にするってことになってた。まぁ、俺がその喧嘩に勝っただけだ。あいつ、俺のほうが力が強いって、分かってたはずなのにな……」
「へ~~。なんだか話だけ聞くとオライオンドーズの方が良いヤツっぽいね! 不器用に誠実さを押し通して、負ける可能性が高いと分かっていても、戦った。それに比べてセトラドーズ、あなたは鈍感で、戦いに勝った癖にウジウジしている。そりゃオライオンドーズだってイラつくだろう。自分の愛する者を嫁にしたヤツが、不幸せそうにしてたら、オライオンドーズは怒るよ。うん、間違いない! きっとそういう理由だよ。彼がセトラドーズを睨むのは」
「え? デルタストリーク、お前にもそういう情緒、わかったんだな……」
「私にもオライオンドーズの気持ちがわかりますよ! 私もアラバイルに喧嘩を売ったことがありますが、敗北しました。その時、アラバイルは首をかしげていました。自分の戦いに納得していないって感じで、全然嬉しそうじゃありませんでした。惨めでしたよ、全力を出せてない相手に負けたんだって自覚するのは……私に勝っただけじゃ足りないのかって、イライラしました!」
「う、うーん? なんかちょっと違う気もするけど。まぁいいか」
オライオンドーズとセトラドーズの死闘、互いに手加減なしで、破壊の力も容赦なく使用した。しかし、セトラドーズの破壊は兄のオライオンドーズのものよりも強く、力がぶつかりあえばセトラドーズが勝つ。だが、勝負は一方的なものにはならなかった。純粋な破壊神としてはオライオンドーズはセトラドーズに劣ったが、オライオンドーズには別の力があった。それは変質、破壊した対象を別のものに作り変える力。
神にこの変質を使用しても、圧倒的な再生能力で元に戻ってしまうが、地形や神々の武具はこの力に抗えない。オライオンドーズはセトラドーズに力で劣る代わり、環境を利用して戦うことができた。
変質の力を使い、セトラドーズの戦いづらい状況を生み出し、オライオンドーズはなんとかセトラドーズに食らいついていた。そして、先に相手を追い詰めたのはオライオンドーズだった。セトラドーズはオライオンドーズに半身を消滅させられ、機動力を失った。再生は間に合わない。そんな状況で、オライオンドーズに迷いが生まれた。オライオンドーズはセトラドーズを殺すつもりで挑んだが、いざ殺せる状況になると迷ってしまった。
賢いオライオンドーズは、思考してしまった。セトラドーズが死に、セルが悲しむという未来を。そうして生まれた一瞬の隙を、セトラドーズは見逃さなかった。セトラドーズからすれば、オライオンドーズを倒すには、一瞬の隙があればよかった。
セトラドーズの破壊の力によって肉体の殆どと、頭部の半分を消滅させられたオライオンドーズは、敗北した。オライオンドーズはその状態になっても戦う力は残っていたが、それ以上戦うのはやめた。あの状況で迷ってしまう自分に、勝ち目などないと思ったから。
オライオンドーズはこの敗北に納得していた。元から弟であるセトラドーズの方が力は強かったから。いつも自分より先に動いた弟、置いていかれないように考えて、予測して、なんとか並び立っていた。その思考と予測が止まれば、追い抜かれてしまう。当然の帰結だった。
そして、この死闘で、オライオンドーズは傷を負った。癒えることのない、取り返しのつかない傷。セトラドーズの破壊の力で、肉体を消滅させられた際、肉体は精神エネルギーに変換された。一度に大量の消滅と変換が起きた結果、強く大きな、精神エネルギーの力が放出された。それはオライオンドーズの魂、核に傷をつけた。オライオンドーズには、核を修復する力などなかった。
物理世界での活動、役割しか持たないオライオンドーズに、精神体を治癒させる機能はなかった。そうしてオライオンドーズは壊れた。創世神の造物である新時代の神、創世神によって、それぞれの役割を与えられた。オライオンドーズはその役割を、ただ一人、生きたまま忘れた。
「オライオンドーズ……お前は堕落神の異常な増加、どう考えている?」
「セトラドーズ……まぁ、アラバイルなんじゃない?」
セトラドーズはデルタストリークの助言通り、オライオンドーズの考えを聞くことにした。気まずいが、あの時までは、共に行動し、誰よりも信頼していた。
「アラバイルはおかしくなった。今のオイラに似てる、壊れてる気がする。勇者の死体を埋葬してから、あいつ……おかしくなった気がするんだよねぇ」
「勇者の死体を? ああ、そうか……やつは手神、創世神の手だ。だから創世神の代行者である勇者の死体を処理したのか。しかし、解せんな。創世神は、なぜ勇者を守らなかった。加護を与えれば、あの程度の邪神に殺されるなどありえないはずだ」
「用済みだったんでしょ? 人間の体に生まれたんなら、どのみち死ぬ。それが殺されて死ぬのか、老いて死ぬのか、病になって死ぬかの違いだけ。魔王を殺した時点で、勇者はその役割を終えていたんだよ」
「そんな……あんまりではないか……人々を救うために戦った、あの者を……利用するだけ利用して、見捨てたのか……そうだ、創世神が救うつもりがなくとも、俺達があの者を助けることはできたはずだ! なぜ誰も……そうしな……あ……」
セトラドーズが疑問を口にする中で、たどり着いた答えがあった。それは、アラバイルが狂っていること、風神セルの予言を独占していること、様々な要因が、一つの考えを導き出した。
「セルが悩んでいたのは……俺達のことだけではなかったのか……アラバイルは知っていたのだ。セルの予言で勇者が死ぬことを知っていたはず、そのうえでアラバイルは見捨てた。アラバイルの命令で、セルは話すのを禁じられていた?」
「堕落神となったのは殆どがタダヒトであった者、彼らは勇者や地上の者たちをとても気にかけていたからねぇ……勇者が死んですぐ、アラバイルを詰めに行っていた。ま、彼らがアラバイルを認められるわけがないよねぇ」
「オライオンドーズ! 気づいていたなら、どうして俺に言わなかった! なぜアラバイルを止めない!!」
オライオンドーズに詰め寄り、その襟元を乱暴に掴むセトラドーズ。オライオンドーズは、そんなセトラドーズを冷めた目で見ていた。
「どうでもいいんだよ。天界も、地上も、創世神も、どうでもいい……オイラ……もう……自由だから……お前もさ、くだらないことに関わるなよ。お前の隣にはセルがいるんだからさぁ、それだけ考えてろよ馬鹿がッ……いろんなもんに手を出して、全部やり遂げられるように、器用に設計されてないんだよぉ! オイラ達は……」
オライオンドーズは怒り、セトラドーズを突き放した。セトラドーズはその時理解した。オライオンドーズが死闘で見せた一瞬の隙、あの時、オライオンドーズを迷わせたのはセルだけではなく、アラバイルの存在もあったのだと。
全部やり遂げられるように、器用に設計されていない。セルを手に入れ、守り、地上を見守り、アラバイルを止める。オライオンドーズは全部やろうとして、全てを失敗した。
「セルはアラバイルの側近、セルの命は、アラバイルに握られているようなものだ。だからセトラドーズ、セル以外は全ては見捨てろ。守るべきは一番大事なモノだろ?」
あの時勝つべきは、自分ではなかったのかもしれない。セトラドーズはそう思ってしまった。しかし、自分は勝利した。だからこそ、セトラドーズには責任があった。セトラドーズは、セル以外を見捨てることにした。
それからずっと、堕落神は生まれ続けた。オライオンドーズもセトラドーズも、堕落神を殺し続けた。神々の総意というフェイクを被った、アラバイルの意志に、彼らは従った。
──けれど、その従順に、アラバイルは見返りを与えることはない。創世神が勇者を利用し、最後には見捨てたように……アラバイルにも、慈悲の心はなかった。
『あぁ、セトラドーズ。来てしまったのか……間が悪いなぁ。まぁでも、君はもう堕落神ってことになってるから。問題はないかぁ』
「せ、セル……? え……? なんで、俺は、俺達は!! 見ないふりをしてきた! あんたに従ってきたじゃないか! どうして、セルを殺した!!?」
セトラドーズが堕落神を狩り、天界へ、自らの住処に帰るとそこには風神セル、愛した女神の亡骸があった。その傍らに、腕から血を滴らせたアラバイルがいた。
『君達は頑張って耐えていたね。耐えられていた。でもねぇ、彼女は耐えられなかった。君達が不本意な殺しをして、病んでいく姿に、耐えられなかったみたいでさぁ。ワシを裏切ろうとするから……仕方、なかったんだよねぇ』
「殺してやる!! 殺してやるぞアラバイル!!」
『ああ、元々そうなる予定だったものねぇ。大分予定よりはやいけど、この段階で収束はしないんじゃないかなぁ? 最近、癖っていうか、傾向が分かってきてねぇ。やっぱ、天界が滅ぶのはもっと先の予定だから、創世神は、ワシに味方をしてくれると思うんだ』
「何を言っている!! やはり貴様は狂っている!! もっと早く殺さなければいけなかった!」
『ふふふ、はははは! 狂ってなんかいないさぁ。ほら、創世神様も、こうして力を貸してくれている』
橙色の雷がアラバイルの体から流れ、アラバイルの肉体に力を与えた。アラバイルの老人の体は、若者の、逞しいモノへと変わった。
『この段階でワシが死ぬと、創世神様の計画も、何もかも滅茶苦茶になってしまうからねぇ。君はずっと先の未来で、ワシを殺し、天界を滅ぼす予定だったんだ。もちろんセルも知っていたことだ。彼女が予言したことだから当然だ。だから、その”時”が来るまで、重要人物である君とワシは死なない。だけどワシは、それが気に入らない。創世神様の思うままに行動していては、真の楽園は訪れない!』
狂気と、圧倒的な存在の力。セトラドーズは、本能的に理解してしまう。この状態のアラバイルに、セトラドーズは勝てないと。いや、セトラドーズに勝てないのではない、彼が纏う橙色の力、創世神の力に勝てないのだ。
『創世神様の真の願いは、創世神様の想像の遥か先にあるのだから! セトラドーズ、君の起こす破壊は生ぬるい!! ただ肉体を壊すだけの破壊など!! 理想とは程遠い!! 君の力をもらうよ。君の運命を引き継いだ、完璧で、最強の破壊神、ラインマーグを生み出すための材料さぁ!!』
アラバイルは目にも留まらぬ速さで、セトラドーズに近づき、その手をセトラドーズの目に突っ込んだ。セトラドーズの眼球を掴み、引きずり出して、千切った。
『もっとだ、もっと欲しい! あればあるほどいいから! もっとくれよ!』
セトラドーズは逃げた。風神セルの亡骸を抱え、破壊の力で住処の床に穴を開けた、その破壊は床だけでなく天界を貫いた。
その穴を落下するようにして、セトラドーズは逃げた。天より堕ちて、地上から地獄へと、神々の目の届かないところまで。セトラドーズは落ちていった。
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