第38話:邪神様の昔が分からない!
三人称視点です。
──地上、ファーカラルの隠し拠点。そこには追い詰められた表情の邪神達がいた。
「ファーカラル! 話が違うではないか! 地上の半分以上を手に入れ、我らが生きる道が切り開かれると、お前は言っていただろうが!」
『アルーカス、ワレの言ったことは、今でも間違ってはいない。現に地上の6割はワレらの手中にある。兵隊はいくらか削られたが、未だ土地を奪い返されてはいない。オライオンドーズ率いる武神合軍は確かに強い……だが、やつらは少数精鋭、全ての場所をやつらだけで守ることはできないし、休息も必要とする。やつらがどこかを守れば、その隙に守られていない場所を奪う。そうした循環を続けていけば、ワレらが滅びることはない』
アルーカス、針金で組んだようなスカスカな体を持つ邪神。針金のようなものはアルーカスの魂を守る檻で、アルーカスは精神生命体だ。雷の魔法で檻を動かし、肉体を持つかのように振る舞う。
「ああ、そうだ。別に武神合軍だけが、我らの障害となるのなら問題にならなかった。問題はワシャルドだ。ウナギィ・クローと歯車巨人達だ。どちらもお前の不手際から生まれた厄介な怪物だ。ワーム・ドレイク達は極端に疲労しない、ほとんど不眠不休、水以外の補給無しでも戦い続けられる。だがそれは歯車巨人たちも同じ……休息が必要ないからこそ、武神合軍にうまく対応できた。だが、やつらは……歯車巨人達はワーム・ドレイクと同条件、同性能であったはずなのに……我らのワーム・ドレイクよりも強い!」
「アルーカス。ファーカラルを責めるのは違うと思うわ。だってまともに戦力を向上させられる案を出せたのって、彼とあたし、ロストハーツだけでしょ? 一番貢献していたのは言うまでもなくファーカラルよ。というか、あたし達が追い詰められる前から、彼はかなり貢献していたし、力の強さだって上から数えた方が早いわよ?」
「ッチ、クラーカス……元愛人相手じゃまともにモノも見えねぇか。振られた癖に今でも優しくしてやるなんて健気だなァ? とても女子供を惨殺する趣味を持つとは思えない」
クラーカス、女の邪神、スタイルがよく、胸が大きい。実績もなく、燻っていたファーカラルを囲い、邪教の幹部にまで押し上げた邪神。邪神としては比較的まともだが、本能的に女と子供を殺してしまう。そのため彼女が囲っていた者や部下は全員男で、彼女が移動する行き先には事前に連絡が入る。彼女に組織の仲間を殺させないために。
「どうでもいい喧嘩をするだけなら俺は帰るぞ? 俺はラインマーグを殺したいだけだ、その役に立たないのなら、俺はお前たちのお仲間でいるつもりはない」
「ろ、ロストハーツさん……ああ、すいません! もう、言い争ったりしないんで……はいぃ」
アルーカスに戦々恐々と謝罪される男。邪神ロストハーツ。包帯で全身を巻いた男で、鋭い片目と頭髪だけが露わになっている。もう片目があるはずの場所は常に血を滲ませて包帯を赤くしている。
「はっはっ! 最初は堕落神の幹部など認めないと言っておったのになぁ! 殺されかけてすっかり去勢されたな! なぁーっはっはは! まぁそういうワシも、ファーちゃんの作る拷問器具に釣られてすっかり、買収されてしまったから人の事言えんがのう! がはは!」
「フルカス翁、まともな提案もないなら黙っていろ」
ロストハーツに釘を刺された老人のような男、邪神フルカス。老人の顔を持つが、その肉体は筋骨隆々で、この場に集まるどの邪神よりも腕力が強い。ご機嫌によく笑う邪神だが、この場でもっともたちが悪い。フルカスは笑いながら他者を傷つける。部下に対しても遊び感覚で半殺しにする。自分の部下にしか手を出さないという線引はあるが、だからこそ誰もフルカスの部下になろうとしない。
『ウナギィ・クローについてだが……ワレにも分からん。ワレの因子を受け継いでいるとしても説明がつかないことが多い。奴が戦場で戦うようになってから、やつは急激に実力を伸ばしている。これは脅威だ、やつは神々と違って休息を必要としない。戦闘力は現状ワレらに劣るが……この場にいるワレらはみな神々と同じく休息を必要とする。ヤツが延々とワレらの休息を妨害するだけでワレらは崩壊する』
クローが実際にそういった戦略を用いるかはともかく、ファーカラルの想定したクローの戦略に邪神達の表情は真剣なモノへと変わる。格下と侮ることはない、邪神にとって優先して潰すべき敵となった。
「しかし、どうするファーカラル。ウナギィ・クローは戦場にあれだけ顔を出すのにも関わらず、内政から外交、戦力の向上、神々との同盟関係、すべてをうまく回している。いくら肉体の休息が必要がないとはいえ、動き過ぎではないのか?」
邪神達はマキの存在を知らない。ワシャルドがほとんどマキによって運営されていること知らないため、クローは邪神達の中で何から何までを完璧にこなす完璧超人と化していた。クローが地上の存在と本格的に関わったのは最近のため、詳細な情報はあまり入手できない。お人好しだとか、演技が下手だとか、顔色が悪いといったどうでもよい情報しか入ってこない。それもマキの情報操作による部分が大きいが、邪神達はそれを知らない。
『ロストハーツよ。ワレにはどうしてもクローがそのような、超人的な能力を持った存在とは思えんのだ。過去を思い返して見ても……ヤツはただの感情的な馬鹿だった。正義感から無謀に挑む馬鹿だ。ここ最近の狡猾なクローの動きとはまるで一致しない……』
「それはお前が見落としていただけではないのか? それか、ヤツに行った貴様の拷問のせいで人格、精神が変質した結果、能力が向上してしまったのかもしれん」
『むぅ……ありえぬ話ではないが……300年も経てば色々と変わるだろうしな。しかし……お人好しだという情報がある。まるで役に立たんと思った情報だが、この情報が事実であるなら、やはりクローは馬鹿なままであり、ワレらの知らぬ優秀な協力者がいるとは考えられないか? そしてその協力者が狡猾で、クローを表向きの象徴として利用しているとしたらどうだ?』
ファーカラルは実際にクローに会ったことがあるため、その違和感に気づいた。と言っても、ファーカラルはクローが地上へ脱走したという報告を受けてからその存在を思い出したので、それほどクローに強い印象を抱いていたわけではないが……
「確かに、筋は通る……か。だが分からんな……それほどに力の強い存在がいるなら、どうしてお前の預言に引っかからない。これほどの影響を出しているのなら、預言に現れないというのは、無理があると思うのだがな……それともファーカラル、お前、俺に隠し事があるのか? お前には色々と世話になったが、俺は裏切りを許さん」
『ロストハーツ、お前には隠し事などしない。お前には恩があるゆえな……ワレの子らは、お前がいなければ……っ、話を戻すぞ。あれほどの影響力を出しながらワレの預言者にクローの狡猾なる協力者が現れないとするなら、考えられる理由は二つある。一つはクローと同じく、聖女と関わりがあり、創世神の力で守護されている場合。二つ目はその者自体に聖女と同質か、同程度の理外の力がある場合……どちらにせよ、もし狡猾なる者が実在するのなら……その事を想定した上で動かなければ、ワレらはクローに敗北することになるやもしれん』
「実在すれば……か。ならば俺はファーカラル、お前を信じよう。では仮にその者が存在するとして俺達はそいつを何と呼べばいい?」
「ふーむ。じゃあ、擬態者、ミミックなんてどうかのう? 影の支配者、ミミック・ルーラー。どうじゃ? それっぽいじゃろ? ぬはははは!」
こうしてまた一つマキの呼び名が増えた。それからしばらく邪神達の会議は続き、会議が終わるとファーカラルは転移の力で邪神達をそれぞれの隠し拠点に戻した──ただ一人、ロストハーツを残して。
「ファーカラル、信じていいんだな? お前の預言者はグローカスの死すら見通した。そんなお前の預言者ですら、見えない敵、ミミック・ルーラー……俺もお前も、先が見えなくなったな」
『ロストハーツ、回りくどい言い方は必要ない。お前も感づいているのだろう? その預言者がワレであることは……お前が堕落神として地獄に逃げ込むと同時に持ち込んだ預言者の神の死体。”風神セルの死体”ごと、ワレは預言の力を取り込んだ。ヤツは今もワレの中にいる……かつてはワレの中で暴れたものだが、今ではおとなしい、殆どワレの中で溶けてしまったか、あるいはワレが変わったせいか……』
「──ファーカラル様! 変わったとはどういうことですか?」
「驚いた……バスタァか。またファーカラルの影に隠れていたのか。クラーカスに見つかったら殺されてしまうんだぞ? ファーカラル、なぜ影に入ることを許した。いくらお前の子らがかわいかろうと、甘いだけではまともに育たん」
ファーカラルの影に隠れていたバスタァが、影の中から勢いよく飛び出し、ファーカラルに質問をぶつける。
『変わったとはそのままの意味だ。バスタァ、お前はワレを知らん。昔のワレは、今とはまるで違う……きっと、あの頃をワレを知れば、お前たちはワレを嫌いになるだろう。いや、今でも本当は嫌うのが当然なのだ。だがお前は、お前たちは……』
「安心しろ、ファーカラル。お前の子らは俺が守る。それがお前との約束だ。俺がラインマーグを倒し、アラバイルを殺し、天界を滅ぼすために必要な力を貸す。その交換条件なのだからな。まぁ、あの頃とは色々と状況が変わったがな……俺はもう、約束などなくともお前の子らを守るつもりだ。お前も、お前の愛するこの者達も、あまりに哀れだ。俺が救うべき、哀れな命だ」
「俺が救うべき、哀れな命だ……きゃー! ロストハーツおじちゃんカッコイイー! 包帯グルグルだし! 自分もおじちゃんみたいに包帯巻き巻きしたいです!」
「おい、やめろバスタァ! 恥ずかしいだろうが!」
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