第34話:王になってしまった
謎の強い力が俺に……? ていうか……オライオンドーズのやつ、しれっと人の戦闘力見てやがったのか……油断も隙もねぇな……だけど、その謎の力が俺にあるとして、俺はそいつを自覚してねぇし、どう使えばいいのかも分からねぇ。
仮にその力が使えるようになったとしても、文字通り次元の違う強さの邪神達と戦えるのか? もちろん勝つ保証なんざなくとも俺は戦うつもりだが……オライオンドーズの馬鹿げた戦闘力を見た後では自信がなくなるな。元々マロンちゃんにも絶望的な差があるとは言われていたけど、ここまでとは思っていなかった。
「そう落ち込むこともないよクロー? もし君が神となったなら君はオイラに勝てるだろうしね」
「え? そうなのか?」
「確かにオイラの攻撃力は無限だけど、あくまで物理攻撃力だ。君が神化したなら、君は精神生命体に近い存在になると思うんだよねぇ。そうなったらオイラの攻撃は大した影響は与えられないし、精神や魔力は君の方が圧倒的な数値を持つはずさぁ。ま、完全に肉を持たない神なんてほとんどいないから、オイラがそういうので困ることはあんまないんだけどねぇ。もしオイラが邪神になっちまったらそん時は、君に倒してもらうことにするよぉ。ははは」
俺が神になれば……邪神にも対抗できるってことか? 神になるってつまりそれは……俺が死んだ時……俺が死ねば……──
「おおて~~ぇぇええ~~ふって、わかれた~ちちとははぁ~~ソルトは、つるぎぃをにぎって、なみだをとめたぁ~」
──っは!? びっくりしたぁ。シャトルーニャの歌か……ソルトってそうかこれ……大昔の勇者の歌か……
「ギィギィ! ギィギィ! ギィイイーゴ、ギィイーゴ!」
なんだこの音……音の方を見ると元子供の歯車巨人達が自分の甲殻を擦り合わせて楽器のように使っていた。あれ……?
「きー、きー、ギーコ! ギーコ! オイラは~ソルトと一緒だよぉ~~」
「オギリィギギィ! ソビィシュルルドト! ズウォオオ!!」
やっぱり音を歌に寄せてねぇか? あの甲殻、結構色んな音出せるんだ──あれ? これって使えるんじゃねーのか? 頑張れば、音による会話が、あの仕組みを使えば……
「おーーい! お前らぁ! すげぇな! それどうやってんだ! 教えてくれぇ!」
俺は元子供に甲殻による演奏方法のやり方を教えてもらうために駆け寄っていった。子供達は戸惑いながらも教えてくれた。喋ることのできない者の代わりに陸戦兵士型の子供が俺に教えた。
シャトルーニャが歌を歌ってくれるから、こいつらは一緒に歌いたかったらしい。でも声を出せないからなんとか音を出せないかと考えていたところ、この方法を偶然見つけたとのことだった。
「なぁ、この演奏を今よりもずっとずっと発展させていったら、お前らも昔みたいに喋ることだってできるかも知れねぇぜ!? よっしゃ! お前ら、甲殻化してくれよ! 一緒に、声を取り戻そうぜ!」
「クローさん! それ、いいですね! きっとできます! わたしも頑張りますよ~!」
俺と子供達、シャトルーニャは甲殻の性質を調べながら、どのように音を出すのか、どうすれば音色を変えるのかを調べては演奏する毎日を送った。
そして俺はある大発見をした。あらゆるタイプの歯車巨人の身体構造には共通箇所があった、その場所は人間で言ところの胸部分に張り付いた甲殻だった。一見すると胸部甲殻のない砲撃特化型や水陸兵士型も、大きな外殻が胸部甲殻を覆っているだけで、内部にはきちんと存在した。というのもこの胸部甲殻は、こいつらが異形再誕する時に最初に構造変化が行われた箇所のようで、この部分を基盤として全体の構造変化をしていった。
この胸部甲殻は異なる性質をもった多層構造の板で構成されており、排熱機能と放電機能を有していた。胸部甲殻の外側、縁の方は神経や筋肉が存在するが、中央にはそれがないため、加工することも可能だということがわかった。
なので、この胸部甲殻に穴を開け、排熱機能の操作によって空気の出し入れを行えば、高度な発声機能の再現が可能かもしれない。
俺は子供達から得たデータを元に体内で歯車巨人の胸部甲殻を再現し、それを使って実験を重ねた。どのように穴を開ければ人のような発声能力を再現できるのか。みんなとあーでもないこーでもないと言いながら試した。
最初は俺達のことを訝しげに見ていた大人の歯車巨人達も次第に俺達を認め、応援するまでになっていた。そして、一日の研究が終わるとシャトルーニャが歌い、それに合わせて歯車巨人達が装甲武器を自身の体に擦り合わせて演奏をする。そんなことが日常となっていった。
そして装甲武器による演奏は俺達の拠点から離れた場所でも行われるようになり、少しずつ歯車巨人達はかつての明るさを取り戻していった。そして、ついに完成した。発声機能を再現するための胸部装甲の加工技術が。最適な穴の開け方を突き止めた!
発声手術を受けた歯車巨人達は声を取り戻した。多少の練習をするだけで、彼らはコツを掴み、ぎこちないながらも声による会話ができるようになった。彼らが声を取り戻していく度に、加工技術自体もどんどん発展していった。穴の開け方で声に個性を出したり、空気の抜き方で声色を替えたり、放電機能と小石を使って超音波を使う者まで現れた。
「ウナギィ・クロー、いやウナギィ王よ! 貴殿こそこの国の王に相応しい! いや、これから神となるのなら、神王か!」
「待てよウェイグストス! 王は、皇帝はお前だろ? それに俺だけじゃなくみんなで……」
「ククク、謙虚よのう。違うぞ神王殿! 確かに皆で成し遂げた偉業といえる! だがなぁ! 王とは! 導く者なのだ! 人々を導き、臣民の良き顔を取り戻した! その未来を切り開いたのは間違いなく貴殿なのだ! それになぁ、オレはこの肉体で戦場を駆け回りたいのよォ! 皇帝の立場など邪魔なだけ! 故に貴殿に王は任せる!!」
「いやいや! 戦いたいからって俺に王をさせようだなんて無茶苦茶だぜ! それに俺だって戦場に出るつもりなんだ。俺も王になるべきじゃない」
「いや、貴殿は王として縛られるべきだ。シャトルーニャから話を聞いた、貴殿は無鉄砲で人のために無茶をするとな。ならば王となり、無茶が臣民を傷つける立場となれば、貴殿は立ち止まることもできるやもしれん。なに、王の経験がなくともオレが助けてやるから、安心するがいい」
俺は歯車巨人の声を取り戻した流れで王となってしまった。だけど絶対に向いていない……俺はウェイグストスの言うように止まれるのか? 臣民と眼の前の悲劇を天秤にかけて、立ち止まれるのか?
だけど、そんな俺の心配をよそに、俺の戴冠式は盛大に行われた。歯車巨人達による大演奏と歌が式を彩った。
──────
「これで良かったのか? マキよ……オレには神王殿がこれで立ち止まるような男には思えん。アレからは馬鹿な男の匂いが染み付いているからな」
「多少は大人しくなるはずだも。だけど、本命の狙いはそこじゃないも。ここにお兄さんのための永世の都を作るためだも。お兄さんはいずれここを立ち去るつもりだったみたいだけど、こんな好条件の場所を逃す手はないも。神殿建設予定地のパープルランドに近く、現地民の納得を得た上で拠点を構えることができる。元々ラインダーク信仰の強いこの土地は、ラインダークの番扱いされているお兄さんがこの土地を支配することにも肯定的だも」
ワシャルドの王宮の内部にある命の神に祈りを捧げる祭壇の間、そこにマキとウェイグストスはいた。ステンドグラス越しに降り注ぐ陽の光が、マキの白い羽根の輝きを強くした。ウェイグストスはそれを見て、マキが人外であることを強く実感した。
「安心して欲しいも。この国とこの国の臣民はちゃんと守るも。悪いようにはしない……他の全てが壊れ朽ちてしまっても、この場所だけは守る。ウェイグストスとの約束だも」
「っふ……分からぬな。なぜあの男からこのような存在が生まれたのかが……オレが、その約束をしなければ……貴様は、この国を贄とするつもりだったのだろう? 邪神との戦い、その犠牲に……」
「わかってないなぁ。ウェイグストスは……この世界に生まれた時点で、誰もが創世神の生贄なんだも。この国も邪神との戦いは避けられない、犠牲者は必ず出る、抗えぬ定めの中で、人の魂を救うのが、お兄さんという存在なんだも。それがお兄さんの役目、マキの役目は……お兄さんを守る剣だも。あの輝きを守るためなら、なんでもできるんだも!」
マキにはワシャルドを邪神との戦争の戦場にした後、この大地をクローに支配させるという考えがあった。しかし、ウェイグストスがマキと取り引きをすることで阻止した。それは国をクローに譲り渡すというもの、マキとしては土地が手に入るならどちらでも良かった。しかし、シャトルーニャとクローが歯車巨人達と楽しそうに歌い、演奏する姿を見て、マキは穏便な方法を選択した。
クローは決して認めない方法を、できない方法を、マキは選択することができる。良心が消えたわけでもなく、感情が希薄になったわけでもない。クローへの狂信と、未来を見通す彼女の計算が、マキを闇へと導いた。何千という人々の叡智が交差して、強く結びついたその頭脳は、ある種の預言者と呼べる領域にまで達していた。
それはマロンが求めた橙の激流の外を見る力。マキはどちらでもよかった。マキは元から見えていた選択肢を選んだだけなのだ。新たな存在として生まれ変わり、その力に体が馴染んだ頃、マキには流動的で不確定なはずの橙の激流の外側が見えるようになった。無論未来の全てが分かるわけではないが、その計算を狂わせるのは理の外にあるものだけで、聖女の力以外では数えるほどしかない。
だからそれは殆どマキの予測した未来に進む。自分がどのように行動すれば、どのように未来が変化するかも分かる。どうあがいても生まれる悲劇と犠牲者にマキの良心は耐えられなかった。誰かを犠牲にすることで他の誰かを助ける。マキにできるのはそれだけで、ワシャルドを助ければ他の国の、罪のない者が犠牲となることも分かっていた。どの選択をしようと彼女からすれば、そこに正義などなかった。
マキは人を悲しみから救うための効率に、無機質な数字の世界に支配された。預言者として生まれた神々と違い、マキにはその預言の力を自分の意思で止めることができなかったし、その重圧に耐えられるように設計されていなかった。
いつかクローに自分のやってきたことがバレて、裁かれることになったとしても、それはマキの望んだ未来。むしろその終わりを望んでさえいる。マキの未来を見通す目には苦しみしか映らない。
「ごめんねお兄さん……黙ってて……みんなが蟲になっちゃうの……」
マキはウェイグストスが去った後、一人泣いていた。その涙を見るものが誰もいないことを知っていたから。
──預言の例外が自分を見つけることを期待しながら、泣いていた。
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