第32話:また傷つけてしまった
クロー視点に戻ります。
「マロンちゃん、地上に来たのは旅行目的ってだけじゃないんだろ? 旅行も兼ねて来たって言ってたわけだしよ。何か手伝えることがあるなら手伝うぜ?」
「実を言うと最初からそのつもりというか、君もこの交渉には出席してもらうつもりだよ。ボクはここに天界の神々の代表を呼んだ、ラインマーグがいないのはその代表の護衛役としてついてるからさ」
「え!? ちょ、そういうのは事前に言ってくれよ。伝える時間ぐらいはあっただろ?」
なんてこった……急過ぎる、俺はそんな想定全くしてないぞ? それにどうして俺を交渉に出席させるんだ?
「君は地獄と地上の両方を見てきたし、神となる予定だからね。これからの話をするのに君がいた方が都合がよかった。君に伝えなかったのは君が逃走する可能性があったからだ。相手方は君の呪い、人間を愛せない呪いの存在を証明をしろと言ってきた。君は意思を持って人間を傷つけなければいけない」
「何……? なんだってそんな証明が必要なんだよ……どうして俺がそんなことをしなくちゃいけない……」
「理由はボクもよくわからないけど。君が神としてどの陣営につくべきかを見定めるために必要だそうだよ。君の行動は邪神とは相反するが、力はどちらかというと邪神のモノに近い。君を現状の分類でカテゴライズするのは難しい……そして、分類が難しいのはファーカラルも同じ、今までの定義を考え直す必要が出てきたのさ」
「馬鹿なっ……そんな定義だのどうだのは勝手にやってればいいだろ。俺はやらねぇ、呪いの発動なんてしねぇ! 証明するってことは……俺の呪いで傷つく存在が必要ってことだ……呪いの効くやつが、俺の力に耐えられるはずがねぇ……」
「──いますぜ! ここに! クローさん! 俺には覚悟がある! あんたの呪いを一度、俺は体験してる。俺は耐えられる! 何度呪いを喰らおうが、俺は何度だって立ち上がってみせますぜ!」
「ど、ドラッシャー!?」
部屋の扉を勢いよく開け、暑苦しい大声が響く。そこにはドラッシャーとマキ、シャコがいた。そうか、もうそんな時間が経ったか。合流まで一ヶ月ぐらいと踏んでいたが、それよりも少し早い。
──────
神々との交渉は俺が普段遣いしているワシャルドの断罪神教の教会で行われることになった。出席するこちら側のメンバーは俺とマロンちゃん、ラインダークとドラッシャーだ。なのだが、マキは俺の体内に潜伏し、交渉を見守るつもりらしい。それって大丈夫なのかとマロンちゃんに聞いたが問題ないと言っていた。マキは俺の眷属や使い魔のような扱いになっているらしく、そういった存在は能力の一部として扱われる。今回の交渉では武装の解除は行われない、天界の神々はマロンちゃんを警戒しているらしく、彼らは自衛をするためにそうしたルールの上で交渉することにした。
ラインマーグを護衛として使う以上、実質的に武力で脅されているようなもんだが、ラインマーグは俺達の仲間だからな。あまり有効とは思えない。
マキとドラッシャーが合流してから三日、天界の神々がワシャルドへやってきた。仰々しい青色のゲートが街の中心に開かれ、その中から彼らはやってきた。そして、交渉の場である教会のテーブルについた。
「やぁどうも、初めましての方も多いから。自己紹介するよ、オイラはオライオンドーズ、今は唯一の破壊神だ」
破壊神オライオンドーズ……? こいつが?
破壊神は青ひげをたくわえた、ボサボサ髪で、汚いねぇくたびれたワイシャツのようなものを着ていた。無駄にニコニコしていて胡散臭く、背は高いがあまりゴツくはない。破壊神らしいが、あまり強そうには見えない。正直、世捨て人になってしまった元サラリーマンみたいな印象だ。
「あはは、君がクローだね? うんうん分かるよ。破壊神て大層な名前の割にオイラがあんま強そうに見えないんだろ? 実際さ、純粋な戦闘能力は低くてねぇ~能力を使ってやっと感じなんだよねぇ~。あ、ちょうどいい、君らにプレゼントを持ってきてたからついでに能力も見せようか。ほらラインマーグ例のモノを持ってきてよ」
オライオンドーズの護衛として同行していたラインマーグが鞄からビンを取り出しオライオンドーズに渡した。ワインかなんかか?
「チッ……」
びっくりした~。いきなり舌打ちが聞こえたから音の方を見てみると灰色の岩のような肌をもった男がいた。赤く鋭い目でラインマーグを睨んでいる。オライオンドーズはそんなことはお構いなしといった感じで、手に持った酒瓶を掲げた。
「さ、見てて見てて、いくよ~~? はいっと!」
──バギィイイイイイイィィィ!!
何かが割れるような大きな音が響いた。一瞬、酒瓶が割れたのかと思ったが、それにしては音がデカすぎた。
ビンは……割れていなかった。その注ぎ口近く、本来蓋がされている部分が綺麗さっぱり消えていた。なんの予備動作もなく、消えていた。砕けたでもなく、燃やされたでもなく、存在そのモノが消えたようだった。
「便利だろ~? でもホントさ、こういうことぐらいにしか役に立たないんだよねぇ~オイラの能力。戦い嫌いだから、やらないし、あんま意味ない。確かに本来は危険で強い力ではあるけど、オイラは使うつもりはないよ~? 君達と戦うことになったとしてもこの能力は使わないって約束するから安心してくれぃ! 戦うとしてもラインマーグとガオガオちゃんに任せて、彼らが負けたらオイラは降参する!」
なんだコイツ……戦うつもりがないなら能力を見せる必要なかったんじゃないのか? 無駄に警戒心を植え付けただけだと思うが……能力が使うつもりはないと言ったって単なる口約束。いざとなったらその約束を守る保証なんてどこにもない。
「オライオンドーズ、ボクは天界の代表としてアラバイルを呼んだはずだけど……どうして君が来ることになったのかな?」
「怖いなぁ~マロン。そんなんだからアラバイルもビビってオイラを代表代理として出向かせたんじゃないか。やれやれ、でも実を言うとオイラも今回は結構やる気あるんだよねぇ。だって噂のクローってトラブルメーカーボーイがいるって話だったし? 興味があったんだよねぇ」
俺に興味があるというオライオンドーズ。適当な雰囲気のこの男だが、それでも今はやる気のある状態らしい……
「ああ、でも安心してよ。代表代行として、決定権はしっかり俺が持ってるからさぁ。なぁなぁで済ますつもりなんてないよ。まぁ結果は交渉次第だけどっさ」
「なら早速議題に移らせてもらうよ。邪神の定義の再編について……」
そうして交渉は始まった。邪神の定義を考え直すのが今回の交渉目的だった。正確に言うと今邪神扱いされている者たちの一部を邪神ではなく別の扱いにすべきというのがマロンの要求だった。この議題が今上がるのには分かりやすい理由がある。それはファーカラル達の派閥、一部の邪神の暴走、暴挙によるものだ。
今地獄で邪神扱いされている者のほとんどは種族神で、天界の神々が認めていないタダヒト種族達の守護神だ。神々に嫌われた者たちを庇ったから邪神扱いされただけで、別に悪いことをしていたわけじゃない。そして地上で邪教を組織し、悪逆非道の限りを尽くしたもの達の派閥はほとんどが悪神で構成されている。一部、神々への憎しみから堕落した種族神もいるが。地獄の一般的な邪神達からすれば一緒くたにされたくはない。
しかし、地上も天界もそれに対する認識が薄く、彼らの多くにとって地上で暴れる者と地獄の邪神は同じようなものだ。ファーカラルが大暴れした今、この歪みを正さなければ無駄な争い、憎しみが生まれることになる。実態は違うのに、ファーカラルの仲間扱いされ、ファーカラルへ向かうべき憎しみが罪のないモノたちへと向かうことになる。
だからこそ今、邪神の定義を考え直す必要があった。マロンちゃんの提案はこうだった、ファーカラル達の悪神派閥を継続して邪神として扱い、無害な地獄の種族神達は獄神という新たなカテゴリで呼称する。獄神は地獄の存在のためにある存在で、元が種族神であったか、天界の神であったかは関係なく、その行動、スタンスによって決定される。さらに邪神も同様に、その存在は出身や所属地域によって決まるのではなく、その行動によってカテゴライズされるべきというのがマロンの主張だった。
「なるほどねぇ。その理屈でいうと今まで堕落して裏切った堕落神達も邪神扱いとなるわけか……逆に、オイラ達を裏切って地獄で生きても、その行動が悪意から来るものでなければ、獄神となる。ああ、もちろんマロンのことを言ってるわけじゃないよぉ~? そもそも君はみんなに頼まれて地獄に出張してただけだしねぇ」
「あなた方が今まで殺して来た堕落神達も、本当はそのほとんどが殺す必要なんてなかった。あんなのはただ天界のメンツを保つために行われただけ」
マロンのは放った言葉にラインマーグは震え、手で目元を隠した。元々誰に見えるわけでもない光で隠れたその顔を、ラインマーグに隠した。ラインマーグの隣にいるガオガオも目を伏せ、悔しそうに歯噛みした。
「安心してよ。ラインマーグ、君もガオガオちゃんにも悪くない堕落神を殺させてはいないから。そういうのは全部オイラがやったからねぇ。ま、でもマロンの言うようにするべきだろうねぇ。天界としても、無駄な争いなんてしたくないし……問題は天界の神々が地獄の者たちを見下していることにある。君らは異形再誕の被害をほとんど受けなかったんだろ? 地獄の方が天界よりよっぽど管理を頑張ってたってのに、お馬鹿さんだよねぇ。でも現実問題として、交渉をスムーズに進ませるには、地獄側からの対価が必要だ。対価で溜飲を下げさせる。君達としては気に入らないだろうけどね」
はぁ? 邪神の再定義には争いを避ける意味で自分たちにもメリットがあるのに、対価まで要求すんのかよ……オライオンドーズ自体はそんな気はなさそうだが、マロンちゃんはその話を聞いても特に動揺することはなかった。マロンちゃんは天界を嫌っていたが、それが何故なのか、なんとなくわかった気がする。
「そうだね。不本意ではあるけど、それよりも大事なことがある。元から想定もしていたことだし、こちらもその用意がある。こちらが出せる対価はファーカラル達が支配していた地域の支配権だ。今は暫定的にボクが預かっているけれど、あくまで暫定的な処置だ。意外に思うかもしれないが、それらの地域に腐敗やファーカラル達の影響は残っていない。なぜならボクがそうしたモノを排除した結果ファーカラル達が実権を失い、地上へ逃れたわけだからね」
「ああ? ならばマロン、貴様のせいで地上が、我々が被害を被ったようなものではないか!」
ガオガオがマロンを睨んで吠えた。
「勘違いしないで欲しいね。奴らは元から地上にも拠点があったし、地上での奴らの存在を許したのは君達天界の神々だろう。被害者面はやめて欲しいな。それともそんなことまで獄神に面倒をみてもらわなきゃまともに地上を管理できないのかな? 見下した存在に面倒を見てもらわなきゃまともに動けない? おかしな話だね」
「っぐ……マロン貴様!! ッチ……気に入らん。貴様もラインマーグも我より賢いつもりだろうが、常に正しいわけじゃない。ラインマーグも、我の地上が地獄と化すという警告をまるで聞かなかった。自分が地上を守るから地獄のようにはならないとほざきおったが結果はどうだ? 今や地上は地獄よりもそれらしいではないか!」
『……っ、そうだね。すまない……返す言葉もない……ガオガオ、君の言う通りだ。僕は甘かった、僕は誰よりも強いつもりだった。だからどんなことがあったって、跳ね返せると思った。でも無力だった。ファーカラルに滅茶苦茶にされた地上を見て、恨み言を吐きながら、敵の雑兵を殺すことぐらいしかできない』
「なっ……ラインマーグ。貴様……謝れたのか……わ、分かってるなら問題ないわ。それに……マロンや貴様の言う通り、我ら天界の神々の怠慢による所も大きい……認めたくはないが……我の支配地域が全滅し、我を信仰する者も数える程度しかいなくなった今ならば分かる……我らは気づかぬうちに、すでにファーカラルに負けていた」
ガオガオは謝罪するラインマーグのことを信じられないといった表情で見つめていた。なんだかやりづらそうにしている。まぁ気持ちは分からんでもない、ラインマーグは自信を喪失していて、いつものような余裕はない。
「わかったマロン、それで交渉成立としよっか~……さて、じゃあ本題に入ろうか? 約束通り見せてくれよ。クローの人間を愛せない呪いってやつをさぁ」
「……ッケ……」
「クローさん! 俺は大丈夫ですから! お願いします!」
オライオンドーズに呪いの証明を急かされる。俺を信頼して見つめてくるドラッシャーの顔を……俺は見ていられなかった。こんな証明になんの意味があるってんだ……
俺はドラッシャーに対して、呪いを発動させた。こいつと共に国を盛り上げ、楽しく暮らす未来を想像した。
「っぐっ!? ああっ!? うああああああああああああああ!!??」
「うおお! も、もういいぞクロー。もう十分だ……オイラが思ってたより全然威力が強いな。これが、ファーカラルの力かぁ~確かにこれじゃあ、いくらクローが人間に友好的でも微妙な立ち位置になっちまいそうだぁ」
俺はドラッシャーへの呪いの発動を止めた。地に倒れ伏して、息も絶え絶えなドラッシャーを見ていると、胸が痛くなる。そんな俺を見かねたのかドラッシャーは俺に対して健気に笑ってみせた。
……ったく、タフな野郎だぜ。
「なぜ呪いの証明なんてやらせた。訳を聞かせろよ。単に俺の立場を決めるってだけとは思えねぇ……」
「まぁ、少なくともオイラの理由としては事前に伝えた意味以上のことはないよぉ? ただ、最初にコレを提案したアラバイルの真意までは分かりかねるよね。クローとファーカラルの繋がり、因果を気にしてたみたいだけど……ま、見た感じ君は地獄の方で神をやるほうが無難だよね。君が無事に神になれたらの話だけどっさ。マロン、彼に天界へ渡す予定の土地の一部をあげたらどうかな? その方が、君らにとって都合もいいだろう?」
「いいのかい? 他の天界の神々が納得するとは思えないけど」
「その代わり、君には頼みたいことがあんのさ。邪教、邪神、奴らにいいようにさせないための対策法、ノウハウをオイラ達にも教えて欲しいのさぁ。ああ、あと地獄でオイラ達がもらう地域だけど、オイラとラインマーグ、ガオガオ、つまりは武神合軍が支配するつもりだから」
「なに? それを今ここで決められるものなのかい? 議論を──」
「──ははっ! オイラは天界で議論するつもりなんてないよぉ? だってさぁ、アラバイルのやり方に任せた結果が今なんだよ? 天界の神々のほとんどが大きな被害を受けて、神というより、ちょっと強い化け物ぐらいの、ちっぽけな存在になっちゃってさ。あいつらにオイラ達を止める権利も、力もない。正直、オイラだけでも他は叩き潰せるぐらいの戦力差がある。神々はそれを深く自覚しなきゃいけないよ」
「お、おい……あんた戦いは嫌いだって言ってただろ……」
「クローよぉ。オイラはさぁ、戦いは嫌いだよ? でも、必要ならいつだってやってきた。オイラが殺した堕落神には友達だっていたんだよ? 中途半端に壊れたプライドなんて再出発の邪魔なだけ、だったら完全に破壊して、謙虚さを取り戻すべきなのさ」
交渉はあっさりと終わった。破壊神オライオンドーズには他の神々に有無を言わさず、事を思い通りに運ぶ力があった。なのに、わざわざ天界への対価を求めた。それも結局、天界の他の神々に無力さを自覚させるためだったのかもしれない。対価がなんにせよ、オライオンドーズは仲間内の武神合軍でそれを独占するつもりだったんだ。
会議は終わり、一端解散となり、俺達の陣営とラインマーグは教会に残った。
「マロンちゃん。ファーカラル達の支配地域を天界にあげちゃってよかったのか? 嫌いだったんだろ天界」
「いいんだよ。あっちは土地を得たことで自分たちが一方的に利益を得たと思ってるかもしれないけど、ボクにはボクの狙いがあるから。結局、天界も地上も地獄も、それぞれがそれぞれの事情を深く知らず、知るきっかけもないのが問題なんだ。地獄に天界の神が必要、逃げてきた神じゃなく、あくまで天界の神としての立場を持った神がね。ボクはもう完全に地獄の……獄神になってしまった。天界にだって帰るつもりはない、でもそれじゃ橋渡し役になれない。オライオンドーズ達が実際に地獄と触れ合っていけば、その橋渡し役になってくれるはずさ、本人たちそんなつもりがなくてもね」
そうか、橋渡し役か……ラインマーグが言ってた話を思い出すな。エルフと怒鬼族が交易をきっかけに関係を修復していった話。オライオンドーズは邪教対策のノウハウをマロンちゃんに求めたけど、それも、もしかしたらマロンちゃんと同じ考えがあってのことかもしれない。教えてもらう過程で、互いのことを知っていく。ノウハウを仲間内に広めて行く時、ついでに地獄の本当を伝えていくような流れをオライオンドーズは見ていたのかも。
だけどアラバイルって神が、俺とファーカラルの繋がりを気にしていた……か。それに俺が神となってしまうだろうことも……天界では議論されているんだ。俺の知らない所で、俺の未来が決められているようで、正直ちょっとムカつくな。
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