第31話:しゃぶり尽くすと決めた
マロン視点の過去回想です。
──215年前、ボクがウナギィ君と初めて出会ったのは彼が閉じ込められた牢獄だった。
新しく部下としてやってきたフロデスマルクというグレート・ゴブリンから興味深い話を聞いたからだ。前世の記憶、それも異世界の記憶を持った呪いの肉人形の話、フロデスマルクはその呪い人形に人生相談をして、人生が上向いたとかなんとかで、その呪い人形を牢獄からどうにかして出してくれないかとボクに頼んできた。
ファーカラルの支配地域、つまりはファーカラルの所有物である彼をボクがどうにかできるかは微妙なラインだったが、とりあえず会って考えることにした。純粋に興味があった。簡単な彼の説明を聞いただけで変だと思った。常人なら数ヶ月も持たずに廃人化すると言われる呪いと魔蟲の拷問に、100年も耐えているらしい……それどころか元気に、強くなっているらしい。自身を監視する者たちを恨むどころか会話して仲良くなってしまったりとか、その一方でファーカラルを殺そうとしてるとか、色々とツッコミどころがあった。
ボクはとりあえずファーカラルの茨御殿の監査という形で彼に会うことにした。実際監査の予定はあったし、それも平行して行うつもりだった。先に監査の重要な業務を終わらせ、彼の牢屋にやってきた。薄暗くジメジメとしているので魔法で明かりをつける。すると顔色の悪い男がいた。
「君がウナギィ・クローだね? 部下のフロデスマルクから君の話を聞いてね、興味を持ったから会いに来たんだ」
「フロデスマルクの? あいつは元気にしてるのか?」
「え? うん、元気だよ。最近10人目の子供が出来たって言ってたよ。実を言うと彼に君を牢屋から出してくれないかって頼まれたんだ。でも君は書類上はファーカラルの所有物ってことになってるから、ボクには難しいことなんだけどね」
「10人目て……あいつも元気だな。良かった良かった。はぁ……でもムカツクなぁ~、俺がファーカラルの所有物扱いって? まぁ確かに、俺の体はあいつに作られたつっても過言じゃないけどよ。それ、どうなんだ? 地獄の法的にはさ? 一応人の魂入ってんだけど、それでもモノなのか?」
「え~っと、書類上君の魂は完全に破壊されて、最早生物の魂としての形を保っていない、残骸として扱われてるんだよ。でも見た感じ君は完全に残骸なんかではないよね。君以外のここに収監された者達は実際に残骸といえる状態となってしまっているがね。そもそも想定していないんだろう、ファーカラルの拷問を生き抜く存在がいることを。ボクもこの目で君を見るまで信じられなかった。いや、実はここに来る道中、君の存在ははっきりと感じられてはいたんだけどね」
驚いた……本当に人のように会話できるんだね……呪い人形の設計を見たけど、人の言葉を発する機能なんて備わっていないはずだ。なのに喋ってる……人ではなく上位存在が呪い人形に閉じ込められていて、念話によって会話をしている……とかなら納得もできただろうけど、どうも違いそうだ。フロデスマルクが言っていたことは全て事実なんだろうね。フロデスマルクの感情を読んで、彼が嘘を言っていないことは分かってはいたけれど……
ウナギィ氏の記憶を見れば分かることも多そうだが、正直見たくはない、デル姉ぇと違ってボクは記憶を読むと感覚まで再現してしまうし、大量の情報に耐えられる設計にもなっていない。ピンポイントで重要な部分を見ることもできるけど……そんな都合よくいくとも思えない、彼の背中から伸びる触手とその先端にある魔蟲の目玉を見るとそんな気は起きなくなってくる。か、考えるだけでぞわぞわしてくる……記憶を見るポイントをちょっとでもミスしたら……
「ふーん、なるほどね。まぁどの世界でもなぁなぁにしたいところあるわな。特にファーカラルなんてめんどいヤツをわざわざ相手にしたくないだろうし……別に俺は、そこら辺最初から期待してないよ。俺は自力でここを出る」
「自力で? しかしどうやって? 君が肉体をなんらかの方法で強化しているのは分かるが、そのペースではあと何百年もかかると思うよ?」
「時間が掛かるのは仕方ねぇだろ。実際俺の力が足りないってだけだ。それにあんまフロデスマルク達にも迷惑かけたくないしな。独力でやった方が迷惑もかからねぇ」
「迷惑をかけないで済む、ねぇ……じゃあ君は、ボクがその迷惑をフロデスマルク達に掛けないと考えているのかい? ボクにそんな馬鹿正直に話してしまってよかったのかな?」
「あっ……! い、今までの話……なかったことにできねぇか……?」
ウナギィ氏は露骨に焦っている。感情を読み取って見ると、焦りと後悔、フロデスマルクへの謝罪の気持ちが感じられた。本当に無警戒にボクに話してしまっただけみたいだ。ボクがフロデスマルクの名前を出したから警戒心を解いてしまったのかも知れないが……もしかすると最近はあまり緊張感のある形で生活を送っていないのかも知れない。
「なかったことにはならないけど、別に君やフロデスマルク達をどうこうしようとは思ってないよ。でもなんだか君が置かれた状態はイメージよりも悲観的でないというか、実際に君の近くへやってくると分かるんだ。不思議な空間だ。君の因果に取り巻くのは平和と愛、憎しみ、闘争心、正義、変化……それらが同居している。戦場の中にオアシスがあるような、もしくは戦場でも楽観的に笑っていられるような狂気というか……」
「え? 何? 占い師かなんか? あんたはいったい……」
「ああ、ごめんごめん名乗るのがまだだったね。ボクは鉄槌神マロン、今は地獄で魂の鍛造、精錬を行う者だ。地上の者達の魂の管理者と言ってもいい、悪人の魂を無垢な状態に戻したり改心するのを助けるのが仕事さ。それとは別に預言者でもあるから、運命を見る力も持ってる。それで君を取り巻く因果が見えたんだ」
「預言者? へぇ、よく分かんねぇけど、あんたは悪いやつじゃなさそうだな」
「え? どうしてそう思ったんだい? そんな要素なかったと思うけれど……」
「人相だよ。思い詰めて真面目を拗らせてるような顔、そういうヤツは悪いことする余裕なんてないからな。役割に徹するのに精一杯で、不器用に生きちまうんだ」
「なっ……」
真面目を拗らせた? ボクが? でも……確かに彼の言う通り、ボクには自分のわがままを通す余裕なんてない……部下や上司にも休暇を増やせと言われているけれど、やることが多すぎて、その状態で休む気が起きないんだよね……
けど、人相でボクがそういうタイプだと分かった……かぁ。知り合いにそういう人でもいたんだろうか?
「悪い、調子に乗ってわかったようなことを言っちまったな……なぁ、俺のことを助けなくてもいいけどよ。しばらく俺と話せねぇか? ずっと閉じ込められてるからな、暇すぎて苦痛なんだよ。こう、話せるチャンスが来ちまうと逃したくなくまっちまってんだ」
「で、でもボクとなんか話しても面白くないと思うよ? ボクが話せることなんて仕事の話ぐらいで、それも言っちゃいけないことも多いから、ふわっとした感じになっちゃうから……」
自分のことを客観的に見ると、面白くないヤツだなと思う。これで仕事が面白いモノだったらまだ救いはあったかもだけど、ボク自身もその生活にも面白みがない。
「いいからいいから、面白いかどうかは俺が決めることだし、俺が頼んだことだ。つまらなくても俺のせいだろ? な! な! 頼むぜ!」
物凄い食い気味だ……本当に暇で仕方なかったんだろうね……
──────
「──そうなんだ。ともかく地獄へやってきて、話に聞いていたのと実態は全く違うことがわかったんだ。元々天界は嫌いだったけど、今はもう二度と戻りたくない。まぁでも……でる……天界にいるお姉ちゃんにはまた会いたいかな」
「会いたいなら会えばいいじゃねぇか」
「できたらそうしてるよ。でも駄目なんだ、お姉ちゃんは面倒な女神だから……地獄に来たら多分無駄に争いが起きる。会うとしてもボクが出向く形だけど、今はそんな余裕ないしね。しばらくは我慢するしかない」
結局5時間ぐらいぶっ通しで話してしまった……一度話し出すと今まで溜め込んでいた色んな感情が溢れ出してしまった……ボクのつまらない話や愚痴ですら、このウナギィ氏は嫌な顔せず聞いてくれる。感情を読み取って見ても、全くつまらなそうにしていないし、ボクへの興味を保ったままだ。もし、彼が本当はつまらないと思っていたなら、ボクはこんなに話すことはできなかったと思う。彼に頼まれたことではあるけど、嫌な気持ちにはなって欲しくないし……あ! 5時間も話してた!? まずい……そろそろ仕事に戻らないと……
「お? そろそろ仕事に戻る時間か? 話してくれてありがとよ。また時間があったら俺と話してくれよ」
「え? でも、いいのかな……? それに、思い返すとボクばかり喋って良くなかったと思うし……」
「いやその方がありがたい。俺は話を聞くのはいいが、話すのはそこまで得意じゃない。きっかけがないとぱっと話すことが思いつかないんだよな。それにさ、お前もまだまだ話し足りないって顔してるぜ? どんだけ長い間溜め込んでたのか知らねぇけど、別に、我慢なんてする必要ねーよ。お前が俺と話して誰に迷惑がかかるわけでもない。俺はお前と話せて良かったと思ってる。むしろ人助けだぜ!」
彼は大きく口を広げて笑った。ボクは不安からまた彼の感情を読み取ってしまったが、わかったのは彼は本心から言っているということで、感謝の気持ちとボクを尊敬する気持ちが向けられていた。
どこにボクを尊敬する要素があったのかは記憶を見ないとわからないけど、やはり彼の記憶を見る気はおきない……彼は楽しそうに話している間も……呪いの苦痛によるダメージを受けていた。その痛みは小さなものではなかった……本人は慣れたと言っていたが、その痛みを感じなくなってるわけじゃない……強い痛みを感じたうえで耐える、それができるようになってしまったんだ。おそらく苦痛を感じる魂の感覚器が摩耗しても、彼の体内にいる魔蟲が治癒させてしまうんだろう。
だから苦痛への鋭敏な感覚がずっと維持されたままなんだ……だけどその一方で、魔蟲は魂の形に無頓着なようだった。対象が廃人になってしまっても、苦痛を感じてくれるなら魔蟲にとっては問題ないのだ。実際、彼以外のファーカラルに収監された者はその状態だ。考えれば考えるほどわからない……どうして彼がこんな、普通に笑うことができるのか、苦痛なく生きるもの達へ嫉妬することもなく、まっすぐなままでいられるのか……
「わかったよ。時間を作って君と話すことにする。週末のこの時間と次の日は君と話す時間にする」
ボクが……彼と話すことが、彼の助けになるなら。そう思ってボクは彼と話す時間を設けることを決めた。お互いがお互いのためになっているならいいことだしね。
それからはボクの働き方も変わった。今までは自分が働く量を増やせばいいという考えだったが、ウナギィ氏との時間を作るとなると、流石に無理が生じる。そこで、本格的に人材育成に力を入れることにした。他の地獄の神々や邪神達は上位存在でない者が重要な仕事に関わることを嫌ったが、ボクはそれを押し通した。
ウナギィ氏に相談しているうちに、自分がどうするべきか思考が整理されていった結果、たどり着いた考えがあったからだ。ウナギィ氏にはもっと人を頼るべきだと言われた。今まで散々他の人からも言われてきたことだけど、まるでボクに響かなかった言葉だ。だけど、ウナギィ氏から言われるとなんだか印象が違った。
「お前がそんなだと他のヤツが休みづらいだろ。だってお前、一応部下の心を読んで採用するかどうか決めてるんだろ? だったらお前の部下ってお前と同じく真面目なやつしかいないってことじゃん。そんなやつらがお前を差し置いて休めると思うか? お前が同じ立場だったらどうよ?」
ボクはウナギィ氏のこの言葉に全く反論ができなかった。実際、部下を採用するかどうかは、ボクがちゃんと調査したうえで決めたこと。ボクの趣味からして、基本的に真面目な者ばかりになってしまっている。
だがそこで気が付いた。ボクの心を読む力があれば、重要な業務を任せても問題のない人材の発掘が容易であること、そしてその人材を育成すれば、わざわざ神々ありきの業務運用をする必要もない。今までは自分がやればいいと思っていたから、考えつくこともなかった視点だ。
ボクはこの考えを使って地獄の神々を説得した。交渉がスムーズになるように神々の休暇を増やすこと、組織力の強化にも繋がることも前面に出して説得した。これにほとんどの者が納得した。といっても元から忙しくしていた神々の場合、休暇が増えても休むことはなく、自身の支配地域の内政に力をいれていた。
些細なきっかけであったはずだが、地獄全体が良い方向に大きく変わった。フロデスマルクがウナギィ氏のことを激推しする理由がなんとなくわかった気がした。確かにウナギィ氏自体がどうすべきかを具体的に考えるわけではないけれど、彼と話していると自然と自分の中の考えが整理されていく。自分にとって何が重要なのか? それを教えてくれる。
そして彼と話す習慣が出来て10年ほどが経ったある日、ボクは気がついてしまった。
「え? ファーカラルが地上で活動するための準備をしてる? そうか……なら、俺も本格的に地上へ出ることを急がねぇといけねぇな」
彼にファーカラルの近況を伝えた時、彼が言った言葉に、ボクはどうしようもない寂しさを覚えた。地上に行って欲しくないと思った。ボクは彼のことを応援していたつもりだし、彼のためになることをしたいと思っていたのに……彼の地上行きを阻みたいとさえ思った。
こんなに邪悪で、醜い感情がボクに芽生えたのは初めてだった。
「どうしても行くの? 君じゃとてもじゃないけどファーカラルには勝てないよ? それに……復讐をしにいったって、得られるモノなんてないよ……っ!」
「マロン、怒ってんのか? ……俺も分かってるよ。ここでの生活も大分楽しくなってきたところだし、このまま復讐なんてせずに生きるのも選択肢だってな。でも、納得なんてできない、頭では、理性ではやめた方がいいって分かっていても、俺には立ち止まる気がない……俺はもう、知ってるからな……ファーカラルがこれから地上で起こす悲劇は、生まれる悲しみは……俺があいつにやられたことよりもずっと重いものなんだよ。俺は馬鹿だからあいつに喧嘩を売って返り討ちにあっただけ、ただの自業自得だろ? だけど、なんも悪くねぇ、関係ないやつが、一方的に壊されんのは……絶対に納得できねぇんだ」
「そんな他人のための義務感で、邪神を倒そうなんて甘い考えだよ……君がいくら成長しようと追いつけないほどの差があるんだ。君の役割じゃない、手に余ることだよ」
「じゃあなんだ? 俺の役割は? マロン、お前の思う俺の役割ってなんだ?」
「そ、それは……ボクの……──」
ボクは続けて飛び出しそうになった言葉を発するのをやめた。ボクの話し相手として、ボクとずっと一緒にいればいい、それが君の役割だ。そんな馬鹿げたことを……ボクは本気で言いそうになっていた。それはただのボクの願望で、彼の役割なんかじゃない、彼はそんなことのためにこの世界に生まれたわけじゃない……ありえない。彼がそんな小さなことに収まる器なものか! ボクの寂しさを埋めるだけのお喋り人形をやらせるなんて──勿体ない。
「はは……知らなかった。ボクという存在がこんなにも無力で、醜くて、邪悪なんてこと……知らなかったよ。ボクが君をここに閉じ込めたって、君の心はいつだって君のもの、誰にも君の魂の行き先は決められない」
「マロン……」
「ずっと、ズルいと思ったんだ。ボクだけ君の心を読んでさ、ボクは自分の醜さを君にひた隠しにするのに……だからボクも──本心を話すよ。ボクは、君に地上へ行って欲しくない。ずっと、永遠にボクと一緒にいて欲しいと思ってる。そのためなら、君をここに閉じ込めてしまえとさえ思った。君の心を踏みにじったとしてもね……もう駄目なんだ……君がいないと……う、うう……あぅ……う……君がいないと、ボクは寂しくて死んでしまう! 君に依存してる。それも、よくない依存の仕方で……ボクには君しかいない。君にとってはボクだけじゃないかもしれないけど……いや……そうなんだろ? 君にとってはボクだけじゃないんだ。ムカつく……気に入らない! そんなの気に入らない!! ボクは、君の特別になりたいのに……」
言い切った。自分の本心を全て彼に、ウナギィ君に言ってしまった。醜い感情だった。ボクはそれと向き合うことも初めてで、誰かを愛するのも初めてだった。涙を自分の意思で抑えられない。自分が自分の思い通りにならない。
「寂しくてもお前は死んだりしないよ。マロン」
「うるさいなぁ! 知ってるよ、そんなこと……ものの例え──」
「──知ってるよ。マロンが本当はワガママで、寂しがりで、怒りん坊なことは知ってんだ。なのに我慢ばっかりしてよ、本当にそれができちまう、凄いヤツなんだ。だけど俺には我慢なんてしなくていいんだ。人の持つ役割ってさ、よくよく考えると別に一つじゃないと思うんだよな。世の中そんなにシンプルにできちゃいない。誰かと誰かの関係性の数だけ、役割はあるんだ。だから俺は、お前のワガママを精一杯受け止める役割だって持ってんだぜ? だけどなマロン、俺にも譲れないことはある。この復讐は、俺のワガママだ、そいつ以外のことでなら、俺はお前のワガママを精一杯聞いてやるよ」
え……?
え? え? え? え? え? どういうこと……? 本音を言ったら嫌われると思ったのに……嫌われて無理やり、関係性を断ち切って、彼の邪魔になるぐらいなら消えようと思ったのに……そんなことを言われたら……本当にボクは……君だけのものになっちゃうじゃないか。
だったら、ボクも君の特別になる。誰がなんと言おうと、君が違うと言っても、君はボクのものなんだ。だから──それを証明するための烙印を押そう。
「ちゃん付けで呼んでよ」
「は?」
「君はボクのワガママを大体聞いてくれるんだろう? だったら、ボクのことはマロンちゃんて呼んでよ。それとボク以外にはちゃん付けで誰かを呼んじゃダメだよ? あと……抱っこして……それと、ちゅ……ちゅちゅちゅ……あぁぁ~~うぅ~~」
チューして欲しいと言おうとしたけど、自分が耐えられなかった。顔を覆い隠して蹲っていると、ボクよりも大きな腕がボクを持ち上げてボクを抱き寄せた。ボクを抱き寄せた人と、ボクの目線の高さが同じになった。それだけでいつもと印象が違って見えた。いつもの見上げるようにして見たのとでは違って見える。ウナギィ君はいつも不気味な顔だったけど、同じ高さで見るとさらに不気味だった。よく見るとおでこの隅に傷があった。髪で隠れていて、本当に近づかないとわからないようなもの。その傷を触ってみる。
「これ、なんの傷? 君って傷が勝手に治っちゃうんじゃないの?」
「ああそれか? それは俺が魔蟲に頼んだんだ。前世ではそこに傷があってさ、俺にとって大事な思い出だったんだ。まぁなんてことはねぇ、俺がまだ7歳のガキンチョの頃、デカいガキに喧嘩を売ってやられた。ボコボコにされたし、喧嘩にも負けて死にかけたけど、それでも俺は勝ったと思えた。友達を守れたからな。その時わかったんだ、俺がどういうやつなのかが……俺にとっては最初の一歩で、大切な思い出なんだ」
「子供の喧嘩で死にかけるなんて、随分と治安が悪いね」
「そうだな。神殺しが成功しちまって、荒れた時代だったからなぁー」
「神殺し? それってどういう──わっ!?」
神殺しについて聞こうとしたところで、ウナギィ君がボクの頭を撫でてきた。
「撫でてほしいなんて言ってないよ? 撫でて欲しかったけど……」
「よーしよしよし、いやぁこう抱っこしてると思い出しちまってな。昔飼ってたペンギンと猫……ペンギンてのは飛べない太った鳥だな。あいつらは俺の抱っこの奪い合いをしてさぁ、懐かしいなぁ」
そう言ってウナギィ君はボクを撫で続けた。が、しかし、ここで違和感に気づく……明らかに手付きが人を撫でるそれじゃない、ボクはウナギィ君にまるで猫扱いをされていた。だけど、ボクを気持ちよくしようとしている。途中から撫で方が最適化されていき、エッチな撫で方になっていった。本人にはまるでそのつもりはないらしく、ボクは必死に耐えていた。しかし、触手を使うことをウナギィ君が思いついた段階で、ボクは耐えられなくなって気絶してしまった。
神を気絶させるとは……恐ろしい力だ……だけど起きた後の体は軽くて、体調もすこぶるよかった。
この日を堺に、ボクはウナギィ君の復讐を止めようとするのはやめた。地上行きも邪魔しない、その代わり、それまでにウナギィ君にワガママを沢山言って、ウナギィ君という存在をしゃぶりつくしてやろうと決めた。
少しでも「良かった」という所があれば
↓↓↓の方から評価、ブクマお願いします! 連載の励みになります!




