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第26話:戦いについていけなかった

 クロー視点に戻ります。



「クロー……そうか、お前がファーカラルの失敗作の、ウナギィ・クローかよ。そんでそこの忌々しいオレンジが聖女……カカッ! それが命の神と……ねぇ? 分からねぇなぁ、そんな預言があったなんて聞いてねぇからなぁ? 預言者がいて、どうしてオメェらを始末することができなかったのか……信用ならねぇなぁ、預言ってのは。目の前にあるじゃねぇか、断罪の流れを殺すための生贄がよぉ……」



「──っ!?」



 ──見えねぇ、グローカスの動きが! きっと俺を攻撃するために動いているはずだ……けど、避けられねぇっ……!! 見えすらしねぇもんをどう避ける……どうすんだ──



「──アブソリュート・ウォール!!」



「──ッ、クソがッ!! 鬱陶しいぞ女ァ!!」



 俺の前方に見覚えのある光の槍の壁が出現した。今回は檻の形をしていない、シャトルーニャが俺を守ることを優先したのもあるが、グローカスの動きが素早いせいで囲むことかできねぇんだ。



 けど……シャトルーニャが……攻撃を防いだ? 防げた? いったいこりゃあどういうことだ? シャトルーニャはグローカスの素早い動きを捉えるだけの目も反射神経もないはずだ……なのに、俺を守った……? どうやった……どうやって敵の攻撃を認識した?



「おい、シャトルーニャ……見えるのか? このクソ野郎の動きが……」



「見えません……けど、なんとなく……この場所に壁を出せばクローさんを守れるような気がして……」



「んだとぉ……? 直感で、偶然捉えたとでも言いてぇのかよ? 馬鹿を言うな、オレの動きはそんなフザけたモンでしのげるほどヤワじゃねぇ!!」



 怒るグローカス、攻撃を何度も繰り返しているっぽいが、その全てを結局中断していた。ヤツもシャトルーニャのアブソリュート・ウォールに触れるのはマズイらしい。だから光の槍を殴り、触れてしまう前に中断する……シャトルーニャは何度も何度もグローカスの攻撃を防いだ。偶然なんかじゃねぇんだ……



 まるで、未来でも視えてるかのように、シャトルーニャは精確に俺を守った。シャトルーニャは強いは強い、だけど……聖女の力以外はせいぜい多少強い人間程度、一般人の範疇を超えない……身体能力はグローカスとは比べるまでもなく、圧倒的な開きがある。強さの次元が違うはず……なのに普通に戦えている……なんだ、これは……俺の中の常識が、固定観念が崩れ去っていく音がする……文字通りレベルが違うはずなのに……まるで、シャトルーニャの望むようにグローカスの攻撃が誘導されてるみてぇだ……



 シャトルーニャ自体は攻撃を誘導するための何かしてるわけじゃない、工夫なんて一切ない……一方的に攻撃しているはずのグローカスから余裕の表情が消えた。焦っている、心理的に追い詰められている。そりゃそうだ、こんな展開読めるはずもない、この状況を生み出す仕組みもわからない……グローカスが俺が最初に受けた印象通りの、粗暴な馬鹿だとしたら……その仕組みを解き明かせるとは思えない……



「まるで予知だな……納得はいかねぇが、ともかくグローカスからの攻撃を受ける心配はしなくてもよさそうか」



「クローさん! でも防ぐので精一杯で、わたし、それ以外のことはできそうにないです! だから、グローカスと他の敵への攻撃はクローさんがお願いします!」



 そうだ、敵はグローカスだけじゃねぇ……シャトルーニャに言われて、俺は周りを見渡した。魔族達とグローカスの支配下におかれた騎士のアンデッド達がこの場所に集結している。時が経つごとに数を増やしていく、魔族達はシャトルーニャの存在と異常な展開にビビって消極的なようだが……アンデッドにそんな気後れはなく、ただじっと待っている。シャトルーニャの防御壁を突破できるだけの数が揃うまで。



 こりゃ……完全にアンデッド共はグローカスの意思に従ってる、細部まで繊細にコントロールしてるってことだ。ヤツもヤツなりに突破方法を考えていて、シャトルーニャの力を認め、恐れているからこそ慎重に動いているんだ。



 今アンデッド以外のやつらは怖気づいている。なら今打撃を与えれば、その動きはさらに鈍るはず、俺は触手を展開して敵前衛の魔族達、大柄な肉体を持つオーク達の体を貫いていった。あっさりと倒れ、死体となるオークを見て、小柄で弱い緑の子鬼のゴブリン達は戦意を喪失、逃走を始めた。



「おい! 逃げんな! 逃げるならオレがテメェ等を殺す!! オレは容赦しねぇ、最大限の苦しみを与えて殺す!! 分かったら戻れ!!」



 グローカスに脅されたゴブリン達は立ち止まり、逃走をやめた。しかし、竦んだ足が前に進むことはない、ゴブリン達は逃げることも前に進むこともできず、その場で立ち止まった。こいつらは烏合の衆だ、忠誠なんて存在しねぇ、ただ暴れたかっただけ、自分よりも弱いヤツをぶん殴りたかっただけだ。グローカスに脅されようと、許す気なんぞ起こるわけがない……だが、死体をグローカスがアンデッド化させた場合困る……



 俺はその対策として殺した敵の死体を体内へ取り込み、消化することにした。酸でドロドロに溶かして魔力に変換する。急速に消化をしていく影響で俺の体から煙が放出される。その光景を見たゴブリン、オーク達は逃げ出した、グローカスの脅しはもう役に立たないらしい。



「ッチっ……役立たず共が! 最初からこうしておくべきだったなァ!!」



 グローカスが全身から棘を出して、周囲の魔族達を貫いた。魔族の半分ほどはそれによって死亡しアンデッド化、残り半分は生きたままアンデッド化を進行させている。アンデッド化した部分に食われるように、侵食されていく。



 ああ、見えたぞ。今度はグローカスの素早い動きを捉えることができた。俺は魔族達を消化することで得た魔力を消費して肉体強化の魔法を展開させていた。動体視力と反応速度を向上させた。だが、見えても避けることは厳しそうだ。当たったらマズイ攻撃を避けられない……はっきり言って致命的だ。シャトルーニャが居なかったら、それを考えるとゾッとする……



 しかし、ざっと街を見渡しても、アンデッド共は街のほぼ全域に展開されているようだった。遠くからアンデッド達の軍団がこちらへ移動してくるのが見える。その一方で合流しない集団もある……となれば敵も俺達だけを相手していればいいってわけじゃないらしい……



「なぁ、一応聞くが……シャトルーニャ、ヤツのアンデッド化を解除することはできそうか?」



「だ、ダメです! さっきから試してるんですけど……元の存在から完全に変わってしまったみたいで……」



 そうか、時々アンデッド共がチカチカ光ってたのはシャトルーニャの解呪魔法だったのか……見た感じ解呪魔法を使ってもアンデッド共は軽い火傷を負うだけで、これならいっそアブソリュート・ウォールで完全に焼き潰した方がいい。つっても、シャトルーニャが攻撃に転ずる余裕はまだない……か。



「そうか……シャトルーニャ、グローカスはやっぱりアンデッドを操るのに体力も魔力も全く消費してねぇ……こっからアンデッド共が合流してくれば、ヤツが攻撃する必要もなくなって、肉体的な疲労も期待できなくなる。長期戦は不利、お前の体力が持たない……お前がアブソリュート・ウォールを展開する体力がなくなった瞬間に負ける」



 グローカスは得体の知れない聖女の力への恐怖からあっさりとプライドを捨てた。勝ちに来る、泥臭く、粘って勝つつもりだ。賢くはないみたいだが、自分が何をすべきかは分かってる……そんな感じか……実際、長期戦をされたら俺達は敗北する……違うな。負けるのは俺だ……俺が、足手まといになってんだ……シャトルーニャだって、守るのが自分ひとりだけだったら、この場から逃げ切ることだってできたろうし、もしかしたら攻撃する余裕だってあったかもしれない……



 俺に、何ができる? どうすれば勝てる? 俺にできることは、なんだ? 考えを巡らせる……呪い、呪いだ。俺が他のやつらより優れた点なんてそこぐらいだ。呪いとの親和性、呪いの知識、呪いのコントロール……そうだ……今の俺はヤツと同じ【蹂躙】の力を持っているんだ。ならその攻略法だって……見つけられるはずだ!



「悪いな、シャトルーニャ。しばらく俺は動かない、それまで耐えてくれ」



「はい!」



 元気のいい返事だ。なんの不安もない、完全に俺がどうにかできると信じた顔だった。胸が痛い、俺はこの状況を覆す方法を今から見つけに行くんだ。だが、もう決めたこと、迷うことなどどこにもない。俺は自身の魔蟲達の持つエネルギーを一つの目的を果たすために集中させる。俺の体内、ブレインズ・コロニーのドクター・ローチへと……視界がぼやけ、四肢から力が抜けていく。ドクター・ローチと俺の意識だけが動いている状態、隔離していたアンデッド化魔蟲が暴れ出す、だが好都合、アンデッド化した魔蟲から情報を分析していく、グローカスの【蹂躙・退廃】の力を──俺の持つ【蹂躙・喪失】を分析していく、その力の仕組みを深く分析していく。



 ああ、久しぶりだな……この感覚。この世界へ生まれた時の、地獄へ堕とされた時のことを思い出す。まともに動かない体の中で魔蟲達が暴れて、俺に苦痛を与える。意識だけの”俺”が存在する感覚、その感覚の中で俺は意識、魂の動きを観察してきた。もちろん目で見えるわけじゃない、感覚的な、イメージの話。だけど俺はその観察を繰り返し過ぎた──だから、はっきりと見えるんだ。



 ドクター・ローチにすら認識できない領域で得た情報を、ローチに渡していく。蹂躙の力のイメージを伝える。蹂躙の力は逆流だ、力の流れを遮る壁にぶち当たった激流が、正常な流れを押しのけ、覆すような……その壁は、この世界そのものだ。蹂躙の壁へと繋がる道を開いた激情、願いが逆流し正常な概念と法則を食い荒らす。



 食い荒らす? 蹂躙……まるで違うね。そんな大層なもんじゃない、力同士がぶつかり合ってどっちもぶっ壊れただけだ。勝利者なんてどこにもいない、何もない空間の中で、俺がルールだと叫んで、騙すだけ。壊れてしまった空間の中で、意思のない法則、概念は、エゴイストの意思に追従する。それだけが、その空間に存在する”流れ”だから──



「──はぁ、はぁ……クローさん。戻って来たんですね!」



「待たせたな。シャトルーニャ」



 シャトルーニャの体力は限界だ、息を切らして、汗まみれだ。俺が意識をこっちに戻した瞬間、辛いことなんて何もない、そんな顔をした。あれからどれだけの時間が経ったのかは知らねぇが、俺達の周囲を囲むアンデッド共の夥しい数が、過ぎ去った時の重みを俺に教えた。



「カッ! 悟ったような顔しやがって、ムカつく野郎だなァ! お前が待たせすぎたせいで、その聖女様も限界みたいだぜぇ? どうすんだぁ? オレのアンデッド共に生きたまま食われてみるかぁ?」



「”死体は動かない”……”誰の言うこともきかない”」



「はぁ? 気でも狂ったかぁ?」



「”触れても腐らず”──”ただ土に還ることを待つ”」



「あぁ? さっきから何を言って……」



「──何って、元に戻してんだよ。思い出させてやってんだよ。元ある流れ、元ある形、今ここにある場所で、ルールはお前じゃない! ルールはこの俺、ウナギィ・クローだ!」



 研ぎ澄ました俺の意識、精神のエネルギーをグローカスの蹂躙の力で虚ろになった空間にぶちこむ。強い力の一部は実体化し、緑の光となって、この場に存在する者たちの肉体を通り抜けていく。



 ──バタ、バタバタ……



「え……あ? う、嘘だろ……なんで……何が起こってやがんだ!! テメェ! 何しやがった!!」



 アンデッドであった者たちが大地へ倒れ込んでいく。グローカスがアンデッド化させていた者たちはただの死体、あるいは体の一部が壊死した怪我人となった。蹂躙の力で崩壊した概念、ルールを復元したからだ。



 グローカスは激怒した。状況をはっきりと認識できてはいない、だが、俺が何かをしたというのが分かるだけ。だが、怒りから俺に攻撃を仕掛けた。これ以上俺を自由に動かせば、死ぬ……そんな想像をしたのだろう。



「──アブソリュート・ウォール!!」



「──っ!? あ──」



 グローカスは光の槍を束ねた分厚い壁に、真っ二つにされた。胴と足に切り離されて、その断面をオレンジ色の光の残滓が焼いていた。



「どういう……こった……なんで……こんな、理不……尽……納得できねぇ……」



「……ああ、俺もそう思うぜ。だが、お前が敵に回した聖女は……理不尽そのものなんだろうぜ」



「違う、お前だ……! お前がやったんだろ……聖女でもないくせに、特別でもないくせに……このオレを……!!」



 流石に邪神、神だけあってタフだな。真っ二つになっても元気だ。



「俺がやったはずだ。でも、俺じゃない……俺だけがいたってこうはならねぇ……俺だけなら……俺はお前にあっさり殺された。俺は蹂躙の力を生み出す、理不尽の壁を見た。同じ……同じ色だった……お前を焼く光と同じ色……偶然なんかじゃねぇんだ……奇跡も、救済も、敵対者からすれば、理不尽そのものだ」



 偶然なんかじゃない、俺がここに来たのも、俺とシャトルーニャがグローカスを倒すことも……マキに仕組まれたときに感じたような……得も言われぬ、胸のざわつきを感じた。ただ違いがあるとすれば、マキの時と違ってなんとなく無機質というか、強いエゴや情念が乗っていないような……駄目だ、うまくまとまらない……



 シャトルーニャは良いやつだ。だけど……その後ろにある力……それは、俺が求めた力で、俺が嫌う力だった。俺は人を傷つけ、苦しめる理不尽が嫌いだ。だが同時に、そんな理不尽を覆す力にも憧れた。けど結局、それは同質のものだ……使われる方向が違うだけで、ただの暴力だ。有無を言わさず、弱い力を押さえつけて思い通りにする。



 シャトルーニャなら力を正しく使えると思ってはいる。なんだかんだ優しくて、正しくあろうとする強い子だから。でも、だけど……シャトルーニャが”使う側”じゃなく、あの力に”使われる側”だとしたら?



 だとしたら俺は、俺は……




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