第24話:理解が面倒になってしまった
「なに? 守球の渦? それってどういう場所なんだ?」
「えっとね。世界中の呪いとか瘴気を集めて、まとめて浄化してるところ。うちが作った装置なんだよ? 元々はこんなのなくても自然に浄化されてたんだけど……いつの間にかされなくなっちゃったから、うちが作ったの」
「は? え? 待ってくれよ……世界中の呪いがパープルランドに集まってたのって自然現象じゃなかったのかよ……それに自然に浄化が行われなくなったってヤバイんじゃねーのか?」
「ですよね? やばいですよね!? やっぱヤバイと思ったのわたしだけじゃないですよね!?」
俺もシャトルーニャも危機感を覚える。当たり前に生活してたけど、この世界って……結構綱渡り的な危うさのうえで成り立ってたってことじゃ……
「元々はうちの魅了の呪い対策で作ったものだけど、それ目的では駄目だったの。でも地上で浄化が行われなくなったから丁度いいと思って使うことにしたの。装置を調整すれば、パープルランドにも人が活動できる場所を作れると思う。だから、ね? はやくいこ?」
ということで俺達はパープルランドの中心地、守球の渦へと向かった。まぁ障害なんて何もないのであっさりとたどり着いた。そこには巨大な卵のようなバカでかい装置があった。
「……ねぇ、クローくん……クローくんの神殿の横にうちの神殿も建てていい? だめ?」
装置の調整を頼む手前、元々住んでた場所の土地をもらう手前……断るという選択肢がない……予定とは違うが、仕方ないだろう。けど命の神も認めたってことで、俺が他の神に認められるのも早くなるかもしれない。そう考えるとむしろいいことか?
「駄目なわけないだろ? 本当はお前が支配してた土地なんだしさ。ただ、そうする場合、信者達が争わないようにする工夫とかが必要になるかもな。まぁ、それはおいおい考えてけばいいな。とりあえずパープルランドの一部を解放して、人が通れる道も作る……あれ? そういやなんで……なんでラインダークと青怒鬼達はこんな濃い瘴気とか毒が大丈夫なんだ? あ、そうか……その装置のおかげってこと?」
「違うよ? 装置じゃなくて単純にうちの力で弾いてるだけ、子供達にもうちの加護を与えてるから毒も瘴気も平気なの。じゃあ、装置の調整するねー?」
さらっととんでもないことを言いつつ、ラインダークは装置に触れて操作を始めた。魔力制御によって動く装置らしく、魔力の流れによって明滅している。
しばらくして、ラインダークが装置から離れると。変化はすぐに起きた。少し遠く、パープルランドと外界の境界付近、入り口付近で竜巻が起きた。ただの竜巻じゃない、離れていてもしっかりと目視ができる大きな竜巻だ。少しして竜巻が収まるとそこは瘴気も、毒の沼もなくなっていた。
人の活動できるエリアがパープルランド内部にできた。そこへ繋がる外部からの通り道もできた。とりあえず、ここまでくればあとはマキ達に報告して神殿の建築にも取り掛かることができる。
「……なっ……なんだよ、これ……」
そんな時だった。
パープルランド内部の瘴気が一気に濃くなった。そして、急激に瘴気が濃くなった影響で、人が活動できるようになった瘴気の晴れたエリアに──再び瘴気が戻ってしまった。
「これは……パープルランドの中だけの話じゃねーみたいだな。大量の瘴気が、どこかで、一気に放出された……いや、どこかじゃねぇ……なんとなくの方向は分かるぜ。あっちだな、嫌な感じが……あっちから来やがる……」
俺は嫌な感覚のする方角を指し示す。
「その方角にあるのは、ワシャルド帝国だね。いったい何が起きてるの?」
ワシャルド帝国……パープルランドと近い、ラインダークと縁のある国だったか。そのせいか、ラインダークは少し心配そうにしている。
「おいシャトルーニャ、確かめに行くぞ。お前も来るか? ラインダーク、気になってるんだろ?」
「う、うん! そうだよね。もう魅了の呪いもないから、外を確かめにいってもいいんだよね!」
俺とシャトルーニャ、ラインダークはワシャルド帝国方面へと急いだ。ラインダークは俺が腹からシャコ=カリスを出すとびっくりしていたが、そのシャコのおかげですぐにワシャルド帝国へとたどり着くことができた。たどり着くまでに大河もあったが、その流れに負けることなくシャコは俺達を乗せて泳ぎきった、超スピードで。
ワシャルド帝国は──燃えていた、死臭と瘴気を漂わせながら。魔族、明らかに地上の者ではないやつらが、人間やエルフ、ドワーフ達、この帝国の民を蹂躙していた。見せしめのように嬲った、四肢を切り落とし、犯し、拷問していた。逆らえば同じにしてやると、人々を脅していた。
ワシャルドは帝国だ。複数の国を支配する、それが可能なだけの力を持った国だった。それが、一方的に蹂躙されている。人々を守る騎士達の死体が散乱している。人々を守る意思のある者達はすでに死んでいた。そして、かつて人々を守るために存在した者の亡骸は、死した後も動き続けていた。アンデッド、皮肉にも彼らは、敵として屠るべき者のために動いていた。
突発的に、あっさりと都市は落ちていた……普通であればありえないこと、魔族達がただ地上攻めを行ったとしても、こうはならない……そう、問題は……こうなってしまった原因は魔族なんかじゃない……遠目でも分かる、圧倒的な存在感を放つ、あの男が原因だ。
「【邪神・グローカス】……知ってるぞ。あいつは知ってる……ファーカラルはあいつの元部下だ。刺突の悪神、【蹂躙・退廃】を持つ男だ」
人間の少年のような見た目だが、こいつは邪神。白髪頭で、手首から黒い棘が突き出ている。邪神の分類の一つ、悪神の中でも武闘派、俺ではまず勝負にならないだろう。気づかれたらまずい……──っ!?
「──う、あ……?」
「なんだぁ? お前、いい女連れてるじゃねーか」
グローカスは俺達に気づき、一瞬で距離を詰めてきた。もう、遅かった……グローカスはラインダークに手を伸ばし、触れようとする。
「──やめろ。テメェみたいなカスが触っていいヤツじゃない、こいつが呪いを解いたのは、もっと楽しくて、あったけぇもんを見るためだ」
グローカスのラインダークへと伸ばす手を、俺は払い除けた。
「く、クローくん……」
やっちまった……反射的に、グローカスに喧嘩を売っちまった。まぁ、元々俺はこいつを放っておくことなんてできなかっただろうが……死んだな……
「はぁ? 雑魚のくせにウザいなぁ……──【蹂躙・退廃】」
グローカスは雑魚と判断した俺に対して、慢心することなく、蹂躙の力を行使した。グローカスの手のひらから棘が突き出し、それは俺を貫いた、退廃の力を乗せて……退廃、その能力は対象を腐らせ、自壊させる力。言ってしまえば、触れた箇所をアンデッド化させ、肉体の他の箇所を攻撃させる能力、さらにはアンデッド化させた存在を操る能力。蹂躙の力であるが故にアンデッド化の解除、解呪は不可能。
俺は肉体を操作し、グローカスの棘攻撃をほとんど回避することに成功したが……完全に回避することはできなかった。刺された腹の一部がアンデッド化してしまった。俺は元々アンデッドに分類されるが、それを構成する魔蟲はそうじゃない……腹のあたりに居た魔蟲数匹がアンデッド化し、俺の体内を攻撃し始めた。
これは……まずい……たとえ蹂躙だろうと格上に対してはほとんど役に立たないのが普通だ……でもこれは違う……俺に対しては刺さりが悪いが、この能力は……グローカスの圧倒的な格上であるラインダークにも有効だ。
なぜなら、ラインダークも蹂躙への耐性はなく、攻撃するのは蹂躙の力を受けた自分自身の肉体、能力だからだ。っく──
「わりぃ、ラインダーク。俺の中に仕舞うぞ」
「え? クローくん!? ちょっとま──」
俺は腹を開いて中にラインダークを仕舞った。ラインダークが敵になったら終わっちまう。
「クローさん、敵の能力知ってるんですか?」
「ああ、簡単に言うと触れた相手をアンデッドにして寝返らせる能力だ。防御不可で、解呪も基本的にはできない。呪いのくせに格上狩りが得意なクソ面倒なやつだ。ラインダークが寝返ったら、この国が滅ぶだけじゃ済まねえ……天界も地上も、地獄も終わりだ」
「ええ!? そ、そんな……あの、それ言っても良かったんですか?」
「あん? 今の女がラインダークだって? カカカ、そりゃいいこと聞いたぜぇ。お前を始末して中からあいつを引っ張り出してオレのペットにすりゃあ、お前が言った通りのことができるなぁ?」
「……」
ま、またやっちまった……グローカスの力の説明をするまでは良かったけど、ラインダークのことは言うべきじゃなかった……けど……本当にマズイな……
どうすんだ、マジで俺達が負けたら世界の終わりだ。ラインマーグを呼ぶか? け、けど……あいつが寝返ったらそれこそ、終わりか……蹂躙の力に対抗できるのは聖女であるシャトルーニャだけだ、こいつだけが頼りだ。アンデッド化しちまった魔蟲は幸いごく一部の少数、だからダメージ自体はそこまでない。隔離もできた……
なんで、なんだってこんな……いきなり世界の命運をかけた戦いをしなきゃいけなくなるんだよ……格下狩りに特化した呪いの力がメインの俺が、経験の浅い聖女と二人だけでこの圧倒的格上のグローカスを倒さなきゃいけない……お、終わってる。
だが、そんなことを言ってる場合じゃない、やらなきゃいけねーんだ。ああ、そうだ、どうせ見過ごせず戦うことになってたんだ。それが早まっただけ、なぜか世界の命運をかけた戦いになってしまっただけ……だけ? だけじゃないだろ!? 流石にッ!
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