第23話:軽い気持ちで重みを背負ってしまった
「そういう運命だのなんだのはどうでもいいけどよ。ラインダーク、あんたは他の存在を気遣ってこんな誰も近寄らない場所に住んでんだろ? 他の奴らの迷惑にならないために……だけど、そんなあんたが命の神として認知されてる。怒鬼族達だけじゃなく、外の人間族ですら知っていた。まぁ引きこもってるせいかあまり有名じゃないみたいだけどさ……これってよ、直接関われないにしても人々を助けてきたからじゃないのか? 命の神と呼ばれるだけのことをしたってことだろ?」
「……それは……うん。うちは存在の命の力を活性化させることができるから、その力で何度か滅びゆく国や街を救ったことがあるの。まぁその……元気になりすぎちゃって人口爆発も起きちゃったんだけど……えっと、大陸西側の【ワシャルド帝国】って知ってる? パープルランドの近くにあるんだけど、あの国の元となった街が、うちの救った街なの。当時は荒れててね……戦争で負けて、略奪されて、誰もが見捨てたあの場所が……なんだか、寂しくて……まるで自分を見ているようで……ちょっと助けてみようって思ったの。でも結局、うちが救ったあの場所にも、うちの居場所はなくて、自分がやったことの影響で、歴史も地図も、変わっちゃって……怖くなったの。自分の力を使うことが。まぁ今は魅了以外の力の制御はしっかりできるから、力を使ったところで大事にはならないと思うけど」
さっきまで敵対心むき出しだったシャトルーニャは、ラインダークの話を聞いて黙った。一転、同情して、眉尻を下げている。
「なるほど……ラインダークさんはいい人だったんですね! なんだかちょっとクローさんと似てますね。クローさんも人間を救っても、人間と関わることができない悩みを抱えていますから、助けても居場所がないというのは一緒です。でも、クローさんは人間以外だったら普通に関われますから、またちょっと違うかもです」
まぁシャトルーニャの言うことは間違っちゃいない。俺は魔族だとか神だとか他の亜人族とは普通に関わってきたからな。ラインダークは血族である怒鬼達が生まれてきてくれるまで……ずっと一人、孤独だったはず。その寂しさ、悲しみは俺なんかと比べるのもおこがましいほどに、深く辛いものだったろう。
「しかし、魅了以外の力はしっかり制御できる……か。軽く力を使っただけで世界の歴史や地図を変えてしまうほどの力の強さ、それならその力を使って魅了の呪いをどうにかできそうなもんなんだがな。まぁ、当然試しはしたんだろうが」
「うちもこれまで数え切れないぐらい試してきたんだけど、いつも弾かれちゃうの。なんていうか、滅茶苦茶硬い盾に阻まれてるみたいな感じで……魅了の呪いがしっかり守られてるの。その守りさえ突破できれば、制御して呪いを浄化できそうなんだけど」
制御自体は可能だが、そのためには呪いの防御を突破することが必要で、それができない……これは、いけるかもしれねぇな。
「ラインダーク、こっちに来い」
「え? う、うん」
ラインダークの胸の上あたりに俺の手を当てる。ラインダークの魅了の呪いの力が一番強く感じられる場所に。
「え!? え? え? うぇええ!?? クローくん!?」
「ちょちょちょクローさん!?」
「──【蹂躙・喪失】──おい、今なら魅了の呪いの制御できるんじゃねーか?」
「え? 呪いの制御……わ、嘘……これなら!! アルタード・サイクル!」
俺はラインダークに【蹂躙・喪失】を使用した。マキを助け出すためにピエールから支配権を奪った力だ。支配権を得たということは、当然俺も使える。喪失の力によってラインダークの魅了の呪いを守る盾の防御力は0になった。その変化を感じたラインダークは魔法を詠唱した。ラインダークを緑色の光が包む。
緑色の光はラインダークの内部へと浸透し、また外部へと放出されを繰り返す。最初は柔らかな印象だった光は、形を変える。雷のような鋭さと激しさを持って、彼女の全身を通り抜けていく。そうして、緑の稲妻が収まった頃、ラインダークは俺の顔を見た。
「できた……できちゃった……魅了の呪いの制御……浄化、できたと思う……ね、ねぇクローくん。今、うちから魅了の呪い、出てる?」
「出てない、完全に制御できてるぞ。はぁ、まさかこの呪いが格上相手に役立つことがあるなんてな……」
「え? クローさんそれってどういうことですか? 蹂躙の力って神でも無効化できないんでしょう? だったら強い技能じゃないんですか?」
「無効化できなくとも、影響を受けつつ行動することは可能だからな。確かに蹂躙の力は基本的に無効化できない。だが強い存在、格上の存在はその影響を受けてもゴリ押しができる。例えば俺がラインダークの魅了の呪いの守りを【蹂躙・喪失】の力で防御0にしたとしても、俺はラインダークの魅了の呪いを制御することはできない。なぜなら俺は例えラインダークがまるで抵抗しなくても、呪いを制御できるだけの力を持ってないからだ。だから呪いの制御と浄化自体はラインダークが行った。ラインダークはそれを可能にするだけの力を持っているからな。見るべきはその存在の持つエネルギー量なんだよ。俺は金庫を開けられても、中にある重い財宝を運ぶ筋力がないってことだ」
結局、その問題にぶち当たるんだよな。邪神だとか神だとか、上位存在を相手にするときは……俺が呪いの大蛇に対してゴリ押しができたように邪神も俺に対してゴリ押しが効く。持ってるエネルギーの総量がまるで違うからな。俺がこの世界に来て気づいたことだが……この世界の生物に限らず全てのモノは、見た目や重さが、その存在の大きさと一致しないってことだ。小さく軽い、ガキみたいな存在がありえないパワーで巨漢を打ち倒す、なんの工夫もなくパワー勝負をしてそれが可能な世界。
俺の感覚で言うと、体重やガタイのデカさを折り畳んでどっか別の空間にしまってるような感じに見える。だから本当はこの世界の強いやつらはとんでもない巨体のデブだと思ってる。その重さ、総量の削り合いをして、勝負をしてる。その削り方だとか、効率だとか、色々選択肢はあるが……頭を使って工夫をしてどうこうってのにも限度がある。限度はある……限度はあるが……俺はそれで諦めることができそうにない。
「ま、ともかくよかったな、ラインダーク。これでこの世界とちゃんと関われる。お前の神生はここからまた始まるんだ。んじゃ、もう引きこもる必要もなくなったわけだし、俺がこのパープルランドを支配させてもらうぜ! そんで神殿を建てる」
「えぇ! ちょっとまってぇ! そんなこといきなり言われても……うち、どうしたらいいか分かんないよぉ……ねぇ、い、一緒にいよ? やっぱ、呪いを解いてもらった恩もあるし……結婚とか……」
「結婚? あー恋愛とかに憧れてたのか……まぁ今まではしたくてもできなかったわけだしな……でも、もう俺じゃなくても結婚できるようになったんだし、そう俺に拘ることもねぇだろ。こんな呪いの触手人形なんて相手にすることないぜ。まだ会ったばっかしだし、ちょっと冷静になろうぜ?」
「ちょっとクローさん! それは流石に酷いです!! 分かってるんですか!? クローさんはラインダークさんにとって、永遠の呪いから解放してくれた王子様なんですよ……!? たとえ会ったばかりだとしても、それは劇的で、濃密で、何万年の無為な時間より、ずっとずっと価値のあるものなんです!! 結婚には反対ですが! そんな気軽に気持ちを踏みにじるのはNGです!!」
「おいおい、さっきまで、会ったばっかりで何言ってんだってラインダークを煽ってたのはお前だろ、シャトルーニャ……でもそうだな。軽はずみな発言だった……すまん。ラインダーク、お前がこの世界と関わっていって、色んなヤツと触れ合っていって、それでも俺が好きなら、その時は俺も答えを出すよ」
なんだかやり捨て優柔不断男みたいな発言だが……そもそも俺もこの状況がよく理解できていない……ラインダークは今まで恋愛なり結婚なりを夢見て、妄想を膨らませて来たのかもしれないな。無理だと思いつつもいいなぁって思ってさ……正直俺はラインダークは恋愛の耐性? というか、他人を恋愛的な意味で好き、愛しているという感情を理解できているのか怪しいと思ってる。俺も正直よくわからない分野だけど、恋に恋をしているという表現を聞いたことがある。そんな感じなんじゃないか?
てか、さっきまで俺だけがラインダークと恋愛ができる存在だったからその特別感から盛り上がっちゃっただけ、ノリで言っただけだろ。だとするなら……ラインダークは恋に憧れる少女みたいな感じで、見た目より幼いのかもしれない、少なくとも恋愛的な意味では……そういった経験がない俺が言えたことじゃない気はするけど……
「いやぁ、クローさんはエルフ並に禁欲的ですなぁ! 魅了の呪いがなくとも、ラインダーク様は世界トップクラスの美女ですから、その誘惑に耐える……そんなのもう男じゃない! どうなってんだ!? ●●●ついてんのか!? 美しさに失礼ですぞ!!」
集落の長老、バジルが俺にキレ始めた。なんでぇ?
「いや●●●ついてないぞ。必要ないと思って作らなかったからな」
「え? じゃあ……作ろうと思えば作れるんですか? ワシに……若い●●●作ってもらえないでしょうか? 取り替えて欲しいんじゃが」
「もう! 何いってんのバジル!! 全く……」
俺は長老のアレ制作を断り、このパープルランドに来ることとなった経緯をラインダーク達に詳しく説明した。そしてラインダーク達は俺に協力を申し出てくれた。ありがたいことだが、正直ラインダークは扱いに困る。恋愛的などうこうじゃなく、純粋に力が強すぎるからだ。おそらくラインマーグよりも圧倒的な格上だろこいつ……軽く話してわかったが、シャトルーニャが言っていた通りラインダークはかなり古い時代からいる神だった。しかも生き神で、一度も死んでいないし、生まれてから今までずっと成長を続けているらしい。そして生まれてから今までが10万と2015年、つまり10万2015歳……成長する神は珍しいらしいし、恐らくこいつに勝てる奴はほぼいないと思う。
まぁ本人は戦闘が発生することもない環境にいたし、魔法系能力に特化しているようだから、単純な肉体の強さ、身体能力は高くないかもしれないけどな。
「じゃあ、守球の渦にいこうよ」
守球の渦、謎の名称がラインダークから飛び出す。どうやら俺達の次の目的地はそこらしい。
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