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登校日

 月曜日の朝、僕はいつものように、通学路である簡易裁判所の前を通った。

チラッと横目で見ると、敷地を管理している作業着姿のおじさんが、

箒で落ち葉を掃除している。当然だけれど、何も変わった様子はなかった。

 教室に入ると、僕は何食わぬ顔で自分の席に向かった。そして仲の良い

友達と挨拶しながらも、ちらりと井上君の様子を窺う。


 彼は賑やかなグループの中でいつもと変わらず、穏やかに笑っていた。

あぁ、良かった。彼の罪は許されたのだと、僕はどこかほっとしていた。

しかし、それは甘かった。教室に山ちゃん先生がやって来て、朝のホーム

ルームが始まると、例の件を話し始めたのだ。


「期末テストが終わった金曜日、帰り道にゴミを捨てて、注意された人が

います。悪いことをしたら絶対に、誰かが見ているからな」


 そうしてしばらく山ちゃん先生が説教をしている間、クラスの空気は

重々しく、僕は目を伏せて何も知らない振りをしていた。みんなどこまで、

何を知っているだろう。当事者である井上君のことを見る余裕など無く、

僕はただただ心の中で、「一度明るみになった罪は、人の記憶に残って

消えることは無いのだ」ということを、まるで自分がやったことのように

痛々しく感じていた。


 話を終えた山ちゃん先生は、僕達の気持ちを切り替えるように、両手を

パンパンと叩いた。そして「勉強に集中しなさい」と言い残し、いつもより

長めのホームルームが終わると、山ちゃん先生が教室から出て行く。


 緊張感から解放されてそっと顔を上げると、前の方に座っている

井上君の背中が見えた。だが、その後ろ姿はみんなと変わらず、今、

彼がどんな表情をしているのかは分からなかった。

 そして1限目が始まるまでの休み時間、彼に話しかけようとする人は

いなかった。そして気づけば、2限目が始まる時にはもう、席に彼の姿は

無かった。クラスメイトの誰かが、

「山ちゃん先生も、みんなの前で言わなくたっていいのにな」

と呟くのが聞こえた。


 学校が終わると、僕はいつものようにリュックを背負い、友達と別れ、

教室を出た。そして帰り道、僕は一人、あの簡易裁判所の前までやって来た。


 夕暮れに溶け込む、大きなキンモクセイの木。重なり合った葉は、

黒い影になっていて、井上君が残した罪の色がちらつくようだった。

 あの時、彼が投げたペットボトルをこの木が飲み込んで、誰にも

見つからなかったとしたら。そうしたら井上君の罪は静かに夜を迎えて、

彼は自分自身と、その罪について静かに向き合うことができたのかもしれない。


 そんなことを考えながら歩き出すと、煙草をふかしながら前を歩いていた

おじさんが不意に、自動販売機の釣り銭が出る取り出し口に手を入れた。

その人はジュースを買っていない。つまり、誰かのお釣りの取り忘れを期待して、

ああやって自動販売機を見かけたらチェックしているのだろう。そして何も

残っていないことが分かると、赤信号を無視して、横断歩道を渡っていった。

 赤信号で立ち止まった僕は、その行為が罪なのかどうか考えていると、

なんだかどうにもイライラしてきて、信号が青に変わった瞬間、目に留まった

足元の小石を蹴り飛ばそうとして、やめた。

通勤中にふと思いつき、国語の教科書にありそうな話を書いてみました。

料理で例えるなら「国産若者のストレス エーミール風味 人間失格を添えて」

って感じです。意味不明だし、あんまり美味しく無さそうですが、

食べてもらえたら嬉しいです。

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