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第2話:敵を回復しちゃダメだよ!?

「くそっ……」

「勝負あったようね!」


 ひざまずいた怪人ダイニワーに魔法少女ホワイト・ルークは杖を突きつけた。

 敗北に、怪人がガックリと首をうつむける。


「さあ、観念なさい!」と、ルークが杖を振った刹那――


「ホーリー・フラワー!」


 高らかな詠唱とともに天からの温かい光が怪人を包み込む。マーガレットの花弁が空から降り注ぎ、ポコポコと頭に当たった。


「な!?」


 驚愕し、ルークは慌てて声の出どころを探す。聞き覚えのある声。見覚えのある魔法。


「クレヨンちゃん!? なにしてるの!?」


 魔法幼女が――あれからやっと聞き出した名前は、イエロー・クレヨンだった――大人用の傘程はありそうな杖を天に掲げていた。


「せっかく倒せそうだったのに! 敵を回復しちゃダメだよ!?」

「だって、痛そうだったから」


 その余りにも純真な答えに、魔法少女は絶句しそうになる。


「だ、だって、あいつは怪人なんだよ? とーっても悪いやつなんだよ?」

「悪いやつなら、殺してもいいの?」


 クレヨンの放つ哲学的な問に、今度こそルークは絶句した。

 今まで何体もの怪人を葬ってきたが、そんなことは考えたこともなかった。

 だが、ここで引くわけにはいかない。


「で、でも……悪いやつは倒すのが、魔法少女の仕事なの」

「魔法少女の……お仕事?」

「そ、そうよ! わかったら、下がって大人しく――」

「わかった!」

「え!?」


 わかったという返事とは正反対に、クレヨンはトトッと先陣に立つ。

 横向けた杖を、両手で握りしめた。

 空気が凛と張り詰めたのを、ルークは感じた。

 魔力の奔流が、風となって周囲を吹き抜ける。クレヨンのお下げ髪が、エプロンドレスのスカートが、パタパタと揺れる。

 まだなにも唱えていないというのに、足元が光り輝いていた。


「す、すごい……なんて魔力……」


 あっけにとられて見守っていたルークだったが、続く少女の言葉に青ざめた。


「ジェノサイド・ブレイ――」

「だ、だめえええええええぇぇぇ!?」

「んんっ!?」


 ヘッドスライディングで飛び込み、大慌てでクレヨンの口を塞ぐ。間一髪で、魔法の成立を防いだ。

 幼女が唱えようとした魔法は1つしか考えられない。

 ジェノサイド・ブレイカー。街1つを丸々クレーターに変えてしまうような、最上位の攻撃呪文だった。

 ルークですら、存在を知っているだけで使うことはできない。

 それをこんな小さな女の子が、なぜ!?


「もう! なにするの!」


 ぷくーっと頬を膨らませて、クレヨンはルークを睨む。

 その愛らしい様に気が抜けそうになりながらも、ルークは必死で説明した。


「クレヨンちゃん。ジェノサイド・ブレイカーは、やめようね。なにか、他の呪文は使えるかな?」

「ホーリー・フラワー!」


 元気よく答えるクレヨンだったが――


「そ、そう。……他には?」

「……ない」


 自身の呪文が役立ちそうにないことを察して、しょんぼりとうつむいた。全身が、プルプルと震え始める。


「おい……ルークが子供泣かせてるぞ……」

「うわ、酷ぇ……あんな小さい子供が頑張ろうとしてるのに……」

「あんな人だったんだ……もっと優しいかと思ってた……」


 まずい、とルークは慌てて周囲を見渡した。

 明らかに、ギャラリーの視線が冷たくなっている。

 いい加減、観客の存在に説明が必要だろう。

 神が信徒の信仰によって力を得るように、この世界では正義の味方も悪の怪人も人々の支持で力を得ている。

 魔法少女は正義を示すことで、怪人は悪としてのカリスマを見せることで、その能力を発揮することができるのだ。当然、支持者が増えるほど力は増し、減るほど常人に戻っていく。


「ク、クレヨンちゃん! じゃあ、ホーリー・フラワーにしよ! ね?」

「うん!」


 パアッとクレヨンの顔が輝く。

 ルークは立ち上がると、スタンバイ状態で硬直していた怪人に向き直った。


「ぐげげげげ……今度こそ負けんぞ、魔法少女」

「何度やっても結果は同じよ。正義は、負けない!」


 ダン、と2人は同時に地を蹴った。


「フレイム・セイバー!」

「ぐおおおおっ!?」

「ホーリー・フラワー!」


 ルークが怪人を炎の剣で斬りつけるが、瞬時にクレヨンが回復する。


「サヴェッジ・クロー!」

「きゃあああああ!」

「ホーリー・フラワー!」


 怪人が闇の魔力をまとった爪で斬りつけるが、瞬時にクレヨンが回復する。


「ライトニング・バリスタ!」

「ホーリー・フラワー!」

「ソニック・ブロー!」

「ホーリー・フラワー!」

「ウィンド・ミキサー!」

「ホーリー・フラワー!」


 攻撃が当たると、即座に傷が治療される。当たらなくても、とりあえずマーガレットがポコポコと落ちてくる。

 いつまでも、勝負はつかない。回復の間もなく1撃で相手を屠るほどのパワーは、お互い持ち合わせていなかった。


「……はあ……はあ……なあ、これって俺たちが痛い思いをするだけじゃないのか?」

「……うん」


 いい加減、虚しさに気づき、2人は戦闘態勢を解いた。


「……今日のところは、(けえ)るわ」

「ありがとう。助かる」

「いいってことよ。引けない身分も、大変だよな」


 怪人は労るように魔法少女の肩を叩くと、戦闘員とともに撤退していった。

 ルークはクレヨンが褒めて欲しそうにしているのに気づき、さんざん迷った末に頭を撫でてやる。

 悪いからって殺していいの?という先程の言葉が思い起こされた。

 このクレヨンの言葉がきっかけとなり魔法少女と悪の組織は後の世で和平の道を歩む……などということは一切なく、翌日の戦闘で怪人ダイニワーはルークに撃破された。

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