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第七話【道場と能力と自転車】

能力者というものはどれほど増えるのだろう。


彼らにもまた潜在意識にある力が眠っているのだろうか。


平等にあるはずの強い力。


それが世界のバランスを崩しているというのも不思議な話だ。







「と、いうことで!高橋瀬菜ななのです!」



羅列した“な”をよくもこう噛まずに言えるものかと先輩の膝に座っている小柄な白衣の少女を見て思う。


そして捕まっていた彼女を見て以降始めて会う洋介も彼女に挨拶をした。男ですと念押しをしていうも、


「強がらんでも分かるのです…何か、事情があるのでしょう?」


と逆に高橋に宥められてしまっていた。


呆れてものも言えない僕らについに彼女はブブケン一番の問題を突っ込んでくる。


「そいえば入ったはいいのですが、この部の活動ってなんなのです?」


今までまともに活動なんてものしてこなかった。ただ人集めのために広報ばかりをしていて肝心というか普通やるべき活動というものを一切行なってこなかった。


それもこれもこの部長が全くその話題に触れようとしてこなかったというのもあるのだが、人のせいにするのもよくないこれは僕も触れていなかった問題である。


「い、今は部員がピンチだからその後に…」


「活動をしていなければ入る人も入らない人なのですよ?」


なんとなく聞いててスッと内容の入ってくる言い回しではなかったが、要するに本末転倒ということである。


「……」


何かを言おうとしているがそれ以上のカードを用意していなかったらしい先輩は膝に乗せたその優秀な部員に隠れてしまう。


「文芸文化ということは能力者についての歴史とかもその部類に入ることになるのですよね?」


たしかに文芸に関していえば「三英雄」についてがメインとなるためそこから転じて能力者全般についての研究を行うということも入らなくもない。


「うん…」


自信なさげな先輩の同意を得た高橋が彼女の膝の上に立ち上がる。


「でしたらもちろん!“ヴォイス”、“拳闘術師”、“セブンワーズ”、“二字能力”、“アーティファクター”などについて研究することもやぶさかではないということになるのですよね!」


この間のことをまるで悪い夢か何かだと思っていた僕はそういえばこの子は能力者に関しての研究を行う天才だったのだということを思い出す。


あっけらかんとした知らない専門用語を出された時の苦笑いにも似たそれを浮かべていた彼らに高橋は常識を知らぬ子供に教えるように言う。


「なるほど…なら私が順にこの能力種についてお教えするのです!そしてその歴史研究をこの部の活動にするというのはどうなのでしょう?幸い能力種は大量に存在し、まだ原因のわかっていない能力もたくさんあるのです!その研究を論文にすれば高校生としては十分な成績を残せたと言えましょう!」


そう言うことがあって、この部の活動内容が彼女の能力者情報を主軸とした研究となることが決まったのだった。


・・・


いつもの時間、バイトがあるためそそくさ部活を抜けて片道30分くらいする道のりを自転車で走っていた。


(能力か)


記念すべき第一回目に言われた言葉がかなり刺さったのだ。


ー能力には絶対にその能力を得るまでに原因があるのです!古代から存在している……ー


拳闘術師は日蝕の日に消えた8名の末裔、ヴォイスは人に感染する病気が原因、セブンワーズは二字能力を配っているゲームの試験的な配布、アーティファクターは意思のある危険物(アーティファクト)を所有もしくは契約した人。


他にも宝眼など原因が定かではないものも多いそう。亜人なんてものはすでに人間と同じ扱いになっているため能力としては認められない。


(…なら僕の能力って)


ー簡単に言えば同じような経緯で能力を手に入れた人たちを総じて一つの能力種としてるのですー


(同じ経緯と言ってもこの力は気づいた時にはすでにあったし、中学も小学もずっと同じようないつのまにかって人はいなかった…せめて言うなら一度だけ“効かなかった”と言うことがあるくらいで…)


「あー!ちょちょちょきみきみ!!」


ちょうどいつも通る地下道を走りきったあたり、橋を渡り切ってきたであろう道着を着た男が僕の前に立ちはだかった。


「え?は、はい?」


「そう!君!今から家帰るとかだったらごめん!自転車貸してくんねか!!」


何やらあちこちをキョロキョロ見ながらそう聞いてくる彼にもう怪しさしか感じられずハンドルを少し握りしめこちらへ寄せることで回答をしたところ、


「頼む!今追われてんだ!その制服、うちの学校のやつだよな?俺も弧城(こじょう)なんだ!明日には返すから!頼む!!な?」


グイグイ距離を詰めてくる彼の押しに耐えきれず、ハンドルを離してしまうと彼の来たであろう方角から同じ道着を着た逞しい男性たちが3人ほどこちらに走ってきていた。


「っべ!!すまんほんと!!」


彼は一言も貸すといってない僕からハンドルを奪い取るとそのまま僕の通ってきた道をまっすぐ走って行った。


「えっとその自転車…あー」


あの自転車実は古いこともあって癖がある。


ギアは6まで設定できるが、その最後の6まで3あたりから一気にギア変更をしようとすると…


「っわ!!なんだこれ!!うわああああ」


チェーンが外れて足に絡み付いてくるのだ。


その痛々しい現場を見ないようにと目を伏せようと地下通路の方を見ないようにしたが代わりに追ってきている道着姿の男たちが目に入ってきた。


彼らは僕に近づいてくると、


「同じ道着を着た…」


とまで言って僕が指を地下通路に指してることに気がつき、言葉を詰まらせる。


(そら)殿!!」「ああ!!なんてことだ!」「うせやろ」


なんだかわからないがその3人はこう時代錯誤な言い回しをして多分結構な傷を負っているであろう彼の元に慌てて走っていく。


(ん?なんか一人だけめっちゃ冷静じゃ…)


流石に当事者状況を確認しないということも出来ず、目を開けてゆっくり地下通路に目を向ける。


そこには先ほどの彼が膝を押さえながらオンオンと悶えのたうち回りそれを宥めようと慌てる道着姿のものどもが映った。


案の定僕の自転車のチェーンは綺麗に吹っ飛び地下通路のど真ん中に綺麗な縁を描いて落ちているが、


不思議なのがその彼、多分外れたチェーンが運良く当たっていなかったのだろう血が出ている様子が一つもない。


半ば安心しながら、すぐに駆け寄りお三方へ頭を下げた。


「ほんとすみません!」


「何故あなたが謝るのですか」「そうですよ私たちはちゃんと見ていましたから!」「んだわな、空が勝手に奪って勝手に事故ったんやろ?」


3人ともかなり人ができているようで謝罪するつもりがなぜかあちらが謝るような空気になってしまった。


「我々近くの拳闘術道場に通う門下生なのですが、彼はその師範の息子でして…」


「こんの甲斐性なし、稽古バックれようとしててな?それ追いかけてたわけよな」


二人が僕に話しかける間残りの方がその彼に肩を貸して立ち上がりこちらへ連れてこようとする。


「や、やめろう!!俺は嫌なんだああ!!くそおおおお!!」


「やめんかこの!恥ずかしい!」


うち一番背の高い話し方に少し時代錯誤感のある人がどこからかハリセンを取り出し思い切り彼の腹を切るようにというよりバットを振るように殴る。


「ぐほあ!」


気絶でもしたのか首の力が完全に抜けるとその人が彼を担ぎ上げる。


「あーあー、こりゃいかんな、しぃかり直さんと…」


するとクセのあるエセかどうかもわからない関西弁の方がチェーンを持つ。


「八戒、お前自転車持って、」「わ、私がですか…仕方がない」


そして二人で分担して自転車も担いでしまうと、


「この自転車は弁償します故…念のためというか一度道場までいらしてはくれませんか?」


と丁寧語の自転車を持ってくれている方が言う。


「あ、えっとこれくらいなら僕全然直せ…」「そう言わずに、なんなら車を」


「いやいやそんな、」「では近くですので」


圧に負け、道場までついていくことに…


(ば、バイトぉおおおおおおおお)


この比較的筋肉質な人たち誠実そうには見えるがどうにも脳筋感が否めない。態々転がせばいいものをどうして自転車を担ぐ必要がありましょうと突っ込みたいのを隠し、歩いていく。


そして、


「うわー」


圧巻な風景、どれほどの門下生がいるのか一部欠けて入るものの1クラスほど人間が縦横綺麗に並び四角を作って立派な道場の外で型の練習をしていたのだ。


それもものすごい声量と繊細な動きみんな同じタイミングで同じ声を発するためそれで何か一つに生物、地面の中、根っこで繋がった竹みたいな植物にも見えた。


「拳闘術師は知っていますか?」


そう聞かれ、いいえと答える人はあまりいない。今や日本一というか世界一の格闘スポーツとなっている拳闘術。僕もテレビとかでよく見る。


“念”という人間の影に潜む半透明な概念的超存在を見れる“念視者”だけがその技術を粋まで極めることができ、それを格闘技として活かしているのが“拳闘術”だ。


選手こそ少ないものの、その技の派手さや今ではCGイメージを反映した演舞なんかもあるためパフォーマンスとしても有名でありかなり色んな流派と下位流派に分かれているらしい。


念視暦、拳闘研究という学問があるほどに日本での歴史は古く、より詳しくその技術が他方に活かされている。


「まあ少しだけ…」


成績とかそういう以前に趣味として見ていたためそれくらいの知識はあっても実際にどんな技があるとかどんなかたがあるとかまでは詳しくはない。そもそも念視者でもないためたいして見ていないというのもあるが、


「我々は“大樹”の流派でして…わかりますかなあのよく変身して鎧を出したり獣になったりなどするあの、」


「ああ、はい!あれですねよく見ます」


(わかりやすい流派で助かった…テレビでよく見るやつだ…)


念視者以外では普通“念”は見えない。大樹はそれを具現化して扱うことができるため、その技術をアームドつまり、自身の硬化や幻獣、武具の具現化に回す“着衣”という技の種類に特化した…格闘技としてそれはどうなのかという流派であると、説明を受けた。


「先ほども見ましたでしょう?空殿の様子、あの状態では必ず鎖は膝に食い込んで皮の一つや二つ剥がれているでしょうにそれがなかったというのは彼の無意識の才能というものなのでしょうが…」


その本人は現在道場の中に、八戒さんと悟浄さんと共に連れて行かれてしまい。


「うっせえクソジジイ!!死ね!!」


と言った具合で荒れた言葉を吐き散らして今し方道場から出てこようとしたところである。


しかし、


「笑し!!!」


という野太い声が中から響き渡ると、彼は何故か何も無い場所で転けて何も無いのにズルズルと道場の中に引きづり込まれていった。


(拳闘術…恐ろしや〜…っとそんなことより)


端末で店先に自転車が壊れたので遅刻しますと送り僕に拳闘術のお話をしながらチェーンを直してくれている三蔵(みぞう)さんの様子を見る。


「あの、大丈夫ですか?」


「手出しは無用です!どうなっているかはさっぱりわかりませぬが、きっと直して見せましょう!この自転車を!」


(あ、これダメなやつだ…というか何故そこで倒置法?)


「いいですよ、自分でやりますから」


「そんな!それでは義というものが果たせぬではないですか」


「いやいや、義も何も元々僕が自転車貸してしまったのが悪いんですから、僕は被害者じゃなくて加害者なんですって、」


子供じみたやり方かもしれないが無理くり三蔵さんから自転車パーツを奪おうとする。


「いやいやそれもこれも、うちのあのバカがあなたに頼んだのが悪いのですから、」


しかしもちろんのこと義理難いであろう彼は拒む。そうやって引っ張っていれば、おもちゃや積み木であれば容易く壊れてしまうものだというのは知っている。


(だがあくまでそれはロボフィギュアとかのお話。こんな金属でできたものがそうそう壊れることなんてない、こうなると体力で僕が負けてしまうだろうな)


などと考えて早々に次の手を打とうとした瞬間。


ピキン!という何とも耳に響くような金属音が聞こえ、二人で勢いよく尻餅をついてしまった。


道場外で訓練していた彼らも流石に手を止め足を止めその場に静かな時間が流れる。


「あああああ!!!」


最初に叫んだのは僕…ではなく三蔵さんだった。頭の片隅にでもこの結果を予測していた僕は呆気に取られることはあっても大声を出して悲しむようなことはなかった。


・・・


「「本当に!申し訳、ありません!!」」


頭を地面にめり込ませるほど強く土下座をする彼らを下に、道場内に上がることになった僕はその師範さんに謁見(いささか位を高く見積りすぎている気もするが)することとなった。


「本当にバカな奴らで申し訳ない…根は、いい奴らなんだ…ほんと…バカですまない」


頭を抑えて座る姿に何故か貫禄があるというか違和感がないというか白髪が綺麗にストレートになった仙人のような師範に心中お察ししますと言いたくなる。


「いやまあ、古くなっていたというのもありますから、もうそろそろ帰ってもいいですかね」


それよりも僕は自分のことである。バイトがある以上時間が惜しい。遅刻すればすぐ減給だ。今日のバイトは自給制、急げるなら走ってでもいきたいのだが、


「ならば明日、もう一度ここに立ち寄って…いやその制服、息子にここまで連れてくるように頼むとしよう」


その時はよく考えずに返事をしていた。


「はい、ではそれでお願いします失礼します」


この息子がどれほどのお馬鹿なのか今後知ることになるという事をしっかり考えておくべきだった。


翌日、


「おい!!道場行くぞ!4時までに連れてこないと親父に殺されるんだよ!早く乗れ!」


教室にやってきたのは、


荷車だった。




→#8「橋と約束と荷車」



VerGo:Only#7

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「次の収録は…えっとそのあとは…」


「増田さん、ちょっと…」


俺がタバコの箱を見せると、ズレたメガネを直して慌てていたはずの彼女がキリッと構え直す。


「程々にお願いします」


と言ってライターを渡してくれる。


「ヘイヘイー」


空返事をして車の外に、路肩に止めたワゴンの中ではスタッフさんが寝たり運転手が肩を回したりしてるが、


「…ふーうと」


風のある橋の手摺りにもたれてタバコを吸う。何か思い浮かぶかもなと仰け反ってみたりするが何も思い浮かばない。ただ灰が額にかかって少し熱いだけだった。


「なんでいつもここに来ちまうんだろうなー」


なんだか懐かしいような面白かったような自分の転機がここにあったような気がして、時折母校近くの橋に立ち寄ってしまうのだ。


道場の修練でよく走る道だったからだと毎回思っていたがこの日はなんとなく違う気がした。逆さまの景色をどこかで見た気がしてならなかった。


「そろそろ行きますよ!」


増田さんに呼ばれたためタバコと灰皿をしまってワゴンに乗り込む。


最近は忙しくていい。

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投稿者メモ

道場って平家っぽいから狭く見えますけど案外中は広かったりするんですよねw学校備え付けの道場とか意外に変なものいっぱいあって面白かったなぁ。

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