第六話【HACと白衣とハプニング】
彼女の記憶に誤りがないことから異常な記憶力があると言うことを知っていた。
あの時も、今回も一番梃子摺った。
それだけにあの時の彼女がどれほど苦しんでいたのかが今になって分かり苦しくなる。
もうこれ以上彼らに背負わせないで欲しい。
僕に出会わなければ苦しい思いをする必要などなかったはずなんだ。
「わ、私の記憶を消してほしいのです!!」
叫んだ彼女、部員のうち僕以外の2人は首を傾げている。
まるで能力者なんてものがこの世に存在しないものと思っているのか、まるで存在を忘れているのか2人で顔を見合わせるのだ。
「彼の能力は本当の記憶を再生するだけだよ?」
先輩が僕が言っていた内容をそのまま繰り返す。そう僕は2人に嘘をついている。こんな能力持っていれば危険分子と見なされかねない。関係が壊れることを恐れたのだ。
「それはウソなのです、私実は知ってるのです!」
何を言うつもりなのか彼女が胸ポケットからメモ帳のような物を取り出す。
「第四の三えい…」「!?」
ー僕は!第四の三英雄!“再記憶”の能力の持ち主なんだ!!ー
頭がおかしいことを叫んでいたクソガイジ時代、黒歴史、似た単語を聞くだけで腹が痛くなってくるような鼓動が早くなって如何かがしてくるような緊張しているような冷や汗を大量に掻いてしまうその言葉。
「…待て!わかった、ちょっと別の場所に行こう」
食い気味に彼女を止める。すぐさまその小さな腕を掴み彼女を机から引き摺り下ろして廊下へ、ここでは聞こえてしまうと思い屋上の階段へ向かい鍵が偶然開いていたためにその上り切ってすぐに屋上に彼女を押し込む。
「なんでそれを知ってる」
中学の関係者全員に記憶操作を行って僕の横暴な中学生活は消したはずだった。それを知っている人がいるなんて思っても見なかった。
「そんな血相を変えてどうしたのですか、そんなに話されたくないことだったのです?」
いや確かに洩れはあったとは思うがそれにしても同じ学校の制服を着ている輩にその指摘をされるとは思わなかった。焦って言葉がうまく出てこない。
「ああ、うん、とにかくその第四の…なんたらって」「三英雄?」
「っゔ…それ、や、やめてくれないか?」
痛いにも程がある。叙事詩の内容に憧れて一番やっちゃいけないことをそれも学校でやらかしているのだ。全員が僕のことを思い出していたらと思うと誰から命を狙われるかわかったもんじゃない。
(いや、大したことはしてないはず…いや…してるなカンニング合法化させたし生徒に優劣つけたりしたし…体育サボったり…生徒会長に八百長でなってたし…なんなら授業受けてもないのに皆勤賞もらったり…)
普通に犯罪になりそうなことを多々している。世間に広がるような奇怪な行動はあまりしてはいないものの、その事実を知っている人間が近くにいると言うのはかなり危ない。
「わかりました、じゃあ村上さん」
(強引だったけど、2人きりになることができた、相手はわかってか少し距離を取ってる気がする、移動中に記憶を消しておくべきだった…どうするこのままゴリ押しで彼女を拘束することもできるが…)
「確認を取るのです、第三中学の村上賢也さんなのですよね?主席卒業、元生徒会長の」
その質問を聞いて少し冷静になろうとしていた。彼女はなぜ僕に記憶を消してほしいのか、なぜ僕のことを知っているのかもし彼女の近くに僕のことを覚えている人間がいてそこから情報が流れているんだとしたらただ彼女の記憶を消すだけでは危機は去らない。
「…うん」
とにかく今は彼女に合わせていくしかない。
「では確定なのですね、思った通りなのです」
「なんで知ってるんだ、せな…さん?」
今更だが彼女の着ている制服、うちの制服で一年のリボンだった。と言うことは小学生ではない。この背丈で高校生だと言うのも不思議だが、
「高橋瀬菜ななのです、なんで知っているか、正直に話せば良いのでしょうか、なのでしたら今から二年前の話になるのです」
ーーーーー
「私は見たのです、あなたが公園で小学生に突っかかっているところを偶然、私は南中学でしたから、あの公園は帰り道だったのですよ…」
思い出される僕の大失敗の気づきの場所。公園に遊具が大量にあり、そこで小学生がなんとも楽しそうに遊んでいると思い悪戯をしようとして返り討ちにあった。
二人組の男子であったが彼らの策に見事にハマってやられたのちに記憶をいじって争わせようとしたのだ。
今思えば本当に慢心していた行為であり愚かだった。圧倒的な力に前に無知なガキなど簡単にひれ伏させることができると思っていた。
彼女の話す内容はまさにそのことであり、ぶつくさ言っていた僕の行動と言動を一部始終覚えていたのだ。
「あなたは言ったのです“記憶を消して、新しい記憶を差し込んでやる!”と」
あっている。改心したとプライドを一部曲げて彼らに近づいたところで2人の額に指を起き記憶を変えようと思っていたのだが、
片方戦略担当であろう子は記憶を見ることができず、もう1人の肉体系の子には警戒されていたのか避けられてカウンターのトンファーのような物を食らった。
それで勝てないと、そしてこの世には僕の能力が効かない人間がいると言うことを知った。初めての敗北で僕は、あの愚かな行為等を愚かであると気づくことができた。
ーーーーー
「わざわざ全部話す必要…ないと思うんだけどなぁ」
胃がキリキリして気分が悪くなってくる。
それからの罪滅ぼしと呼べない努力と隠蔽は順序良くいき卒業までに収拾をつけることができた……はずだったのだ。
「と言うことで、最近になって半信半疑あなたのことを調べてみたらこの学校にいるのでして、だから助けを求めに来たのです」
彼女の後ろ姿、鼻血に染みのついた背中が陽気に語る。
「ここまで僕の気力を削いで置いて何を言いますか…それで、何を忘れさせたいんですか?」
僕は本当に起きたことを見せる以外にこの能力を使いたくない。そうしないとまた自分に負けて、せっかく閉めたネジが緩くなってしまうような感じで記憶を必要ないのにいじってしまうかもしれない。
「研究内容なのです、私HACっていうところで研究を行って普段は学校なんて来ていないんですけれども」
HAC、Humanoid Ability Co.の略で名前の通り人工的に能力者を作ろうとしている。昔は黒い噂があったが、最近は能力に悩む人に無能力化の治癒薬を作っていたり普通に薬とかも作っている製薬会社と研究機関を合わせたような株式会社。
驚きなのが高校生でありながらそこに勤めて研究を行なっているということ、普通研究者と言うと大学の教授とか准教授とかが生徒とゼミとか開いてやるものだと思っていた。
「元々父がやっていた研究だったのですが、父が海外出勤の際に事故で死んでしまって…それで私!頑張って後を継ごうと中学の時にもう勉強して母のコネで見事研究に関わることができたのです!!」
今の口振りからするに、父親のことが大好きだったのだろう。彼女の目には少しばかり涙が浮かんでいるようにも感じる。
「つまりその父の残した研究をやってみてやっぱりやめようとしてるってこと?」
無責任、自分で首を突っ込んだのに逃げる道を見つけた瞬間に心が折れる。人間としてどうなんだそれは、
「そう、なるのです、でも忘れなくてはいけないのです…あんなもののために…」
何か盲信的に取り憑かれたようにいう姿は演技をしているように見えない。先ほどの陽気な姿よりも何か彼女の本質が見えるような後ろを向いているせいもあってか裏の側を見ているようだった。
HACの黒い噂は確かに無くなったと言ったがあくまで報道されなくなっただけで、未だにネットやらではこんな噂があると小数人があることないことぼやいているらしい。
「研究があまりよろしくないことだったんだね」
なんとなく聞いていかないと確信が持てない。それにこちらはこの子の願いを叶えないと安全が約束されない。その研究内容の記憶と一緒に僕の記憶も消すことができる。あとは都合よく埋めてくれる。
「…はい、ですから研究内容を見ることなくあなたがその記憶を消せれば私は研究を放棄できるんです」
「自分で言ってることがどう言うことがわかってる?」
「え?」
「記憶を君から消したとしてもそのHACの他の人は君に記憶があると思って接するよ?それで君が覚えたい辞めたいって言ってもそう簡単に辞めさせてくれますかね」
アニメとか漫画とかの知識で全然経験談じゃないただ彼女の方がそう言うブラック企業の機密知っちゃった的状況に近いはずなのにどうしてその発想に至らないのか少し疑問ではあった。まあただ焦っているもしくはそれだけやめたいに執着するようなショッキングなことがあったのかもわからない。
「はい、私物忘れしたことないんです、1日中にあったこと、映像、音、匂い、味、感覚この生きてきた15年間分全部残ってるのです」
わかった。
この子がどうして高校生ながらHACに雇われているのか、研究の記憶を忘れさせたいのか、どうして忘れたやめたいという理由で研究を辞めさせてもらえると思っているのか。
天才なんだ。
「忘れれば説得できるだろうと思うのも…」
「それが理由です」
なんだか見積もりが甘い気がする。この後しんだ死んだりされては胸糞悪い気もする。でも所詮日常、もしかしたらこの子が話をかなり盛っている可能性だってある。
「一回見せてもらってもいいかな?僕も自分の記憶いじれるから研究内容見ても忘れられるから」
このまま、騙して彼女から僕の記憶を抜いて立ち去ることもできる。でも今まで悪用していた力を人のためになるかもしれない理由で使うことができる。それがなぜか英雄的思考に繋がってしまったのかもしれない。この時僕は三英雄なら絶対に苦しんでいる人間は見逃さないと思ってしまった。
「…わかりました」
僕が彼女の前に回り、右手人差し指で彼女の額少し冷たい肌に触れる。
意識を集中させるといつもどおり意識が吸い取られ筒状の彼女の記憶に入りこむことができた。
しかし、その中身が今までの人とは違う作りであることに驚いてしまった。
落ちていく筒にあるはずの泡がなく、代わりに厚い色の違う円状のガラスが筒に敷き詰められ現在厚みを更新しつつあるそのガラス板の上に立ってしまった。
落ちていかないのだ。
それらの記憶は順に並べられ今までみたいにかき回すことができない。
代わりに降りようと思えば一枚のガラスが透けて下の階移ることができるようでそれを繰り返してお葬式らしき映像があった場所から順に上へ戻って彼女の経緯を見ていく。
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父親の研究を受け継ごうと中学の二年間勉強に打ち込む姿が1日一秒単位で記憶されており遡っても曖昧な部分が一切ない。
そして三年になって母親に頼みHACへ連れて行ってもらい、父親の残した資料から研究の続きがこうであるとの説明をする。
運命の能力と呼ばれる「宝眼」の発現条件とその位置を予測するためのレーダーの開発。
なんのためかはわからなかったが、そんなものを見せていたように思える。
そしてその実験をさせてくれと頭を下げる彼女の目線でのHACの社長らしき白髪の気難しそうな爺さんがあまりにも大きな存在に見える。
理論的に成り立つと彼はその場でその論文と言えるだろう彼女の盛ってきた原稿用紙に書かれた設計図を見て彼女を採用した。
その後はその設計図に基づき宝眼探知機を仲間と作ろうとしている彼女の映像が幾度も映る。
(あった…)
研究に関わっていた人が1人死んだらしい。
心中だったとのこと。親が詐欺に引っかかって多額の借金を残してしまったためだとか。
またもこの少女の目にあの黒いスーツが並ぶ姿が映る。
同情を感じながらも続きを見ると、そこ1週間後すぐにまた1人死んだとのこと。
バイクと乗用車の接触事故だったという。
飛ばし飛ばしにそこから見て行ったが同じように不自然に他の研究者たちが死んでいっているようだった。
流石におかしいと思い始めた彼女らは研究を続けながら彼ら死んだ人たちのことを調べ、警察が立ち寄らなかった彼らの部屋なんかも探索した。
そして、それぞれの部屋に残された脅しの様子を記録したであろう日記や保存されたデータを見つけたとのこと。
必ず殺される前日にその手紙や電話などが届きその内容はその研究から手を引け、でなければ殺すとの脅迫文だったようだ。
そのうちに外部企業に研究よりその研究をすること自体が狙われているということがわかる。そして先週、ついに仲間の最後が始末された。
彼女が最後の1人になってしまったという。
助けを求めようにもその時点で殺されかねない、HAC上層部に報告することもできず、HAC側から追加投入される人材を拒むことでその旨を伝えていたようだ。
そして一昨日、彼女の母親のもとに変な件名も本文もないメールが届くようになっているということを聞き、本格的に辞めようと、研究を止めようと決意したらしい。
それもそのはず、研究者の仲間の死の前には必ずその親類になにかしらの害が加わっているからだった。自分の命が狙われるのも嫌なことではあるが母親が殺される可能性も出てきてしまった。
ーーーーー
「っひ…うそ、」
突然指が離れる。彼女が一歩離れたのだ。
その手に握られていたのは端末。
「どう…したの?」
「いま…端末に…メールが、“見てる”って」
刹那、風が弾ける音がして、その一瞬で右肩に重いものが当たる感覚があった後、体が前に浮く。
青空と屋上の錆びた貯水タンクが見えるように倒れた僕に覆いかぶさるように倒れた彼女の顔は真っ青で、何があったのかと顔をあげようとすると彼女が僕を抱きしめ、動けないようにした。
「う、うごいちゃ、だ、ダメなのです」
小さな体で僕の頭と肩の周囲を隠す彼女が震えた小声でそういう。
やっと痛みが回ってきたようで右肩に激痛が走る。そしてついでに右腕が動かないことに気がつき撃たれたということをやっと実感する。
彼女の配慮に合わせて声を漏らさないように耐えようにもその意識が吹っ飛びそうな痛みとどこにいるのかもわからない理不尽恐怖に勝てるはずもなく、大声で叫びそうになる。
すると彼女が察したのか、僕の口を手で塞ぎ彼女の軽い全体重を乗せて抑える。
「っ!!!!」
わけのわからない叫びが僕の体のみに響き渡り全て貫通した肩に痛みとして反映される。
なんとか痛みが麻痺するまで彼女が口を押さえていてくれたがそれでももう二分はこの体勢だ。
「…あ、あれだけ隠してきた人たちがこんなところでいいきなり見知らぬあなたを殺しに来たということは、た、多分近くに、彼らの仲間が待機しています、動かないで、いいまは動かないでも、早く、つ、つぎの、お母さん、」
相当慌てているのか、僕を抱きしめながら考えていることをどんどんと口に漏らしている。
(…今まで事故に見せかけて殺してきたのになんでこんな簡単に僕を撃ったんだ?痛いなぁ、もうだめか?出血多量で死ぬか?肩から下に感覚がない、左手はもう…違う待て、そんな無限ループしてる暇ない)
ギリギリ見える範囲、首を動かさない範囲を眺めてどうにか何か打開策がないかと考える。
そこに入る彼女の声、
「おかあさん…ごめんなさい、ごめんなさい」
こんな少女が僕なんかを守ってくれている。そこで思考を停止してもし打たれてこれ以上パニックになるようなことがあってはならない。それに僕が死ねば多分すぐに彼女も殺される。
「せな、さん…少しだけ、み、右に動いてくれないかな?」
彼女は覆いかぶさった状態で彼女から見てす少し右に動く。
(良かった、正直これで少しヒントが、)
慎重に左手を自分の額に持っていき痛みに耐えながら意識を集中させる。すると意識が吸い込まれ筒の中に落ちていく。
僕の集中力が足りていないのか筒にヒビが入っており、泡も少ない。
(最近の記憶…何か、ないか?)
その人は事故に見せかけようとする。
ならこの屋上にある何かを使って、僕たちに留めを刺そうとしてくるのかもしれない。ならいまはそれを狙っている。だが時間がかかりすぎだ。慎重なのか、ハプニングが起きているのか相当狙いづらい場所なのか、だがほぼ1人で確定だろう。ここまではわかった。
(彼女を撃つ目的ならとっくに撃ってる。彼女が庇ったことを加味するとさっき途中で切れた記憶の最後、昨日か今日あたりにその脅迫状が届いていたのだろう。だから急いで彼女は僕と接触を図って今日の出勤時にはもう辞めようと決意していたんだ。)
ー青空と屋上の…ー
(これだ…ん?でも待てよ、これそういうことならつまり、2人とも撃たれて倒れた風に見えたって可能性もあるんじゃ)
意識を現実に戻す。
少し視界が揺らぎ始めているものの、とにかく作戦を考える。
多分相手は今僕が倒れている足の側、南のビル街のどこかから狙ってきている。そして事故に見せかけて殺すなら水槽を崩して潰そうとするだろう。それ以外事故に見せかけるものがない。肩を貫通するあの威力なら錆びた鉄骨を歪ませ壊すことは可能だろう。
そして相手は多分その中で彼女に説得をしようとしていたのだろう。今伝えたことを取り消すか目の前の男を殺せと、しかし偶然にも少しパニックになった彼女は端末から手を離し、僕に覆いかぶさった。そして相手には多分あの鼻血の跡が見えているはずだ。自分の腕で間違えてセナさんを撃ったとなれば少し動揺しているはず、その証拠にこの体勢なのに彼女は撃たれていない。
これなら辻褄があう。
そしてこれで彼女を助ける作戦があるとすれば一つ。一発撃たせてる間に彼女を屋上から逃す。
合理的というわけではないが怪我をしている僕と怪我をしていない彼女であれば彼女の方が生き残る確率が高い。それなら人を助けて死んだほうが名誉という日本人が良くする考えでいける。
「せなさん…動かないで聞いて、今から君に僕の記憶を共有する…それでこの状況をどうにかできる作戦を教えるから…それで逃げて」
相手の反応を見ないで一方的に伝えた跡自分の額に当てていた指を彼女の方へ向ける。
「そ、そんな!これじゃあなたが!」
「じゃあいくよ…」
動こうとしていた彼女をなるべく、屋上の階段の方へ投げて、まるで今彼女が打たれて死んでいることに気が付いたかのような演技をする、
「うわああ!!!」
棒読みくさい演技で撃たれた肩にも全力で力を入れながら彼女を投げる。
そして今いた位置から左の方へ彼女からジリジリ離れるようにしながら、動く。
これにより一発撃たれたとしても彼女は絶対に撃たれる前に階段の扉に手が届く。もし彼女が撃たれるとしても一度は僕に目を向けられているはずだ。どれほどの腕だろうと僕は彼女から十分離れた外す確率も高くなる。
彼女は突然のことで動けなくなっているようだが逆それが相手に死体だと思わせる原因となる。
そして極め付けに僕は相手の方を向いた。
左を振り向く。確認もあった。ビル街の少し高いビルの屋上から何かが光っているのが見える。多分あれだろう。なんとなくこちらを向いているようにも見える。
だがまだ扉を開くような音が聞こえない。
意識が朦朧としているせいもあってか、一瞬一瞬が遅く見える。
もう一度目だけ動かして右を少し見ると彼女はパニックになっており完全に次の行動を起こせずにいる。そのまん丸な目を見開いて固まっているのだ。
(さっきの演技でも恥ずかしかったんだけど)
そして相手の方に再度目を向ける心なしかさらに光が集中してこちらに向いているような感じがした。
(でもやらないと次の弾装填されるな…)
出来るだけ息を吸い込んで、叫ぶ。
「早く逃げっ…!!」
ッターン!という鼓膜が破れそうな音と風圧、完全に頭を撃たれたとわかる弾道。目を瞑って痛みがくる頃には僕はもう死んでいるだろう。
そんな時、
「〜」
一定に保たれた音色のようなものが聞こえてきた。
(セナさんの声かな…もうダメか…意味わか…)
意識が遠のく。
…
そして、
「おーい、ガキ、大丈夫か?」
頬を叩かれすぐに我に帰る。
時間はさほど経っておらず、目に前には見知らぬスーツ姿にインカムをつけた男性がいた。ヤクザのようなボクサーのような屈強な男性の後ろには良くみると障壁のようなものを立てる人と先ほどの音色。
「え?あ、は?」
何が起きたのか分からず、その人に目を合わせて困惑の表情を浮かべるしかできない。
「…大丈夫そうだな」
そういうとしゃがんでいた彼は立ち上がり音色を流す人の前まで行き、インカムに手を添える。
「こちらベーター、要救助者確保、アルファそのビルだやれ…ああ??もうやった??お前なぁ、いなかったらどうすんだよ?馬鹿か…」
などと言っている。
やっと事態がわかってきたため、セナさんのいる方を向くともう1人スーツ姿の人がいたようでその女性に彼女は泣きついていた。
「お前良くこれだけの時間稼いだ上にその選択したな、礼を言わせてもらう」
「あ、あなたがたは…」
「あ?んなに死にてえのかお前?知ったら殺す、知ろうとしても殺す、いいか?このこと誰かに言ったら次は俺がお前のこと殺すからな?覚えとけガキ」
そう言って僕に一度拳銃を突きつけると彼は他三人(せなさんも含む)と屋上の縁に集まっていく。
「代わりに傷は治した、あとこのガキは早退したって先生に伝えとけ言わなかったら殺す」
そう言って消えていった。
彼に言われた通り傷はなぜか完全に塞がっており、少し痛みがあるものの簡単に動かせるくらいになっていた。
もう一度寝そべる。
安心し切ってやっと涙が流れてきた。
屋上では何事もなかったかのように鳥が鳴き、雲が絶えず動き続けていた。
「ダメだ…わけがわからない…帰ろ」
フラフラと立ち上がり階段を下っていく。
念のためブブケンの2人には彼女が早退したことを告げてその日はもう何事もなく終えた。
あと何かしたとすれば親父が帰ってくる前に僕は自分の記憶をいじったくらいだろうか。
「…忘れよう、忘れよう」
そう呟いて眠った。
・・・
次の日になってもそのことは忘れられず、別のクラスの人をすれ違ったりする時にちらりと見たりしたが、セナさんが登校している様子はなく、もうなんかものすごいモヤモヤしながら部室に向かった。
扉を開け、中に入った瞬間突然今まで消えていた電気が消え、
「ケンヤさーん!!」
と小さな身体がこちらに飛んできた。
「え!?」
扉が閉まると同時だったからか扉にもたれかかるようになり、彼女も僕の足の上に乗り上げる少し如何わしい感じの体勢になってしまった。
すると彼女は一生懸命首を伸ばして僕の耳元で声をなるべく小さくして話す。
「昨日は本当にありがとうございましたなのです、おかげで助かったのです」
部室奥にいる先輩には聞こえない声、彼女はその大胆な行動にかなりドギマギしてのが見える。
「ななな何をしとるか!せなちゃん!!」
目を瞑り両手をこちらに伸ばしてその姿を隠そうとしている先輩からヤジが飛ぶ。
「もちろん先輩にもセクハラするのですよ!」
と高橋は机に乗りそのまま先輩の方へ飛び込んでいく。椅子が倒れたり、ダンボール箱で二人が押しつぶされたり洋介がその状況に困惑して笑い出したりと破茶滅茶だったが、
お陰であんな体験を忘れることができたような気がした。
→#7 「道場と能力と自転車」
VerGo:Only#6
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それに今、彼は対処しているのでしょうか?
私はもうわからないのです。ごめんなさいなのです。あの時のことも、あの時のことも、まだちゃんと言えてないのです。ありがとうって、言いたいのです。でもいまは、忘れていることになっているいまは…言ってはいけないのです。
いつかみんなが思い出した時
みんなで集まって…また、
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投稿者メモ
自分で書いてて超展開だなって思った。(圧倒的感想文!!)




