第四話【淫魔と退部とイエスマン】
神の偉業、三英雄の伝説。
どちらが関わっていたのかもわからない。
いやもしかしたらどちらも…愚問だ。
結局のところそのせいで全てを失う。
僕と先輩はその日の残りの活動時間を使い、彼に色々と事情を聞かせてもらうことにした。
何故、僕を選ぼうとしていたのか?何故そんなにたくさん入ってしまったのかなど、二人で質問の嵐だったと思うが、彼は順番にその回答を用意してくれた。
「ぼくあまり人と話せなくて、それでそのお恥ずかしい話ですけど…入学してからまともに会話できるのが君しかいなかったというかで…」
照れながらそういう彼はなんとなくだが可愛く見えてしまった。そんな気はないはずなのだが、
「ここからが本題というかで…その時に思いついたのがとりあえず返事はしようと気張ってみたの…気張って“うん”とは言えたんだけどそれ以上ができなくて…勧誘期間中にいっぱい誘われちゃって今の有様というわけなんです」
頑張って争った結果ダメ方向に向かってしまったパターンだということが彼の口調から伝わってくる。
「そんでそんで、部活10個ってどれさ」
先輩がどこから取り出したメガネをかけ、学校の見取り図を広げている。
「陸上部とサッカー部とバレー部とバスケ部と応援団と吹奏楽部と演劇部と美術部と漫研と家庭クラブです…」
「よりどり緑だね…」
先輩が油性の赤ペンで見取り図にサインをしていく。
「ふむふむ…部室の位置は全部わかってるから、基本的に活動してないのは漫研と応援団家庭クラブ…これ全部抜けちゃうの?」
メガネを直して先輩が松波に聞く。彼は悩んでいるようで黙り込んでしまう。
「君にとっては対して状況は変わらないはずだよ?私たちは君にブブケンに入って欲しいけど君は忙しくなることを見越して少しでも多くの部活から抜けておきたいなんだか君の目的が明確にならないとどうにも協力するのも難しいと思うのだけど」
この先輩時々真をつくようなことを言ってくる。遠回しに優柔不断ではいけないのだと言い聞かせているように聞こえる。
「…わがままを言うなら家庭クラブは入ったままがいいですそれ以外は全て何度か行ってみたんですが…その…うまく評価されないと言うかで」
プライドの話をしているのか、それともその容姿の話をしているのか普段ならそんなに首を突っ込まない内容で逆に興味を惹かれた。
「ぼくを“男”としても扱ってくれるのは、家庭クラブだけで…その人達はぼくの料理を正当に評価してくれました」
プライドも容姿もどっちもだった。
「他の人たちは壊れそうなものを触る感じか…その、男の娘のような扱いで…もうなんと言うか…嫌なんです!ボクは男として扱われたいんです!!…まあその他にも理由は多々ありますが…その」
モジモジしていた先ほどからだんだんと声に熱が入っていき、決意が出てきたのかそんなことを細い腕でガッツポーズを作りながら言う。
「まあその見た目と性格からどう見てもウケなのはわかるのだけども…ふむふむ了解」
「何を言っているのか、この先輩は」
「時には人間!関係を捨てる覚悟も必要!かもしれない…から!まず上下関係が難しい運動部から行きましょうか!」
…ということでやってきたのはまず校庭。
陸上部に声をかけてみると、なんだかおちゃらけた男子が部長らしく。
「退部したい?OKOK問題ないよ、顧問には俺から言っとくから」
軽い返事ですぐ了承されてしまった。
「いやーこんなに人入ると思わなくてねぇ、悪いとは思うけどショージキ助かるわ、あんがと」
今年部活動の部員回収倍率はブブケンが最下位だったのに対し、陸上部が一位。それもそのはず、この目の前にいるチャラ男が有名な陸上選手で無能力系陸上大会にて堂々の一位を総なめ、殿堂入りを果たせば能力者として今後は扱われ大会からお金を払って次の年からのその大会への参加は拒否されることになってしまうそうだ。
しかしその額が額なお陰で、彼は今その大金を勝ち取れるかって瀬戸際の人間らしい。
あとそこに加えて陸上の顧問とコーチが有名タックらしくその二人に陸上を学びにきたって人も多いよう。
「自分の競技もあるのになんで人のも見ないとなんだかね〜、んじゃ頑張ってな」
この人からは対して彼を腫れ物としているような感覚はなかった。
「ノリで入っちゃって申し訳ないなと思ってたんです…内容が明らかについていけるものじゃなくてですね…」
とその後移動中に彼からシコタマ説明を受けた。まあ確かにあんなガチにノリで入ったなんて自分だったら嫌味の一つや二つ言ってしまうだろうと思ってしまった。
次に顔を出したのがサッカー部。
別にこちらはガチとかそういうわけではなさそうだが、
「この通りだ、頼むベンチでもマネでもいいから残ってくれ!」
と土下座までされて頑なに彼を手放さそうとしてくれない。
「どして?」
先輩が土下座している彼に合わせてか人工芝に正座をして話を聞く。
サッカー部部長は少し本人の様子を伺い、言いづらい話なのだがと切り出して、僕ら二人に耳打ちをする形でこう言った。
「彼、可愛いじゃないですか…彼がいるとなんでか部員の士気が上がるんですよ」
実際にと統計をとったここ1ヶ月のデータで彼がいる日といない日でこなせた練習内容の濃さが違うとか、インタビューで彼について部員に聞いてみた結果を円グラフにしてどの言葉が多かったかとかも見せてくれた。
(“一生懸命がんばれ可愛い”ってなんだ、それで8割って統制されすぎててすごいな)
「それが彼の心を傷つけているとしたら彼のためじゃないわよね?」
先輩がそれなりに正しそうなことを言う。流石にこの程度で靡くわけないと思ったが、
「…そうだ、知ってたさ、俺らが彼を食い物にしてるっていうのは…わかってた…でも、でもよぉ…可愛いはよぉ…正義なんだよ!」
彼女に擦りついて膝に泣く姿はなんと言うか呆れを通り越してもはや芸術的であり、こんな展開誰が望んだと突っ込んでも誰も返してくれない虚しさを表しているようだった。
「でも、彼のためなの…ごめんね…」
部長と話をつけているのはあくまで名目であって、当然部活を辞める権利自体は本人にある。それでもこうやっていちいちそれぞれの部長に声をかけるのには理由がある。
もちろん彼なりの申し訳なさを謝りたいと言うこと決意表明への協力もあるが、僕らの狙いは彼がどんな人間なのか理解することにある。あんな可愛い顔をして裏では垂らしとかヤバイ所に通ってるとかだったら流石に対応を考えなくてはならない。
そんなマイナスの要素から調べてるわけではないし、そもそも彼を誘ったのは僕らだが、それでも少しだけ彼を知りたいのだ。
紅茶のなんたらが好きで、運動が少し得意で、ノリで入っても実はそれなりに頑張ろうとしていて、でもやっぱり今後を考えると危ないと優柔不断になる。そんな悩みのある彼も知りたいのだ。
(まあ先輩がどう思ってるかわからないけど、聞いたら可愛いからと適当に答えるんだろうな)
そんなことを彼女達の、茶番を見て思った。
心なしか、その時のグラウンドを駆け回る掛け声のほとんどは試合に負けた後のような悲しみに包まれていた気がした。
バレー部とバスケ部は一緒に話をすることができたため、話をしてみると…
「「え!男!?」」
彼は言ってなかったようだが、どうやら勧誘されていたのはどちらも女バス女バレだったらしいことが判明。着いた時に気がつくべきだったが、どうりで男子が少ないと思えばこれだ。
現在うちの学校の男子バレー部は喧嘩騒ぎで休部(実質廃部)、バスケ部は消えて女子しか存在せず、男子でもバスケをやっていた人たちは部としてではなく放課後に女バスの手伝いとしてきていたらしい。
「いやいや、どう見ても女の子でしょ失礼な」
「なに?あんたこの子の何よ?流石に取られたくないからってそれはやばいでしょ」
信じてくれなかったというのが最初であるが彼女達の目がなんだか燻んでいることからどこかでそのことを知りながら隠し続けていたというか自分を騙してきたようにも見える。
「絶対どこかでこの子男だって時があったはずよ!村上くん、やっておしまい!」
なぜ一度も説明してない彼女に僕の能力がわかるのかと思ったけど、説得するなら過去を直接見せるのがいいに決まってると言うのには同意できる。
「先輩方すみません」
両手で彼女達の顔面主に額周辺に手を突き、ちょうど両手の脳天に人差し指がくるようにして意識を集中する。
(一気に二人はあんまやってなかったなそういえば…)
久々に二人分を一気にいじる。
日本の線が伸びてきてその線の上に乗るように泡が並んでいる。同列のサムネイルで彼の顔が写っているものを徹底的に探って行くと、もろ彼の男の部分が見え隠れしているようなシーンをのぞいている二人の映像がそれぞれの目線で流れた。
(この学校の奴らは煩悩で動く変態しかいないのか?)
彼女達にそれを自覚させるため泡を破裂させて映像を大々的に流して見せる。するとうっすらと掌にぬるい感覚がありそこで意識が戻ってくる。
彼女らの涙だった。反省なのか恥ずかしさからなのかわからないが、彼を男として見ていたと言う事実はあったことが証明された。
しばらく泣いた後に了承を得て、こんな質問をされた。
「さっきのなに?君能力者なの?ずるいよチサちゃん(先輩に知り合いらしい)」
「あ、まあ、」
事実を見せる以外にも改竄したり、記憶の一部を抜いたりもできる。そんなもの詳しく説明すれば危険視されてしまう。というか彼女達に余計な不安のタネを与えることになる。
それはよろしくないため軽く濁す。
「そもそも性別が違うんだったら仕方ないよね?そんなのご法度だよ?いくらマネ扱いだって言っても」
何も知らないと思うが先輩がその場の雰囲気とノリを掴んでハッタリをかます。
(尊敬するくらい察しがいいなこの人は)
彼女達は首を縦に振ってくれた。
・・・
運動部が終わるとその後の説得はあっさり終わってしまった。
吹奏楽部以外の演劇も、応援団も漫研も彼をコスプレのためのモデルとしてしか見てなく、完全な愛玩対象であり、吹奏楽部では崇拝されつつあった。
その誤解やらを解いていき、なんとか1日で全部の部活と話をつけることに成功し、その後部室に入る。
「…あそうだ…ようこそ、ブブケンへ…」
疲れ切った先輩がいつもの窓際お誕生日席にくたびれながら手を上げてそういうのに対し、体力が残っているのか鎖から解放されたように涼しげな顔をした彼が、
「はい!」
と僕の左すぐ手前の席に座って元気よく答える。
「おつかれ…僕ちょっと今日バイトあるんで失礼します…」
と早上がりを告げて部室を出て行く。すると後ろからついてきていたのか松波がブレザーの裾を引っ張る。
「…あの、これからよろしくね、ケンヤ」
(名前に呼び捨て…やばードキッとしたー本当に男らしくあるつもりあるのか?今疲れてなかったら思いっきり叫びながら抱きしめてたぞ絶対、死ぬかと思ったー)
なんで半ば混乱しながら、自分の頭を松波は男なのだと認めさせるために、
「よろしく、ヨウスケ」
僕も下に名を呼び捨てにすることにした。
それでなんとか理性が保てそうだと彼の小さな頭を2、3度ポンポンと叩いてもう絶対振り返らずに進もうと廊下を玄関のある南通路へと足を運ばせた瞬間。
「またね!」
と聞こえた。聞こえてしまった。聞いてしまった。振り返れば彼の真には望まぬ癒された顔を向けることになってしまう。だがその明らかに元気で、楽しげな顔は生で見れば僕のしている想像の何十倍も可愛らしくてきゅんきゅんするのだろうと思ってしまう自分がいる。
なんとか先ほど作った理性で感情を押さえつけ、後ろを振り向かないように軽く彼に向けるように手だけ振って改めて進む。
皆が煩悩に塗れるわけだ。
(あれを…可愛いと言わず何を可愛いというのだ、あれは可愛いと言う生物なんだ)
その後のバイト中に魅了された自分に羞恥を覚えるにはさほど時間はかからなかった。
→#5「忍びと縛りと小学生」
VerGo:Only#4
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「すごい能力者もいるんだね〜」「あれなに?記憶操作?」「だったらやばいでしょ?私たちもうすでになんか仕込まれてたりして〜」「ちょっとやめてよー!」
仲良くはしゃぐ放課後の夕日廊下なのです。
「にしてもあの村上って子?パッとしないけど結構イケメンじゃなかった?」
興味深い会話が聞こえていたのです。
「はーチサちゃんばっかあんな子たちと仲良くってほんと!ずるい!あたしもブブケン行こうかな!!」
・・・ブブケン、村上、記憶操作、もしや…
「しゅつげき!なのです!!」
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投稿者メモ
ほんと投稿遅れて申し訳ないです。今度からちゃんと前日までに投稿時間設定しておきます。てことで来週からまた新キャラ登場予定ですのでご贔屓に!




