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第十三話【始まりと終わりの森】

僕の青春はここで途切れることになる。



あれがなければ全て変わっていた。



いや、運命は一つだっただろう。


お昼を食べ始めると有紗は変な持ち方で箸を持ち、グサリとそばに刺した。その勢いにメニューを回収しようとしていた店員も驚いていた。


そしてそのままくるくると蕎麦を巻くと器用に箸を持ち替えタレに突っ込んだ。


「ねえ、アリサ…」


「んだ?」


変な顔をしながらその浸したものをガツリと口に含みながら返事をする。


「いつもお弁当は何で食べてるの?」


「万能スプーンだ」


(先がフォークみたいになってるやつかぁ…)


「箸って使ったことあるよね?」


「いや、見るのも初めてだが…これ味濃いな」


その言葉を聞いた瞬間ダメだこの人だと思ってしまった。今までガサツだが実は結構神経質で器用なの

だと思っていたが器用貧乏で神経質になるのは何やら条件がある面倒くさい人なのだとわかった。


「あーえっとね…」


箸の持ち方から彼女に教えるとすぐ扱い方も覚えてそこからペンを回すように片方ずつをくるくると回して遊び始めた。


(有紗の感性意味分からなさすぎるだろ…)


そしてそのまま遊ぶうちにどうやら掴み方を理解したようで、先ほど教えた持ち方でその長い指をピンと伸ばしながらカチカチと箸を鳴らして見せた。


「それで斜めから救って掴む感じかな…」


と説明しながら僕はその時初めてその蕎麦を食らったが、


(うま!…え!?蕎麦ってこんな美味しかったっけ!?)


すぐに料理人がいるであろうカウンター側に顔を向けて華麗な包丁捌きをしている女性の料理人に心で感謝を伝えた。


「…どした?」


と彼女はその持ち方から真似してすでに蕎麦をタレに入れて食べ始めている。


「いやなんでも…っておおそれそれそんな感じだ」


「オメーの説明下手くそすぎだ…これ麺全部つけないほうがうめーじゃねえか」


とそのまま勝手に向上心が働いているのか机にある調味料を見たり、一緒に頼んでいた天ぷらと食い比べていたり楽しそうであった。


(しかしおいしいな…天ぷらも合うし麺つゆの調整もしっかりしてる一回先に蕎麦湯を挟んでもう一回食べたいくらいだ)


などじじくさいことを考えつつほぼ二人同時に食べ終わり、


「どうだった?」


蕎麦湯で口の中を落ち着かせながら、そう聞くと


「あんまりだったな」


と彼女の口から出てきた。それには器を片しに来ていた店員もしかめ面。


「…全部の食い合わせ試したけど違和感が全然わかなかったわ、もっと変化があるもんじゃねえのか?」


とさらに彼女が付け加えると、店員の表情にはてなマークが一瞬浮かぶがその後、すぐに嬉しそうになってこちらの机に歩いてくる。


「ははは、日本料理なんてだいたいそんなもんだよ、美味しかったでしょ?」


「ああ、正直蕎麦の味は知らねえがこれは旨いってことはわかったわ」


すると店員の好感度が目に見えて上がるのがわかった。多分この人今めちゃくちゃ嬉しいんだろうなと分かるくらい表情がホンワカしていた。


「さて」


右を向けばガラス越しに向かいのお店が見えるが、ちょうどあちらの組は会計が終わったようで出てきたところだった。


「じゃあお会計お願いします」


と立ち上がり、表を見る。


(あ、今月のバイト二つ分の給料が飛んだ)


それぞれ別で会計を済ませてお店にご馳走様と言って出て行く。するとすぐに空が駆け寄ってきて、


「どうだった!!蕎麦!!」


と無邪気に聞いてきた。


「美味しかった…二ヶ月分なだけはあるね」


意気消沈しながら財布をしまう。


「あ?何言ってんだ?」


空たちはみんなで大きなお好み焼きを食べたらしく、お腹が破裂しそうだと洋介がまた死にそうになっていた。


「ほいじゃ、オオザクラ見に行こ!!」


そんな満腹一同で階段を登っていく。急と言うわけでもないがさっきは知ったこともあってか膝が諤々してしてうまくついて行けず途中何度か休憩を挟んでやっと頂上。


山のように盛り上がった地、これは縮尺がおかしいと思われるだろうがこのオオザクラの根が盛り上げているとのことでこの盛り上がった部分の内側には地下道や避難用のシェルター、他にもちょっと大人な雰囲気のお店などがある地下街が広がっている。


伝承としてはこのオオザクラは旧神と言われている現代四神の前職の神が巨大化させたものだそうだ。旧神は何やらやらかしたとのことで神職を離れ現代四神を拵えてどこかへ消えたが世界を放棄した噂が残る中この伝承は彼?の良い方の伝承として語り継がれている。


夏真っ盛りだと言うのにどう言うことなのか簡単に説明すると、桜が咲かないという願いを受けその当時人々の願いを叶え続けていた旧神が珍しく直接現れて、あっぱれの似合う桜に仕上げようと二日かけて作ったのだという。そのため雨が降ろうとも風が吹こうとも燃やされようともものすごい再生速度で状態を回復する桜ができたのだという。


それがこれで、お陰でこの旅館の建造物は全てこの木の幹の一部を使用しているという。


そのため栄養をとるため、勝手にこの周辺地域を肥沃な地に桜が書き換え、大量にその土に花弁を落とすことで養分を精製しながらこの大きさを維持しているとのこと。そのためこの木にとって、その辺の自然災害はアクシデントくらいの感覚であり、豪雨や嵐に至っては養分でしかないらしい。


「うひょぉおーでけぇー!!」


空が瀬菜と一緒にピョンピョン跳ねながら全体像を掴めないその巨木を手を広げている。


「ケンヤ…感動したぞ、オレ」


ドスの聞いているはずの有紗が隣でそう呟いて大木を見上げている。


(ん?)


その肩に小さな火の粉が乗っているように見え、注意するよりも前にそれが動きこちらを見ていることに気がついた。


小さな獣の影のようなものがその小さな火の中で揺らいでいる。普通見えるはずのない大きさだったがその時はレンズが拡大でもされているのかはっきり見ることができた。


狐のような顔をした長い耳の獣が口を開くと声が耳に響く。


“願いを発するもの…彼の名は【Blaze】桜の花弁のように舞う幼き火の粉は美しきを包み守り続ける、彼女を中心に世界は回る…”


(空の時と同じだ!)


火の粉をつかもうとするとそれはすぐにサッと消えてしまう。そして狙いがそれた僕はそのまま彼女の肩を掴む。


「ん?なんだよ、らしくねえか?」


強く肩をどつかれたと思ったのか少し喧嘩腰に有紗が言う。


「あ、いや、花びらが付いてたから…」


(なんだ…今の、前はビビット、今回はブレイズ?統一性も何もないぞ?…彼らを中心に世界が回るってどういうことだ?)


「そうか」


すると改めて彼女はその木漏れ日を浴び続ける。すると洋介がくる。


「ケンヤー、パンフレットをもらってきたんだけどさ…見てよこの記事」


と洋介に見せられたのは、桜に関するカラー新聞記事の切り抜きを撮ったもの。


『【あの遊戯の神が“ゲーム”を開始するための成功祈願!?】

現代四神である彼らは旧神の一番の信徒とされており、彼らは旧神が納めた四つの別の世界から呼ばれた元人間ということは彼らから伝えられているのは当然承知でしょう。そんな中、希望の神が始めた“バトルロイヤル”の開発を手伝っていた遊戯の神が先日この美濃路の街に現れオオザクラに手を合わせて行ったということが、彼ら四神について研究している歴史家の推測では、希望の神ゲームが開催される1年前にもこんなことが海外であったと遺跡に現れた希望の神の例を挙げて話してくれた…そのため今回も前回同様ゲームが開催されることを表す彼ら神々の告知なのだと語る。』


と、内容は以上記事の下方にはどこかで見たことがある青い髪の少年が写っており、中に体を浮かせた彼がオオザクラの前で手を合わせている。


希望の神ゲームは以前も説明したが100人で行われるバトロアだとされている。詳細は参加者以外知らないが勝者は能力を得て、敗者が死ぬのとはないため結果はエンタメに乗る場合もある。


開催時期は必ず12/24の日。旧暦ではクリスマスとなっている休日に必ず毎年、無能力者を集めて開催されることから現代四神はなぜか能力者を大量に増やそうとしているという推測が湧いているのだ。


(うーん…やっぱりどこかで見たことあるよなぁ…教科書とかじゃなくて、)


「!!???」


そうここに写っている少年、記憶を探ることもなく思い出せる。窓から覗いていた彼とよく似ているのだ。確かではないが、なぜそのとき気がつかなかったのか、特徴的な空色の髪の毛に透き通るような美少年。


(いやいや待て、美少年ならそう、ここにもいるじゃないか立派な美少年が)


「ど、どうしたの?」


「いやなんでもない、すごいもんだね神様が現れるなんて」


「うんでも新しいゲームっていうことはさ」


ゲームが始まるということはその分新たな能力種が増えその分能力者自体が増えるということだ。


「一体神様たちは何をしようとしているんだろう…」


「さあ?神様は気まぐれだっていうし」


もしこれらが本当だとするなら“なぜ”が付き纏う。なぜゲームを始めようと思ったのか、なぜ能力者を増やしているのかはもちろん、僕に話しかけてきた声想像に過ぎないがあれが神様の声であった可能性も高い。じゃあなぜ僕らを見ていたのか、なぜ僕に声をかけてきたのか。


ーこの際だから聞くけど君はなんなんだ?ー


「ムラカミくんあっち行くよ!」


と先輩の声で考えが止まる。その時僕みたいな人間が考えたところで何も意味はないなんて思ってしまいそれ以上その発想を進めようとは思わなかった。


今はとにかくこの場所の綺麗な部分を見続けていたかったんだ。


・・・


その後僕たちは日が暮れるまでなるべくお金のかからない街の楽しみ方をしてたくさん写真を撮った。


オオザクラがライトアップされ始めた頃にそろそろ戻らないとだと旅館へと帰っていく。


さて、夕飯は旅館が部屋に用意してくれたものを頂くことで僕ら個人はお金を支払わずに済むというお得なプラン。


先ほども楽しかったがより騒がしくなり笑い声は絶えずに部屋の中で響いていたであろう。そしてついに待ち遠しにしていた温泉に入ることができる。


(なんだこれ…広い)


もう何もかも初めてだったが、こんなに大きなお風呂も見たことはなかった。


「でかっ!!うちも集団で入るように改造されてるけどここまでじゃねえぞ!!!」


そしてまだシーズンではないこともあってか人はさほど多くない。こんな広々とした温泉を窮屈な思いせずに使い回せるということに興奮しつつマッパダカで仁王立ちする空を視界に収めないようにして体を洗う。


シャワーが10台でそれが8列ある。空いているので手前を使いいつもどおりゆったり体を洗ってると空が


「おいケンヤ」


と肩を叩かれる。


「ん?」


すると彼はどうやったのか桶いっぱいに水を貼ってその上に石鹸の泡で鯨を象っていた。


「おおさすが」「だろだろ?」


ゲラゲラと笑いながら泡だらけの髪を流すためにそのお湯を頭からぶっかける。と鯨がちょうど彼の頭の上に乗りリーゼントみたいになった。


「はははは、そんなことあるかw」


目元の水滴をはらっている彼はなんのことか分からず鏡を見てやっと気がつくとそれでさらに腹を抱えて笑い出す。


とガラガラと後ろの扉が開き、中に華奢な体つきの胸までタオルで隠した洋介が入ってきた。


それを偶然二人で見てしまい、二人ともその場で固まる。一瞬女性が男性の方に入ってきたのかと勘違いしたのだ。


だが顔を見るや否や、


「なんだヨウスケか…」「お、お前かびっくりしたぜ」


と二人してめちゃめちゃに安心した。


「き、着替えが準備できなくて…」


と小声で言うと恥ずかしいのかそそくさと奥へ行ってしまった。


「あいつほんと体つきのどうなってんだ?」


とその後空に聞かれたが本人には失礼とは思うが僕もそう思う。人はあそこまで中性的になれるとは思わなかった。


そうして効能最強の温泉に浸かる。


最初は少し熱かったが、だんだん慣れてくると細波が起きるたびに疲れが取れていくような感覚に襲われる。


「おおおおおおああああああ」


と声を出していたのは洋介だった。


あまりにも心地良かったのか普段は前髪であまり見えない細めが見開いているのがわかった。


「そんなに効くか?」


「これはぁいいよぉ〜」


この時性格が変わったのかと思うほどリラックスしており、いつも張り付くように強張っていた表情もこの時は和やかとなっていた。


空も同様だった。顔だけを水面から出し体をピンと貼って眠っているのだ。


「あいつ溺れるぞ」


と見ているとッカと目が開き目だけがこちらをむいて


「残念だったな!オレは1時間この体制でいつも風呂入ってんだ!ははははは」


その体制でこちらに滑るように来る。


「怖い怖いわかったわかったからw」


と笑いながら応対すると洋介が温泉から出る。


「ねえ、あの扉の奥って露天風呂かな?」


指を刺す方を見るとガラス張りの奥に確かにそれらしきものが見える。


「行くか!ケンヤ!」


と聞いた瞬間に空がヌクリと立ち上がって手を取られる。


「いいよ」


と三人で露天の扉を開く。


するとそこは月夜とオオザクラのライトアップが見える最高のロケーションの露天風呂だった。


「おお風流」「すっげ!」「うわあ」


写真にできないことを悔いながら、冷める前に入ってしまおうと湯に浸かろうとすると


「オー、これが露天か」「グットプレイスなのです!!」「うひょおおお!!」


と柵の向こう側から聞き慣れた声が聞こえてきた。その瞬間、空が何か唱え始め足にあの赤い渦が見える。


「待て空やめろ、死にたいのか」


先輩と瀬菜はわからないが確実に危ない人をぼくは一人知っている。有紗はやばい。彼女に手を出そうものなら何をされるかわかったもんじゃない。


「いや、それでもオレは一人の男として」


小声でどうやら空が向こうに行こうとしているのに気が付いたのは僕だけらしい。


「それに絶対障壁貼ってあるはずだし最近は障壁触れると捕まるから…」


「オレは突き破れる自信があるぞ」


だめだ。このままこいつの情動に任せては、僕の命の恩人が一人死んでしまう。


(考えるんだ。止めなきゃ…っは!)


その時視界に入ったのは洋介だった。


(いやしかし…ここで洋介のプライドを…だがやつの情動を抑えるにはこれしか…)


「ソラ、お前あっちにいる連中より鑑賞するんだったら合法的に近くで見れた方がいいだろ?だったらヨウスケで大丈夫だろう?あいつほかの女子より全然女子力あるだろ?な?ヨウスケで我慢しよう?犯罪になるよりヨウスケを撫で回した方が絶対僕はいいと思うよ」


必死に声を殺して空にそういうと彼は足に入れていた力を抜いた。


「そうだな…そうだよな、オレは何てことを…じゃあちょっとホモってくるわ」


意味深すぎて何も言えなかったが、空は洋介の方へ行くと露天風呂から引き摺り出し片手で持ち上げて露天風呂に投げて遊び始めた。


「え、ちょ、ソラくん!??」「ヨウスケお前は鳥だ!天使なんだ!!うおおお!!」「ぎゃああああ!!」


(うわぁ八つ当たりみたいだぁ…死なないように見とかないとだ)


「…スタイル良すぎじゃない?」「背が高いのはずるいのです…」


だめだ。黙ると思考が女湯に持っていかれる。僕も投げてもらおう。


「うおおおお!!」「悪霊退散悪霊退散悪霊退散ッ!!」「はははケンヤあぐらってw」


そうして時間が過ぎていきそのうち皆疲れ果てのんびりすこしだけ湯に浸かり温泉を出た。


先に二人は部屋に行ってしまいついでに歯磨きとか髪を溶かしたりとかしていた僕はそのままのんびり廊下を歩いていた。


すると


「ケンヤさん!!」


と呼び止められた。声的に瀬菜なので振り返りながらしゃがむ。すると


「なんでそんな流れるようにしゃがむのですか!!名誉毀損なのです!!」


とそのまま近くにいたらしく頭をペシペシ叩かれた。


「いや目線を合わせないと失礼かなって…んでどうしたの?」


冗談を言いながら立ち上がる。


「ちょっと私についてきて欲しいのです!」


彼女に旅館の和服を引っ張られて「はいはい」とついて行くと、自動販売機とベンチのある場所まで連れていかれた。


そして120円を渡され、


「あれなのです」


と指を刺された先は自動販売機の一番上の棚にあるお茶だった。なぜかその自動販売機お茶がそこにしかないことから大体察した。


「なるほど」


とそれだけ言って、買ったお茶を手渡す。


「ありがとうなのです〜」


ベンチに腰掛けて、瀬菜がお茶を飲む姿を見る。彼女はベンチに足が届いていないようでパタパタと足を揺らしながら最初の一口を大きく飲み込むと満足げに缶を掲げる。


ふと、以前のことを思い出す。


「そういえばHACであのまま働いてるのか?」


部員集めで聞くことができていなかった。なんせあんな死にかけるような思いをするきっかけになったわけだから…


「やめたのです」


お茶をの缶を両手で握りながら先ほどの笑みのまま彼女は言う。


「母に迷惑を掛けてまで趣味でお金を稼ぐ気は無いのです」


こちらを見て笑顔を溢す。


「でも大変だったのです、なんせ私研究を破棄できても内容を忘れらないのですからw」


その苦笑いが胸に刺さる。僕が何かできたかもしれないと思わせるような、でも実際には何もやれることは無くてという不甲斐なさが痛むのだ。


「結局研究の詳細を関係者以外に話さない約束をして、解放されたのです、破ったら再雇用なのです」


つい破ったら殺されるものかと思ったがそこまで残酷ではないに決まっている当たり前だ。


「まあおかげで、みんなといる時間が増えてここにくることもできるようになったので私は満足なのです!…それよりもわたしはケンヤさんが心配なのです」


と安心して聴いていたら不意に心配されているというのだ。改めてこちらを向く顔を見る。


「僕?」


その顔に笑顔はなくなっていて、見るからに不安そうに口を窄めている。


「ケンヤさんの頑張りで部員が増えているというのはわかっているのですが、わたしより後に入った二人についてわたし何も相談されなかったのです」


「?」


ちょっと言っていることがわからなかった。それがどうして僕を心配することに繋がるのだろうと思ってしまったんだ。


「ソラさんの時は二人でプレゼン内容を作ろうとして倒れちゃったのですし、それにアリサさんの時、わたしと別れた後に何かあったのです?足に傷もあり…その妙にアリサさんと仲良くなってたのです」


さほど1日で人の環境の変化に気がつく人はそうそういない。同じような力を持った僕だから少しわかることだが、多分彼女の脳は僕の能力を常に使っている状態になっているんだろう。何度も関連の記憶が流れ続けるから自然に普通は気がつかない細かい部分まで見てしまう。


「…そうだったかな?」


だから絶対に嘘をつけない。嘘をつけばその日のうちでなくともいつか気がつかれるからだ。


「そう見えたのです!ケンヤさんは何かそういう体質を持っているのかもしれないのです、そのあなたの能力もわたしの知らない能力種なのですから…いろいろ心配なのです」


だが、それは普通の人の話だ。僕は彼女と同様、意識的に自身の記憶を覗くことができる。これを活用すれば嘘に見えないように取り繕うこともできる。まあそれでも彼女には気が付かれる可能性はあるだろう、


「もちろんそうじゃないとは思うのですよ?でも変な話なんとなくなぜか嫌な予感がするのです、いつかあなたがいなくなってしまうんじゃないかって」


まるでずっと一緒にいたいみたいな言い回しに聞こえるのは気のせいだろうか。


「…あのーそれってー」


そう聞き直そうとすると、顔を赤くして手を僕の方に向けてくる。


「ち、違うのです!別にあなただけとずっと一緒にいたいとかそういうことじゃないのです!自意識過剰なのです!」


そうして怒られてしまう。正直ドキッとしたがそれはそれで少しがっかりしてしまう。


「ああ、まあそうだよね」


「そうなのです!わたしがずっと一緒にいたいのはみんななのです!あの部員でずっと過ごせたら楽しいなって思っているのです!それでその、ケンヤさんがその場所から私たちを合わせてくれたあなたが最初に消えてしまうような…自分で言っててもおかしいとはわかっているのです!けど…こう、なんなのです!!」


混乱したのか突然立ち上がってうろうろしながら怒り散らす。


「いや、僕に言われても…」


「いや、ですからわたしが言いたいのは……あ、全部言ってたのです」


頭の整理が早いからかいきなり冷静になると返って面白い。


「突然消えたりしないよ、そんな前みたいに死にかけることなんてそうそう…」


(過去一ヶ月以内に3回も死にかけてるんだけど…ははは…)


「何でそこで止めるのですか!不安になるのですぅう!!」「じょ、冗談だよ、大丈夫だって」


ぽかぽか膝辺りを叩かれる。


「はー…わたしらしくないのです、今日は疲れたのです…お先に失礼するのです、おやすみなのです」


急に目を細くしたかと思うと早口でそういうと一礼して布団に吸い寄せられているかのようにフラフラとゴミを捨てて廊下の奥へ彼女は消えていった。


(あいつなりにいろいろ考えてるんだなぁ)


そう感心しながら忘れ物がないかどうか確認して僕も部屋に戻る。するともう部屋分けがされ電気が少し薄暗くついておりこちらの部屋では洋介と空がすでに布団で眠ろうとしているところだった。


どうやら勝手に布団の位置が定められていたようで僕が一番奥の尾窓際の布団になっており隣は先生。


「そうだ村上くん、わしちょっと夜街行ってくるから消灯頼んでもええか?」


と先生が何やらスーツのような姿に着替えており布団から立ち上がるとそう言って部屋の鍵を渡してきた。


「え?よ、夜街?」


「わしゃジジイと言えど男だからのぉがはは、ではな!」


そう言って先生は華麗に寝ている洋介たちを避けて部屋の外へ出ていったのだった。


「えー」


と鍵に視線を落とすと消灯の準備と確認するべき項目などが鍵にかけられていた。


(面倒なものを…)


襖の奥からはこそこそ話のようなものが聞こえてきていたが男子でも何かしようかと思ったがそういえばすでに二人はぐっすり寝てしまっていたことを寝顔を見て思い出し、


仕方なく消灯を行って布団に潜った。


するとどうやら僕もかなり疲れていたこともあり、湯船で暴れていたのもちょうどよく廊下で冷めたのかすぐに睡魔が襲ってきた。


そして眠りにつく。


心地の良い夢だった。


多分真上から太陽に垂らされているのだろう木陰に頭を入れて寝転がっているとちょうど木の向こう側から声をかけられた。


何と言っていたのか聞き取れないまま僕も何を言っているのかわからないまま会話を続ける。時々声を荒げるようなことがあるがそれがまるで当たり前で面白いのかつい笑ってしまう。どこかで感じたことのあるような雰囲気を醸し出している彼だが夢の中だからか木の向こうを僕は覗き込もうとしない。


楽しくてベラベラと何かを言っているが理解はしていない。しかし彼はそれを聞いて笑ったり驚いたり実に楽しそうだった。


そして一通り話終わったのかガサガサと音がして彼が木陰から出ようと立ち上がろうとしたいることがわかった。



『君はそれでも挫けないと信じているよ』



そしてその言葉がはっきりと耳に響き、画面が一気に切り替わり胸が締め付けられるような変な夢を見た。


何の前触れもなく画面が大量に行き来して、何の脈絡もなく人が灰になる瞬間を見せられた。


そしてそんな悪夢を一通り見終わると目を覚ました。布団を持ち上げて荒々しくなった息を整えつつ、呆然とする。


次第に落ち着いてきて、時間を確認しようと見上げると3:30だった。特に不吉な数字ということもなく安心していると窓の方で何かが動いたのが見えた。


なぜかその時僕は咄嗟にそれを神様だと思い込み話を聞いてやると窓をガラリと開きベランダに出る。


「うお…びっくりしたぁ」


だがそこにいたのは、先輩だった。


「せん、ぱい?」


・・・


寝ぼけていたと話すと彼女はふふふと笑い、ライトが消えたオオザクラの方を見る。


「いやぁなんか興奮しすぎたのかわからないけど眠れなくてね〜」


と下手くそに笑うとため息をついた。


「珍しいですね、ため息なんて」


「いやね実はテストが不安でねw」


なんて笑っているが空っぽに笑っている気がしてならない。さっきの瀬菜と同じ感じがしてつい突っ込んでしまう。


「ほんとすか?」


と言った途端それこそ意外だったのか完全に僕を見ながら彼女は


「え」


とだけ言うとまた照れたように笑う。


「ほんとだよwどうせくだらないテストのことですよ〜」


とおちょくってきた。


「あ、それはなんかすんません」


こんなところでコミュ障が出てきてしまった。なんかいい雰囲気だしこの際だからいろいろ聞きたいななんて思っていたがいざ話してみると思惑通りにいかないような感じで


「・・・」


つい二人して黙り込んでしまう。と気まずい雰囲気を彼女が壊そうと


「はいはい、ウソつきましたーそうです別に悩み事あります〜」


と照れ臭そうに切り出した。


彼女の話によれば自分の“忘れっぽい”ことが悩みで楽しいことがあると忘れてしまうんじゃないかと不安になってこう言う場で熟睡できないそうだ。


「あー、夜の反省会ってやつですね、それやらない方がいいですよ?本当に不眠になるんで、後精神的にきますし」


「やっぱりー?でもわかっててもやっちゃうんだよ、だって楽しかったこと忘れちゃうかもしれないんだよ?」


ベランダの手すりに腰を乗せて彼女は寄りかかりそう言う。何度も考えているのに答えが出せないのだろうと言い回しからそんな気がした。だが僕の中でその答えは確実なものが一つある。普段こんなことは言わないのだが…


「でも忘れるってことは思い出せるってことじゃないですか」


と自分の価値観を述べていく。


僕は忘れてもすぐに能力で思い出せる。それが当たり前で生きてきた。だからそんなことが言えるのだとわかっている。


「はーケンヤくん痛いこと言うねぇ、でもそうじゃないの、本当に何も思い出せないのよ」


「例えば?」


「例えば…例えばねぇ…何で部屋に花飾りあるんだろうとか、何でうちお父さんいないんだろうとか、」


以前僕から家族の話を振ったことがあった。その時僕は父子家庭だと言う話をすると先輩は逆だと言ってうちには母と兄がいて何でか父親だけいないのだと話してくれた。


母親に聞いても元からそんな人はいなかったとそもそもうちは二人とも母親の養子だと言う事を言われたらしい。


「そういえばそんなこと言ってましたね前にも」


「うん…あそうだ!ケンヤくん、もし嫌じゃなければさその能力使って見てくれない?」


「能力ですか?」


「う、うん」


高校に入って自分以外にあまり使っては来なかった。無闇やたらに使っていればまたあの中学のようになってしまうかもしれないと思ったから制限してきていたのだ。しかし先輩に言われると弱い。なぜか使ってもいいと言われるとつい簡単に使ってもいいものだと解釈を曲げられている気がする。


以前洋介を引き入れる時もそうであり、あの後少し後悔していたのだ。


「…わかりました」


だが実際この人の記憶を覗いて見たかったという気持ちからつい、手が伸びてしまう。


なぜなら記憶見るこの作業、相手が当時考えていたことまでもわかるからだ。映像が流れるとまるで自分のことのように感覚、聴覚、視覚から全てが分かるのだ。


だから普段から何を考えているのかわからない彼女の頭を覗くことができると考えるとなんだかとても気になった。


指はそうしている間に彼女の額につきそこから意識を彼女の記憶へと潜らせていった。


・・・


ゆっくりと意識を集中させ目蓋を閉じたまま目を開く。すると


(なんだ…これ…)


筒をものすごいスピードで僕は落ちていっているような感覚があるにもかかわらず背景はゆっくり動き所々にバラバラに浮いている泡は映像がいつも通り見えるものと、鎖でぐるぐる巻きなって他のものと繋がっているものとの2種類あった。


(鎖?)


その鎖はよく見ると数種類あるようで、五角の鎖と六角の鎖、そして七角の鎖の三つがあった。


それぞれ絡まり、関連のある記憶だろうかを繋いで見れないようになっている。近づき覗こうと触れると弾かれる。


(どうなってるんだ…これじゃまるで鍵でもかけられているような)


そのうち弾かれては触れてを繰り返していると意識の集中が途切れてしまい、現実に戻されてしまった。


驚いた様子の僕に彼女はどうだったかと聞く。しかし僕はその回答をすぐには用意できなかった。


というのもなぜそんなことが起きるのか理解できなかったのだ。


今までにあったもので記憶が除けなかった人間は黒歴史を止めることができた原因であるあの少年一人であったが彼の場合覗くことすらできなかった。


なのに対しこちらは記憶自体は覗けるものもしっかり存在しておりそちらは通常通り見ることができた。


彼女の言う思い出せないものというのは本当だったのだ。


それもこれは彼女が思い出そうとしても思い出せないと言っていたこともあり外部から鍵をかけている可能性も見えてきた。


(本格的に僕の能力がなんであるかわからないと…どうなってるのか分からないってことか)


もし外部から鍵をかけられているのであれば似たような能力者が存在することになる。そしてその能力が僕より高いためか、もしくは僕の能力がその能力種などの系統に対応できないかのどちらかの理由で弾かれていることになる。


「…とりあえず、わかりませんでした」


あんな痛いことを言っておきながら情けないと悔しくなった。


「ケンヤくんでもできないことがあるのね」


「すみません、あんな大口叩いておいて…」


少し寂しそうにしながら彼女は僕の方を二度叩いた。僕は詳細と先ほど考えたことを彼女に伝えた。


「…いいのいいの、忘れてるんだとすればそれなりの理由があるのよきっと、それが自分なのか誰かの都合なのかわからないけど」


そう言われるとなんだかさらにもやもやしてきた。しかしそもそも僕はそこを理解する必要がないということを思い出した。


「でも先輩、別にあなたは忘れっぽいってわけじゃないってことはわかりましたよ」


「あーたしかに、さっきの説明聞く限りだとそうなるね」


「ちゃんと試験範囲も覚えてますし同級生との楽しい会話も大体残っていました」


すると安心したのか柵により大きく寄りかかる。


「なんか一気に安心した、もうそれだけで十分だぁ、ありがとねケンヤくん、私寝るね」


と柵からやっと離れ、部屋へ戻っていく彼女の耳が赤らんでいること、そして言動に違和感を覚える。


「ん?ケンヤくん?」


確か彼女は今まで村上と名字で読んでいたはずとタイミング悪く気になってしまった。そして帰ろうとする彼女に向けてつい問いかけてしまった。


口に出していことはその後すぐに気がつく。


その声を聞いた彼女はビクッと肩を硬らせるとすぐに振り返って、真っ赤な顔で胸ぐらを掴見上げ少し弱い力で声を出す。


「ぃいまそれはずずズルイってぇええ」


顔がめちゃめちゃ近い、上に襟を掴んでいる手が熱いのが分かる。


「あ、え、いや、そのいつもと違うなと思っただけで…」


正直予想もしてなかった反応にひよってしまう。


「はい、しょーじきに言いましょう!」


手を離すと彼女は照れ臭そうに開き直りこちらに決めポーズのような指差しをしてくる。


「後輩の中で!君だけ!私のこと“先輩”としか呼ばない!それが、それがその…気になっていましてこっちから名前呼びすれば伝わるかなと思ったら、伝わんなかった…と思ったら伝わっててびっくりしました!!」


「は、はい」


まだひよっていて簡単な肯定しかできない。


「はい!おやすみ“ケンヤくん”!!」


先輩は名前を強調してもう一度帰ろうと振り返る。


「は、はい…おやすみ、なさい…」


なんというか、その改めて言おうとすると照れ臭い。が、そこで言葉が止まったことで彼女の動きも止まる。


「「・・・」」


少しだけ沈黙があり、これ以上沈黙が続くようでは本格的にいえなくなりそうだと判断した僕は今までにない一番小さな声で


「…千里先輩」


と付け加えた。耳のいい彼女はその声でもしっかり聞き取れたようで、背中を向けながら頷きサムズアップをそのまま横に突き出して駆け足で扉に手をかけて戻っていった。


後から知るが、この扉を開けている時の彼女の顔を僕は少しだけ視界に収めていた。


その顔は真っ赤で、そしていまにも耐えきれなくなりそうな笑顔を我慢しているようなとても嬉しそうな表情をしていた。


まあしかしそんなことに当分気がつくこともなく、その時の僕はそのまま眠ろうと同じく部屋に戻った。


そして悪夢を見ないように祈った後に、


目を瞑りその夜は明けることになる。


・・・


起きるとすでに横にいた二人は起きており、先生もいつのまに帰ってきたのか皆歯を磨き顔を洗いと朝の支度をしていた。


二日目の予定は朝飯を食べて出発、


そして東京の観光地を少し回ろうという企画だった。


僕もそそくさと準備を整え、着替えも済ませる。そしてみんなの準備が整い旅館の食堂にて朝ごはんをいただき、旅館の人にお礼を言ってチェックアウトを済ませた。


(そういえば合宿できてる割に部活動らしいこと一つもしてないような…)


と資料を改めて確認すると瀬菜がいつも能力種について教えてくれるあの時間が用意されていなかった。


(本当にこれただ温泉に来ただけだった)


と駐車場にきて思い、みんなでワゴンに乗り込む。


そこからは行きと同じだった。


その時までは・・・




「先生の番ですよ〜」


席順は運転は当然先生、助手席は洋介と前のパーキングでクジで決まり他も同様にクジで中央席に左から僕、有紗、千里先輩、そして後ろ席には空と瀬菜が座っていた。


「そうさな、え、英雄」


シリトリをしていたのだが先生がそう言った直後僕は窓の外を見ていただろう。


前の助手席の洋介はどうやら風を浴びるために窓を開けていた。そして僕もまたその風の余りを浴びていた。


行きで見た森とカーブに差し掛かっていた。


一瞬その森の木々の上を青い髪の少年が飛んでいるのが見えた。


その瞬間だった。


ドン!!と思いものが車体を揺らしたような気がした。


突然のことにびっくりして運転席を見る。


フロントガラスが凹み、岩のようなものが車体に乗っていた。車が前に進んだことによってその岩は離れたが、割れたのはフロントガラスだけでなく運転席を潰すようにそれが乗っていたおかげで右の窓も割れていた。


どうやら先生はそのガラスの破片が腹部に刺さっていたようで血の匂いが充満する。


先生はそれからすぐに気絶したのかクラクションを慣らしながら前方に倒れる。それを見た洋介が咄嗟にシートベルトを外して先生のシートベルトを外し足を組み換えようとするが瞬間、強い衝撃が前方に広がる。


そしてガタンと重力が軽くなるような感覚から崖に落ちそうになっていることがわかる。

しかし今の衝撃で洋介にダメージが入ったのが分かる。明らかに先生の心配をしているような暇はない。


とアクセルを踏みっぱなしの車体は左に倒れ始めた。その時やっと声が出た。


「頭下げて!!!」「おめぇもだバカ!」「きゃああああ!!!」「瀬菜!!」「そんな…」


一斉にみんなが声を出している中洋介の声が聞こえなくなり、車体が崖を転げて落ち始める。頭を下げながら運転席を見る。どんどんと車は凹んでいき、壁側の僕は他の人の体重と重力に耐えられるはずもなく、体の中でバキバキという音を聞きながら必死に声を上げた。


「洋介!窓!!」


苦しんでいた洋介が回転の勢いで吹き飛び華奢な体が車外へと消えていく。その時彼がこちらに手を伸ばしているのが見えた。


そしてそれを最後に意識が途切れた。


………


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「…うわぁ、ボロボロ、死んでるかこりゃ」


声が聞こえる。


(誰?…いっ…)


体のあちこちが痛い。動かそうとするだけで痛いところもあれば何かがささって動かせない部分もある。


「た、たす…け」「うえ!!マジか!!」


高い少年のような声が耳に響く。


近くにいるのかその人に骨折してるだろう手を伸ばして痛みに耐えながら掴む。


「…わかった、じゃあ契約だ、松波洋介」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



パチパチという何かが弾けるような音と大きなものが倒れる音で目を覚ます。


肌の感覚が残る場所に砂がついていることから地面の上だとわかり、息が切れそうになりながら目を開く。


正面には青い髪の少年と後ろ姿の黒い影、その前では車が燃えていてその影になっていて人影が誰かはすぐにはわからなかった。


口に溜まっていた血を吐き、神であろうその少年に全力のかすれ声をあげる。


「…お前か、遊戯の…神」


「お?神様をお前呼ばわりとはいい度胸だね」


あたりを見ていた彼はこちらに顔を向けると近寄ってくる。


「なんで…こんな」


「違う違う違う違う、ボクじゃぁないよ違う違う、いい?これは全部君が起こしたんだ、聞いたことあるかい?“伝承の作成”だよ、あと助けようとしてるんだよ?ボクと彼」


「ふざけ…るな」


自作自演だった。何かを得るために無理やりに決まっていた。


「だからこうやって洋介くんに能力を与えて、君たちを助けさせてるんじゃないか、動けないからわからないだろうけど、他の人たちも怪我はしてるけどみんな行きで車外に出してくれたよ?彼は」


「…お、おまえ、が」


「それ以上喋るなって、伝承の作成で君が死んでどうする?それとも別か?いいや、君だよ君」


エンジンが爆発するが一切破片などが飛んでくることはなく、すべてを完了したとばかりに人影がこちらに来る。


紛れもなくそれは洋介だが、真っ黒な衣装に身を包み、彼に何かを言われ、四角形のワープホールのようなものを展開し始める。


「…待て」


「なんだい?まだ文句があるのかい?」


「洋介を…どこに…」「言っても仕方ないことだろう?どうせ記憶は消す、君の力は確かに神に近いけど劣ってる、じゃ、あ、救急隊は呼んでおいたから」


そう言って、彼らはワープホールの中に消えていった。


「クソ…ガミが…」


そこで僕も都合よくなのか意識を失う。


夢の中で僕は“伝承の作成”について語られていた。


それは授業で言われたことのないもの。知らない男に木陰から言われた言葉だった。


前と同じ夢だったが今度はその内容を理解できた。


『伝承は運命的な悲劇、英雄にはその悲劇が必要なんだ…それで初めて人間に認知され讃えられる、わたしもそうだった、もちろんそれ以前も…“大勢の人間を巻き込んでの事故の中、君だけが生き残って帰ってくる”僕はそれに耐え切れなかった。』


一度靴を噤むと彼は改めて息を吸ってこう言った。


『君はそれでも挫けないと信じているよ』


そしてその後に見たものそれは全て事実であるということを理解した。


決して四人目でもなかった。


厨二病の僕が妄言的に吐いていたあの言葉は、間違いではなかったのだ。


僕はその三英雄、


ニードの力を発症した人間だったのだ。


・・・




→VerMa:…………


VerGo:Only#13

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目を覚ますとそこは隔離された病室だった。窓から見える景色は一文が雲海で下には大きな都市が広がっていた。


そして僕の前には三人の人間、政府の最高権威、この病院の院長、そして現在生きているとされている唯一の三英雄、フールの継承者だった。


夢を見ている間に僕はいくつかのことをした。彼らに風評被害を生まぬよう、部員たちと先生の中から僕がその学校に通っていたこと以外の記憶を消した。


父親は面会謝絶となり、完全に僕は政府管理の人間となることになったのだった。そして使命を理解した。しかしこんなバカどもにそれを任せるわけにはいかない。


だから僕はもう一度眠りについてその時まで研究をすることに、準備をすることにしたのだ。


神にも、人間にも頼らずに世界を救わなくてはいけないと思うこの使命感の理由、


そして僕の持つ力を理解するために…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

投稿者メモ

今作品はここまでとなります。御拝読ありがとうございます!!次回から新シリーズの投稿を予定しております!!そいでは!!

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