第十一話【嘘と信号と逃避行】
神は理不尽だ。
力を皆に与えればいいというのに選ばれたものにしか力を渡さない。
彼らはそうやって世界を牛耳っていこうとしているのだろう。
思えばあの出来事があったのち、
新たな能力種が生まれた。
神は何かを奪っていったのだろう。
許されない。
信号は赤から青に変わる瞬間だった。
横断歩道に躓きながら飛び出すと彼女が自転車を捨てるようにその場に置き、僕に手を伸ばしながら走ってきた。
一回後ろを振り返ってみるとスーツの男は包丁値札のついたまま振り上げて固まっていた。
(もう少しで刺されてた!?)
呆然としていると手を伸ばしていた彼女に腕を掴まれて横断歩道を渡る。信号待ちをしていた人たちから悲鳴が聞こえる。多分包丁を握りしめて立つあの男を見たのだろう。
「早く!逃げるよ!」
さらに違和感、柚乃はドスの効いた声ではなくなっていた。
「ど、どどう言うこと!?」
言っている間に何人か人が後ろから追ってきているのがわかる。とにかく今はと彼女の後ろをお全力で走る。
路地裏まで逃げ切れ僕が口を開こうとすると彼女は僕の口を塞ぎながら物陰に押し込んだ。その右目の目蓋はずっと閉じられたままだった。
「あんたのために少し説明するけど…セナが“自殺が多い”とか言ってたわね?たしかに昔はそうだった…でもね」
「「みぃつけた〜!!」」
男女バラバラスーツだったりこれは肉屋のおばちゃんだろうか?それぞれが武器になりそうな包丁やビンを手にこちらにじりじり近づいてくる。
すると彼女は手で僕の目を押さえるそのあと怪しい連中の方から唸り声のようなものが一瞬聞こえるとまた手を引かれた。
「巷でっ…いや世界で噂になってるのよ!」
走りながら僕の手を引きながら彼女が声を張って話す。やはりその声にあの空のような話し方をしていた彼女の様子はない。
「“12個集まれば、返ってくる”って…」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
彼女の手を振り払う。
「だったらなんd」
この現状を今すぐどうにかできるのならなど考える余裕もない。二度も死に目にあったがそうそう人間性分が変わるわけもなくパニックになってしまった。
「あたしが狙われる、あんたと一緒にいるのがバレる、接触してくるってことはあんたに危害を加える気満々ってことわかった!?」
言ってることはもごっとも、彼女は自分だけでなく僕も助けようとしてくれてた。その気持ちに気がつかず、僕は自分の考えが当たり前だとでも言うかのように彼女に吐く。
「だったら僕を置いていけば早くなるはずだ!僕なんかいてもなんの役にも立たないぞ!敵に捕まったら他人の僕なんかさっきの奴らみたいに倒しちゃえばいいだろ!」
「それができないからついて来いって言ってんの!!あんたはそうするかもしれない!でもあたしはそうできねえんだよ!!」
ドスの効いた声、人に怒鳴られると言うのがこんなに怖いことだったのかと思いながら泣くこと許されないような気がして息を呑んで立ち止まってしまう。
「ほら!いくよ!」
コロコロと声色が変わる。まるで今までが演技だったかのように、その時の彼女の表情には生気があった。
商店街に中を走り回る。追手がさっきより少ない。早くこの状況を不安なく対処するために思案する。しかし慌てていることもあり考えるがまとまりづらい。
「ここまで来たから言うけど私が振り向いたら絶対にこっち見ないで、あんたなにも感じずに死にたくはないわよね?」
「う、うん」
走りながら彼女は辺りを見回しつつ、そう話す。もうわかっていることだが宝眼の能力は危険で制御が難しい、一瞬でも目を合わせたりすると能力が発揮されてしまう可能性もある。
(追っ手が少なくなったのには理由があるはず、十二人の能力について彼女はもちろん僕も偶然今日聞いていた、七人もの人物をゾンビみたいにして…)
「相手はもしかして」「観測眼、あの子の話は聞いてたはずよね?」「うん、ちゃんと覚えてる」
ー観測眼は目を奪って操ることができるのです!そのために必要な条件は二つ!その人の名前を正しく知っていることとその人を視認することなのです!ー
走りながら考え続ける。追っ手は武器を片手に迫ってくるがこんな商店街では人が多くてその判別がしづらいに決まってる。僕らもそうだが相手も条件は同じ、ただ人の数で言えば僕らが見つかる方が早いためいくら隠れてもその前後を見られるだろう。
ただ僕でもわかりやすい武器を持っていればその判別はできる。そこで彼らがどこから来ているのかを推測する。
偶然だがその時傘を握りしめてフラフラと商店街に入ってくる男と目があった。彼はニヤけるとこちらに走ってくる。
「アリサさん!後ろから一人来てる!!」
「走って!!」
商店街を何度行き来したろう。あちこちから数人が飛び出てくる。
(でも…これ、確信がないが柚乃さんの能力を考えれば対処はしやすそう)
あの注意とさっきの横断歩道での出来事を思い返すにわかりやすい。宝眼使いであるなら彼女は二番“停止眼”を持っていると考えられる。
視界にはっきり写った動いているものを二分間止めることができる能力。しかし彼女はその効果を持続的に発し続けるだから常に何かで覆うか目を瞑っていなくてはいけない。
(…ならあとは相手の位置さえわかれば彼女がなんとかしてくれるかもしれない…いくらクズみたいな僕でもせっかく助けてくれてる人に協力しないなんてバカなことはない)
「ねえ、どこかに隠れられないかな?少しだけでいいから」
「まさか疲れたなんて言わないでしょうね?」
「いいや、能力を使いたい、時間が必要なんだ少しだけでいいどこか…あの辺なんてどうかな」
繋いだ手をそのまま無理やり彼女を追い抜いて彼女を引っ張りながら人混みをかき分けてさっきとは別の路地裏、というより店のゴミ置きのような場所に隠れる。
無理くり引っ張ってきたのだが彼女は嫌な顔一つせず僕が何かするのを待ってくれた。
多分学校の前で僕が能力を使っていたのをわかって察してくれたのだろう。
記憶に潜っている間も時間は経つ。その時間は潜ってる間に合わせて立っているのか多少意識内での動きの方が早いとは思う。ちゃんと調べたことはないため正確には分からないけどそう時間はかからないはず。
「もし危なかったら一人で逃げて足手まといにはなりたくない」
息を飲んでから額に触れる。
心拍数が上がってるせいかいつもより波が早い。川の流れを遡るようなそんな筒。
お陰で泡が通り過ぎるのも早い。そんなによくない頭をフル回転させて頑張ってその泡の内容を叩き込む。
商店街に入る前の僕がここに潜っていた時の映像ももちろん記録されている、一応目は薄く開いていた、そして呼ばれて我に帰った瞬間のあの風景を改めて見渡す。
(どこだ…どこにいる)
もし観測眼の持ち主がいるとすればここだと推測した。屋根のある商店街の外から人を視認できる位置。相手が移動している可能性はないあれだけの人数を操っているのだそんな余裕はない。
(と思いたい…)
そんな常人よりも優れた能力者なんていたらとっくの昔に柚乃さんを殺してる筈だ。
そんな小さな可能性よりまだ多い可能性に絞る。さらに目に入ってきたのはさっきの男たち、買い物帰りのような様子のおばさん以外皆スーツの男性ばかりであることを思い出す。そして、
(…まさか)
僕らのいた信号機のすぐ正面向かいにある高層ビルの三階…そこに明らかにこちらを見つめている男がいた。定時退社の時間…と合わせて同僚を利用したのだろうかニヤケ面をこちらに向けている。
「わかった!」「あんまでかい声出さないで!」
と我に帰ると、何故か僕の目の前にはスレンダーな彼女の腕が被っており彼女は背中を向けて路地の明るい光に当たらないように身を潜め、小声で僕に怒鳴っていた。
急ぎ口を閉じるとその路地の方でこちらを見る人影あった。
(やばいっ!)
息を潜める…しかし
「見つけたあああ!!」
と言ってその人影はこちらに走ってきた。
「ああもういいわね!行くわよ!」
と彼女が僕の前に飛び出して目を使い、彼の動きを止める。しかしその頃には人影は増えており道を塞いでしまっていた。
「早くそっち行って!!」
と背中を押される。
よく見れば奥に商店街を抜ける道があるではないか。狭いがなんとか走れなくもない。
正面に見えている人影はちょうど七人、それ以上はないと思い込んで袋小路になる前に走る。
夕日が差し込んで目が一瞬眩む。
瞬きをすると背景が目に飛び込んできた。
さっきの横断歩道につながる道は左手にある。しかしそちらから追っ手が飛び出てくるかもしれない。
するとまた背中を押されてしまう。
(本当はもうちょっとしっかり作戦を考えるべきなんだろうけど…行くしかない!)
押してきた彼女の方を見てゾンビたちがすぐそばまで近づいてきていることに気がつき、彼女の腕を引っ張ってそのまま抜け出した彼女の手を引きながら走る。
「教えて!“わかった”って言ったわよね!」
「君も逃げ続けるわけじゃないよね?本体の位置が分かった!行くよ!アリサ!」
つい口が滑ってしまう。今まで瀬菜と先輩以外には呼び捨てしてたせいかもしれない。
「ちょ、今あんた!」「ごめん勢いでー!」「いい!わかった!全力で走って!」
どうやらありがたいことに許されたようだ。まるで競うように手を離して並んで走る。
そして出てきたのは学校からまっすぐ続くあの交差点。
あのビルでこちらを見ている奴がいる。
しかし視力がほとんど関係していない相手の能力に対してこちらははっきり見えているものしか効果がない。
そうするなら乗り込むしかない。どんなにバカだとふざけるなと言われようと乗り込むのが一番な筈だ。
「あのビルだ!三階に本体がいる!アリ…サ乗り込もう!」
と本体の位置を正確に覚えておくために彼の位置を探す。
三階の端から4つ目こ窓に腕をかけてニヤける男がいた。そして奴の口が動くのが見えた。よくはわからないが嫌な予感がした。
振り返るとその様子を彼女も眺め、目を見開いていた。
そう、はっきりとはわからないが“うお あいあ”と動いた気がした。それは彼女の名を言っているように見えた。
その瞬間彼女の動きが止まる。そして具足と首から力が抜ける。
(嘘だろ!)
そんなことがあるかと、彼女の肩を揺らす。
すると、何か伝わってきた。それは今までにない意識に吸い込まれるような感覚ではなかった。まるで意識だけそこに飛び出したかのように触った部分に穴が空いたかのようにそこから映像が流れてきた。彼女の考えていたこと、彼女の過去どうしてこの力を手に入れたのかもまで全てが一瞬で理解できてしまった。
(え…今までそんな力なんて…!?)
知らなかったではない今出てきたのは明らかに今までにない力、僕の能力だと確信できた。誰かによるものではなく僕の記憶の能力が何故かそのタイミングで変化…いや進化したのだとわかった。
(・・・)
「アリサ!!ねえ!!」
肩を揺らすも気絶しているように動かない。命令が下されていないかその場で止まっていろというものをかけられてしまったのだろう。
続々と残りの操り人形が集まってくるのがわかる。そして必死に彼女の正気を取り戻そうとする僕に襲いかかり、
僕の意識はそこで一度途切れた。
目を覚ますとそこは廃墟のような、工事中と書かれた看板が倒されたコンクリート張りの上層階だった。
そこには僕と有紗そして本体だろうスーツの男が立っていた。
「はははバカだねー!君はバカだ!!」
一番最初に入ってきた言葉がそんな罵倒から始めると寝覚めが非常に悪い。
「必死に守ろうとして帰ってくるだなんてねえ!お陰で簡単に手に入れられたよワタシは幸運だ!」
その片手に有紗呼ぶと彼は彼女の首を掴んだ。
「君は関係ないみたいだからもう帰っていいよ?それとも無力な君は何か抵抗でもするのかな?そうしたら自分がどうなるか考えたほうがいいよねぇ??」
(こういう自分のためなら何をしてもいいとか思ってる大人が…って僕もそうだったか、人のこと言える資格はないか)
「ん?なんだいその目はまるで諦めたみたいな顔だね?それともこんなこともあろうかとみたいなことがあるのかい?」
そう、僕は諦めていた。もう生きては帰れないだろうと、ならばせめてと
「まあ逃げないならそのままこの女が死ぬを見てな」
首を掴んだ手が強く握られているのかその細い手の甲に筋繊維のスジが出てくる。
苦しそうな表情を一切することなく彼女も首を絞められ続ける。
「待って!せめて教えて欲しいんだ…」
止める。これは些細なことだ。だが相手には重要なことだ。
「なんだ?ワタシの大切なものを教えてほしいのか?こんないたいけな女を殺して何を手に入れようって?そりゃカネさ!ワタシが汗水垂らして働いたカネ、あのクソ神に全部返してもらうのさ!カネは展開の回りもの一番社会で大事なものなのに…あのクソ神ワタシの目の前には現れて全部かっさらって行きやがったんだ!!絶望さ!もう会社も首になるし最悪だ!!だから取り戻すんだよ…っふうこれでどう?わかったかな?」
その目は遠く焦点が合っていない感じがした。ものを盲信的というかもう焼けと言ったような目。よく見ればスーツもクタクタ金がないというのは本当なのだろう。彼は何かやけになっているように見えた。そういう人が見せる狂気がどれだけ恐ろしいかを僕は今見せられているわけだ。
「ち、違うよ…あの、僕が知りたいのは…そこの“彼女の名前”だよ」
「あ?」
落胆した彼の顔は有紗の顔を見てにやける。
「何言ってんだ?君が教えてくれたんじゃないか??このワタシの目にははっきり見えてたよ?ワタシは読唇術が大の得意なんだ!!
“ねえ?ユノアリア?”」
「違うわバーカ…それ偽名ですらねえから」
その少し苦しそうな彼女の言葉を聞いた時、僕はつい苦笑してしまった。
少し前、
僕は彼女の持っていた過去をあらかた、ダイジェストのように見てしまった。
その時、彼女が打つむ直前に心の中で
『気づいてケンヤ!お願い合わせて!』
と強く念じていることに気がついた。
その後流れてきた映像は貧乏な暮らしをしている医療系の勉強をしていた彼女が家族と過ごしているスライドと運命の神を自称する背の高すぎる男が現れた瞬間彼女以外全員が息絶えたということ。
そして彼らが残した生命保険のお金で彼女が海外からここ日本に来ていたこと、彼女が日本人であった母方の名前すら捨てて偽名を使って高校受験をしていたこと。
そうつまり…
彼女が閉じていた右目をゆっくりと開く。
首を掴んでいる男の手が緩み、まさに驚愕と言った顔を彼女に向けた。
「ああああああああああ!!…っ!?」
そう叫んだ瞬間に詰まったように彼は声を発せられなくなり、痙攣しているのかプルプルと軽く震えながらその体勢で固まってしまった。
そうして首から手を退けた彼女は苦しかったと小言を漏らすと制服の胸ポケットから手袋とナイフを取り出した。
「ケンヤ、見ないで」
それだけいうと彼女は今までかぶっていたのだろう不自然に赤かった髪を外してこちらに投げつけてきた。
そこからは無言で作業が進んだ。
彼女が慎重にその細い男の急所を刺しているのが音でわかった。その後ガラスのようなものをたたくような音が聞こえ、
そしてこのカツラを外される。
制服に一切返り血は飛んでおらず、その髪をもう一度被りショートの白い髪を隠すと彼女はナイフを手袋表面で拭いて一緒にしまった。その手には宝眼らしきチミドロの目と注射器が握られていた。
「こ、殺したの?」
恐る恐る。何か言わない気がして出た言葉で僕は墓穴を掘ったようだった。
「そうするならあんたも殺してる」
しかし予想に反し、言葉と共に彼女の後ろに倒れる男に目が行く。
心臓に一差しから目をえぐったのかと思いきや傷が目にみ、変な話だが彼女は注射器に入った薬品を使って痛みを和らげたのか適切に宝眼だけ取り出したらしい。
「う、嘘でしょ?」
「そう嘘、全部嘘、あなたの見たあたしの記憶も全部嘘ね、今のこのあたしも」
何が言いたいのかわかった。ナイフをいじりながらそんなことをいう彼女は半ば脅しをしているようにも思えた。
「こ、この人はどうするの?」
「このままでもいいんじゃない?多分死なない、まあ薬が少し強いから副作用でしばらくは喉が潰れてるだろうけど」
(え、えぐい…いやまあそれだけのことしてるっていうかだけど)
彼女が柱に腰掛ける。流石に疲れたのだろう。僕もずっと寝そべっているのもなんだか恥ずかしくなってきたので立ち上がり裾やらの汚れを払う。
「…そういえばさあんたあたしに変な能力使ったでしょ、何あれ」
(え?僕の能力は額を触るだけで他に勘づかれるようなことは絶対にないはず…あ!)
そう進化した力、あれがどういうものなのか多分そっちのことを彼女は言っていたのだろう。僕の能力について一通り説明するとなぜか元から知っていたかのように彼女も納得した。
それもそのはず、彼女の話によればあの能力僕が記憶をダイジェストで覗く間、相手には僕の記憶の一部が見えてしまっているのだ。
「あんたが中学生の時何してたのか、知っちゃったのよね…あたし」
(やばい…この上なくよろしくない…どうにか言い訳しないと、)
「えっとそれは、」
「嘘ね、忘れる絶対に口外なんてしない」
髪の毛を整える彼女は軽く髪を振るとこちらを見下すような冷たい目で見つめる。
「え、へ?」
「だからあなたも全部忘れて、この目のことも今のあたしのことも、いい?」
交換条件というやつだ。初めてそんな重要な取引をした。それもこんな僕の隠してきた罪のために…しかし後悔するより僕はなぜか安心していた。交換条件でお互いの秘密を知っているという関係それがなんとなく一番楽なそして切り難いものだというのを感じ取っていた。
そして、今までと違って僕は彼女に協力できたということに満足感を覚えていたのもあるだろう。
「わかった…それでさ、もう一個だけ質問していいかな?」
「なんだ?」
声色がドスの効いたあの声に戻る。
「あの…部活って」
「ブッハ、え?何?この状況で部活?」
するとさらに彼女の口調が女性らしくなり、口に手を軽く当てながら笑う。男勝りにせっかく戻したのに気が抜けた。それほどに間抜けな質問だったのだろう。
「…あー決めたわ、正直迷ってたけどその心配も無さそうwこれからも、顔出させてもらう、あんたにあたしのこと話されても困るしすぐに手を回せるようにしとかないとね?」
(なんだか余計なことを言ってしまったようだ)
「お、お手柔らかにお願いします…」
その後二分が経ち男が動き始めたがどうやらかなり怖気付いていたようで目を奪われた喪失感からかそのまま逃げ出すようにその場所から立ち去っていった。
そして似た男をニュースで見ることになるのはそのすぐ後だった。
端末でネット記事を見ているとどう見てもあの君の悪い高笑いのする男が会社の金を使って私利私欲を満たしていたという報道がなされた。予測だが彼が宝眼使いとなった時期はその辺りだろう。
せっかく持ち逃げしようとしたお金が神に消されたためにあそこまで狂う。とても運がなかったとしか言いようがない。
それにしてもまだ梅雨の時期であるというのに、その日の帰り道はなぜかカラッとした涼しい夕風が頬にあたり非常に心地よかった。
今まで抱えてきた何もかもが解決した感覚、肩の荷が降りたような。
そしてなぜあんなに死に目に遭いながら僕は部活に一生懸命になっていたんだろうと考えつい、
「っは…」
笑ってしまった。
→#12「念願と先生と巨木の街」
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私はよく忘れてしまいます。瀬菜ちゃんはすごく頭が良くてなにも忘れないそうです。それが羨ましいと思いながら何故か、忘れることができない彼女のことを憂いました。だから優しくしてるわけじゃない。みんな同じ理由、忘れたくないから、思い出として残しておくために私はちゃんとここにいることを残さなくちゃいけない。
「あ、」
黙ってると暗くなっちゃうけど、口は簡単に滑ってすぐにそんな話題をかき消そうとする。
「そういえばまだ私だけ“ムラカミくん”だった」
不公平よね。今度呼んであげよう。
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投稿者メモ
この作品実はもう終盤なんです…短くてすまぬ。次の作品全力で作ってるけどしばらく時間かかりそうです。しかしちゃんと作ってくるのでお待ちを!




