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第十話【ビラと宝眼とタイミング】


彼らと出会ったのはよく考えればあの場所が初めてではなかった。


まさか彼らが現れるなんて思いもしなかった。


目立つ刺のような髪型の筋肉質な理系と無気力ながらに身なりの整った猫背の作業着。


ほとんど昔の印象と変わらなかった。


会ったその時のあの嫌な感覚、思い出すにすら痴がましい。


その日は天晴れだった。


そのことは前日の天気予報で予測されており、もう期限まで5日もないことから


[ね、どう!?]


とセネスで先輩がグループに提案を行っていたことが実行されることとなった。


[結構は明日なのです!( ̄^ ̄)ゞ]


[明日っつったら真夏日…っすよ(;_;)]


[水分補給しながら!ぼ、僕も頑張る!]


(りょーかい…っと…)


どうにも眠たすぎた。その夢で不可解なものを見るとしてもそれでも眠らずにはいられないのだった。


そして月曜。


朝早くに校門前に集まった我々は


今更ながらビラ配りと声かけを実行することになった。


「全校生徒に配れば一人は来る!!みんな頑張るわよ!」


暑いのは日光だけでいいのでなど軽口を言ってそれぞれにとりあえず20枚ずつビラが配布され、生徒会の挨拶運動開始に合わせて校門の中で待機する。


するとそのうちゾロゾロと人がやってくるようになる。


(なんか、改めて人に渡そうとすると恥ずかしいような気がするなぁ…)


などとティッシュ配りを毎週行なっている僕が何を負けてられるかと通行人の邪魔にならない場所を探してビラを手わたそとしていく。


今までは偶然人がぶつかってきてくれたお陰で集まったけれど、これだけ何回もそんなことが起きているためか確実にもう運は尽きたであろう。


そんなことで僕はこのチャンスにささっと6人目をまたはそれ以上になるように励んでいた。


(なんだかんだ言って楽しいしな)


かちどうは以前説明した通り、能力者関連でマイナーから浸透しつつある能力種までの勉強。意外にこれが面白い。


この能力種にはこんな特徴があり、こんな発動条件が…という内容を聞いていざ街の人々を見ると意外にその特徴に当てはまる人がいるのだ。


それを今まで知らなかった僕はそうやって遠目から人間観察することに少しだけ楽しみを覚えていたのだった。


(そういえば…ソラのプレゼンの時のあれはなんだったんだろうな、あいつに聞いてみてもそんなもの出してないって言ってたしな)


なんって木陰近くでぼぉっとしていると、


「ケンヤさん!一人で休憩なんてズルいのです!」


と瀬菜に怒られてしまった。


「あーはは、バレたか」


誤魔化しながら日差しの元に入っていく。


さて、そんな感じで最初に20枚を配り終わったのは僕だった。


道ゆく人の手元にそれも一番手の取りやすい肘の高さその位置にビラを置くように配ると結構受け取ってくれる確率は高かった。


(うんうん、見学くらいは来てくれそうだな)


と、ビラの山が置いてある方に行き二十枚ほどまた取りながら皆の様子を伺ってみる。


洋介は


「あ、あの、え、えっと、その、あ」


コミュ障を発揮していてビラを出せずにいる。瀬名はというと


「こちらどうぞなのです!ブブケンをぜひに!なのです!」


と声はしっかり上げているもののその身長のせいか見向きもされていない。


(なぜなのか)


「チサちゃーん」「ちーちゃんめっけ」


千里さんはというと顔が広いせいがあってかめちゃめちゃ同級生に話しかけられていてビラを配れていない。


そして、


「ねえ君、うちの部活来ない?女の子大歓迎なんだ〜」


ソラのやつは下心丸出しで半ばフェミが反応しそうな声かけをしている。


(ナンパじゃねえか)


グダグダというかまともにビラ配りができるメンツでないことに今更ながらに気がついた。


(いやビラ配りすらできないってことになるんだがそれは…だったらいっそソラにあのパフォーマンスしてもらった方が早い気がするような…)


ビラは風で飛ばないようにファイルの上に載せてありその上に重石をすることで何かないように固定してありさらに校門近くに置くことでその風自体を避けておくようになっていたのだが、


そのため、自分の真横を人が通るのだ。


そうさっきまでと変わらずで人が通り過ぎていく中にビラを持って行こうと校門側へ向かって立ち上がると。


目の前を真っ赤な髪が僕の視界を遮った。


長くそれでいて一切手が加えられていない真っ直ぐな髪、頑張って整えているようなイメージがまず持てなかったのはきっとこの人の目が見えてしまったからだろう。


中腰で見惚れていると、


「なんだよ」


とドスの効いた暗い声とつり気味の目で片目に医療用の眼帯をつけた彼女に圧をかけられた。


「あ、いや…文芸文化研究部ブブケンに見学どうですか?」


押されながらも仕事を全うしようとビラを差し出すと、興味ないかのようにそのまま昇降口に歩き出そうとしていた。


が、彼女は正面を見て一度止まる。


そして振り返って戻ってきた。


「なあそこのチマイのもそのブブケンか?」


こういうのもなんだが彼女のその口調は女性らしいかと言われればそうではない。いわゆるかすれかけて我の強い声の関西あたりの人の誇張されたイメージが湧いてくる。


(ち、ちまい?)


彼女が指を刺す斜め下方向にいるのは瀬菜である。チマイは方言であろうか俗語だろうかあまり聞かないが多分身長のことを言っているのだろう。


「あ、はいそうですけど…それがなにk」


何を言われるかわからなかった僕はとりあえず質問に答えようとした。


すると彼女は僕が言葉を言い終わる前にビラを一枚僕から奪い取るとその場を後にした。


なんだったんだ怖いななど身震いをした後にビラ配りに戻った。


全校生徒に配り終えついでに余った分を昇降口が閉まるのと同時に入ってくる生徒会に押し付けようとして少しお叱りを受けつつ、


それぞれの出来を見てみると、


なぜか大半を僕が配っていた。


「い、一枚だけしか配れなかった…」


「ヨウスケはもっと声張らないとダメだな!」


なんというかこうソラは逆に声がでかいというかうるさいというかこいつに場合なぜこのザ運動部の話し方とナンパする時の声が切り替えられるのかがわからない。


「どうしてせななの分はみんな受け取ってくれないのですか!プンスカなのです!」


(なんだその新しい語尾は)


「まあそのなんだ、牛乳飲め」


「身長が悪いとでもいうのですか!!」


毛を逆立てて爪を向けてこちらに遅い掛かろうとするのを生徒会からの説教を受けてきた部長こと先輩がクッションのように受け止めて彼女を抱きしめながら


「うーん、ちょっと間違えただけなのにひどい人たちよ〜まったくもう!」


とひたすら暴れる瀬菜を引き止めてくれる。


「さてこれで今日か明日中に一人は来るでしょう!その人を監禁してでもつなぎとめるわよ!」


「物騒な鎖でも用意してるんですか…」


「え?鎖なら確かあったと思うよ?」


「ひょえ」「ええ…」「なんでもあるなあそこ「


ボケをかましたのち今日の活動を決めて、皆それぞれ教室に戻ることになった。


・・・


「そういえばなんでケンヤはブブケンにいたの?」


とその教室までの帰りの道が完全に同じな洋介にそんなことを聞かれた。


たしかに話していない。今となっては活動やあのメンツでいるのが楽しいからということだけだがその内容は…


「些細なことだよ」(パンツ見たことの代償なんて言えないよなぁ)


「…そうなんだ」


詳しく聞いてこなかったが何やら意味深というか不安げな声にも聞こえた。


するとショートホームルームが始まるのか担任の先生が前から歩いて来てることに気がつき急ぎ彼と教室へ戻る。


(さて今日中に確保できれば一番いいけど…)



16:30部室。



「あんなに配ったのにぃー」


机に突っ伏して手足をジタバタさせる先輩のせいで机が揺れて課題ができない。


「まあ、気長に待ちましょうよ」


洋介は相変わらずお茶を注いでいる。夏向けの冷たいもののようでパックにかけているのは自動販売機で買ってきたミネラル水。


「まずこの部屋人くるにしても入れねえだろ、待つ間にちょっと配置換えしようぜ」


「ソラさんに賛成なのですよ!チサト先輩!諦めるのは早いのですよ!」


空の言う通りだ。長机を中央に置いたら通路はギリギリ、そして来客するにしても僕が扉の真前に座っているのだから入りづらいにも程がある。


そして夏の活動がもしあると考えるとあまりにも通気性が悪い。


「そうだね、たしかにこれはどうにかしたほうがいいかも…」


そこで先輩が提案したのが、


「おー、案外広いもんだな」


「家庭クラブから座布団でも借りてきましょうか?」


その問題の机を畳むことだった。


床はもちろんフローリングのままなので座るんだったら敷物か何かないと尻が痛くなる。そのためパイプ椅子はそのまま並べて少し移動すると案外机のあった部分にスペースが生まれた。


洋介と先輩が家庭クラブに座布団やらを借りに行ってる間に空はちゃぶ台を宿直室から、僕と瀬菜で部屋の掃き掃除を軽く行うことになった。


「ふーむ、これはちょっと埃っぽいのですね」


先にふわふわの綿がついているアレでダンボールやら窓枠やらの埃を瀬菜がとって僕がその落ちたゴミなんかを掃除するようになっていたが彼女の掃除できる範囲はかなり狭い。


ので


「ふーん!ふん!っほ!っは!」


と届かない部分が出てきてしまい、ダンボールが崩れそうで恐ろしい。


「セナ交換してくれないかな?危ないよ?」


「何を!これしきっ!せななにだって!意地は!ある!のです!」


それにせっかくふわふわでとった埃も散ってしまっている。


(彼女のコンプレックスに触れずに交換してもらう方法はないだろうか…)


隙間に入ったものを撮ってもらうついでにやろうとしていたことを僕がこなしてしまえばいいかもと思ったが、なんというか子供に“これをどこにしまうのか教えて?”と言っているような気がして気が引ける。


なんて考えながら箒を使っていると、


ガタッという音が聞こえ備えていた僕はすぐにそちらを振り向く事ができたが、考え込んでいたこともあり一歩遅れてしまった。


彼女が尻餅をついたようでその後ろのダンボールたちが倒れそうになっていた。


彼女がいるのが扉付近、僕は残念ながら窓側、いくら狭いとはいえ一歩で届く距離ではない。


「わわわわ…」


どうやらその状況に気がついた彼女も声を上げていた。どうやら怖くて腰が引けているよう立ち上がる様子もない。


「セナ!」


なんかどっかで見たような景色というか、ここ最近これよりやばい目に遭ってるおかげか足はしっかり動いていた。


が、やはり届かず積まれていたダンボールが中途半端に外れて倒れてくる。


その瞬間に反射で目を瞑ってしまった。


しかしドザリという音は重々しくしかし落下したにしては弱い当たりの音だった気がした。ホコリがたった鼻につく感じもない。


「だ…大丈夫?」


恐る恐る目を開く。するとそこに立っていたのは、


「あぶねえだろ、チマイのにんなことしてんなよ…怪我ねえか?」


ガサツな言い回しでなぜか何を言っても圧のある感じに聞こえる。朝見た赤い髪の生徒だった。


「あ、ああありがとなのです」


足を広げっぱなしだった僕もその突然の登場に驚きながらもゆっくり体勢を変えていく。


「君…朝の」


ちょっと怖かったのもあって声が小さくなってしまう。


「あ?ああなんだ見たことある顔だと思ったらココだったか」


彼女は潰して履いていた赤い上靴を履き直しながらこちらにそのツリ気味の目を向けてくる。


(赤ってことは…同じ一年生かこの人)


高校一年生特有の制服のあっていないようなブカブカ感それが彼女にはなかった。スレンダーな体付きに張り付く制服からなんとなく無意識に上級生だと思っていたらしい。


「お二人は…お知り合いなのです?」


「…知り合いというか」


今朝ビラ配りしたというだけというのも失礼かもしれないと声を弱めると赤髪の彼女はその弱くなった僕の言葉を食った。


「ビラ貰っただけだ」


まあ相手が言うならいいだろうと、瀬菜に僕も頷いて同じであると言うことを伝える。


「と言うことは見学なのです!?」


するとのほほんとしていた瀬菜の目が見開いて座っていた彼女が飛び上がる。


「…ああ、場所わからなくて迷ってたから1時間ぐらいずれちまったけどな」


恥ずかしいのか髪を一度振って瀬菜から視線を彼女が外す。すると瀬菜はこちらに駆け寄ってきて


「おもてなしするのです!準備も整ってない状態で帰られては困るのです!」


と小声で耳打ちしてきた。


長机を端っこに立ててしまっているしメンバーもまだ帰ってくる気がしない。たしかに迎え入れられる様子ではない。


まあ掃除がある程度済んでるため先ほどよりましではあるが、にしたってどうしたものか。


「もう少しで掃除終わるから、窓あたりの椅子にかけててください」


そう言って多分陽介あたりが座っていたであろうパイプ椅子を引き出す。


「あ?だったら手伝う」


「え?」


どうやら僕は見た目にかなり印象を寄せてしまうせいで偏りがあるようだ。お陰で彼女のその言葉が意外に感じてしまった。


「んだよ、文句あんのか?」


睨まれてしまった。何か気に障ったのかもしれない。やはり少し怖い。


「い、いや…でもお客さんにそんなことは…」


パイプ椅子片手に彼女の方を改めて見ると彼女は瀬奈の方を見ていた。よほど彼女が心配なのだろう。僕を見る時と違って若干だが穏やかに見えた。


「いいだろそこのがやるより効率がいい」


少ししか会話をしていないがなんとなく彼女がどういう人間かわかってきた気がする。


少し言い回しに変なところがあるけど実は結構いい人なんだろうと思いなら、と自分の持っていた短めの箒を渡そうとする。


「なにを!!で、あるのなら3人でやったほうが効率がいいに決まっているのです!」


と、瀬菜が横から箒を奪い取った。言われてみればと僕は別な箒を取りに廊下へそして例の赤髪の彼女には瀬菜のみればっていたふわふわと雑巾を手渡した。


そして黙々と三人で清掃を続ける。


彼女がふわふわで絡めとったあまりを僕と瀬菜が床のゴミと一緒に掃いてまとめるという作業を終え、軽く拭き掃除。


同じ棚をやっている時に赤髪がやはり目に付いた。


(黙ってると…なんかオレオレって感じじゃなくてこう)


言葉に詰まる。なんというか彼女は元々こういう性格ではないんじゃないかと思えてしまってならない。


声色はあってないかといえば合っているが演技くさい気がしてならない。


そんなこんなで部屋の中がかなりきれいになった五分後頃、


「ただいま、あ!?」「ん?なんです先輩?部屋きれいになったの見たいので早く中に入ってもらえませんか??」


洋介と先輩。


そして


「よっしゃああああ!」


と空がちゃぶ台を持ち上げて持ってきてくれた。


「ん!?お嬢さんどちら様!?」


ナンパモードではない空がアホヅラで聞く。


突然騒がしくなかった部室にいる彼女はなんとなく呆れた顔をして雑巾を絞っているのだった。


「今日のビラを見て来てくれた人だ、名前はええと」


そういえば聞いてなかった。掃除に集中しすぎて完全に聞くのを忘れていた。


「…柚乃有紗(ゆの ありさ)だ、見学に来たんだがタイミング悪かったみたいだ」


ちゃぶ台を置いた空が柚乃に顔を近づけて首を傾げる。


「お前セナみたいだな」


たしかになんとなくわかる。話し方が変だと言うのを彼なりに解釈して傷つけないような言い回しにしたのだろう。


「なにがなのです?」


瀬菜が見上げて空に疑問を訴えるが軽く頭をぽんぽんと叩かれて終わる。意外なのは空は美人を見るとすぐナンパモードになるはずだと言うのに何故か今は普通のままなのだ。なにも刺さらなかったのだろうか。


「何にせよ、よい!!人が来た!と言うことは活動開始だよみんな!ヨウスケくんお茶入れて!お茶!」


と謎な雰囲気を先輩が破壊してくれたと言うことでついに待ちに待った活動が始まった。


「へ、は、はい!」


なんというか、偶然なのかなんなのか今日の題は「宝眼」だった。


今まで能力種はメジャーなものが多かった。この前なんか亜人種がどうのという話があったと思えば、めちゃめちゃマイナーな能力種を瀬菜は議題に挙げていた。


が何故か途中、柚乃の方を見て固まりそこからは辿々しく言葉を選ぶようになり、シナリオにない展開になったかのように冷や汗をかきながら話を進めていた。


「宝眼」は12個しかないため一人に一つ与えられればその能力種を名乗る人物は 12人しかいないそして一つを除いて基本的に一生を終えるまでその能力は宝石のような目となって身体に残るそう。


世界機構によりどうやらその能力自体は全て把握されているようであまりにも奇妙な能力として扱われ、よく聞く話ではあるがその能力者は普通の能力種よりコロコロ、所有者が変わるらしい。


ここで関わってくるのが重い話。


どうやらこの能力を手に入れる経緯にあるとのこと。


(確かその辺で瀬菜の様子がおかしくなったよな)


宝眼は四神とは別の神、なんの神かわかっていないらしいが自称「運命の神」言う者から強制的にその目を与えられ、運命の強制力とやらで所有者となった人の大切なものが奪われるそうな。


そのため大概「宝眼」を手に入れた人物は鬱になって自殺してしまうのだとか。


(そんなまさかな…世界に十二人だぞわざわざ日本にいるはずもない)


終始その話を熱心に聞いていたのは僕だけではなく、空や柚乃も聞き入っていた。


この様子を見るに多分瀬菜が思っていることは杞憂なのだろうとある程度安心できた。


空はその後何か表現の参考になるかもだからいつかその目見てみたいとかほざいていたがその時も柚乃の反応は特になく男勝りな口調と声で質問を投げかけていた。


そんなこんなで活動は終わる。


さてバイトもあるし帰ろうかと言うと部室でもう少しいると言う空と部長と洋介に対し瀬菜も今日は用事があるのでと昇降口まで一緒になることに、


もちろんそこには今日のゲストであった柚乃もいた。


「あ、あのもしものことを考えておた、お尋ねなのですが…」


とぎこちない口調で瀬菜が柚乃に話しかけているのを昇降口あたりで聞いてしまう。確信を持って安心できなかった瀬菜は少し罪悪感に駆られたのだろう。その眼帯について聞いていた。


「ああこれか?物もらいだ一昨日あたりに無性に目が痒くなっちまってな…なんだ?もしかして宝眼だとでも思ったのかお前」


と靴を履き終わった僕は彼女がそっと眼帯に触れているのに気がついた。ゲラゲラと笑う柚乃と安心し切ったかのように目を見開いて胸を撫で下ろす瀬菜が視界に移り僕も苦笑。


「アホか、世界に十二人だぞ」


などと冗談を言って瀬菜を見送った。


どうやらお母さんが珍しく迎えに来ていたようで完全に安心し切った朗らかな笑顔で瀬菜は大きく手を振るとその笑顔を母親に向けて楽しげにその場を後にした。


「んじゃ僕もこれで」


僕も自転車を持って行こうと西の昇降口から出てゆくと何故か柚乃も後ろからついてきた。


「あ、あれ?柚乃さんも自転車?」


「そうだが?」


と端末をいじっていた彼女がなにを愚問なというか表情で鍵を取り出して見せる。


そして、


「え、もしかして柚乃さんもこっち?」


「おう、偶然だな」


帰るために出てゆく昇降口から繋がる道は3つそしてその方面も車道に従うか従わないかで2通りある。それが重なったのだ。


(と言っても6通り、まあこれは被っても仕方ないか)


と思いながら昇降口で別れを言った反面なんだか居心地が悪い。


「もしかしてこのまままっすぐ?コンビニで曲がる感じかな」


冗談だったが念のため聞いて置いてしまった。別に道がおんなじだからなんだと言うわけではないがここまで重なったらもしやと期待が出たのだ。


「おお、そうだ!お前もそっちか」


冗談だったのだが、と繰り返すのもアホだが折角同じ道なので話たいことが浮かんだため慣れないナンパのようなものを試してみた。


「そ、そこまで歩いてかない?ちょっと話したいことあるし…」


正直キモいと思われそうで言い回しを変えたつもりだったがなんか下心でもあるような感じになってしまった。


「おう、いいぜ」


この人にはそう言った感情がない素直な人だと言うことをこの時思い出した。


(良かった…)


しかしコミュ症、話題を振れない。


気がつくとすでに5、6歩歩いていたそこには沈黙があった。


「んで?なんだ?」


いや聞きたいことは単純なことだった。そのまんまいえばいいが、なんとなく変な気分がしてうまく切り出せない。


「…な、なんで見学来てくれたんですか?」


同学年に敬語とかほとんど使ったことないのだが、ついそんな聞きにくいことでもなかったのだが彼女の圧なのか萎縮した言い回しになってしまった。


「んだよ何気張ってんのさ、そんなことかなに聞かれるかと少しドキドキしちまった」


基本的に不機嫌だった彼女がこの数時間で結構打ち解けたようで最初の時よりかなり表情が動いてくれている。なんか安心した。


「まあなんとなくだよ、なんとなく」


「そう…ですか」


(多分これだ。)


思い当たる節、そう僕らは今結構危機的な状況にある。廃部寸前なのだ。そこで来た唯一の見学者これが結構重要な人材。そこで変に緊張しているのかもしれない。


「今日一日だけで聞くのもなんだけど、さ、うちの部活どうだった?」


「いいなああ言う雰囲気オレ好きよ」


目を合わせることなく彼女が自転車を引きながら歩く。なんとなくカッコいい気がしなくもない。


「それで…部に入る予定は…」


「まあ、いいぜ入ってやっても、人足りてねえんだろ?」


その言葉を聞いて安心した。いい人だとは思ってたけど、まさかここまでとは思わなかった。


「あーよかったー!ありがとう柚乃さん!」


緊張はまだ余韻か何かで残っていて未だにあの肩を貫かれた時とか川に落ちる瞬間みたいに心臓がバクバク言っているけど、その言葉が聞けて良かった。


(なんか今日体の調子悪いのかな?)


「おう、そういえばまだお前の名前聞いてなかったな?なんて言うんだ?」


「ケンヤだよ、村上賢也」


「よろしくなケンヤ、オレのこともアリサでいいぜ」


この辺の流れに何かデジャブを感じる。空と性格が似てるからだろうか、全体的に頼りがいのある印象になってしまう。


(なんだろう…でもなんか変なんだよな)


昨日からの記憶を少し辿ってみる。もしかしたら病み上がるの時にまた変なもの食べてお腹に来てるのかもしれないと考えていた。


どうしても心臓の鼓動が落ち着かないのだ。


(女の人が隣にいるからかな?…いやでも僕はどっちかっていうと先輩みたいな人の方が…)


その時視界の端に違和感を感じた。


何度も見たような、さっきも見たようなまさにデジャブ。


別に小説みたいにループしてるわけではないことは風景を見ればわかる。有紗は左を歩いている。今の違和感は右だ。


(誰か通った?)


振り返るとスーツの男性が歩いていた。どうやら学校の方すれ違ったのだ。


もう一度記憶を探る。


額に指を置くそして記憶に潜る。


すぐ目の前に浮かぶ泡を弾く。


数秒前、すれ違う瞬間に僕の目に写っていたものを再生する。


男は笑っていた。不気味、不適切な笑み。


それも前後を再生すると僕とすれ違う瞬間だけ明らかに口角が上がっていた。


(…やばい)


命を狙われる可能性なんて探れば人よりいくらかある自覚がある。しかし偶然かもしれない関わらなければどうにかなるかもしれないとにかく急ぎ家に帰ろうと思う。


「おい、信号だぞ」


その声で我に帰る。


「大丈夫か?なんかぼぉってなってたぞ?」


彼女は気づいていなかった。二人で信号を待つ。そして理解する。


(おかしい)


こちらを見るはずのない視線が数カ所僕らに向けられている。それも物珍しさに見ているものではない。


その視線を視界のギリギリで見つめる。するとさっき後ろに行ったはずの男が僕の横に立っていた。


「ねえ、アリサさん」


少し彼女に寄ってなるべく小さな声で話す。


「なんだ?」


なんの冗談かと彼女も耳を寄せてくれる。


「めちゃめちゃ見られてるの…気がつかない?」


表情でわかった何かを察したのか目を見開く。しかし彼女はすぐに先ほどまでのつり気味の目に戻り、ゆっくりと眼帯に手をかけながら笑った。


「なに言ってんだよお前」


眼帯の下に右手の指を入れて目をかきながら彼女は僕の肩を左手で軽く掴むと


「自意識過剰だわ」


と言いながら僕の背中を軽く押しながら僕の右隣にいたスーツの男を睨んだのだ。


その目はなんとなく人間の目とは輝き方が違って見えた。


「もしかしたらタイミング悪いのはケンヤの方かもな!」


彼女に手を引かれ僕らは横断歩道渡り人の多い商店街へ向かうのだった。




→#11「嘘と信号と逃避行」


VerGo:Only#10

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どうしてこうなったんだ?


人が汗水垂らして働いている間にこの街唯一の診療所であった私の家が私の家族が綺麗さっぱりいなくなっているんだ。


「運命を受け入れろ、契約はすでに交わされた」


感じたこともない激痛が右目に落とされる。叫び声が上がるが誰も来るはずがない。だってこんなボロ家には誰もいないのだ。


「せめて生きることを考えるのだな」


そう言って背の高い男は消えた。


あの部屋中に張り巡らされた針のようなものは切った全て彼の腕か何かでそいつに刺されて天井に下がっていた死体がずべて地面へ落ちてきた。


納得することも悲しむことに喜ぶこともできず私は目の痛みも無視して唖然とするほかなかった。

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投稿者メモ

新キャラです。こう言うキャラって詰め込みすぎって言うんですかね?

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