ワスレナグサノキヲク × 伍 <後日譚>
【 一掬 ❁ 後日譚 】
滝次の寝たきり状態が解消されて数週間後の、とある昼下がり。
場所は三峰家の居間付近―――
しず江 「さぁさ、お隣からいただいたトウモロコシを茹でましたよ~ 」
滝次 「ほぉほぉ、こいつは…… 都内で作ったにしてはまた随分と立派だなぁ。 おぅおぅ、熱ぅぅ~、こりゃあまだ熱くて素手では持てんなぁ」
しず江 「熱いから気を付けてね。 どう? 黒ちゃんも食べる?」
玉依 「にぃや…… にぃゃぁぁぁあ゛」
滝次 「ふふん、熱いからいらんとさ」
しず江 「じゃあ、黒ちゃんにはいつもの牛乳ねぇ。 はい、どうぞ~ 」
玉依 「ん~~~ にゃっ!」
滝次 「さて、テレビでも点けるかぁ……。 お、なんか歌番組みたいなのやっとるねぇ」
しず江 「まぁ、それでいいんじゃない? 最近の人の歌はよくわからないけど」
滝次 「でもあれだよ? そんなこと言っておると、以前の儂のように どんどんと身も心も老いさらばえて、弱っていってしまうぞ? どうやら、老化は気持ちからくるようだからなぁ」
しず江 「あらまぁ、それは恐ろしいこと。 それにしても本当、滝次さんの身体が良くなって嬉しいわぁ~。 でも… 本当に不思議よねぇ? だって、突然あちこち若返っちゃったみたいで…… 」
滝次 「まったくなぁ…… 不思議なこともあるもんだ。 それよりしず姉ちゃん、最近 儂のこと、『タッキー』って呼ばなくなったねぇ」
しず江 「あぁ~、それねぇ……。 うふふ… なんかね、この間まではあなたが寝たきりで半分 呆けちゃってたものだから、結構適当にそう呼んでいたのだけれどねぇ。 でも今は 頭もちゃ~んとしっかりしてそうだから…… 呼び方もちゃんとしようかと思ってね」
滝次 「あっはっは! 呆けとると文句も言えんしなぁ」
しず江 「でも、アイドルみたいで意外と気に入ってたりした?」
滝次 「気に入るも何も…… あの頃は全く気にも留めておらんかったよ。 それになぁ、その『アイドル』とかってぇのも、儂にはなんだかよく解らんし…… 」
しず江 「あら、でもこの番組…… 『公開アイドルオーディション』…… ですってよ? なんでも、たくさんの若い女の人が応募してきて、その中でもほんの一握りの人たちだけが合格して…… その… アイドル? になれるってことなんでしょうねぇ。 その最終選考なんですって」
滝次 「ふぅん…… 若い人らはいいなぁ、こういうきらきらした夢があって。 まぁ、儂らのように戦前戦中を生きたような世代には関係のない――― ん?……んん~~~!?」
しず江 「あら、どうかしたの滝次さん…… って、あらぁ… この人ったらまるで…… 」
滝次 「ああ、まるで…… 櫛名田様んとこの瑞穂様のお若い頃に、そっくり生き写しだなぁ…… 」
玉依 「んにゃぁ? …… ぶ! ぶふぅっっ!! ぐく… ぅ…… ぶっはぁぁぁあーーーーー!!!?」
滝次 「うわっ!? どうした黒ぉ、お前さん 大丈夫かぁ!?」
しず江 「いゃだもう!! ま~た黒ちゃんったら、汚いわぁ……。 ちょっと滝次さん! そこに掛けてある、しゅっしゅするやつ取ってくれない!?」
滝次 「お… おぅおぅ、除菌のやつなぁ。 あ~あ~、えらいことだぁ、こりゃあ…… 」
玉依 「ぐはぁっ…… げぇっほぉ! (し… しず…… 失敬にゃ……… オマェ… ) ぐぅっはぁぁ! かはっ…… ぐぇぇぇ…… 」
テレビ 「どうもぉ~、東京都から来ましたぁ~! 櫛名田ぁ 瑞穂…… じゃないわぁ…… えぇ~っとぉ… ワタシのお名前ぇ……… あ、そぉそ! 瑞希でぇ~っすぅ~~~! うっふふ♪」
テレビ 「それではお願いしましょう! 歌は、人気グループ『魔王軍47』のヒット曲……『生活を脅かす陰謀』です。 どうぞ~!!」
玉依 「げほっ… 瑞穂のヤツめぇ……。 ワレらは目立ってはいかんと あれ程言っておるのに、何って事を……。 むぅ… 今度アイツの頭ん中を本気で、根本からいじくり倒してやらんといかんようだにゃあ…… 」
櫛名田 玉依