サラマンダー
エミリー達は朝にエルフの森を出発し、目的の村に着くと数日その村の状況を調べながら、魔法の普及させるための魔法教室やデモンストレーションを行っていた。
基本的には夕方にはエルフの森に帰るのだが、歓迎の宴や感謝の宴などが度々行われるため、村に滞在する事も多かった。
宴が始まると、どこで知ったのかジェシカとサクヤが現れ、飲めや歌えの宴会になるのも当たり前のことになっていた。
そういうわけで、魔法と同じくらい、いやそれ以上に『マジカルガッデス』の名前は広く広まっていったのだった。
村々を調べる中で、初めにあった魔獣ほどの魔力ではないにしろ、魔力反応を持った動物も確認できた。
人間だけではなく、動物やおそらく植物にも確かに魔素の影響は出ているようだった。
宴はまだ続いていたが、エミリー達は少し離れた場所に移って最近の出来事を話していた。
「動物や植物の魔力調査も定期的に行わないといけないかしら?リーさんはどう思う?」
「そうですね、先の魔獣も予想以上の魔力を持っていましたし、調査は必要でしょうね。でも・・・」
「でも?」
「それをするのはこの世界の生きる私たちで、女神であるエミリー様は色々情報が集まるように世界中に魔法を広める事を第一に考えるべきですよ?」
「どうゆう事?」
「それはあたいが説明してやるよ!」
いつの間のか宴を抜け出してきたジェシカはイチゴを抱えていた。
「エミリーの目的は魔法を広める事だろー?」
エミリーに食べやすく切ってもらったイチゴをかじりながらジェシカが言う。
「うん。」
「世界は広いから、いろんな所で魔獣や魔法植物が誕生してんだろーなー。」
「そうなの!だから!」
「それを調査してたら、目的が変わっちまうだろー?」
「あ・・・・」
「ま、そうゆー事さ。前に魔法は勝手に広まるって言ったけど、目的が違っちゃダメなのさ。あとこの前は頼まれたからセーフだったけど、勝手に魔獣とか討伐したらアウトだからな!」
「それってサクヤ姫が言ってた世界に手出しできないって意味で?」
「そうさ、この世界の事はこの世界に生きる者が解決するのが基本だからな!リーが言ったように調査は人間達に任せればいいのさ!」
いつの間にかイチゴを全部平らげたジェシカは満足気にそう言った。
村々を巡りながらドワーフの谷を目指す旅は順調に過ぎていった。
そうして3ヶ月くらいすると、今後の目的地までの道のりにはもう村はないと言う最後の村まで来ていた。
もちろんこの先にも村はあるのだが、村への道はドワーフの谷への道とは違うルートなのだ。
イワナガは大昔は町だったこの村に来るのに2年くらいかかったらしいのだがゲートのおかげで随分と短縮できたのだった。
村の右手には火山が見えていた。
もう一つの目的地の火の山だ。
「ライアン、やっと着いたわ!あそこがサラマンダーのいる火の山ね!」
「そうだね、ゲートを使ってもかなりの距離だったね。でも時間があったおかげで、私の魔術はずいぶん上達したよ!」
実際、ライアンの魔術は魔法のように使えるようになっていた。
訓練の成果だろうか、ライアンの体に大きな魔力が入ってもコントロール出来るようになっているのだった。
最もライアン自身の魔力量はとても少ないのでカーラが側にいないと魔術を発動させる事はできないのだけれど。
いずれにせよ、二人の特別魔法を発動させる為の準備は進んでいるようだ。
「うーん、サムライ君は思ったより頑張っているですよ。微弱な魔力量しかない身体ではカーラから入ってくる魔力に慣れるだけでも数年はかかると思ってたです。」
「あら、凄いのね!じゃあ、キスするのに私の加護はいらないかしら?」
「エミリーがいいなら、それでもいいですよ。でも2〜3年はかかるです。エミリー待てるですか?アイスクリーム?」
「無理ね!ちゃっちゃとサラマンダーに会って、ドワーフの里に行きましょう!」
火の山は常に煙が立ち昇っていて、今なお噴火を繰り返す活火山だった。
中腹までの道のりは熱さと硫黄の刺激臭がひどいものではあったものの、有毒ガスの発生も無く、村の人によればここ数ヶ月は比較的落ち着いているらしい。
とは言っても、至る所に煙が立ち昇る火山の登山を素人だけで出来るはずもなく、村人にガイドを頼んだのだった。
そのおかげで迷う事なく、安全に山小屋まで辿り着いた。
「女神様、私が案内できるのはここまでです。」
山小屋に入り休憩しようとした時、とガイドの村人はそう言った。
「ここから先は山の精霊に認められたものしか進むことが出来ないのです。なのでここから先はそこにいるシャーマンが案内を引き継ぎます。」
「はじめまして、エミリー様、カーララートリー様。まさか本当に女神様が訪ねてくるなんて、今日はなんて素晴らしい日なのでしょう!私はミシマ ミサキです!よろしくお願いします!」
ガイドに紹介されたその女の子は元気に挨拶をしてきた。
年はエミリーと同じ16、7といった所だろうか?
いや、この世界には長寿の亜人もたくさんいる。見た目で判断してはいけない・・・。
「はじめまして、ミシマ?さん、私達は山の上の精霊サラマンダーに会うためにこの山に登っています。あなたがここから先のガイドをしてくれるのね?」
エミリーは若いなと思ったがそこは聞かずにおいた。
「はい!案内をするのは初めてですけど、大精霊様までの道のりはバッチリです!あと、私の事はミサキとお呼びください。ミシマが姓でミサキが名なんです!」
ミサキは元気よく答えた。
山小屋を出て一時間ほど経っただろうか?
頂上への道のりは今までとは違い苛烈な様相を呈していた。
少し離れたところにはマグマが流れている。
その先には噴火口があり、時折マグマが勢いよく噴き出している。
「ちょ、ちょっと、ミサキ!大丈夫なの?あれ、噴火してるじゃない!もっと大きな噴火があったらこっちに岩とか飛んでくるんじゃないの?」
噴火を見たカーラが驚いて尋ねた。
「大丈夫ですよ、カーラ様。あのくらいはいつものことですから。大噴火の前は地震や地鳴りが頻繁に起こるんです。そういう兆候はないので大丈夫ですよ。」
ミサキは笑顔で答えた。
ドーン!!
言っているそばから、大きな噴火があった。
噴火口からマグマに混じって、大きな岩も一緒に吹き出していた。
「ほら、ほらっ!!!あんなに大きな岩が飛び出してるじゃないっ!」
カーラはひしっとライアンに抱きついた。
「カーラ様、大丈夫ですよ。こちらには飛んできてません。それに今日は大精霊様の機嫌が良いようです。」
確かにミサキの言う通り、マグマや岩はほぼ真上に噴出しているため、こちらに飛んでくる心配はないようだった。
「凄いわ・・・」
エミリーは噴火を見ながらつぶやいた。
離れていても感じる圧倒的な熱や大地から受ける絶え間ない地響きは、自然がいかに巨大な存在で、その前では自分達など取るに足らない存在なのだと思わずにはいられない。
「ねえ、ミサキ、機嫌が良くてこの状態なんだったら、怒ったりしたらそれはそれはすごいんでしょう?」
カーラが興奮気味に聞いた。
「そうですね、本当に怒ったら世界を火山灰で真っ暗にしてしまうって伝わってます。神話のお話なんで誰も見たことはないんですけど。」
確かに今の前の世界ではそんな大噴火は聞いたことがない。もしあったなら人類は愚かな戦争の前にとっくに滅んでいただろう。
せいぜい都市を丸ごと焼き尽くしてしまったくらいだ。
それでもとてつもない力なのだけれど。
ミサキに答えにエミリーはそんなことを考えていた。
「ああ、懐かしいです。私たち、生まれたばかりの頃よく喧嘩したですよ。」
「そうじゃの、わしらも若かったからのお。」
シルフとノームは昔を思い出しているようだ。
「全くあいつは短気じゃったから、よく怒っておったわ。」
「ノームが怒らせてたです、忘れたですか?」
「それはあいつが話を聞かんからじゃろう!」
「うー、あれは話し合いと言わないです。ただの主張のぶつけ合いだったですよ。はぁ。」
猫のシルフはやれやれといった感じであくびをした。
「ねえ、シルフ、ここのところ大きな噴火が起きないのは、サラマンダーが落ち着いているからなの?」
「エミリー、ちょっと違うです。サラマンダーは元気一杯です、でも、遊び相手がいるですよ。」
「遊び相手?」
「たまに力比べして発散してるです。」
「えー!そんな事してたら、もっと凄いことになるんじゃないの?」
「凄いことになってるです。でもここじゃないです。あそこで遊んでるですよ」
そう言ってシルフは空を見上げた。
空には太陽が輝いている。
サラマンダーは山頂の火口跡にいるらしい。
辺りで時折噴火が起きていたが、もしかすると歓迎の意を表しているのかもしれないとエミリーは思うのだった。
山頂に着くと眼下に大きな噴火口が広がっている。
サラマンダーはすり鉢状の中心にいるのだろうか?
結構歩きそうだな、そう思ったが、ミサキは足を止めて火口に向けて祈り始めた。
ミサキの祈りが終わると、目の前にゲートが現れた。
「到着しました。大精霊サラマンダー様がお待ちです。」
ミサキに続いてゲートをくぐると、そこはさっきまで見下ろしていた火口の中心だった。
しかしそこには巨大な龍がいる。
上からでも確認できるはずのサイズなのに上からは見えない。
魔力の結界があるのは明白だった。
「私わからなかったわ、結界。」
エミリーは少しショックを受けた。
魔法神なのにこんな大きな結界を見逃すなんて・・・
ショックを受けているエミリーをよそに、カーラは興奮していた。
「あなたがサラマンダー?ずいぶん大きな龍なのね。上からは見えなかったけれど魔法を使ってたの?私は黒闇天カーララートリー。あなたに会いにきたのよ!」
カーラは目の前の巨大な龍にキラキラした目で話しかけていた。
「相変わらず素直な娘ね、カーラは。」
エミリーはカーラをみて、少し落ち着いた。
「ねえ、シルフ。サラマンダーは何であんなに大きな姿なの?力が大きいの?」
シルフやウンディーネは人、ノームはドワーフの姿だった。
「力じゃないです。長い年月をかけて作られたイメージなのです。私とウンディーネは妖精、ノームは老人の小人、そしてサラマンダーは火竜の姿で具現化するです。」
「じゃあ、力の大きさは関係ないのね?」
「違うですね。力で言ったら私が一番です!」
シルフがどうだと言わんばかりにヒゲを撫でている。
「何を言っておる!大地の力を持つわしこそ一番に決まっておろうが!」
うーん、昔はよく喧嘩してたってこのことだろうか?
しかし猫とアライグマの姿での喧嘩はなかなか微笑ましい。
「それでサラマンダーはどうだったの?」
リーがアライグマをひょいと持ち上げて聞いた。
「あいつは弱虫じゃったわい。」
「泣き虫サラマンダーです。」
何やら周りが急に熱くなった気がする。




