森に住むもの
脱字を訂正しました。
点在する魔石の魔力探知は変身する事で可能になった。
「ブラックになった方が魔力も魔法も上手く使えるわ。あんたもそうでしょ?技の精度が違うもの!」
とカーラが言った事がきっかけだった。
エルフの森の外にある魔石はもちろん村の中にもあったのだが、エミリーが移動先の目印にしたのはかつて街だった瓦礫の中にある魔石だった。
世界を破壊した新型爆弾はその一瞬で多くの都市と人間を蒸発させたが、その時にはまだ世界中に多くの人間が生き残っていた。
しかし舞い上がった粉塵が世界中の空を覆い、半年もの間近く太陽を隠した。
そして太陽が出ないため地上の平均気温は5℃近く下がった。
たかが5℃と侮ってはいけない。この気温低下は氷河期を意味するものなのだから。
更に雨は大気に混じった毒を吸収した雨粒を地上に落とし、多くの土地を枯らしていった。
その結果深刻な食料不足と病気の蔓延が起こることになった。
直接の破壊を免れた町に住んでいた多くの人間もこうして姿を消していったのだった。
「全く馬鹿な真似をしたものだわね。」
エミリーは瓦礫を見つめながらつぶやいた。
「ホント人間って奴はとんでもねー事やらかしたよなー。」
ジェシカが落ちている魔石を拾いながら瓦礫を見渡していた。
ジョーンズへの訪問の後、エミリーの転移魔法の練習には女神達が付き合うことになった。
人が住んでいないところの調査を兼ねてのことだ。
一時的な氷河期は10年ほどで収まりはしたが、大気や土壌の汚染はそう簡単に無くなることはない。
場所によっては高度な汚染地域も残っており、このような場所には狂った魔素だまりができているかもしれないからだった。
エミリーの魔石探知の範囲は普通は半径100km程度だったが、変身すると300km程度の広さは探知できるようになった。
更に感度が上がるため、転移魔法が可能になるのだった。
一番近くの村まではエミリーを祀っている『魔法の森』から最低でも3回転移魔法を繰り返す必要があった。
しかし村から次の村への移動は1回の転移魔法で良い事がわかった。
村々は大体歩いて3日から10日程度で着く距離にいくつかあるようだ。
そう考えるとエルフの森は相当離れた場所に存在していたのだとエミリーとカーラは初めて知ったのだった。
最初の村までは遠かったが、危険な魔素だまりはないようだった。しかし同時に、瓦礫の廃墟以外はほとんどない砂漠と化していた。
砂漠の中にいくつかのオアシスがあり、そこが旅の休憩所になっている。
もともと町は水辺を中心に発達するものだから廃墟の近くに水場が見つかる事は珍しい事ではない。
「ねえ、お姉様?何でこのオアシスに人が住んでないのかしら?」
カーラがジェシカに尋ねる。
「えー?住むにはちっちゃいからじゃねーの?エミリーの方がこういう事は詳しいんじゃねーか?」
ジェシカはエミリーに話を振った。
「うーん、そうね。多分、水が飲めなくなってしまったんじゃないかな?毒の雨が降って。毒は大地に染み込むから毒の雨が終わっても、長い間人が住める状態じゃなかったんだと思うわ。」
「ふーん、そうなんだ。エミリー、あんた物知りね。じゃあ、今は飲めるみたいだけどなんで毒は無くなったの?」
「それはね、時間をかけて分解したのよ。地中の微生物とか太陽の光、つまり自然の力で。でも・・・今はこう考えた方がいいと思うの。精霊が力をかしてくれたんだってね!」
エミリーはニッコリ笑ってカーラに答えた。
「そっかあ、精霊の力かあ。私もその方がいいな。私好きだよ、エミリーのそうゆう考え方。」
カーラが笑って答えると、オアシスは少し輝いたように見えた。
女神達は森までを最短で結べる4つのオアシスを選んで各々の祠を作りその中に例の動く写真を入れることにした。
そこで祈ると各女神の加護が少しの間付くようにするのだ。
「旅の安全のためにも大事なことでしょう?」
サクヤはそう言うと嫌がるエミリーを無視して3人でどの場所にするかの相談を始めていた。
その結果、魔法の森まではまずジェシカ、次にエミリー。魔法の森からエルフの森まではサクヤ、カーラの順になった。
まず、旅の幸運を、次に魔法神へのお参りの準備。そして体力回復からのカーラへのお参りの準備といった感じだ。
4つのオアシスはその後、それぞれの魔法少女を祀る聖地として発展していくことになる。
オアシスは他にもいくつかあったが、もちろんそのルートが聖地巡礼の正式ルートになった。
最初の村には既に行っていたのでゲートが開けたが、いきなり大人数が現れるのはどうかと思うという事で少し離れた場所をゲートにした。
事前調査で予め魔石を置いていたのだった。
ドワーフの里まで女神のエミリーとカーラ、エルフのリー、魔法使いのルークとキャンディ、騎士のライアンそれにドワーフのミーナの総勢7名が旅をする。
ちなみにエミリーとカーラは魔法少女の格好である
村に入った途端、子供達から熱烈な歓迎を受けた。
「お姉ちゃん達は『魔法少女』でしょう?!」
「魔法使えるの?魔法を使って!!」
「遠い森から来たんでしょ?どうやって来たの?」
「お兄ちゃんはカーラ様のナイト?カーラ様が来たって本当?」
「何いってるの!カーラ様がここにいるブラック様でしょう!」
「耳の長いお姉さんはエルフ族って本当?」
どういうわけか魔法少女の情報が多く伝わっている。
魔法についてはルークとキャンディの魔法教室の事もしっかり伝わっていたし、ライアンとカーラの出来事やエルフの存在も意外と正確に伝わっていた。
驚いたことにミーナがドワーフ族であることもしっかり伝わっていたのだった。
とりあえず、ファイヤボールとウインドシールドで軽く魔法の披露をして子供達を喜ばせた後、村長の所に案内してもらった。
途中にエミリーが渡した魔石が祀られているのを見つけた。
魔石に祈っていた人々はエミリー達を見つけると今度はエミリー達に向かって祈りを捧げた。
行商人の本隊はまだ村に着いていないのに、魔石と噂は早馬で到着していたようだ。
村長はライアンと顔馴染みだった。
それはそうだ、遠いとはいえ隣村同士だ。エルフの村の噂を流すのにも協力してもらっている。
もともと友好関係だったので会見はスムーズに進んだ。
もっとも村長はライアンのナイト任命とカーララートリーとの婚約の報告は受けてはいたがこの目で見るまでは信じられないようだった。
おまけに当の女神がピンクのフリルとゴスロリの少女とあっては会ってなお信じがたい様子ではあった・・・
信じる事ができたのはリーのおかげである。
村長は行商人と一緒にイワナガに会っていた。
イワナガからは圧倒的な力を感じた。そして決して逆らってはならないと本能が告げていた。
後でオームの村長に尋ねたところ、先の文明のもっと前から生きているという。にわかには信じられなかったが、まさしく神の如き存在なのだと感じたのは事実だった。
イワナガの側にはリーがいて、彼女はイワナガの側近だと聞いていた。
そのリーがこの二人がイワナガよりも上位の存在、『女神』エミリーとカーララートリー本人であることを説明したらようやく信じてくれたのだった。
存在は上位だが立場的にはイワナガがまだ上なのは内緒だ。
周りの村も含めた情報を聞いていると、近隣の村の森が最近おかしいらしい。
どうも森の動物が村に頻繁に現れるようになっているようだ。
では様子を見て来ましょう。ということになり、エミリーとリーがその森に調査に行くことになった。
「ねえ、リーさん。逃げちゃったけど大丈夫かしら?」
2匹のオオカミを追い払ったエミリーが言う。
オオカミは群れで行動するからこの2匹は斥候だろう。
いきなり現れた二人を警戒したのだ。
「引きが早いですね。群れに戻ったのでしょう。しかもこの先は魔素濃度が高そうです。少し警戒した方がいいかもしれません。」
「そうなの?魔獣化してるかもって事?」
「まだ魔獣というほどではないと思いますが、ちょっぴり魔力を使えてもおかしくないですね。人間で言えばルークとキャンディがそうであるように。」
「あの二人のレベルで使えたらもう魔獣だよ!」
「あら、たしかにそうですね?まあそんな事はありませんよ。」
「だよねー。でもこの格好は少し目立つわね。」
エミリーは魔法少女の変身を解いた。
「ピンクの方が安全ですよ?」
「魔獣じゃないなら大丈夫でしょ?」
二人は笑いながら森の奥に進んでいった。
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その魔獣が吠えると巨大な竜巻が起こりエミリー達に攻撃をしてきた。
それが合図だったかのように今まで劣勢だったオオカミ達は連携した動きで攻撃を始めた。
エミリーにとって魔獣のウインドストームなど全く問題ではなかったが、今は少し時間を稼ぐ必要があったので軽く受けて次の攻撃を誘発していた。
★☆★☆★☆★☆
エミリーとリーが森の奥に進んでしばらくすると、4人の人間に会った。
近隣の村々から派遣されたハンターだと言う。
彼らの調査によると、30頭ほどのオオカミの群れが森の奥を住処としていて、最近そのナワバリを拡張してきているとのこと。
そして群れのリーダーは頭が良く、なかなか姿を現さない。
今日は調査のため少し奥まで入ってきたのだと言う。
エミリーは少し歩くと周りにオオカミ達の気配があることに気づいた。
僅かな魔力を感じたからでハンター達は気づいていないようだった。
エミリーは思った以上に頭のいいリーダーと統率の取れた群れだと感じた。
エミリーはこっそり変身するとゲートを開き、リーに皆を連れてくるように頼んだ。
目に前にオオカミが現れた時には既に囲まれていて、戻る事が出来なくなっていた。
自分だけなら逃げ出すことも、倒すことも容易い事だったが、人間のハンターを無事に逃がせるかはわからなかった。
流石にオオカミを感じていたらしくすぐに3人のハンターは弓矢を構え、1人は剣を構え臨戦態勢を取った。
オオカミは素早かったが、魔物ほどではない。エミリーはウインドアローで応戦した。
しかしオオカミは迂闊に飛び出して攻撃を仕掛けたりする事はなく、じわじわと狭い場所へと誘導しようとしていた。逆にエミリー達は戦いやすい開けた場所を目指して移動する。
目的地についてはシルフが教えてくれた。
ただその場所には大きな魔力を持った個体がいることも同時に教えてくれていた。
ハンター達までその場所に連れて行く必要はなかったが、残念ながら逃げ出す事は難しそうだった。
エミリーはリーの帰りを待ちつつ、群れのリーダーがいるであろう広場に向かって少しずつ進んだ。
均衡が崩れたのは後方のオオカミ達の突然の突進だった。
初めは攻撃かと思ったがどうやら逃げているようだ。
何から?
「ファイヤボール!!」
ボン!ボン!と小気味いい爆発音と一緒にカーラが走って来る。
その後ろでライアンとキャンディが氷と水で火を消しながらついてくる。
その後ろにリーとルーク。最後にミーナが大剣を振り回している。
要はミーナの起こす突風に乗ってみんな進まされているのだった!
止まらないオオカミの突進はエミリー達も巻き込んで、更にその先にいたオオカミも巻き込んだ。
とにかく先へ先へと全力疾走して、気がつくとみんな広場に着いていた。
エミリー達は広場中央に集まり固まった。
オオカミ達は少し距離を取りエミリー達を囲うように輪になっていた。
「ふうん、今回はこのオオカミを倒せばいいのね?このカーララートリーが来たからには何も心配はないわ!」
カーラはオオカミを見るなりそう言い放つのだった。




