繋がる世界
ミーナが来てから1か月ほど経った。
明日からドワーフの里に向けて出発することになっていた。
それに向けてみんなはこの1ヶ月はそれぞれ準備をしていた。
リーはノームと一緒にポーション用の魔導具、水を出す装置と火を調節する装置の試作を繰り返していた。
細かい作業や高魔力の水や火の生成魔法の再現は今の技術では無理なので使い勝手が良く出来るだけシンプルな魔導具になるように工夫を重ねている。
薬草を取りにエミリーと森の奥に行くこともあった。
ルークとキャンディは途中に寄るであろう町で行う魔法の鑑定と体験をオームの村の人たちに教えながらより効果的な方法を探っていた。
魔法を教えていると、新しい魔法や複合属性による予想外の効果を持つ魔法の発見があった。
二人はこれを記録したり、時にはエミリーを呼んで直接見てもらった。
こうして発見した新しい魔法を試すことで三人の魔法レベルはどんどん上がっていったのだった。
カーラは旅の途中で火の精霊に会う予定を立てていたので、魔法の新しい技を考えていた。これはシルフとノームがサラマンダーを性格を教えてくれたためだ。いわくビックリする事が好きなのだそうだ。
ノームと違って会うこと自体は難しくないらしいが、いる場所が火の山なので会いにいくのが難しい場所だった。
しかし、火属性魔法の強化はポーション作りのキモとなる重要なファクターだ。
カーラはライアンを想いながら嬉々として新しい技に挑戦し続けるのだった。
ライアンは強くなるために修行をしていた。主にミーナが相手をしていたがイワナガやエミリーも協力していた。ライアンは氷属性だが魔力が弱いため自分だけでは使えない。でもカーラがいるとカーラの魔力を少し使えるようになる。ライアンが強くなった分だけカーラの氷属性が強化され、ライアンの使える火属性と氷属性の魔術が強くなるようだ。
目的はもちろん昇級試験に合格するためだが、カーラが氷属性の魔法をうまく使えるようになると火の山の登山が楽になるので一石二鳥なのだった。
エミリーは空間移動の魔法の練習をしていた。
ゲートは行ったところに瞬時に行けるが、行ったことがないと使えない。
転移魔法はあったことのある人の魔力を感じられればその場に行ける魔法だ。
ゲートと転移の魔法はサクヤとジェシカが教えてくれた。
「あれ?ゲートってレベル100までは作れないんじゃ?」
エミリーが尋ねると、
「ああ、神の国から地上に来る時に好きな場所に行ける条件はレベル100だけど、あたいらみたいな引率がいる場合、その管理下においては地上で好きに動いても構わねーのさ。まあ、初めっからゲート作るなんてエミリーくらいだけどな。」
とジェシカが笑いながら答えた。
「そうなの?でも管理下って言ってもジェシカ達一緒にいないじゃない。」
「ちゃんと、あなた達のことは見ているのよ。精霊を通じてだけどね。」
サクヤがニッコリして答えた。
「そうだったんだ。じゃあ、出来ない事とかやっちゃいけない事があるって事?」
「そうね、私達がダメって言った事はしたらダメ。もちろん人に大怪我させたり、村を壊したりしたらダメね。あと嘘をついてもダメよ!」
「そんな事しないよ!」
「まあな、普通はねーんだけどさ。例えばスゲー怒っちゃったり、めっちゃ悲しかったりしたら、どーかな?」
「ふふ、そんな事が起こらないように、私たちがいるのよ。心配いらないわ。」
「・・・・・」
ジェシカもサクヤもただお酒を飲んでるだけではないようだ。
空間魔法を教わってはみたが、エミリーが自分で行ける場所は限られていた。
そこで魔力探知で魔石の位置を探す練習を始めた。
人の魔力の代わりに魔石の魔力を感じて移動しようと考えたのだった。
まず最初のターゲットは先に行商人達に渡した特別な魔石にした。
この魔石にはエミリーの魔力が込められているので、エミリーにとっては探知は簡単だった。
実際に転移魔法を試したところ上手くいったので、次は各地にあるであろう旧世界の魔石の探知を試みたが残念ながら今度は上手くいかなかった。
魔力コントロールと同じで今のエミリーには小さな魔力の探知は出来ないようだった。
行商人達は荷馬車を使って移動していたのがその速度は徒歩と大して変わりはなかった。
オームから近くの村までは普通に二ヶ月程度かかる。
なのでエミリーが転移で魔石を持った行商人の元を訪ねると、彼らはまだ次の村への旅の途中だった。
行商は二ヶ月毎に行われると言っていた。
このペースでは到底間に合わないのだが、聞いてみるとエルフの村への行商を許された人間は他にもいて、時期をずらして訪問する様になっているとのことだった。
行商は偶数月の最初の7日間と決められたのだそうで、行商人達は情報を共有できるよう、エルフの村といくつかの村で情報交換を行えるようにしたのだという。
早馬を立て、その村々に今回の情報はすでに送っているという。
「意外と協力的なのね。あなた達は商売人でしょう?ライバルに情報を流してもいいの?」
エミリーはルークとキャンディの紹介で知り合ったジョーンズに聞いた。
ジョーンズはエルフの森での商売は許されていないが、エルフの森の存在と有益な商売の種をしっかり掴んでいた。つまり、その村々では新しい交易の情報が比較的簡単に手に入るのだろうか?
「エミリー様、エルフの森や新しい交易の事はオームが流した情報なのでみんな知っていますよ。でもそういう村で情報交換が出来るのは本当です。もちろん嘘や単なる噂もありますから、全部を信じていいものではありませんが、例えば・・・」
そう言ってジョーンズはステッキとメイスを取り出した。
「そ、それは!」
「ご存知の通り、オームで流行っているオモチャです。エミリー様とカーラ様扮する『魔法少女』なるもののアイテムですよね?」
「ど、ど、どうしてその事を・・・!」
エミリーは恥ずかしくなってプルプルしてきた。子供達の遊びは見ていて微笑ましかったが、大人に真面目に説明されるとはどんな罰ゲームだ!
「カーラ様が色々教えてくれました。『変身』すると『愛と平和の女神』の『特別な女の子』になるのだと。カーラ様は『ダークプリンセス・カーラブラック』、エミリー様は『ラブリーピース・エミリーピンク』になるそうですね。」
「・・・・・」
「この二つのアイテムの事はもちろん他の商人も知っていますし、サンプルとして持ち帰った者もいます。しかし!私以外に魔法少女と直接話をしたものはおりません!このステッキとメイスについての隠されたギミックの情報もバッチリですよ!!」
ジョーンズは満面の笑顔だ。
「わ、私はあなたにステッキの事など話していないわ・・・ま、まさかあなたは魔眼の持ち主なの!?」
「?魔眼って何ですか?エミリー様のステッキの事はキャンディお嬢様が教えてくれましたよ?カーラ様も魔法やメイスの事は嬉々として話してくれましたから。つまりこのステッキとメイスに関して言えば私が到着するまでは噂程度の信憑性しかないのですよ。」
「あなたはその情報で上手く商売に繋げていくつもりなのね。商売人は流石ね。」
「生きていくためですよ。いや、楽しく生きるためですね。私は少しばかり計算が出来ましたし、人の欲しがっているものが判るようなので。人間誰しも楽しみがなければ生きていても不幸です。私達商売人はお金を増やすことが成功であり、楽しみなのですよ、エミリー様。」
「お金かぁ・・・お金はとっても大事なものだけど、私は一番じゃないって思うの。農業や漁業や林業で汗を流す人、狩りをする人、それを使って料理や物を作る人、あとアスリート・・・今はまだそれどころじゃないか・・・限界や真実を求める探究者や研究者もこの世には必要な人達だわ。それに人のために何かをする事が好きでその人の笑顔を見るのが楽しいっていう人もいるわよね?あなたから見たら、私やカーラは格好のカモなのかしらね?」
他意はない。エミリーはただ思った事を口にした。
「エ、エミリー様!申し訳ございません!女神様の前で、つまらないお金の話など!このオモチャ・・・いや、女神様の神器でした!たとえレプリカてあっても金儲けの対象にすべきではなかった!うう、私はどうすればこの大罪を償う事ができるのでしょう?」
ジョーンズは手を合わせてエミリーに懺悔した。
「ジョーンズさん!?そ、そんなに畏まらなくていいのよ!オモチャの事も子供達が喜んでいるんだから、むしろいっぱい売ってちょうだい!神器なんて大層なものにしないで!」
「それならば、エミリー様他マジカルガッデスの素晴らしさや可愛さが未来永劫にわたって伝わるよう、全力で広めさせていただきます!」
ジョーンズは真剣な顔でエミリーに宣言した。
「あ、あのね、ジョーンズさん?普通でいいのよ、普通で。それにマジカルガッデスは出来たばかりで何の活躍もしてないし、そもそもサクヤ姫の戯れ・・・」
「お待ちなさいっ!!」
ドンッと音がすると二人の前に三人の人影が現れた。
「エミリーピンク!それ以上語る事はなりません!」
「ジョーンズさん!一番可愛いいのはこのカーラブラックよ!そこのところは間違えないでちょうだいね!」
「いやあ、あたいは止めたんだけど・・・」
「ジェシカイエロー!あなたも余計な事を言わない!さあ、エミリーピンク、今こそ真の姿に!マジカルチェーンジ!!!!」
サクヤが杖を上げると四人は虹色の光に包まれた。
そして光の中から四人の魔法少女が現れた。
「ラブリーピース・エミリーピンク!」
「ダークプリンセス・カーラブラック!」
「ヒーリングエルフ・サクヤグリーン!」
「ハピネスフェアリー・ジェシカイエロー!」
「「「「愛と平和のカルテット、マジカルガッデス!!!!」」」」
想い想いのポーズで自己紹介をして最後はみんなで決めポーズ!
サクヤに付き合わされて何度も練習した成果は、全然気分が乗ってなくても自然とできるまでになっていた。
「おお!何という奇跡・・・まさか女神様の共演が見られるとは・・・」
ジョーンズはキラキラした少女達の前で手を合わせ祈っていた。
「この可愛さ・・・やはり後世に伝えるべき奇跡・・・」
「ちょ、ちょっと!伝えるのは魔法の素晴らしさに・・・」
そうエミリーが言いかけた時、
「ピンク?ちょっと、いいかしら?」
顔は笑っているが目が真剣なグリーンに連れて行かれた。
「彼が私達の可愛さを広める情熱を止めてはなりません!」
グリーンが小声でいう。
「で、でも、私可愛くなんてないし・・・」
エミリーはモジモジした様子で小さくつぶやいた。
「ピンクが似合っている時点で、もう可愛いは確定なの。しかもその恥じらう感じ!あなたは可愛くありたいと思ってるし、ちょっと可愛いと思ってるでしょ?嘘はいけないわ。言ったでしょう?私達がダメって言う事はしてはダメ、嘘をついてもダメだって!」
「う、ちょっとは可愛いと思ったりしちゃうけど・・・どうして可愛さを広める必要があるかわからない・・・」
エミリーはため息をついた。
「そのうちわかる時が来るわ。一つ言えることはこれも魔法を広める大きな力になって事かしら。というわけでこれを彼に渡してちょうだいね!」
サクヤから渡された物は、4つの葉書ほどの大きさの写真だった。普通の写真と違うのは中の人物が動いている事。写真の世界の中で笑ったり手を振ったり、ちょっとした魔法を使ったりしていた。
そしてそれぞれの写真の人物は4人の女神だった。
「い、いつの間にこんな物を・・・」
「いいでしょう?きっと世界中に私たちのことが広がるわね。」
サクヤはニコニコしながら一緒に動く写真を見ていた。
「これは恥ずかしいよ。もっと違う方法もあったんじゃ・・・」
エミリーは自分の動く姿を見ながらつぶやいた。
「私の言った事は絶対!よ。」
サクヤの言葉にもはや頷くしかないエミリーであった。
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ジョーンズに渡した4枚の写真は想像以上の速さで広まっていった。
さながらアイドルのような彼女達の姿は子供だけでなく、大人も虜にした。
子供、特に女の子にとっては憧れの存在として。
男達は好みの女神に分かれて誰が一番可愛いか、強いかなどを熱く語り合うのだった。
ジョーンズと各女神推しの代表は程なくこの写真の動く魔法カードの魔法式を解読し複製に成功した。
ジェシカをして「あれを一代どころかたったの十数年で解読するとは、恐れいったぜ・・・」と言ったほどだ。
恐るべき情熱である。
初めはカードの中の絵を写して広まっていった4人のカードはこの発明により、超加速度的に広まっていく。
しかもジョーンズ達はこのカードを無償でばらまいたので貧富、身分の差に関係なく、誰でも手に入れることができたのだった。
点々に存在するしかなかったこの世界の人間はこのカードのおかげで瞬く間に同じ価値観(推し女神)と他の価値観(他のメンバー)の存在を知り共有する事ができるようになった。
全ての人間ではないが、少なくともマジカルガッデスのファン達には他の価値観を否定するという事はなかった。何故なら4人の女神が一つになる事がマジカルガッデスの価値を高める事を知っていたからだった。
4人の魔法カードを集めた時にその価値がわかる。
カードが集まると女神達は普段とは違う笑顔を見せる。
カードの持ち主が互いの価値観を認め合った時、女神達の笑顔は最高に輝きカードの中からその姿を現すのだった。




