魔法のある世界
神具を神器に改めました。
ミーナは客人としてしばらくイワナガの屋敷に滞在することになった。
ドワーフという事で他のエルフ達の態度が心配だったが、イワナガの客でカーラと仲が良いというので概ね好意的に受け入れられたのだった。
まあ、すでに人間とも仲良く暮らしているのだ。この村のエルフ達には異文化への耐性があったのだろう。そもそもイワナガ自身がハーフエルフなのだし。
ドワーフの里への贈り物は生ビールと古酒に決まった。
もちろん古酒はバニラエキスの抽出が大きな目的なのはいうまでもない。
サクヤにお願いして大きな樽を準備してもらい、魔導袋に入れて行く予定だ。
一週間ほど滞在していた行商人達がそれぞれの目的地に発った日の夜、エミリーはジェシカとサクヤを訪ねた。カーラも一緒だ。
エミリーは魔法神としてこの世界に魔法を広める事が目的で今地上に来ている。
決してバニラアイスを食べるためではない。
ジェシカとサクヤはエミリーの協力者として一緒に魔法を広める手助けをしてくれるために一緒にいる。
空いた時間にお酒の整理をするためでは決してない。
カーラは初めはただの同行者だったが、今ではエミリーと共に魔法を学び高め合っていく大事な仲間になっている。
大好きなライアンと結ばれるためでは・・・いや、うまくいってもらいたい!
4人のもう一つの姿、『マジカル・ガッデス』は応援すると約束したのだから。
「魔法はこれからうまく広がっていくかしら?」
エミリーはふと言葉に出してみた。
「魔法は勝手に広まっていくんじゃねーか?エミリーが心配しなくても大丈夫さ。」
「うーん、そうじゃなくてね、元々人間がエルフやドワーフと住む場所を分けたのは魔法があったからでしょう?今度は魔法使いとそうじゃない人が別の世界を使っちゃったりしないかなって。」
「魔法使いが差別されるって事?」
「その逆もあるかなって思ったの。自分たちは特別っていうエリート意識を持ったりしないかな?魔法の研究を小さな世界だけで独占したりしないかなって心配になったの。どう思う?」
エミリーはみんなの意見が聞きたかった。
「そうねえ、まず絶対的な決まりとして私たち神は直接的には世界に手出しができないようになっているわ。見つけた発見や作った物とか、もっと大きなもので言えば国とか戦争とか起こったことを神の力で無くすことはできないのよね。」
「え、でもミーナは先の世界で、ライアンの先祖と色々発見したり、町を発展させるのに貢献したりしたんでしょ?」
「レベル100までは大きな事じゃなければ、直接教えたり、一緒に物を作ったりできるのさ。」
「100を超えたらどうなるの?」
「加護を与えた使徒がいるでしょう?彼らを通じて、教えを広めていくの。」
「つまり、信仰が強くなればなるほど、エミリーの想いは伝わりやすくなるってことさ。」
「じゃあ、これからいろんな場所で魔法の奇跡を見せていけばいいんじゃない、エミリー?」
「カーラはどうだったの?」
「私の時は女神になる前から信仰はできていたから、ウィルがオームと森を守ってくれればそれで十分だったわ。それにあの頃は人と会うのが怖くなっていたし、他の町にはお姉様との仕事でちょっと行ったくらいね。」
「でも加護を与えたんでしょう?」
「そうね、私はウィルが森を守りやすくなるように、信徒の中から、オームの町に協力的な人や一族を見つけて、その人や一族が何年も何十年も変わらず協力してくれていたら与えていたわ。」
「じゃあ、あんまりいないの?カーラの使徒って。」
「うん、全部で10人ね。私もちょっと少なかったと思うのよ。だって世界が壊れたら私の力は随分小さくなっていたものね。だからあんたはもっとたくさん使徒を作った方がいいと思うな。」
カーラはさほど気にしている風でもなくそう言って笑った。
「加護を与えるっていっても、誰でもいいわけじゃないし・・・」
「エミリーさん、そんなに急がなくてもいいわ。エミリーさんが心配するような魔法や魔術の研究はまだまだ先の話だもの。」
「そうだなぁ、みんな生きる事で精一杯だもんな。今まであった便利なものは全部無くなっちまってさ。働ける時間だって陽が出ている時だけだし。ジジイも元の文明、っていうか元の生活に戻る手助けとして魔法を復活させたんだ。しばらくはゆっくり人間の世界の復興を見つめていればいいと思うぜ。」
ジェシカとサクヤは昼のうちに見つけたお酒の整理(試飲)をしながら答えた。
「そうだね、まだ、町もないしそれぞれの移動だってこれからだもんね。これから都市や国ができた時に私を祀ってくれるところが有ればいいのよね。そこが中心になればうまく広がってくれるかなあ?」
「じゃあ、そこの王様に加護をあげればいいじゃない!」
カーラが得意げに言った。
「王様ってなると影響力が大きいから、簡単には決められないかも。」
「でも、その影響力が必要なのは王様も一緒。利害が一致したら、戦略的に加護を与える事も必要になるわ。」
「そうだぞ、エミリー。隅々まで発達した魔導具なんかを普及させようと思ったら、力の強い人間が必要になるぜ。そもそもいい人過ぎたら国なんかまとめられないからな。」
サクヤとジェシカが交互に言う。
王様・・・魔法の国の王様、ぼんやりとイメージしてみた。
ルークはどうかしら?光の魔法使いで上位神日輪の神にも認められた人間だ。
悪くない、というか適任だ。でも彼の時代には国はまだ出来ないだろうから、彼らの子供に期待しよう。
子供といえば、ルークはキャンディと結婚するのだろう。魔法使い同士だからやはり魔法使いになるのだろうか?
「サクヤ姫、魔法使い同士の子供はやっぱり魔法使いになるのかしら?」
「普通は魔法の才能に恵まれて子供ができる事が多いけど、必ずしも強い魔力があるとは限らないわ。全然魔力がない子供が生まれてくる事だってあるのよ。」
「ええ?!その子かわいそう!」
カーラが思わず声を出した。
「そんなことねーよ、カーラ。子供は親のもんじゃねーんだから。あたいからすりゃあ、逆に別の才能があるって考えるけどなあ。」
妖精のジェシカからすればこの世に生まれた生命は等しく平等なのだろう。
更に言えば才能の有無など、幸福神の前では些細な事だ。
「そういえばカーラ、お前らの子供は人間か神かどっちかだぞ。」
唐突にジェシカが言った。
一瞬何のことか分からなかったカーラだったが、すぐに真っ赤になった。
「な、な、何のことかしら!お、お、お姉様ったら嫌だわ!」
「何だ、子供作らないのか?」
「ジェシカ、カーラにはまだ早いわよ、ねえ、サクヤ姫もそう思わない?」
「うーん、エルフだった私もエミリーさんくらいの歳で産んだから。カーラにはまだ少し早いかしら?」
「何よ、みんな!早くなんてないわよ!私はライアンのお嫁さんなんだから!いっぱい子供作るんだから!」
カーラは顔を真っ赤にしてプンプンしている。
「カーラ?子供って簡単に出来ないのよ?ちょっと早いと思うけどあなたどうやって子供作るか知ってる?」
「何よ!ちゃんと知ってるわ!愛している人とキスすると子供ができるんでしょ!ライアンのお母様が言ってたもの。そうしたらコウノトリって言う鳥が赤ちゃんを連れてきてくれるのよ!ちゃんと知ってるんだから!」
真っ赤になって説明しているカーラ見て3人は必死に笑いを堪えるのだった。
「まあ、何だ。深い話はそーなった時にすればいいか?」
「そうね、それがいいわ。」
ジェシカとサクヤはグラスを開けておかわりを注ぎながらそう言った。
ジェシカの言う、人間か神かどっちかの選択がどのように行われるのかは後でこっそり聞くことにしよう。
「ねえ、カーラ。いっぱい子供を作るなら、一人くらい魔法の国の王様になってちょうだいよ。」
「ふふん、優秀な私たちの子供の力が欲しいのね。いいわ、試験に合格したらいっぱいライアンにキスしてもらうんだから。あんたの国の王様にしてちょうだい。」
「約束よ!」
「あんたこそ約束忘れないでよ!」
後にカーラとライアンは4人の子を授かった。
長男アーサーはライアンの跡を継ぎオームの村を発展させ、いくつかの都市を束ねる都市国家の王となった。二人から与えられた羨ましいほどの才能に溢れた立派な王として記憶されている。
長女マリアはエルフの里に嫁ぎ、エルフの女王を支えた。人間とエルフやドワーフ達亜人との仲介役として活躍し、その子孫もまた各地で人と亜人の繋がりを作っていった。彼女の子孫は多くの亜人との混血を作り、この世界で種の垣根を薄くするという大きな役割を果たした。
次女フレイヤは大きな力を持つため女神として生まれ、神の国で暮らしている。美人と名高い彼女は神々からの求愛を全て断り、いつの日か母と同じように地上で素敵な男性に出会う事を夢見ているという。
優秀な魔法使いでもある彼女はエミリーを師と仰いで日々研究を重ねている。
魔法の国はオームとは離れた場所に作られた。
約束では次男を国王に迎えることになっていた。しかし残念なことにフレイヤの双子のフレイはライアンと同じように魔法の才能がなかった。それどころか何の魔術も使えなかったのだ。
そのことがわかった時、流石にカーラは次にまた男の子を産むからとエミリーに辞退を申し入れた。
しかし彼はライアンと同じダールマ家の強い想い『人の役に立つことに喜びを感じる』を持った人間だった。
フレイはカーラに何の心配もいらないからと言って最も辛いであろうその役に就くことを決意した。
しかし周りの心配をよそに彼は魔法が使えなくても立派に魔法の国の国王としてその役割を果たした。
エミリーの加護を受けた国王に導かれたこの国は、エミリーの願い通り魔法を人々の役に立つものとして広く伝えていったのだった。
言い伝えによれば、歴代最強の魔導騎士の名はこの国の初代国王フレイである。
魔法も魔術も使えないのに最強とは?
彼の剣にはあらゆる属性魔法が効かなかったと言う。
実は魔力のないフレイだったがたった一つだけ魔法を使うことができた。
無属性魔法。
どの魔法も魔術も使えない者にしか発動できない特別な魔法で全ての魔法を消してしまうアンチマジックの魔法だ。
この魔法の解析には流石のエミリーも完全に理解することはできなかった。何しろ自分では使えないのだから教えようがない。この魔法の習得には女神になったフレイヤの協力が大きかった。
彼女は神の国の図書館であらゆる文献を読み漁り、アンチマジックの可能性を見つけてきた。
エミリーとフレイヤで魔法式を作り、詠唱を考え、魔法陣を作成した。
限られた時間しか無いフレイのために、時間を伸ばす魔法を見つけたのも彼女だった。
こうして神器《勝利の剣》が誕生したのである。
この剣を抜いたフレイは無敵の強さを誇った。
最も彼は魔法は使えなかったが生まれつき身体能力は異常に高かったので人間としては最強クラスの能力を持っていたのだけれど。
ルークとキャンディはというと『魔法の森』に《マギア》というエミリーを祀る村を作っていた。
ライアンの子アーサーが地域の町や村をまとめて都市国家を作った時、位置的にはマギアも含まれていたが、魔法神の聖地であるこの地を統合する事はなく、アーサーはこの村に独立自治権を認めていた。
ルークとキャンディの出身地のサンストーン、ゴーダの両村をミラー家の当主が訪れ吸収合併する頃には立派な魔法国家になっていた。
隣り合う二つの国家はその後も姉妹都市ならぬ姉妹国家として共に発展していくこととなるのだった。
★☆★☆★☆
女神達は国ができ始めるとこの地を去っていった。
魔法はエミリーとカーラの加護を持った者達により、広く伝わっていった。
小さな争いや領土の奪い合いなどに当然魔法が使われる事もあったが、世界を脅かすような事はなかった。
そう、1000年くらいの間には・・・
アーサーが建国したオーカアラの国名の由来は、聖地オーム、母カーラ、自分アーサー、父ライアンの名前から取ってつけたもので、変わらぬカーラの加護と国の繁栄を願ってつけられたもの。




