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星の想い  作者: 景虎
新たな魔法神
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森の中の童女

イワナガの屋敷に招かれた行商人は5人だった。

エミリーは新しい魔石を二つずつ渡し、これから訪ねる村々でそれを祀ってもらえるように頼んだ。

魔法神の願いが込められた物だから大切に扱って欲しいと言おうとしたがその必要なかった。

行商人達は魔石を受け取った瞬間にエミリーの正体に気付いたからだ。



その日の夜、コーヒー研究所に集まったメンバーの話題はもちろん今日手に入れたバニラに関するものだった。

そしてバニラ成分はお酒から抽出する方が早そうだというのが一致した意見になった。


「カーラはその抽出をドワーフに頼みたいのね?」

「そうよ、エミリー!ドワーフには会うつもりなんでしょう?ちょうどいいと思うの!お土産のお酒も用意できるじゃない。そのお酒、珍しいお酒なんでしょう?」

「ドワーフは米を食う習慣はないから、米から作った泡盛やクースは珍しがるじゃろう。まあドワーフは泡盛の方が気に入りそうじゃがの。」

リーの横で浮かんでいるアライグマのノームが答えた。


「エミリー様、やっぱり成分の取り出しは難しいです。」

「そうねぇ、アタシも入っているものはわかるけどきれいに分けるにはもっと細かい魔法式が必要だと思うわ。」

キャンディとアクアは成分の分離に挑戦していたが上手くいかなかったようだ。


「ありがとう、キャンディ、アクア。やっぱり、抽出するには知識と技術が必要みたいね。」

エミリーはコーヒーを飲みながら考えてみた。



次の日、エミリーはイワナガを訪ねた。

ドワーフの村の場所を聞くためだった。

ノームももちろん知っているのだが、精霊は飛んでいけるので参考にならないのだ。


ドワーフの村の入り口は深い渓谷の中にあるようだ。

魔石の森と同じように秘境と言われた場所だ。

渓谷内には遺跡があり長年研究もされてきたが、遺跡までの道は迷路になっている。

おまけに大人数で通れる道幅もなかったため大がかりな調査が出来ず、今でも謎に包まれている場所だった。


「で、どうやって行くつもりだ?歩いて行くのか?」

イワナガは歩いて旅をしたようだが、三年ほどかかったらしい。

「いいえ、さすがに全部歩いては・・・ゲートを出してもらうつもりですけど、要所になるような場所は知っておいた方がいいと思って。」

「要所と言ってもわしが訪ねた頃とは地上は全然違っているしのう。おまけに大きな都市はみんな消えてしまったからのう。残った村がどんな状態なのかは行商人達の方が詳しかろう。今日も広場で商いをしておるから聞いてみると良いぞ。」


屋敷を出るとリーが待っていた。

一緒に広場に向かい手分けして、渓谷の近くに残っている村の情報を集めることにした。


「リーさん、どう?何か良さそうな情報はあった?」

「いいえ、エミリー様。どうも近くに村は無さそうです。渓谷にも今は近づくものもいないようですね。」

「そう、私も同じような話だった。でも場所を指定してしまったから、これから向かうものが出てくるわ。その前に私たちが調べておく必要があるわね。」

「急いだ方がいいでしょうか?」

「そんなに急ぐ必要はないと思う。私達にはゲートがあるしね。それよりドワーフへのお土産を考えた方がいいと思うの。」

そうエミリーが言うと、

「あの、エミリー様?貴女は女神なのですから、訪問を伝えれば向こうが準備をするかと思いますよ?むしろお土産を持っていきなり来られる方が困ります!」

と言われた。

「そうなの?でもイワナガ姫もいきなりだったんでしょ?私はそんなに強くも偉くもないから、嫌われないようにしなくちゃ。連絡はどうしようかしら?」

「全く・・・」

リーは呆れたように呟いた。


「まあ、これが我がマスターです。女神っぽくないのがいいですよ。リーも早く慣れるです。」

シルフは顔をエミリーのほほにスリスリしながら気持ちよさそうに言った。


ドワーフへの女神降臨の連絡はノームから精霊を通して行うことにした。

しかし結局連絡は違う方法で行われることになった。

ドワーフの娘に出会うことになったからだ。



ルークとキャンディは毎朝、魔法の森のエミリーの祠に詣でていた。

魔法の森は四大精霊ノームの森だったので多くの精霊の住処でもある。

ルークとキャンディはこの森で精霊付きとなっているので精霊達と仲が良かった。


いつものようにお祈りを済ませ森に出ると、精霊達が集まってきた。

「奥で人が倒れているよ!」

「え?!」

「いつから?」

「たった今だよ!ノームに会いに来たみたいだけど、もうここには居ないって言ったら倒れちゃったんだよ!」


ルークとキャンディは精霊に連れられて森の奥に行った。

ノームが以前いた大きな木の前に大きな大きなリュックがある。

近づいてみるとなんと女の子が下敷きになっているではないか!


「大変!ルーク、この大きなリュックを早くどけて!」


「な、何が入ってるんだ?めちゃくちゃ重い!!」

ルークはなんとかリュックをどかすことに成功した。

下には大きなリュックとは不釣り合いな程小さな女の子がいた。


「ちょっとあなた!大丈夫?怪我はないかしら?」

キャンディは声をかけながら身体を調べていた。

「怪我はなさそうだけど、念のためホーリーライトをかけてあげて!」


「ホーリーライト!」

ルークは右手を上げた。

光が女の子を包んだ。



「あー、よく寝た!なんか元気になってるし、気分もいいな!」

女の子はそう言うと横にあった大きなリュックをヒョイと背負うと歩き出した。


「ちょ、ちょっと待って!」

「?」

女の子は止まってくれたがリュックが邪魔で身体が見えない。

「私の事?」

女の子が振り向くと、そこには6人の少年少女がいた。



エミリーとリーが広場で行商人から聞き込みをしていると、アクアが飛んで来た。

森で人が倒れていると言う。

ちょうどカーラとライアンも来たのでみんなで行くことにした。


アクアに案内された元ノームの木の前には小さな女の子とその倍くらいありそうなリュックがあった。

「一体どうしたの?」

エミリーは先にいたルークとキャンディに聞いた。

「この子はこの大きなリュックの下敷きになってたんだ。」

「下敷きって!?その子は大丈夫なの?」

「平気みたいさ。今はぐっすり眠ってるんだ。何をしても起きないよ。」

ルークは呆れたようにエミリーに言った。


「エミリー様、精霊達によるとこの子はどうやらノームに会いに来たみたいなんです。」

「ノームに?」

エミリーはリーとノームを見た。


ノームはアライグマのまま女の子に近づいてしばらく見てからリーの元に戻って来た。

「この子は・・・ドワーフじゃな。正確に言えばドワーフとエルフの混血じゃ。」

「ハーフって事?」

リーが尋ねる。

「いや、血は随分薄くなっておるよ。ドワーフは本来、男のみの種族で岩から生まれていたんじゃ。じゃが昔、エルフと一緒になった者がいて、子を生んだ。じゃから今は女もおる。エルフの血が強いと女が生まれるんじゃ。」


「なんでノームに会いたいのかしら?」

「わしにもわからん。しかし面白い道具か酒が出来たので見せにきたのかもしれんのお。」

「何?あなたそんなに偉いの?」

「何と!わしは四大精霊の一人じゃぞ!ドワーフとの絆も浅くはない!何があればわしを訪ねて来てもおかしくはないじゃろう!」

ノームはどうだとばかりにリーに胸を張って見せたが、アライグマの姿ではリーと戯れるペット以外の何者でもなかった。


そうこうしていると、女の子が起きたようだ。

女の子は大きなリュックをヒョイと背負うとノームの木を振り向くこともなく、まっすぐ歩き出した。



「ちょ、ちょっと待って!」

女の子は声に気づいてこっちを向いた。


「あなたは精霊ノームに会いに来たんじゃないの?」

キャンディが尋ねる。

「・・・・?別に、ついでだから。居なければ居ないで問題ないから。」

「ががんとす!」

ノームは力なく頭を垂れた。

「あ、あなた、ノームはここに居るわよ。ほら、これがノームよ!」

リーはアライグマを両手で持って女の子に見えるように前に出した。


「あー、これはこれはノーム様。はじめまして、ドワーフのミーナです。その昔先祖がお世話になりました。ありがとうございます。ではこれで。」

ミーナと名乗った女の子は非常に簡単な挨拶を終えるとまた歩き出した。


「ちょ、ちょっと待って!」

再び振り向いたミーナは少し不機嫌そうだ。

「一体何ですか?あなた達は!私行くところがあるんですけど。急いでいるので用があるなら手短にお願いできるかしら?」


エミリーが皆の前に出て、ミーナに軽く会釈した。

「はじめまして、ミーナ。私は魔法神エミリー。私達はあなたが倒れていると聞き、この場所に来ました。でも大丈夫なようで安心しました。確かにあなたが無事ならここに来た用は済んだのですが、あなたはドワーフなのですね。私達は今、ドワーフとその魔導具の技術に大変興味があります。どうか、少しお話しを聞かせてもらってもよろしいですか?」


「そうでしたか。それは失礼しました、魔法神エミリー様。私はミーナと申します。ご覧の通りドワーフの女です。ご存知かと思いますが人間が生まれたときに姿を消した種族です。その理由もご存知かと思いますが、人間の神であるあなたが何故ドワーフの技術に興味があるのですか?」

ミーナはとても失礼したとは思えない様子でそう言った。


それを聞いたカーラは少しプリプリした顔でエミリーの横に来て小さな声で囁いた。

「ちょっと、エミリー!あの子生意気よ。神を敬わないなんて!ここは一発ガツンと言ってやりなさいよ!」

「そうですよ、エミリー様!ノームに対してもあのような態度!いくら可愛いアライグマの姿をしていても、四大精霊です!しかもドワーフに加護を与えた大恩人ですよ!ちょっとシメたほうがいいんじゃないですか?」


「まあまあ、二人とも落ち着いて。私やノームが直接あの子に何がしたわけではないわ。ドワーフとはこれから仲良くなっていくのだから、私達の常識で考えてはダメよ。」


そう言っている間にキャンディ達がいつものようにお茶の用意をしていた。

ミーナは興味深そうにその様子を見ている。


「ほら、あの子は小さいからまだ何も知らないだけなのよ。」

エミリーはニッコリ笑ってそう言った。


「エミリー様、あのミーナという女は決して小さくありませんよ。」

「どういうこと?」

「ドワーフの女は生涯のほとんどを童女の姿で過ごすと聞いています。ドワーフの谷からここまでの旅を一人でやってのけるとなれば、相当な強者でしょう。ノームはどう見る?」

「ドワーフの寿命は200 年くらいじゃ。男なら脂の乗った100歳前後と言ったところじゃろうが、女は歳をとって旅はせんからのう。この旅をするのに必要な経験や知識を考えれば50歳から80歳くらいじゃろうて。」

「「え!?おばさんじゃん!」」

エミリーとカーラが驚いて声を揃えた。


その時ミーナの目が妖しく光ったが、その事に気付く者は誰もいなかった。


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