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星の想い  作者: 景虎
新たな魔法神
37/51

バニラの香り

「つまり、この世界は魔法がある世界になったって事ですか?」


ルークのホーリーライトを浴びたジョーンズは頭がスッキリしたのか少しの説明でこの世界の変化を理解したようだった。


「理解が速くて助かるよ。ジョーンズさんは魔法の存在を知っていたようだけど、どうして魔法を知ったんだい?」

ジョーンズはポケットに手を入れ、前に出した。

「こいつですよ。」

それは少し赤い色を持った魔石だった。


「ステータスボードを見たのね。それで魔力と魔法を知ったのね。ジョーンズさんは何か魔法を使えるの?」

「いや、俺には才能がないらしくてね。いろいろ試してみたけどダメでしたよ。」

ジョーンズは魔法の練習をしている村人を見ながら羨ましそうに言った。

「ふーん?じゃあ、ジョーンズさんは魔法に興味があるのね?」

キャンディが聞いた。

「そりゃ、そうでしょ?自分に未知の力があるなら知りたいもんでしょう?」

「確かにそうね。ジョーンズさんに会ったのも縁だし、ちょっと見てあげる。これに触ってみて!」

キャンディは自分の魔石を取り出すとジョーンズの前に差し出した。


ーーー<ケーシー・ジョーンズ>ーーー

種族:人間

属性:視覚

レベル:1

HP:F(50/50)

MP:F(50/50)

力:F

魔法力:F

防御:F

速さ:F

運:D

スキル:魔力認知、(千里眼)

-ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「何だ?この『属性』と『スキル』っていうのは・・・。こんなのは見たことがない。」

「属性鑑定はキャンディの特殊能力だよ。スキルは一定の魔力がないと見えないみたいなんだ。」

驚くジョーンズにルークが補足説明をした。

「ジョーンズさんは目がいいのね。魔力が見えるみたいだから魔導具の目利きができそう。きっとこれから役に立つ能力だわ。」

「どうですかね?使い方がわからないんじゃ、役に立ちそうもないですね。」

「簡単よ!『精霊よ、我の眼に力を貸したまえ、魔力鑑定(マジカルジャッジ)(アイ)!』って言ってみて!」


ジョーンズはエッという顔をしてキャンディを見たが、キャンディは至極真面目な顔をしている。

「精霊よ、我の眼に力を貸したまえ、マジカルジャッジアイ!」


ジョーンズの視界が変わった。

様々な色のオーラのようなものが人々から出ているのが見える。

中でもルークとキャンディは別格に明るいオーラを纏っていた。

練習中の魔法には術者と同じ色があり、その強弱もわかる。

自分自身を見てみると、薄いオーラに包まれていた。

その感じから、魔力が弱いことも想像できる。

ポケットの魔石の魔力も感じられる。

それなら他にも隠れた魔力はないかと目を凝らした瞬間、魔法が解けて視界が戻った。

身体にひどく疲れを感じるとその場に座り込んでしまった。


「魔力切れみたいね。これを飲んで。」

キャンディに渡された小瓶を飲むと一瞬で疲れが取れ、魔力が回復したのもわかった。

「こ、これは?」

「魔法回復薬ポーションよ。まだ試作品だから売ってないけどね。今、私たちはこれを研究しているの。」

「こんな物まであるなんて・・・。確かに特別な交易が出来るっていうのは本当だ。でもいいんですか?こんな大事な秘密を俺なんかに話してしまって?」

ジョーンズは空になった瓶をキャンディに渡しながら聞いた。

「別に構わないさ。今ある事は隠す事じゃないし、むしろ正しく伝えて欲しいんだ。魔法と魔法神エミリー様の事をね。この世界に魔法を広め、エミリー様の名を高める事が俺達の役目なのさ!」

ルークは胸を張って答えた。


「お嬢さんが魔法を教えてるんでここの村はこんなに明るいんですかねぇ?」

ジョーンズは村人の練習風景を眺めながら感心したように言った。

「ちょっ!ジョーンズさん、俺も教えてるんだぜ!」

ルークが慌てて口を挟んだ。


「このオームの村の人たちが明るいのはルークが言ってたように私達が来る前からですよ。ジョーンズさんは聖地オーム跡の祠と村の祠を見ましたか?」

「もちろん見たし両方ともお参りもしましたよ。聖地オーム時代からの守り神、黒闇天カーララートリー様のお社だ。ここに来て素通りしたんじゃバチが当たりますよ。」

「そう、よかった。私達もここに来て知ったのだけど、実はこの村のカーラ様の祠と私達の女神エミリー様の祠は不思議な力で繋がっているんです。ここの人達が明るいのは二人の女神が()()()()()()()からなんです、きっと。」

キャンディはそう言ってルークにウインクをした。


「なるほど、信心深い彼等らしい。女神二人に守られているなんて何と贅沢な事か。しかしどうして新しい魔法神はこの地を選んだのでしょう?」

「この村の祠は聖地跡の祠より大きくなっているのには気づきましたか?実は最近突然大きくなったそうですよ。御神体の短刀が立派な太刀に変わった為だそうです。御神体の変化は女神が一人前になった証と言われています。エミリー様はそのお祝いの為この地に一緒に降臨されたのです。」

「何と!そんな奇跡が起きたのですか!村が明る過ぎるのも頷ける!しかも最近とは・・・あと少し早ければ間にあったものを・・・しかしこれも運命というものか・・・そ、そうか、坊ちゃん達はその降臨の時に女神に会ったのですね!」


「そうだよ、流石ジョーンズさんは理解が速い。ところでこの村の村長が家督を譲ったのは知っているよね?」

「もちろん、知ってますよ。特別な交易の噂と一緒に聞いていた。」

「では彼、ライアン・ダールマが何故こんなに若くして家督を継いだかは知ってるかい?」

「ああ、この村で聞いた限りでは何でもカーララートリー様のナイトになるためとか何とか。しかもあろう事かプロポーズをして受け入れられたと!しかし流石にこれは夢物語でしょう!百歩譲ってナイトに成れたとしても女神と結婚などいくら何でも浮かれ過ぎですよ!」

ジョーンズはコーヒーを飲んだ。

「?」

冷めているはずなのに入れたてのように暖かかった。


「午前中にライアンが出かけた時、一緒に女の子がいたんだけど気が付いた?」

ルークはニコニコしながらジョーンズに尋ねた。

「ん、ああ、特別許可を貰った行商人と出かけて行きましたね。確かに可愛い女の子が一緒にいましたけど、それが何か?・・・・!!!!・・・・ま、まさか!?」

ルークは相変わらずニコニコしていた。


「ぼ、坊ちゃん、まさか・・・あの女の子は・・・」

ジョーンズの声が震えている。

「ジョーンズさん、賭けをしよう!」

「な、何の賭けですか?」

ジョーンズは青くなって小さく震えている。

「ジョーンズさんが勝ったら、あの娘に紹介してあげよう。特別許可を貰えるチャンスだ!負けたらチャンスはもうない、かも知れない。」

ルークは最後の言葉を濁した。実際わからなかったからだった。


ジョーンズは震えていた。知り過ぎてしまったと思った。

しかし同時に千載一遇のチャンスとも思えた。

女の子が女神カーララートリーかどうかはわからないが、少なくとも可愛らしい格好からダールマ家の大事な人間である事は間違いないだろう。

彼女と関わりが出来れば特別許可も夢ではない。

しかしひどい話だ。ルークには何の損もないのだ。

こんなものは賭けでも何でもない。ただの運試しだ。

しかしチャンスの為には受ける以外選択肢はなかった。

腹が決まると不思議に落ち着いてきた。

「受けましょう。」

ジョーンズははっきりと答えた。


「詳しく言えないけど俺達はある物を探しているんだ。もしライアンが連れて行った行商人にこの探し物を依頼していなければ、ジョーンズさんの勝ちだ!ジョーンズさんに依頼する。」

ルークが言った事は呆れたことに本当に運試しだ。

これはもう神頼みしかない。

ジョーンズは祠の前で祈る事にした。


どのくらい時間が経ったのだろう。

名前を呼ばれて振り向くとルークとキャンディがいた。

「ジョーンズさんの勝ちだ。約束通り紹介しよう。一緒について来てくれ。」

三人はダールマ家に向かった。


ダールマ家に着くとやや広い部屋に通された。

キャンディはお茶の支度をすると言って台所に行ったのでルークとジョーンズの二人で待っていた。

しばらくするとコーヒーセットを持ったキャンディがライアンと女の子を連れてきた。

「はじめまして、ジョーンズさん。ダールマ家当主のライアン・ダールマです。隣は私のフィアンセのカーラです。知って通り彼女は黒闇天カーララートリーですが、この家にいる時はカーラとして接して下さい。」

ライアンの挨拶の後カーラはカーテシーで挨拶をした。

「はじめまして、ライアン様、カーラ様。お会いできて光栄です。私はケーシー・ジョーンズ。行商人です。お望みの物がございましたら何なりとお申し出ください。きっと探して来て見せましょう。」


ライアンとカーラが席につくと、キャンディがコーヒーを入れた。カーラにはもちろんカフェオレが用意されていた。


「ジョーンズさんはバニラの木をご存知ですか?我々が探しているのはバニラの木なのです。」

ライアンが尋ねる。

「バニラの木?というとバニラエッセンスを作るつもりですか?」

「バニラエッセンスってなあに?」

カーラが聞き返す。

「カーラ様、バニラエッセンスはバニラの香りをつけるための香料です。良い香りがするのでお菓子作りに重宝するようですよ。」

「お菓子作りに使うの?アイスだけじゃないのね!キャンディは知ってた?」

「はい、香料のバニラエッセンスのことは知っていました。でも私はお菓子作りはあまり得意じゃないので香料などはあまり詳しくないんです。ジョーンズさんはよく知っていますね。」

キャンディは驚いた顔でジョーンズを見た。


「お嬢さんがコーヒーはお菓子にも合うと言ってたので調べたのですよ。自分の商品のことを知らないんじゃ、商売になりませんからね。コーヒーは苦いですが、甘いお菓子と一緒に飲めるのでしたら、女性に売れますからね。」

「そうだったのね、さすがジョーンズさんね。父にもそう言って仕入れを許可してもらったのね。」

キャンディが感心している横でカーラは赤くなっていた。

エミリーやリー姉さんがいたらきっと同じ気持ちになったに違いないと思いながら。


「ライアン様、バニラエッセンスは確かにバニラの種から作るのですが、えらく時間のかかる作業のようです。菓子職人に聞いたところではバニラの種は収穫に9ヶ月、熟成に数ヶ月かかるそうです。」

「そんなにかかるのですか!」

「しかも、エッセンスの元になるバニラビーンズはその熟成方法がまた特殊で・・・キュアリングと言うのですが、ちょっと説明するのが難しい特殊な方法なんです。」

ジョーンズの言葉にみんな言葉を失った。作るとなると思った以上に面倒なことのようだ。


「まあ、ですから、バニラエッセンスはバニラの木を見つけたら農園を作って、そこで加工してもらうのがいいと思いますよ。10年もすれば立派な農園ができますよ、きっと。」


「そ、そんなに待てないわ・・・」

カーラは泣きそうな顔でライアンを見ている。

「ジョーンズさん、実はバニラの木が栽培されていた場所は分かっているのです。私とカーラで過去の文献から調べました。そこに行ってバニラの木を探してきてもらうことは可能ですか?」

ライアンは真剣な顔でジョーンズに尋ねた。


「ライアン様、それはもちろん可能ですが、カーラ様は出来るだけ急いでいるのでしょう?それならもっと現実的な方法がありますよ?」

ジョーンズが意外な提案をしてきた。

「そんな方法があるのですか?」

ライアンは驚いた。

「はい、バニラの香り成分は身近な物から抽出可能なのだそうです。」


「ジョーンズさん、それで身近な物って何なんだい?」

ルークが聞く。

「アルコールですよ。皆さんには少し早いかも知れませんが要はお酒です。」

ジョーンズは驚くべきことを言った。

「お酒から取ったら酔っ払っちゃたりしないの?」

カーラが心配そうに聞いた。

「カーラ様、大丈夫です。抽出はその成分だけを取り出す作業なので酔っ払ったりはしませんよ。」


「良かった!なら安心ね!」

皆がお酒から取れるという事実に驚いている中、カーラだけは目を輝かしていた。

そして彼女の手は隣に座っているライアンの手をギュッと握っているのだった。

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