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星の想い  作者: 景虎
新たな魔法神
36/51

行商人

ルークとキャンディ、使徒に加護を与える事が出来たエミリーはホッとしていた。

元々、これこそが魔法神エミリーの最初の課題だったのだ。


ルークとキャンディを連れて戻ってきてから、一週間ほど経っていた。

エミリーは今、ポーションの制作のため森に行っては薬草を取ってきて、ポーションの効果を持続させる方法をリーと探していた。


カーラとライアンはバニラの木の情報を見つけるため、ライアンの実家で、前の世界の情報を集めている。


その間ルークとキャンディはエルフの村とオームの村に行って、魔法を教えたり、互いの村の情報を交換していたりしていた。

一週間の内に二人はすっかり村に馴染んでいるようだった。


いつものように二人はイワナガの屋敷を出てエルフの村に行った。

村と言っても、エルフの家は森の中にあるので集落はない。

村というのは村の広場の事だ。人間との交流が始まり、オームの村人がエルフに会いにいく事になった時、集まる場所がここだったのだ。

ゲートの場所がここなのだから当然だ。

エルフの村に行くというのは広場に行く事を指していた。


広場にはいくつかの店が並んでいて、日常品や食べ物の他、森の薬草や魔石などが売られていた。エルフ達は基本的に自給自足の生活をしているが、ゲートが開かれた今では当たり前に交流が進んでいた。

と言ってもエルフは元来のんびりしている。寿命が長いためだろう。

普段は朝からいるエルフは少なく、いるのはいかにも世話好きな老エルフ達だけだった。


その日はいつもと違い、朝から人が大勢いて賑わっていた。

キャンディは仲良くなった世話好きの老エルフに尋ねた。

「ねえ、おばあちゃん、今日は何でこんなに賑わっているの?何かあるの?」

「おや、キャンディ、おはよう。今日も夫婦で仲がいいねえ。」

老エルフはニコニコ笑いながら答えた。

この老エルフのおかげで二人の事はあっという間に広まっていた。

「ばーさん、俺達は夫婦じゃねえ!何度言ったらわかるんだ!」

ルークは怒っていたが、老エルフはニコニコ笑っているだけだった。


「今日は二ヶ月ぶりに行商が来る日なんだよ。」

隣にいた別の老エルフが答えた。

「行商?」

「そう、今回でまだ2回目なんだけどね。珍しい物が手に入るチャンスだからね!エルフだってそういうのには興味があるさ!」


200年の間にわずかに残った人間達は少しずつその活動範囲を広げ、世界中に点在する村は細い線で結ばれて始めていた。

魔法が復活して半年余りが経っていた。

オームの村長は魔法の復活を感じた時、イワナガに会いに行き、今後のことを相談した。

その時イワナガはエルフの村をオーム以外の極少数の外部の人間にも知らせようと考え、特別な許可を得た行商人に限り、エルフとの交易を許可する事にした。

村長は村に戻ると信用できる者達に、このオームの村に特別な交易のチャンスがあるという噂を流してくるよう頼み村の外に行かせた。


噂を聞いた行商人達がオーム訪れると、村長は目隠しをしてゲートを潜らせた。

そしてこっそりイワナガに見てもらい、人選をしたのだった。

許可を得た行商人達は許可証として魔石と小さな魔導袋を貰った。

行商の条件はシンプルだった。エルフの村の場所を明かさない事。

行商人達は魔導袋の力を知ると決してエルフの村の場所を喋らないと誓った。  

こうしてエルフと人間の交易がひっそりと始まったのだった。


エルフ達が珍しく慌ただしく動いている広場を後にして、ルークとキャンディはオームの村に行くことにした。

「オームにはもう行商が来ているから楽しんでくるといいよ!」

老エルフ達に見送られ、二人はゲートを潜った。


村まではしばらく歩く。

途中で荷物を担いだ行商人達とすれ違った。その中にはカーラとライアンもいた。

「よう、ライアン。今日はどこにお出かけだい?」

「ああ、ルーク、おはよう。これから村へ行くのかい?今日は行商人が来ているから村は賑やかだよ。楽しんでくるといいよ。私たちは彼らの付き添いさ。」

ライアンはそう言ってゲートの方へ向かっていった。

カーラはフリルのついたワンピースを着ていて女神というより可愛らしい女の子のようだった。

ライアンの母親がえらく可愛がっていると聞いていたがどうやら本当らしい。


村に着くと行商人達が店を開いている。

いくつかの店を覗いていると知った顔がいた。

店にはコーヒー豆が置いてある。

「コーヒー豆の評判はどうだい?」

「へえ、コーヒーを知ってるなんて珍しいな、ってルーカス坊ちゃんじゃないですか!スミスのお嬢さんも一緒ですか?」

「久しぶりね、ジョーンズさん。(うち)の豆があるって事はコーヒーの買付けに成功したようね。」

「はい、お嬢さん。おかけ様で評判もいいですよ。どうです、飲んでいきますか?」

「ありがとう、でもお金がないわ。」

「金なんていいですよ、ただこの村の話を聞かせてくれませんか?見たところ、お二人は俺よりこの村に詳しそうだ。」

「さすがによく見ているな、ところで俺達がこの村にいるって知っていたのか?」

「いいえ、でも行く先々の村で若い二人の旅人の話は聞いていたので。そろそろ会えるかなと思ってましたよ。」

「どうして?どこの村にもちょっと立ち寄っただけだし、目立つような事はしていないのよ!」

「ええ、目立っていませんでしたよ。コツがあるんですよ、情報を集めるね。秘密ですけど。まあ、二人は分かりやすかったですよ。旅するには軽装すぎるようだったみたいで。」

ジョーンズは話しながら、コーヒー豆を挽き、慣れたようにコーヒーを淹れた。


「美味しかったわ、水が違うのかしら?」

「そうです、さすがお嬢さん。いろんな水を試したんですよ。今使っているのは山の湧水です。いっぱいは持ち運べないんで、お得意様になりそうな人だけに特別に淹れています。」

ジョーンズは少し笑いながら言った。


コーヒーを飲んでいると、顔見知りの村人が挨拶をしてくる。

ジョーンズは村人と軽い会話をしながら、コーヒーや他の商品を説明していた。


少し客足が引くとジョーンズが少し離れたところにいた二人を呼んだ。

「この村は明る過ぎやしないって思わないか?」

ジョーンズが二人に尋ねる。

「明る過ぎる?」

「そう、明る過ぎる。」

「俺達がこの村に来た時からこんな感じだったよなぁ、キャンディ?」


「どこの村でも不安がってる。魔法のせいさ。二人にもわかるだろう?今までとは違う何かがこの世界に生まれてきたってことが!でもこの村にはその恐怖を感じない。新しい世界に馴染んでいるかのようだ。それに新しい噂も出てきた。この村には特別な交易のチャンスがあるって話さ。実際、不思議な村の話は行商仲間の間では有名だ。」

ジョーンズは一気に話し、二人を見た。

「じゃあジョーンズさんはその噂を聞いてこの村に来たって事か?」

「そうですよ、坊ちゃん。そして噂に違わない(たがわない)村の活気だ。聞きたい事はいっぱいあるが、二人にも事情があるだろう?しばらくこの村にいるつもりだから美味しい情報があったら教えてくれ!礼はするから頼むぜ!」

ジョーンズはウインクをして仕事に戻っていった。


「ルーク、どうしよう?どこまで話していいのかしら?」

「エミリー様に聞いてみるしかないよな。どうやって聞こうか?一回戻るか?」

「アタシが聞いてくるよ!」

アクアが実体化してキャンディに言うと光になって飛んでいった。


しばらくするとアクアが戻ってきた。

「エミリー様はエルフの村の場所以外なら何でも話していいって言ってたよ。判断は二人に任せるって。もし信用できる人間なら会いに行くから連絡してって言ってたよ。」


ジョーンズは顔見知りだったがそれほど仲がいいわけではなかったので、エミリーに会わせる事はしばらく様子を見ることにした。


二人はジョーンズのところに行き、時間ができたら村の外れに来るよう伝えるとその村の外れに向かって行った。

村の外れはちょっとした空き地になっていて、ここ最近は魔法の練習場になっていた。

ルークとキャンディはここに集まる村人に魔法を教えるのが日課になっている。

キャンディの魔石は魔法属性を見抜く特別なものなので、初めての人はこの特別なステータスボードに触れて自分の特性を知ることができた。


この村の人々はもともと魔法に近いところで生きてきていた。

人間に魔力が戻ったときも正しい知識を得ることができたため新しい能力を比較的冷静に受け入れることができたのだった。


ルークとキャンディは魔法を広めるため、簡単な魔法を教えていた。

それは主に魔法の発動方法、詠唱と魔法陣についてだった。

多くの人間は魔力が少なく、うまく魔法を発動できない。逆に魔力が一定以上あるとコントロールができない。ルークやキャンディは特別なのだ。

魔法発動を安定させるために魔術が必要と考えた二人はこうして青空教室を開く事にしたのだった。

ちなみに女の子はステッキやメイスを持っていることが多い。聞いたところマジカルガッデスの真似だと言う。

自家製のものが多いが中にはしっかりした作りのものがある。最近村の店で売り出したらしく人気商品だそうだ。

そう言えばノーム森で変身していたっけ。エミリーとカーラはここでも女神よりも魔法少女としての印象が強いようだった。そのうち衣装(コスチューム)も売り出されるに違いない。


「一体何をやっているんだ!」

ジョーンズはテーブルからみんなの魔法練習を見ている二人に近づくと驚いた顔で言った。

「ジョーンズさん、早かったですね。もう仕事は終わりですか?」

「ああ、みんな売れたからな!一体何なんだ?二人ともえらく慕われてるみたいじゃないか?二人の顔見知りと知ったらみんな買っていってくれたよ!」

「あら、じゃあ、コーヒーも品切れですね?じゃあ、こっちで用意しますからまずは座ってください。」

キャンディはそう言って、テーブルのポットに手を触れた。

ポットから湯気と香りが漂うと、カップに入れジョーンズに渡した。

「どうぞ、さっきのお返しです。」


「このコーヒーは何処から手に入れたんです?スミス家の豆じゃないですよね?」

「さすがはジョーンズさんですね。安心しました。ちゃんとコーヒーの味をわかってくれて。実はこのコーヒーの豆は今はもう手に入りません。このポットでしか飲めないコーヒーなんです。」

「?何を言っているかわかりませんが・・・」

キャンディはポットを手に取り蓋を開けて見せた。中は空っぽだった。

蓋を閉めもう一度手を触れた。

ポットから湯気と香りが漂うとカップに注いだ。

手品(マジック)?」

「いいえ、魔法(マジック)です。タネも仕掛けもない、ね。」

ジョーンズはまだ何を言っているかわかっていないような顔をしている。


「ジョーンズさん、俺とキャンディは魔法使いになったんだ。魔法の女神に選ばれたのさ。」

ルークはそう言って右手を上げた。

空には白い光の玉がある。

上げた右手を握りパッと開くと、光の玉が弾けた。

キラキラした光のかけらがゆっくりと降ってきた。


「ホーリーライト。この光を浴びれば、心が癒される。ジョーンズさんも俺の言っていることがわかるはずさ!」


ジョーンズは心と身体で魔法を感じた。それはいままで感じたことのない新しい何かが確かに生まれた瞬間だった。


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