新しい力
ノームが契約したことにより、精霊達は今まで以上にはしゃいでいるようだ。
「エミリー様、ちょっとこのまま帰るのは無理そうですね。」
リーは目の前で盛り上がっている精霊達を見ながらそう言った。
「そうねぇ、精霊達が選ぶんだからノームが許してくれるならいいんじゃないかしら。」
「ねぇ、ノーム。精霊達が契約するのを許してくれるかしら?」
リーはアライグマのノームを持ち上げると、鼻がくっつきそうなほど近づけて真面目な顔で言った。
「う、うむ、いいじゃろう。」
「さあ、精霊達、許可が下りたわ!契約をしたい魔法使いはいるかしら?」
リーの呼び掛けに精霊達は二つの光に別れた。
予想通り二つの光はルークとキャンディの周りに集まった。
キャンディの周りの光は青い光で、しばらくすると中から妖精の姿をした上位精霊が現れた。
「はじめまして、キャンディ。アタシはあなたが気に入ったわ。だからアタシに名前を付けて!そうすれば水の精の力を今よりもっと使えるようになるわ!」
「そうなの!うーん?じゃあ、アクアはどう?」
「アクア・・・うん、いい名前、気に入ったわ!アタシは水の精アクア!今からキャンディの守護精霊よ!」
そう言うとアクアは青い光になりキャンディを包んだ。
「アクア?」
「なあに?」
アクアが現れた。
「いなくなったと思ったから。」
「アタシ達みたいな上位精霊は大精霊みたいに四六時中姿を現すことが出来ないから、普段は光になってあなたの側にいるわ。」
アクアはそう言うとまた姿を消した。よく見ると淡い光の玉がキャンディの周りを漂っているのが見えた。
ルークの周りの光は黄色の光だった。
その光が強く輝く始めた瞬間、何かが上から降ってきた。
眩しいほどに輝く白い光がルークの前にいる。
光の輝きが徐々に弱まってくると、中には綺麗な女性の姿があった。
彼女には圧倒的な力があった。
そう、その感じは神のそれに近いものだった。
誰もがそれを感じていた。
残念ながら新米女神エミリーと駆け出し女神カーラには出せない。
シルフとノームは精霊の姿に戻っていたがその顔は緊張で強張っていた。
彼女はそんな女神達に目もくれず、まっすぐルークを見ていた。
「そなたの名は何と言う?」
彼女は静かに尋ねた。
「ルーカス・ミラーと申します。」
「そうか、ルーカスと申すか。今日はそなたに渡したいものがあってここに邪魔した。これを受け取るがいい。」
すると彼女の手から剣が現れた。鞘に収まっており刀身は見えない。
「遠い未来にこの剣を届けるのがそなたの役目だ。いつか使う時が来た時、剣は鞘から抜ける。それまで無くさぬよう、盗まれぬよう大切に保管してくれ。」
そう言うと剣をルークに渡した。
「そうだ、そなたの子孫以外が使えぬよう呪いをかけておこうか。」
そう言って彼女はルークに口付けをした。
ルークはその場に倒れた。
「あっ!?」
一連の出来事を声なく見守っていた一同だが、ルークがキスされるのを見たキャンディが声を上げた。
つぎの瞬間、彼女はキャンディの前にいた。
「そなたはルーカスの何だ?」
「わ、私はルーカスの嫁です!」
「ほほう、見たところ生娘のようだが?なんだ妬いているのか?もしかして口付けもまだだったのか?」
「そ、そ、そ、そんな事ありません!」
キャンディは真っ赤になって叫んだ。
「そうか、しかし、まあ少し返してやろう。」
そう言うと彼女はキャンディにも口付けをした。
キャンディもその場に倒れた。
「ちょっと、うちの子達に何をしたの!」
エミリーが叫んだ。
「これは挨拶が遅れてすまない。久しぶりに強い運命を持つ者を見つけて興奮してしまった。」
彼女はエミリーの前に来るとペコリと頭を下げた。
「ルーカス達は心配しなくていい。少し刺激が強かっただけだ。」
彼女はヒョイと手をあげ倒れていた二人を魔法で少し離れたところに運んだ。
精霊達が集まり二人を光で包んでいる。介抱しているのだろう。
「我はアマテラスと申す。日輪の神だ。そなたはこの星の女神だな。ルーカス達の守護神か。名を聞こう。」
「私は魔法神エミリー。前魔法神の封印した魔法を復活させ、世界の平和を願うものです。」
「魔法神エミリーか。覚えておこう。そなたとは近いうちにまた会えそうな気がする。しかし今日はもう帰るとしよう。用も済んだことだしな。」
アマテラスは来たときのように輝き始めるとあっという間に空の彼方に行ってしまった。
あっという間の出来事だった。
みんなが呆気に取られ我に帰る間にルークとキャンディも目覚めたようだった。
ルークが目覚めたとき黄色だった精霊の光は白くなっていた。
白い光はルークを包むとキャンディの時と同じように小さな光の玉に姿を変えた。
光に包まれた時、ルークはさっきまで目の前にいた彼女の声を聞いた。
『我は日輪の神アマテラス。そなたの守護に光の精霊ノアを贈ろう。ノアと共にその剣を守ってくれ。剣の名は《天叢雲剣》と言う。遥か昔、八頭八尾の大蛇《八岐大蛇》を倒した時その尾から出てきた神剣だ。よろしく頼むぞ。』
不意に広場にゲートが現れた。
ゲートから出てきたのはジェシカ、サクヤそしてセバスチャンだった。
「アマテラスがここに来たのは本当か?今どこにいるんじゃ!」
珍しく興奮している。
「あ、あのう、もうお帰りになりました。用は済んだって言ってました。」
「も、もう帰ってしまったじゃと?」
セバスチャンは言葉使いは老人だが、見た目は金髪のイケメンである。
肩を落としてがっかりしている姿はなかなかいい絵になっていた。
「また会えなかったな。まあ気を落とすなよ。そのうち会える時が来るんじゃねーか?」
ジェシカは慰めているのかからかっているのかわからない。
「そのうちっていつじゃい!もうずっと会っておらなんだ・・・」
キッとジェシカを睨む顔もなかなかカッコいい。
「そんなの知らねーよ!あたいよりアマテラスの方が強いから幸運も働かねーんだ。そうじゃなかったらとっくに会えてら!」
ジェシカがセバスチャンに怒鳴った。
いつもこんな風なのだろうか?そういえばジェシカの称号に『大神の喧嘩相手』があったのを思い出した。
「大神様、アマテラス様は私に近いうちにまた会えそうだと言ってましたよ?以外と早くまた地上にいらっしゃるんじゃないかしら?」
「本当か?本当にそう言ったんじゃな!」
「はい、確かにそうおっしゃってました。あと、私の使徒に剣を授けていかれました。それが目的だったみたいですよ。ルーク、その剣を見せてくれる?」
「はい、エミリー様。アマテラス様はこの剣はアメの村なんとかのツルギとかって言ってました。」
ルークから剣を受け取りセバスチャンに見せる。
「天叢雲剣・・・」
セバスチャンは神妙な顔で呟いた。
「天叢雲剣、別名草薙剣。初めて見たわ。ジェシカは見たことある?」
「あたいは一回見せてもらった。アマテラスの弟が大昔大蛇を切って手に入れたってやつだ。」
「へえ、じゃあ、弟さんは勇者なんですね!」
「あ、確かにそうだ!いいこと言うな、エミリー!じゃあ、この剣は伝説の勇者の剣だな、サクヤ!エンディングの後にもらえる最強の剣だ!」
「エンディング?」
「ゲームの話さ!あたいはこの勇者のゲームが大好きなんだ!一生懸命主人公を強くしてみんなで敵を倒すんだ。最後は魔王との最終決戦!勝利するとご褒美に最強の武器が貰えるんだ。それが伝説の勇者の剣さ!」
「え?最後にもらってももう使わないじゃん?」
「ちっ、ちっ、ちっ。エミリー、ゲームはここからが本番なんだ!今までは全部チュートリアル、練習さ。クリアできるように作ってあるんだ。エンディング後はもう決まったストーリーはないから好きに遊べるんだ。敵も今までとは格段に強くなってるし弱点も変わってる。強さを求めてもいいし、今まで出来なかって事を試してもいい。伝説の勇者の剣はその為に必要なものなんだ!」
ジェシカは熱く語っていた。しかし何か変な感じがする。
そういえば前に魔王が世界を滅ぼした時、何故勇者がいないのか聞いたことがある。
その時は勇者システムがなかったと言っていた。
そうならばもしかしてこれがそうなのだろうか?
「アマテラス様は勇者推しなのかしら?」
「何のことだ?」
ジェシカが聞き返す。
「伝説の勇者の剣が手に入ったって事は、これから最恐以上の事が起こるって事だよね?」
エミリーの言葉に一瞬みんな固まってしまった。
つまりそういう事なのだ。
いつかそのような大きな災害が起こるのだとみんなが感じた。
いつ?
「エミリー様、そんないつ起こるかわからない事で悩んでもしょうがないですよ!」
剣を受け取ったルークが明るく言った。
「え?」
「少なくとも自分の時代には来ないでしょう?遠い未来まで届けろって言ってましたから。」
「確かにそうね。いつ来るかわからない事に怯えてもしょうがないわね。ありがとう、ルーク。」
「アマテラスは届けろと言ったんじゃな、ルーカス。」
「は、はい、大神様。」
ルークは突然の神からの問いにあっさり答える。
流石はアマテラスに認められた人間だ。どれだけ肝が据わっているのだろう。
エミリーは一種の安心感を覚えるほどだった。
「では、何かに向けて準備する必要はないという事じゃろう。ルーカスの言う通りじゃ。まだ見ぬものにいたずらに怯えたり、無駄に備えたりすることはないじゃろうて。」
「そうね、これから世の中を良くする為に頑張らないといけないものね。特にあなた達は自分達のレベルアップが課題だもの。」
「お、そうだ、カーラの試験の課題が決まったぞ。」
「どんな試験なの?お姉様!」
★☆★☆★☆★☆
イワナガの屋敷に戻ってきた一同は夕飯後また集まっていた。
キャンディを中心としたコーヒー研究会のためである。
シルフとノームは大人チームに呼ばれていて不在だ。
正直ライアンとルークは必要ないのだが、カーラがライアンを離さなかったので、ライアンがルークを道連れにしたのであった。
カーラの課題はライアンとの特別魔法の習得だった。
特別魔法の習得方法はわかっている。
簡単だ。キスする事である。
しかし今は出来ない。
今のライアンでは身体が持たないからだ。
このレベルにライアンを鍛えるには20年かかるとシルフが言っていた。
「ちょっとエミリー、あんた魔法神なんだから、何とか出来ないの!」
カーラはエミリーに八つ当たりをしていたが、実際エミリーには何とかできる力がある。
カーラは実はなかなかいいところを突いていた。
おそらくこの課題にエミリーが協力するのはセバスチャンもアランも想定済みなのだろう。
「ふう、カーラ、あなたの課題なんだから自分で何とかしなさい!って言いたいところだけど。いいわよ、協力してあげるわ。」
「本当!ありがとう、エミリー!」
「でも、タダじゃできないわ、わかるわよね?」
「うっ、しょうがないわ、何が望みなの?」
「バニラアイスを作ってちょうだい!それが条件よ!」
エミリーはコーヒー研究会のメンバーを見ながらそう言った。
これはみんなの利害が一致するものだ。
「しょうがない、カーラ様のためです、協力しましょう!」
リーがもっともらしく相槌を打つ。
「カーラ、もちろん私がバニラの木を見つけるからね!」
ライアンも張り切って言った。当事者だから当然だ。
「私も協力します。そしてバニラアイスに合う美味しいコーヒーを研究しますね!ね、ルーク!」
「ああ、勿論だ。エミリー様とカーラ様、それにライアンのためだからな!」
「みんなありがとう、私たちのために!約束よ、エミリー!バニラアイスを作ったらキス出来る様に協力するのよ!」
「カーラ、キスじゃないでしょ?特別魔法の習得でしょう?」
カーラは自分の言葉に気づいて真っ赤になった。
こうしてバニラアイス作りはコーヒー研究会とカーラの試験の必須課題となったのだった。
誤字の修正をしました。




