ノームの契約者
ノームがエミリーと話し?をしている間に精霊達はルークとキャンディの周りに集まっていた。
多くの精霊は光の玉のようなものだったが、中には妖精の姿をしている者もいた。
「上位精霊です。こんなに集まるなんて!」
リーは驚いていた。
「リー姉さん、そんなにすごいの?お姉様の時はいつもこんなだったわ。」
カーラが不思議そうに尋ねる。
「カーラ様!ジェシカ様は神様の中でも凄く上の存在なんです!お館様が言うにはジェシカ様にその気があれば、大神様と同じ星の神様にだってなれるって!」
「そうなの?でもお姉様はいつも『あんな面倒臭い事』は絶対しないって言ってるからきっと大神様みたいにはならないと思うわ。」
カーラにはジェシカの凄さがイマイチ解っていないようだ。リーは笑顔を引きつらせていた。
精霊達ははしゃいでいた。
どう見てもはしゃいでいる。
ノームが姿を現したのだから当然かもしれない。
滅多に姿を現さないのだから。
ノームを呼んだのは女神だったが既に契約精霊がいた。
しかも契約精霊はなんとオームと同じ四大精霊のシルフではないか!
女神達にはさほどオーラを感じなかったが、変身すると何やら不思議なオーラを纏っていた。
魔力に興味がないノームを表に出させた何かがあるのかも知れないと精霊達は思った。
立ち話もなんなので、リーがまたテーブルと椅子を用意し、お茶の用意を始めた。
魔導袋からカップや皿を取り出すと、ノームがリーに声をかけた。
「おい、エルフの娘!その袋をちょっと見せてくれないか?」
「はい、構いませんよ。どうぞご覧ください。」
リーはノームに魔導袋を渡した。
ノームはしばらく魔導袋を調べていたが、大きく頷くとリーに魔導袋を返した。
「お主の名は何という?」
「精霊ノーム、私の名はリーゼ・アポセカリー・レジーナシルバ。通称はリー。魔法薬を研究する者です。」
「ふむ、リーよ。魔導具を欲しているのはお主じゃな?ポーションの精製のためか。しかしこの魔導袋をお主に渡した者は、そのくらいの魔導具を作れるはずじゃ。知っておるのか?」
ノームはリーを探るように見ながら言う。
「この魔導袋がドワーフの技術を使っていると知った時、その可能性は考えました。しかしお館様は我々自身の力で成し遂げるようお望みなのです。」
「エルフ女王イワナガか。」
ノームは独り言のように呟いた。
「お館様をご存知でしたか!」
「随分昔だが、一度訪ねてきた。『力を御する魔導具を作りたい』と言っておったな。」
「それで教えてあげたんですか?」
「いや、興味がないと断ったんじゃ。するとイワナガはわしに悪態をついてドワーフに教えてもらうと言ってさっさと行ってしまったわい。」
イワナガは自分でドワーフと交渉して魔導具を作り出したらしい。
自分達を嫌っている種族のもとに行くなんてどれだけの想いがあったのだろうか?
エミリーもリーも想像がつかなかった。
「イワナガ姫はどうしてそこまでしてこの魔導具を作りたかったのかしら?」
エミリーは自分のブレスレットを示しながらノームに尋ねた。
「ん?何とそれが力を御する魔導具か!なるほど見事な物だ。しかしお主は聞いていないのか?どうしてそれを作る必要があるのかを。」
「聞いてないわ、リーさんは知っている?」
「いえ、私もエミリー様がつけることになって初めてその存在を知ったくらいですので。」
二人は首を傾げた。
「まあ、イワナガが言ってないなら、わしが言うことではないな。いつか話してくれるだろう。しかしその魔導具はお前様が引き継いだとてつもない魔力のために作られた物だ。それを忘れないことだの。」
「それはどういう・・・」
「時が来れば分かる、それまでに上手く力を使うことを学ぶことだな。」
ノームはそう言って手をひらひらさせた。この話はもうお終いという事だろう。
お茶の用意はカーラとライアンが仲良くやっていた。
途中からキャンディとルークも加わり、すっかり準備ができていた。
「さあ、お茶にしましょう!」
キャンディがポットを持って皆に声をかけた。
精霊達が差し入れに森の果物を取ってきてくれていたので、持ってきたクッキーに乗せて楽しむことができた。
「あ、あの、お口に会いますか?」
キャンディはムスッとした顔で座っているノームに声をかけた。
「コーヒーとは豆の煮出したものと思っていたがこれは飲みやすいの。わしは酒のほうが良いが、それは無理じゃろうからな。」
ノームはヒョイと樽のコップを出現させた。
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
キャンディがノームに尋ねた。
「ただの樽じゃ。ずっと使っている物じゃが。」
そう言ってキャンディに渡した。
キャンディは受け取ってしばらく見ていたが、やがて両手を樽に触れてぶつぶつと呟いた。
すると樽は見る見る褐色の液体で満たされていった。
漂ってくる香りから強いアルコールであるのが分かった。
「どうぞ、召し上がり下さい。」
ノームはキャンディから樽を受け取るとゴクリと一気に流し込んだ。
!!!!!!!
「ラムだ!しかも最高のものだ!一体何をした?」
ノームはびっくりして叫んだ。
「そのコップでよく飲まれているお酒で1番美味しい物を呼びました。お酒はよくわからなかったのでコップにお願いしたのですが、上手くいってよかったです。」
「なんと!そんな魔法が使えるのか!ではウイスキーは出せるかの?やってみてくれるか?」
「やってみます。」
キャンディは樽を受け取った。
結果としてはキャンディはノームのリクエストにほとんど答える事ができた。
ノームはうまい酒を堪能して満足したようで、上機嫌だった。
「なるほど、魔法の水と火を簡単に手に入れるために魔導具が必要というわけじゃな?」
「そうなの、水はキャンディが精霊魔法並みのを出せるからその魔法を解析して魔導具を作るつもり。蛇口みたいな物が作れれば便利かなって思うの。火はポーションの持続効果や効能を調べる必要もあるし、火力が変化させられるつまみがあるコンロがいいわね。窯だと大きすぎるしね。」
「エミリー、簡単にいうが小さくするのは難しいんじゃぞ。」
「そうね、小さくて正確でしかも長持ちする魔法陣を道具に印すのは職人と研究者が必要だわ。だからドワーフにも会いに行きたいの。」
「随分簡単に言うのう。当てはあるのか?」
「ないわ!でもこの新しい世界でポーションや魔法薬は必ず必要になる。きっと放っておいてもポーションも魔法薬もきっとできるわ。美味しい物だって必ず作られる。」
「じゃあ何でお前様が作るんじゃ?」
「勘よ!魔法神としての!」
「勘?全くお前様の答えはぶっ飛んでるのぉ。」
ノームは少し嬉しそうだ。
「人間は欲深で弱い生き物なの。人間は今は少なくなっているけど、少しずつ増えていくでしょう。魔法の力はきっと小さいけど上手く利用するようになるわ。」
「そうだろうな、人間は器用で小賢しい。」
ノームの言葉にリーはうなずいていたが他の者は一瞬固まったようだった。
「人間が弱い間に動物や植物も魔獣や魔法植物になるわ。エルフやドワーフには大して問題ないかも知れないけど、人間には脅威になる。」
「人間は弱いですからね。今の魔獣でも人間には強すぎる存在です。」
ライアンが言う。
「ライアンは強いじゃない!宴の時もカッコよかったわ!」
カーラがライアンを見つめている。
「「はいそこ!!今は大事なお話の最中です!」」
リーとエミリーのツッコミのタイミングはバッチリだ。
「ポーションを作る目的の一つはみんなで協力して作る事。種族間の繋がりを作れると思うの。もう一つはいい物が初めからすぐ手に入る状態なら、人間がお金儲けや争いをする事がなくなるわ。だから美味しくて誰でも手に入れられる必要があるの!」
「エミリーはそんなことを考えていたですか。よくわからないけど我がマスターは凄いです!」
少女の姿のままのシルフは満足気にエミリーを見た。
「なるほどのぉ、しかしドワーフは人間もエルフも嫌っておるからのう。どうするか?」
ノームの言葉にみんなが考えを出そうとしていると
「ドワーフは酒が好きなんだろ?キャンディに最高の酒を出して貰えばいいんじゃないか?うちの爺様もそうだけど、酒飲みって大概旨い酒とつまみで仲良くなってるぜ。」
ルークがあっさりと核心を突いた。
「その手があったか!」
リーが叫んだ。
「じゃあ、サクヤ姉様に頼んで美味しいお酒をいただきましょうよ。私は飲めないから、エミリーが選んでよね。」
「うう、私もあんまり得意じゃないけど、やるしかないわね!」
「サクヤとは酒神『木花咲耶姫命』の事か?」
ノームが興奮しているのがわかった。
「そうよ、私の先輩女神で色々教えてもらっているの。お酒の事も教えてもらう約束をしているから、きっと力になってくれるはずよ!」
「やはりそうか、では最近、熟成神酒なる物を作ったと噂で聞いておるがそれは本当か?」
「本当よ、っていうか最近だったのね。私とカーラは1000年熟成の神酒を飲ませてもらったわ。何ていうか、力が湧き出してくるっていうか、凄いお酒だったわよね。」
「そうそう、もったいないからって魔法訓練のお薬として使えなくなったのよ。代わりのポーションが不味かったから美味しいポーションを作ることにしたのよね?」
「それを飲ましてもらうことは出来るのか?」
「どうかしら、ちょっと試してみようかしら。キャンディ!このおちょこの記憶が出せるかしら?」
エミリーは魔導袋からおちょこを取り出してキャンディに渡した。
おちょこを見るノームの眼差しは真剣では期待を膨らませているようだった。
「エミリー様、ごめんなさい、このおちょこの記憶は再現できません。」
キャンディは申し訳なさそうに言った。
「いいのよ、キャンディ。試しただけだから。そんな簡単にいったらサクヤ姫に怒られちゃうわよ。」
ノームはあからさまにがっかりしている。
「ノーム、ちょっと無理みたいね、ジェシカも滅多に飲めないくらいだから、必要がある時か相応の見返りがないと飲めないと思うわ。」
がっかりしたノームにはキャンディがまた美味しいお酒を飲ませていた。
時間はいい雰囲気で楽しく過ぎて行った。
「エミリー様、そろそろ帰りの準備をしませんと。ゲートが開く時間になります。」
「あら、もうそんな時間になるのね。じゃあ、そろそろ片付けて帰りましょうか。」
「え?もう帰るのか?」
ノームと精霊達は驚いたようだった。
「ええ、魔導具とドワーフのことが聞けて助かったわ。」
「け、契約はしなくても良いのか?せっかく来たのに?」
「?」
「ノーム、素直に言うですよ。連れて行って欲しいって。」
シルフはそう言うと茶白のニャンコになった。
「シルフ?ノームは一緒に来たいの?でも彼と契約できそうな土属性はリーさんくらいしかいないわ?」
「むしろ、都合がいいです。リーはイワナガの従者です。イワナガはサクヤの姉です。ならサクヤの酒を飲むチャンスがあるですよ。」
「小賢しい・・・」
リーがボソッと呟いたが聞かなかったことにしよう。
「リーさんはノームと契約してもいい?」
「エ、エミリー様!四大精霊と契約できるなど望んでできるものではありません!もし叶うなら拒否することなどあり得ません!」
「そう、ならよかったわ。嫌かなって思ったから。ノーム、一緒に来たいなら、リーさんが契約してもいいそうよ?どうするの?」
「契約しよう、リーゼ・アポセカリー・レジーナシルバ。ただ一つ条件があるが聞いてもらえるか?」
「何かしら?」
「一度でいいから熟成神酒が飲めるように取り計らって貰いたい。」
「随分素直ね。わかったわ、約束しましょう。まあ、きっと一度なんてケチな事にはならないわ。」
「有難い!では参ろう!」
ノームは光の玉になり、リーを包んだ。
光の玉は一瞬輝きを増しパッと弾けた。
そこにはシマシマ尻尾のアライグマが浮かんでいた。
「あら、ヤダ!可愛いわ!想像してたよりずっと!」
リーは嬉しそうにアライグマを抱き寄せた。
元のドワーフには絶対にしないであろう光景だ。
「ノーム、可愛くなったです!」
シルフが茶化した。
「ま、まあいいだろう・・・」
ノームはプルプルとしながら小さく言った。
ノームが契約をしなかったのはこういう姿になるのが嫌だったのかもしれないとエミリーはふと思ったのだった。
誤字の修正をしました。
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