ノーム
コーヒーとお菓子の関係を巡り、女子達は意見を交換した。
そんな中キャンディに特殊な能力があることがわかった。
それは物が持っている記憶を再現できるという能力だった。
キャンディがポットにコーヒーを満たすのはその能力のお陰だ。
キャンディの家にはコーヒー豆があった。
どうやらコーヒー好きな先祖がいたらしい。キャンディの先祖が選んだゴーダ村はやや暑い場所だった。
さすがに植物も壊滅的に破壊された世界で熱帯地方に生活圏を持つのは無理だったのだろう。
コーヒーが栽培出来るギリギリの地域でスミス家の先祖達はコーヒー豆の栽培を研究していた。
200年かかってスミス家の庭には小さなコーヒー畑からコーヒーの実を収穫出来るまでになっていた。
キャンディが魔力をその体に感じた時、丁度挽きたてのコーヒーを飲んでいる時だった。
コーヒーは決して美味しくなかった。
キャンディがもっと美味しいコーヒーを飲みたいと強く想うと戸棚のポットが光り出した。
ポットを取り出してよく見てみると、ポットにコーヒーの記憶があるのがわかった。
キャンディは何となく両手をポットに向けると、「美味しいコーヒーを飲みたい!」と声をかけた。
するとたちまちポットはコーヒーで満たされ、今までとは違う豊かなコーヒーの香りが部屋を包んだ。
「エミリー、キャンディの魔法は精霊魔法に近いです。」
ニャンコのシルフが言った。
「精霊魔法?」
「普通は精霊と契約して使えるようになるちょっと特殊な魔法です。」
「普通の魔法と何が違うの?」
「例えば水の魔法使いが水を出しても普通は飲めないです。でもキャンディは飲める水が出せるです。普通は飲用水を出すには細かいイメージをして呪文に乗せないといけないです。強い魔力と精霊の協力があって綺麗な水を出せるようになるですけど、人間の魔力ではバイキンとか入っててそのまま飲むと危ないです。なのにキャンディは水どころかコーヒーを出すですよ!」
「へえ、そうなんだ。ここまで来れたのはキャンディの魔法がすごかったからなんだな?道中、飲み水の心配なんてしなかったもんな!」
ルークはそう言いながらシルフの喉を撫でていた。
「うう、ねこさんだーをそんなに風に可愛がれるなんて・・・なんて羨ましい!」
カーラは悔しそうにルークを見ていた。
「じゃあ、キャンディがいれば美味しい水は手に入ったも同然ね。美味しいポーションの完成が近づくわね、リーさん!」
エミリーは嬉しそうにリーに尋ねた。
「エミリー様、確かに美味しいポーションは作れますが、この作り方では量産は難しいですよ?キャンディ殿しか出せない水ではダメなんです。美味しい水を出すか変えるかする魔導具を作るために精霊ノームに会いに行かなくては!」
「は、そうだった!今日は精霊ノームに会うのも目的の一つだった!忘れるところだったわ、ありがとうリーさん!」
「どういたしまして。」
「全くエミリーは食いしん坊さんね!」
リーとカーラの方がキャンディが教える甘いスイーツに夢中になっていたが、二人ともそんな事はございませんとばかりにそっとコーヒーをすすった。
エミリーの祠を後にした一同は洞窟を出て森の奥に向かっていた。
目的地はわからないが方向はわかっていた。
「シルフ、ノームの居る場所はわかる?」
洞窟を出る前エミリーがシルフに尋ねた。
「ノームの場所は知らないです。けど付いて行けばいいですよ。」
「付いて行くって何に?」
「広場の入り口を見るです。」
シルフに言われて入り口を見ると、キラキラと光っていた。この光は前にも見たことがある。
「精霊がいる?」
「ノームの所に案内するって言ってるですよ。」
「何で?」
「どうやら、ルーカスとキャンディに興味があるみたいです。」
道しるべの光は進みながら、一部の光はあっちにいったりこっちにいったりとまるではしゃいでいるようだった。
「何でかしら?精霊達は楽しそうね?」
「精霊達は嬉しいですよ。この世界のために役に立てるかもしれないと感じてるです。ルーカスとキャンディは精霊が興奮するほどの魔法の才能があるです!」
「キャンディの何もないところから美味しいコーヒーを出す魔法も凄かったけど、ルークもそうなの?」
「はいです!実はルーカスの方がおかしいです!ルーカスの光魔法はホーリーライトを纏ってるです!これは光の精霊か神の力がないと出せないはずだったです!ルーカスはただの人間なのに、レベルもたった10しかないのに神の域に触れてるです!こんなの見たら私だって興奮するです!」
シルフは目をまん丸にしながら興奮気味にまくし立てた。
「それに土の精霊ノーム、アイツは昔から頑固だったです!魔法がない前の世界ではもちろん、その前の世界でも誰とも契約しなかったです。自分がしないだけならまだしも周りの精霊にも契約を許さなかったですよ!」
「じゃあ、精霊達は契約をしたがっているのね?ノームが認めてくれるといいわね、二人とも。」
「俺たちの魔法ってやっぱり特別なんだな、キャンディ。」
「そうみたいね。魔法が使えたのは私達以外いなかったから、ちょっと特別だとは思っていたけど・・・」
「ノームが最後に契約したのはいつ頃なのかしら?」
「私の記憶ではドワーフと契約したのが最後です。」
シルフがサラッと答えた。
「「ドワーフっているの!?」」
エミリーとカーラが驚いたように声をそろえて叫んだ。
「お館様から自分の生まれる前には普通に暮らしていたという事は聞いたことがあります。人間が生まれる前です。人間と入れ替わるように姿を消したと聞きましたが・・・」
リーの話し方だともういないようだが、
「ドワーフは今もいるですよ。昔人間が生まれた時、技術を渡すのを嫌がって地下に潜ってしまったです。エルフとは元々仲が悪かったので、ドワーフの事は忘れられたです。」
「そうなんだ、ドワーフにも会えるといいわね?あ、リーさんは嫌かしら?」
「そ、そんな事はないと思いますが・・・個人的な関係なら種族は関係ないと思います。」
リーは微妙な言い方をした。考えてみれば人間同士でも国や考え方の違いでケンカをしているのだ。種族の違いは思うほど簡単ではないのかもしれないとエミリーは思った。
「エミリーのブレスレットはドワーフの技術が使われているから、きっと会えるですよ。」
「え?」
「知らなかったですか?」
「だって、これはイワナガ姫が作った物だって言ってたから。じゃあ、イワナガ姫はドワーフに会った事があるのかしら?」
「私も聞いた事がありませんが、確かにお館様の魔導具にはとんでもないものがあります。もしかしてこれもそうかしら?」
リーは示したのはイワナガから借りた魔導袋だった。
「んー、それはエルフの魔法を解読して魔法陣を作り、ドワーフの工房で作ったものです、多分。これは高い魔法力と技術力が必要です。外に出ないドワーフの魔導具が外にあるって事はエルフの誰かがドワーフに会っていたという事です。」
「しかも作れるっていうんだからお館様様で決定ですね、エミリー様。」
「そうね、イワナガ姫はもちろんだけど多分サクヤ姫もジェシカもドワーフの魔導具技術を知っているんだわ。」
「そうか!お姉様達が協力しないってこういう事なのね。自分達でなんとかしなさいってことね!」
カーラは納得したようだった。
「そういう事なんだろうね、はあ、女神になって間もないのに随分ハードに働いている気がするわ。」
エミリーはため息を吐いた。
「エミリー、あんた甘いわよ!夜には帰れるし、仲間もこんなにいるのよ!私がオームに初めて行った時には一人だったんだから!」
「ジェシカが一緒だったんじゃないの?」
「お姉様は夜は一緒だったけど、朝にはどっかに行っていたわ。住むところは町の外れに用意したんだけど、始めは簡単な小屋みたいな物だったわ。後でサクヤ様が綺麗にしてくれたけど。」
「あなたもハードだったのね。っていうか嫌われてたんじゃ?そんな扱いなのになんでジェシカが好きなの?」
エミリーはふと疑問に思って聞いてみた。初めてカーラにあった時、ジェシカはカーラを嫌いと言っていたし・・・
「そんなの優しいからに決まっているじゃない!」
「えっ?」
「お姉様は誰にでも優しくて平等なの!私が災いの神でも幸福を与えるし、子供だからって特別扱いもしない。お姉様は好きなら好きっていうし、嫌いなら嫌いってちゃんと言ってくれるの!お姉様は甘ったれの私は嫌いって言うけど、一生懸命な私は好きって言ってくれるのよ!オームの時には毎日お土産を持ってきてくれて、いろんな話をしてくれたわ!」
「それもしかして、おつまみ的な何かだったんじゃ?」
「うーん、確かに食べ物が多かったし、お姉様はお酒飲んでたけど、お姉様はお酒が好きなんだからしょうがないわ。」
「ま、まあ、あなたが嬉しかったなら問題じゃないわね。」
思うところはあったがカーラはやっぱりジェシカのことが大好きなのだ。
精霊の光に導かれた一行は、やがて大きな木の下に着いた。
木の下で精霊達はますます輝いて喜んでいるようだった。
「ここにノームがいるみたいね。キャンディは何かわかる?」
「はい、エミリー様。木の中から強い魔力を感じます。土の魔力です。」
「どうする、エミリー?前みたいに変身する?」
「はあ?何言ってるの。何で変身しなきゃならないのよ!」
「じゃあ、何で前は変身したのよ?私、アレ好きなのよ、可愛いじゃない!」
「そ、それはリーさんが強く言うから・・・」
「リー姉さん、何で変身させたの?」
リーは少し困った顔をしてシルフを見た。
すると視線に気づいたシルフはエミリーとカーラを見た。
「なるほど、そういうことですか。」
シルフはエミリーをジーっと見てそう言った。
「えっ、何かあるの、変身すると。」
「あるです。っていうかないですね、オーラが。」
「「??」」
「普段二人からは神のオーラが感じられないです。変身すると何か不思議なオーラが湧き出すですよ。まあ、神のオーラとは違うですけど。」
「ががんとす!」
横を見るとカーラが地面に手をついて orz になっていた。
「さあ、変身してください!」
ルークとキャンディが不思議そうに見ている。
「うう、マジカルチェーンジ!!」
「マジカルチェーンジ!!」
光に包まれてピンクとブラックの衣装の少女が現れた。
「きゃあっ!!かわいい!!かわいいです!!!」
キャンディが興奮している。
「そうでしょう!かわいいでしょう!愛と平和のカルテット、マジカルガッデスのカーラブラックよ!」
カーラは満足げに胸を張った。
「エミリーピンクです・・・」
エミリーは下を向いて小さく名乗った。
「ちょっと、ピンク!あんたリーダーなんだから、もっと堂々としなさいよ!だからオーラがないなんて言われちゃうのよ!」
「うう、それは言わないで・・・」
それはあんたもだよ!とつっこむ余裕はなかった。
精霊達は更に激しく光り出し、好き勝手な方向に飛び回っていた。
すると木の幹がぼんやりと光だし、徐々に明るくなっていった。
光の中に影が現れると、それは大きくなり、やがて姿を現した。
「なんじゃ、さっきからうるさいのぉ」
長い髭を生やした小人の姿の精霊は昔話のドワーフのようだった。
精霊は正面の人影に気づくと顔をしかめた。
「チビども!人間がおるではないか!何故ここに連れてきたんじゃ?」
精霊達は相変わらず元気良く飛び回っている。
「ふむ、今までとは違うというか。どれ?」
そう言って小人の姿の精霊はゆっくりと近づいてきた。
「珍しい組み合わせだ。女神とエルフと人間とは。ん、お前は?これは驚いた!シルフか?なんじゃお前契約したのか?何千年ぶりだ?」
「あんた程経ってない。失礼です!私の新しいマスターは魔法神エミリー。この世界に新たな魔法の世界を作る女神です!あんたも覚えておくですよ、ノーム!」
シルフはニャンコから少女の姿に戻ると少し驚いているノームに向かって嬉しそうにそう言った。




