女神の祝福
目の前には神様がいた。いや、神の上の存在なのだから大神様と言うべきだろうか?
大神様が言うには、私が守った人が偉い神様になりそうだから、加護を与えた私が九十九神ではバランスが悪いから私もさっさと神様になりなさいと言うことらしい。
光と時間の関係はよくわからないけど、なんでも光のスピードで進むと その中の時間はゆっくり進むのだそうだ。なるほど、わからん。
大神様が体を用意してくれたので、大神様のお家ー神殿ーに招かれお茶を飲みながら少し話をしている。
ジジくさい話し方だったので白髪で長い髭の老人を想像していたのだが、大神様のビジュアルは金髪のイケメンでつっこむべきか悩んでいるところだ。おかげで大神様は何か喋っていたみたいだけど、さっぱり頭に入ってこなかった。
「〜〜〜〜〜〜〜神になるには本来は〜〜〜〜〜〜世界の繁栄のために〜〜〜〜〜〜神々の〜〜〜〜〜〜が魔法を使えるようにするか考えんとのう。」
「魔法?」
「じゃから、文明を早めに発展させるために魔法を使えるようにしても良いか考えるんじゃ。」
「誰が?」
「お主、話を聞いておらなんだな。しかたない、もう一度はじめか・・・」
「あぁー!ジジィ、おめえ話なげーんだよっ!」
突然の怒鳴り声と共に何かが飛び込んできた。
「あたいらと一緒に組ませんだろ?決めたじゃねぇか!こちとら200年も待ってるんだぞ!早くはーじーめーよーぜー!!」
大声で叫びながら、ブンブン飛び回るなにかには羽が生えていた。
「・・・妖精?」
「おっと、挨拶が遅れちゃったな、あたいはジェシカ。見ての通り妖精だ。よろしくな、エミリー!」
そういうと、目の前にやってきて可愛らしくカーテシーをした。乱暴な言葉とのギャップがすごい。ニコニコと笑ってこっちを見ている妖精はとても可愛らしい。
でもこの場所にいるとゆうことは、
「はじめまして、ジェシカ様。こちらこそよろしくお願いします。 あの、ジェシカ様も神様なのですか?」
「モチのロン!あたいは幸福の神さ。あと、ジェシカでいいぜ、ジェシカ様なんて照れくせーよ。」
「じゃあジェシカ、さっき一緒に組むって言ってたけどどうゆうこと?」
「それな!エミリーは魔法の神になったんだ、正確には見習いだけどな。でもまずはおめでとうだ!だけど人間のエミリーは魔法の事ちゃんと知らねーだろってんであたいらがサポートする事になったんだ!なあ、ジジイ?」
「あ、ああそそそその通りじゃ!」
話中断されていた大神様は突然の振りにびっくりしたのか噛みまくっていた。神だけに。
それはそうとして、私が魔法の神ってなんで?相変わらず話がわからないでいると・・・
「エミリー、もう一人、仲間がいるんだ!そいつも一緒に話そうぜ!自己紹介もしないとな。」
ジェシカはもう大神様を無視して話だした。まったくもって自由奔放なジェシカ様だ。
「じゃあ連れて行くからな!覗くんじゃねーぞ、大神セバスチャン!」
セバスチャン様はバツの悪そうな顔をしたが精一杯威厳のある声(だと思われる)で、
「よろしい。」と言った。
ジェシカはゴキゲンそうに前を飛んでいる。
さっき言っていたもう一人の神様にところに向かっているのだろう。
少し歩くと部屋に着いたようだ。ジェシカは遠慮もなくドアをバーンと蹴っ飛ばして中に入りながら、元気よく「サクヤー!連れてきたー!乾杯だー!」と嬉しそうに叫んだ。
部屋に入るとキレイなヒトがいた。長い黒髪の女神はテーブルに食事の用意をしているようだったが、ジェシカの来訪にビックリした様子もなく、にっこり微笑んでお辞儀をした。
「はじめまして、エミリーさん。コノハナサクヤヒメノミコトと申します。友人はサクヤと呼んでいますので、エミリーさんも気軽に呼んでくださいね。私はお酒の神様なんですけど、魔法も詳しいのでなんでも聞いてくださいね。」
サクヤ姫は容姿や振る舞いから、東方の国出身を思わせた。
「はじめまして、エミリーです。何もわからないので本当によろしくお願いします。」
「心配するなって!あたいも魔法は得意だからな!そんなことより早く乾杯しようぜ、サクヤ!もう準備はできているだろぉ?」
ジェシカは相変わらず奔放だ。サクヤ姫はそんなジェシカを見ながら「はいはい、じゃあ席についてくださいね。私たちのこれからに乾杯しましょう。」と言ってテーブルに案内してくれた。
サクヤ姫は樽に付いたコックを回し、ジョッキに注いだ。ワインかと思ったがエールのようだ。ビールは嫌いだなと思いながら歓迎の席なので我慢しないと、とエミリーは思った。そもそもお酒を飲める年齢ではなかったので、お祝いなどの時はジュースか甘いお子様ワインで乾杯していた。
ジョッキ二つとジェシカ用の小さな可愛いジョッキには淡いピンク色の発砲酒が入っていた。ベリーの香りがわずかに漂うそのエールはフルーティなクラフトビールであること予感させた。
「ではエミリーの神昇格(仮)とこれからのあたいらの活躍を願ってぇ!カンパーイ!!」
「カンパーイ!!」
ジェシカの音頭でグラスを掲げ、乾杯と唱和しジョッキを軽く打ち付けた。
エールは想像以上にフルーティで甘くはないがとても飲みやすいものだったので飲み干すつもりはなかったのに、美味しさと嬉しさでつい飲み干してしまった!
飲み終わるとジョッキを置き拍手をして乾杯の儀式が終わった。
エールは昔、父が美味しそうに飲むので、一度せがんで飲ませてもらったが何が美味しいのかわからず、苦い顔をして笑われた。そういえば、戦争前は幸せだったな・・・。戦争が始まり、気がついたら街は燃え、ひとりぼっちになっていた。そのあとマスターと一緒に必死になって戦ってきた。あの頃は精一杯で余裕なんかなく、過去を振り返っている暇なんてなかった。
今急にそんなことが頭の中を駆け巡り、愛しい人たちと過ごした思いがフラッシュバックした。
気がつくとエミリーは涙をポロポロ流していた。
そんなエミリーをサクヤは優しく包むように抱きしめて頭を撫でていた。
ジェシカは静かに飛びながらエミリーの耳元で優しく囁くように歌を歌っている。
ジェシカが歌い始めると、エミリーの周りには光の粒集まってきた。
歌声が少しずつ大きくなるに連れてエミリー自身も輝き始め、辺りは暖かく優しい光で満たされていった。
目を開けるとまばゆい光の中で綺麗な歌声が聞こえている。悲しかったことは忘れていないが、今はそれ以上の温もりと喜びが身体中を包んでいるのを感じられる。体から溢れてくるこの幸せを届けるのがきっと私の役目なんだと思った瞬間に、その想いは確信に変わる。
二人の女神の祝福を受けてエミリーは今、女神になった。