2人の使徒
ルーカスとキャンディは洞窟の奥に進んでいった。
キャンディの言った通り、危険な事は何もなく普通なら拍子抜けするほど安心だったが、魔力を感じる事ができる2人にとっては、徐々に高まる巨大な魔力の存在に緊張を隠しきれなかった。
そのためだろうか、2人な足取りは目的地に近づくてつれて次第にゆっくりになっていった。
2人が開けた場所に足を踏み入れた瞬間、ホーリーライトが消えた。
真っ暗になるかと思ったら、そうはならなかった。
目の前にある祠から光が漏れているからだった。
ゆっくり近づいていくと、光は祠自体も放っていた。しかし漏れ出る光が圧倒的なためわからなかったのだ。
しかし実際には明るい光は出ていなかった。2人が感じたのは中の魔石から溢れる魔力だった。
だから本来なら広場は淡く光る祠がある薄暗い場所だった。
「なにこれ?ちょっとシルフ、何をしたの?」
「この広場で魔法を使えないようにしたです。でもエミリーとカーラは女神だから使えるです。」
「そ、そうなのね。じゃあ、あの2人が光ってるのはなんで?」
「光っているじゃないです。魔力量が見えるようにしたです。私達も光ってるですよ。」
「エミリー様、本当です!」
リーが自分の手を見ながら叫んだ。
「ああ、本当ですね、リー姉さん。ってかあんた何、その魔力量!光を背負ってるみたいよ!」
「え?そうなの?自分じゃわからないわ?」
そう言ってみんなを見ると、何言ってんの?みたいな顔で見られた。
エミリーから視線をライアンに移したカーラが呟いた。
「ライアンって本当に魔法が使えないのね。」
カーラが言う通りライアンは本当にうっすらとした光しか纏っていなかった。
ライアンは自分の手を見て、周りを見て、また自分の手を見るとあからさまにガッカリしていた。
「それにしてもエミリー様の魔力は膨大です。せっかく隠れているのに大丈夫ですか?シルフ?」
ライアンは気を取り直したのか、シルフに尋ねた。
「心配ないです。魔石の魔力量が膨大なので後ろにいればわからないです。むしろこうしないとバレバレだったですよ。」
ニャンコのシルフが自慢げに言う。そして続けて言った。
「さあエミリー、出番です!」
ルーカスとキャンディは祠の前で祈りを捧げた。
「失礼します。」
キャンディは恐る恐る祠の扉を開けた。
光が溢れ出し、広場全体が光に包まれた。
と同時に声が頭の中に響いた。
『待っていましたよ、この世界に新しく生まれた魔法使いよ!まずはその疲れた身体をこの魔法薬で癒しなさい。』
眩しさで閉じた瞼をゆっくり開けてみると、光は徐々に引いていき目の前に二つの小瓶が置いてあった。
2人は手を伸ばし小瓶を取り蓋を開けた。
シュワシュワっと炭酸が弾ける音がしたが、薬の苦いような匂いは何もなかった。
少し驚いた2人だったが、すぐに瓶に口をつけ飲み干した。
「「!!!」」
「た、体力と魔力が全回復した?」
「こんな少量なのに!それにすごくスッキリしてる!」
リーとエミリーは祠の裏で頷きあい小さくガッツポーズをした。
水の魔法使いがいるので美味しいポーションを作り出していた可能性があったが杞憂だった。
エミリーはホッとすると同時にちょっとだけ余裕ができたのを感じた。
『魔法薬ポーションは気に入ってくれたかしら?私の呼びかけに応え、長旅ご苦労でした。その労に応えましょう!』
エミリーのステッキが祠に触れると祠が消えた。
『私こそがあなた達魔法使いの新しい神、魔法神エミリー!この生まれ変わった世界を魔法の力と共に発展させ、長く平和が続くことを望む女神!さあ、新しい魔法使いよ、聖地となったこの地に初めてたどり着いた者よ、その名を聞きましょう!』
「待ってました、女神様!お許しが出たので遠慮はしないぜ!俺の名はルーカス・ミラー!この地より南のサンストーン村より参りました!」
ルーカスは堂々と胸を張って名乗りを上げた。
「ちょ、ちょっと失礼よ!ルーカス!」
キャンディは慌ててルーカスを見たが、彼はどこ吹く風だった。
「連れが失礼しました。魔法神エミリー様!私の名はキャンディ・スミス。サンストーン村の隣、ゴーダ村より参りました!女神様に導かれたこの幸運に感謝致しています。」
「あら、「連れ」とはまた親しげな呼び方ね。あなた達はどんな関係なのかしら?」
「え、エミリー様!無作法な物言いをお許しください。お恥ずかしい話ですがルーカスとは将来を誓った仲でございます!」
「な、なんだよ、キャンディ!それは子供の頃の話じゃねえか!」
ルーカスは照れているがまんざらでもなさそうだ。いい関係なのだろう。
「ふふふ、仲良しなのね。これからもずっとそうであって欲しいわね。」
『さて、ルーカスとキャンディ。2人の魔力、そしてここまで来るまでの短期間でのレベル上げを見れば、私の信徒であることは疑うまでもないわね。そんなあなた達に大事な使命を任せてもいいかしら?』
エミリーが問いかけると、2人は直立不動で硬くなった。
「何なりとお申し付けください!」
「ああ、女神様の為に働くって決めてんだ!何でも言ってくれ!」
『そんなに気負わなくてもいいのよ。あなた達にはこの場所を魔法の聖地として守り広めて欲しいの。ここには魔法神が祀られているって。私を信じる人が多くなるほど、魔法神の力が大きくなるの。だからあなた達に魔法神の使徒になって欲しいの。』
「喜んでエミリー様の使いに、使徒になります!エミリー様と魔法を広くこの世に広めて見せます!」
「俺も立派に使徒の使命を果たしてみせるぜ!俺達の女神様が立派な神様になるように頑張ればいいんだな!」
『ありがとう。では2人を魔法神エミリーの最初の使徒にするわ!2人共膝をついて祈りなさい。』
エミリーは手を組んで祈りを捧げている2人の頭の上に手をかざした。
「魔法神エミリーの名において、ルーカス・ミラー、キャンディ・スミスに加護を与える!」
2人の身体に光が吸い込まれると、身体の力がスッと抜け緊張が解けたようだった。
驚いた2人が前を見ると眩しくて今まで見えなかった女神の姿がはっきりと目に映った。
そこには自分達とさほど年の変わらないステッキを持った少女の姿があった。
「はじめまして、ルーカス、そしてキャンディ。私があなた達の守護者、魔法神エミリーよ!」
エミリーはにっこり笑って出来る限りフレンドリーに接しようとしたのだが・・・
加護を貰った2人は感激のあまり声を出せないようだった。
「せっかくだから2人に得意な魔法を見せてもらったらどうです?」
声が出ない2人を前にどうしようかと思っていると、ニャンコのシルフが現れ、エミリーに提案した。
「まあ!それはいい考えね!じゃあ、早速、ここで魔法が使えるようにして頂戴、シルフ。」
「わかったです。ちょっと待つです。」
シルフはそう言って右手で空を引っ掻いた。
するとシルフがかけていた魔法が解け、みんなから出ていた魔力の光が消え、辺りは祠のぼんやりとした光だけになった。
「さあ、これで魔法が使えるようになったわ!じゃあ、2人にお願いするわ。得意な魔法を見せて頂戴!」
「ね、ネコが喋った・・・っていうか浮かんでる。」
ルーカスは驚いてシルフを見ていた。
「し、失礼よ!エミリー様と一緒にいるのよ!きっと私たちより偉大な存在に違いないわ!」
「うんうん、君はわかっているですね。見所があるですよ。」
シルフはヒゲをピンとさせ得意そうな顔をした。
「ねこさんだーが喜んでいる。プラス11万点くらい。」
後ろからこっそり見つめているカーラが呟いた。
「ネコさんだー、かわいい・・・」
リーもドヤ顔をしているシルフに癒されていた。
「そっちの君は・・・珍しいです。光の魔法を使うですね。ちょっとエミリーに見せてみるです。」
ルーカスは頷いて、右手を上げた。
「ライト・ライク・サンシャイン!」
広場全体が明るくなった。加護を受けた為だろうか、さっきよりもずっと明るい光だった。
「このクラスの光魔法を発動句のみですか。やるですね。でもエミリーは無詠唱でやるですよ!」
「え?何言ってるの、シルフ?」
「いいからやるですよ!」
そう言うとまた空を引っ掻いて魔法を消した。
エミリーはステッキを前に出すと、さっきの魔法を思い出していた。周りを明るくするイメージ・・・
ルーカスの光は太陽をイメージしていたのだろうか?
ステッキに魔力を込めた。暖かい太陽光のイメージと共に。
ステッキの先から虹色の光が溢れ出すと、輝きながら辺りに広がり出した。
エミリーの光は暖かいものでまさに太陽の光だった。
「すごい・・・明るいだけじゃない、暖かい光なんて!とても洞窟の中にいるなんて思えないわ!」
キャンディが驚愕の声を上げた。
「ルーカス、いい魔法だったわ。普通の光の魔法がランプだとしたらあなたのはまるで照明ね!」
「俺の、いや、私の魔法を褒めてくれてありがとう!・・・ございます。」
「ふふふ、普通に喋ってくれていいわよ、ルーカス。私は気にしないわ。」
「エミリーが褒めた。プラス5点くらい。」
カーラが呟いた。
「じゃあ、次は君の番です。水の魔法使いの君はなにを見せてくれるです?」
「キャンディ?あなた水属性の魔法使いってどうして知ったの?」
「は、はい。私は水の魔法使いですから。」
「なんで水ってわかったの?」
「なんでって言われても・・・ステータスボードに載ってたから?」
「えーっ!私のステータスボードにはそんな属性鑑定機能ないわ!」
エミリーはびっくりしてシルフを見た。
「この子は魔力鑑定スキルがあるです。だからこの子のステータスボードは魔力の属性鑑定と魔力量がわかるです。凄い事です。」
「エミリーがびっくりした。プラス3点くらい。でもねこさんだーが褒めた。追加でプラス5万点くらい。」
「カーラはエミリー様に厳しいね。」
ライアンはカーラを見ながら息を吐いた。
「あ、あのエミリー様。よろしければ、後ろにいる皆様にも美味しいコーヒーを飲んでいただけたら嬉しいです。私の得意魔法です!」
「キャンディはみんながいるのがわかってたの?」
「はい、魔力を感じていましたから!」
「ならお言葉に甘えさせてもらうわね!」
そう言うとカーラを先頭にリーとライアンが祠の後ろから出てきた。
「私たちまでもてなそうなんてなかなか殊勝な考えね。プラス1800点くらいね。」
「ちょっと、カーラ!さっきからうるさいわね!何よ、その点数!」
「別に意味なんてないわ。退屈だったから遊んでるだけよ!それよりいい加減紹介して頂戴!」
カーラに言われ急遽紹介をすることになった。
「紹介するわ。この世界の新しい魔法使いにして魔法神の使徒、光の魔法使い、ルーカス・ミラーと水の魔法使い、キャンディ・スミスよ。みんな仲良くしてあげてね。よろしくお願いするわ!」
「「よろしくお願いします。」」
「じゃあ、こっちも順に紹介していくわね。彼女はカーララートリー。聖地オームに祀られていた女神で魔石の森の守り神なのよ。」
「はじめまして、新しい魔法使いさん。黒闇天カーララートリーよ。新しい世界の発展には私も力を貸すつもりよ。」
「この人はエルフのリーさん。あなた達エルフは初めてかしら?今、美味しいポーションを作るために一緒にいるの。」
「はじめまして、オームの森から来た、エルフのリーです。人間なのにエルフのよりも強い魔力を持っているのはびっくりしたわ。流石エミリー様の使徒に選ばれた魔法使いね。」
「彼はライアン・ダールマ。聖地オームで魔石の森を守ってきた一族の者よ。今は森の管理の任を終えて、カーラのナイトになっているの。」
「女神に使える者としてこの世界の為に共に協力いたしましょう!」
「最後はシルフ。私と契約してネコの姿になっているけど、本当は四大精霊の1人、風の精霊なのよ。」
「2人共なかなか見所があるですよ。」
最後の紹介を終えるとキャンディが不思議そうな顔をしていた。
「あれ、てっきり3人かと思ってました。魔力の反応が3つだったから。ライアンさんは魔力がないんですね?」
「ははは、流石、キャンディさん、魔力感知ってすごいですね。」
「ちょっと、あんた!私のライアンを侮辱するつもり?!マイナス一兆三千万点くらいかしら?!」
ライアンが照れたように答えている後ろでカーラが怒っていた。
「!?い、いえ、そ、そんなつもりじゃないんです!ご、ご、ごめんなさい!」
キャンディは怒ったカーラを見て青くなっていた。
「カーラ!ダメじゃないか。キャンディさんは思った事を言っただけだよね。そしてそれは本当のことだ。僕は侮辱など受けていない。そんなことで怒ってはダメだ!」
ライアンがカーラを叱っている。
てっきり尻に敷かれているとばかり思っていたが、これはなかなか。
「ライアンもなかなかやりますね、リーさん。」
「水の魔法使いも揃ったし、これなら許してもいいかもしれません。」
「そうですね、2人の愛は順調ですね。」
「ライアン?あたしのこと嫌な子だって思った?嫌いになった?」
「そんな事思うわけないじゃないか。僕を信じてくれているだろう?さあ、キャンディさんにちゃんと謝らないと。」
「わかった。」
カーラは涙目でライアンに頷いた。
目の前で人間に諭される女神を見て、何が何だかわからないキャンディにエミリーが耳元で囁いた。
「あの2人は恋人同士なの。今はちょっと障害があるけど、あなたのおかげでうまくいきそうよ!そうしたらあなたはあの2人にすごく感謝されるわ!」
エミリーは嬉しそうに言うがキャンディには何のことかわかるはずもなく、ますます困惑するのだった。




